アルテミス 投稿者: 神凪 了
第二十六話 「再会」



・・・・・。



この世界とは違う、ほんの少しだけずれた所に、不思議な力を持つ生き物を頂点とする世界がありました。
その生き物はこの世界の人間のように理性・・・この場合は不思議な力で他の生物を圧倒していました。

しかし・・彼らはとても好戦的な生き物であったが為に、文明というものができた今でも戦いに明け暮れていました。
いくつかの大国がしのぎを削って争う・・・そんな世界でした。


そして・・その世界の一つの大陸・・


とても寒いところでした。
植物も生き物も、そして大地と空までもが凍り付くほどに。

その大陸の気温は常に絶対零度を下回るほどでした。


その大陸の名は・・・コキュートス。



・・・・・。



「明日早朝に決行・・・。『ヴァルキリー』と『セイレーン』も立ち会わせます」

「・・・遂に・・」



・・・・・。



「ここは・・・・」



中崎町。そこに氷上シュンと住井護はやってきた。
日はとっくに落ち、夜の闇と雪の白さだけが目に付く中で、二人は中崎町の一件の家の前に来た。

「たしか・・・同級生の中崎の・・・」

目の前の、豪邸だったもの・・瓦礫は、同じクラスの中崎の家であった。
この中崎町の昔からの大地主にして金持ちの中崎。
キザな奴だった。今は・・どうなったのかわからないが。

「で、ここに来てどうしようってんだ?」
「ついてきて」

氷上の先導に黙って従う住井。
氷上はある、大きな瓦礫の前で立ち止まり、

「この・・・」

瓦礫に渾身の力を込めて動かすとそこには・・・

「・・・地下室!?」
「核シェルターさ。」

核シェルター・・あの自分の保身ばかり考えているいい子の中崎やその親父ならやりかねないな・・・
自分だけ助かろうっている腹だったんだろうが・・役には立たなかったわけか・・

「偶然見つけたんだ」

(それにしてもこんなもの見つけるとは・・ずいぶんできすぎた偶然だよな・・・この瓦礫はこいつが置いたのか?)

その疑問は口にはせずに、階段を降りてゆく。
地下五階ほどまで降りたところで、ドアが現れた。

こんこん、と氷上がノックする。

「シュン・・ですけど」
「シュン君? ・・ちょっと待ってて・・」

扉のほうに駆け寄ってくる足音がして、

カチリ

ドアが開いて、中から現れたのは、

「あ・・あれ? あなたは確か・・・」
「・・住井護・・です。折原の叔母の・・由起子さん・・ですよね? 確か。」



・・・・・。



・・小坂由起子は、その日、出張から帰ってくる途中だった。


車を走らせているときだった。


「!?」


グアガガガ・・・・・!!!!!!!!!!


激しい爆音とともに閃光に包まれた。
浮遊するような、感覚。
それは車ごと吹き飛ばされたものだった。


意識を取り戻した時、由起子は道端に倒れていた。
十メートルほど離れたところの壁に、車は突き刺さっていた。
運よく放り出されたらしい。

由起子もこの事態が尋常でないことはすぐにわかった。
何かが、起きている。

歩いて中崎町まで戻る。
浩平が、心配だった。
自分の唯一の肉親なのだから・・・
そして、自分の唯一の家族なのだから・・


異様だった。


中崎町に向かう途中から人っ子一人見当たらなかった。

死体さえ。

もともとこの町は無人の・・ゴーストタウンであったとでも言うように。


どこかに避難しているのでは? とも思った。
中崎町への道のりの途中にある避難場所、学校、大きな公園・・

それこそ人っ子一人いなかったのだ。
そう、中崎町にも。


途方に暮れている時に、彼は現れた。


『折原君の保護者の・・・由起子さんですね?』


氷上シュンだった。



・・・・・。



「由起子さんがどうとかいう前に、中を確かめたほうがいいんじゃないかい?」
「・・中?」

氷上がまたよくわからない事を言う。
中・・? どういうことだ。

「君の・・一番会いたかった人がいるから」
「・・!!」

どんっ!

「あっ・・」

由起子を押しのけて核シェルターの中に入る。
二十畳くらいの広い空間に、非常用の保存食、水、寝袋などの必須アイテムが置かれている。
そして・・

「七瀬さん!」

その核シェルターの中に横たえられている女性たち・・・

七瀬留美。天沢未悠。上月澪。里村茜。

第二世代の子供たちだった。

四人とも全員、全身包帯まみれである以外には何も着ていない。
包帯まみれ・・

(・・生きてる)

七瀬の形の良い胸が上下しているのを見て、安堵の息を漏らす。
と、同時に、

(な、何てものを見てるんだ!俺は! 七瀬さんに申し訳ないじゃないか!)

慌てて七瀬から視線を逸らす住井。
だが、他の三人も同じような格好で目の置き場が無い。
しょうがないから目をつむって天井のほうを向くことにした。

「? 何やってるんだい? 住井君」
「ば、馬鹿、四人とも裸・・」
「ああ、そうだね」

ふぁさっ、とシーツが掛けられた音がする。
四人のからだには清潔そうな白いシーツが掛けられていた。

「ふう・・目のやり場に困った。」
「・・ああ。そうだろうね。」

こともなげに言う氷上。
妙な事に慣れている奴だ・・?

「それよりも・・説明してくれ。何で七瀬さんたちがいる。それに、折原が消えたことについてもだ。」
「浩平君が・・消えた?」

由起子も話に入ってくる。
無理も無い。行方の知れない大事な家族の名前が挙げられたのだから。

「・・OK どっちから話そうか?」
「由起子さんも気になっているようだし・・折原のほうからだ。」
「わかった。」
「ちょっと・・浩平君が消えたってどういうこと・・?」

気になってしょうがないという声だ。
それを無視して氷上は話をはじめる。

「じゃあ、先に二人に聞いておくけど・・去年、折原君はどうしていたんだい?」
「どうしてってそりゃあ・・・」

学校で毎日会って・・と言おうとしたところで凍り付く。
・・・去年、折原は学校に来ていたか!?

「あ・・・」

由起子も声を上げる。

「折原に・・・去年の三月以来、最近まで会った記憶が無いぞ・・? いや・・あいつの名前を聞いたことも・・」
「私も・・家にいる時に浩平君にあったことも・・・あの子の事を考えたことも無いわ・・」

愕然となる。
今、氷上からその事について指摘されるまで気がつかなかった。
いや、何で誰もその事を不思議に思ったりしなかったんだろう・・
そして、ある日

『気がついたら、学校に来ていた』

誰も、その事を不思議に思わない。

(・・!?)

その事に重なるもう一つの記憶。


ぬいぐるみ。


そうだ。あのウサギの、声の出るぬいぐるみ。長森さんの持っていた。

俺も何回か声を聞いた事がある・・でも・・


あれは折原の・・・!!


「・・どういうことだよ・・氷上・・」
「つまりは・・そういうことさ。同じように、去年の三月に彼は消えた。君たちの記憶からも・・」
「そんなことが・・」
「現に起こってるじゃないか。」

そういわれると口をつぐむしかない。
それを見計らって氷上が続ける。

「おそらくは彼と・・長森さんが影響しあってそういう結果になったんだとおもう。」
「待った・・二回目だが、何でそこで長森さんの名前が出てくるんだ?」
「長森・・瑞佳ちゃんね・・? 浩平君の幼なじみの・・彼女が何かしたの・・?」

氷上は透明な笑みを浮かべたまま、続ける。

「彼女も能力者だったのさ。天然の、ね。」



・・・・・。



「これからどうなるんだろう・・・」

シャワーを浴びて、タオルで体についた水分を拭き取りながら考える。

コンクリートの壁に、窓一つない部屋。
精神を圧迫しようと考えて作り出されたのなら及第点をやることもできようが、もしこれが快適さや安らぎを与えようとおもって設計されたなら・・
控えめに言っても、無能すぎる。

鍵のかかった鉄の扉。
破る事も自分の華奢な手足ではできそうに無い。
いや、人間に破る事のできる代物とは思えなかったが。

洗面台の上には一応、ドライヤーが置いてある。
あの少年が置いていったものだ。
それほど酷い扱いを受けているわけではなさそうだが、軟禁されている事にはかわりがない。

「・・・。」

とくん・・とくん・・・

胸に手を当てると、鼓動が聞こえる。
いつもより鼓動は早い。

(不安なんだよ・・・私・・)

あの忘れもしない夜の学校の時よりも。

(浩平が・・いないから・・)

浩平がいてくれれば・・何でもできる・・
浩平がいてくれれば・・何でもしてあげられる・・
浩平がいてくれれば・・死んだっていい・・
浩平がいてくれれば・・自分なんていらないよ・・
浩平がいてくれれば・・それだけで・・


でも・・・いない・・


自分の半身である・・いや、自分そのものである浩平が・・いない・・


大好きな、大好きな、世界中の大好きを全部足してもまだ足りないくらいに好きな浩平が、いない。


浩平が・・いない・・



・・頬を熱い雫が流れて落ちてゆく。


その雫は胸を伝ってコンクリートの床に小さな痕を作る。


「浩平・・・約束したもんね・・絶対に・・・ペンダント、返しに来てくれるって・・・」




<第二十六話 「再会」 了>
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ええ・・ついに二十六発め。
FARGOの正体とか陰謀とか誰と誰が不幸になるのかとかがだんだん分かってくる話。
個人的には第七話が一番のお気に入りだという事は秘密です。

みさき先輩も後書きに顔を出してくれなくなった今日このごろ。
やっぱりあれがまずかったのかなあ・・なんて思いながら滅コールを口にしてのた打ち回る。
個人的にはミントソーダも同じくらいまずいとおもうんですけど・・
あと昔あったアイスクリームソーダも、子供の頃に風邪ひいて内科医にもらってた甘い飲み薬みたいな味がして嫌だね。

LUCIFELさんが『無邪気に笑顔』BMSを完成させたんでDLしてひきまくってた今日一日。
でもHAPPYHOUSEver.は難しすぎるぞ。いい感じにアレンジかかってるけど。
『閉ざされた空間』なんてMOON.のBMSもちらほら出てきていい感じかな。
でもSHIFTとかマウスでスクラッチはきついよね。>JバルJさん

わからない人には全然わからないと思うんで感想、行きます。

>神野 雅弓様
>〜永久(とわ)なる眠り そして・・・〜

いいのかなあこれ(笑)詩子はやっぱり理不尽だし。
後書きの長森が最高(笑)
面白きゃオッケイという事で。味があって好きです。
メール、ありがとうございますね。
神凪は明るい話って苦手なんですよね・・今まで一個も書いてない・・
うーん・・『今にも落ちてゆきそうな月の上で』は割に明るいかな?
『誰も知らない世界の片隅で』もそうかも・・でも基本的に暗いんです。
ハッピーエンドも好きですけど、某葉っぱの某キズでバットエンドの良さ、みたいなものに、はまってしまってです。
こういう話ばっかり書いてるの。


>うとんた様
>おねおね動物ランド

うーん、

>「みさきさーん!」

この呼び方をしているって事は浩平はみさき先輩とらぶらぶ(死語)なのかにゃ?
どっちでもいいけど、みさき先輩も食い物の事がまず念頭に来るんかい(笑)。
ところで後書きには笑いました。

>日野森姓じゃない女の子
>比良坂姓じゃない女の子

これで通じちゃうってのもある意味すごいけど(笑)

>『新人の癖に俺の○○を横取りするなー!』

こんな事言う人、この掲示板にはいないと思います(笑)
気にしなくてもいいと思いますよ?


>みゅーの特別な繭

誰か気づけよ(笑)
繭も、浩平も、長森も。
でもこれで浩平との出会いが果たせたんだし・・みゅーも本望かな(笑)
あと、神凪はそんなにネタないです。見習うべきは雀バルさんとPELSONAさん。
神凪のは続き物だからね。



>WTTS様
>一方その頃…七瀬(番外投稿)

七瀬の本性炸裂(笑)
何も言う事はないです(笑)
感想、ありがとうございます。
澪が積極的な理由ですか?
一応考えてはあるんですが・・書く機会はほとんどないでしょう。


>雀バル雀様
>鉄鍋のだよもん!

長森別人(笑)
沖縄出身の強みを生かした珍しい調味料(さすがにあかまるそーは知らないよ)連発。
ここらへんが鉄鍋のだよもん!ですか?
個人的には『カーッカカカ!』とか笑いながら鍋をふるうところを見てみたかった(笑)
ところで「あるてみす」、これじゃ以前に見た第四話『ポニーテールは振り向かない』と繋がらないんですけど・・。
それにしてもポニ子ってこういう人だったっけ(笑)?


>はにゃまろ様
>お・か・し戦記4

待望の第四回。
でも浩平が出てきて活躍するのはいつの日か(笑)
ほのぼのしてていい話だわ・・○ンパンマンの替え歌載っけた奴の言う事じゃないけど。
戦争っぽさを感じさせないし・・神凪とは対極かも(笑)
こんな(ほのぼのした)話を書こうとしてできたのが『誰も(略)』じゃしょうがないよなあ・・


>北風様
>もう・・溶けちゃったよ

うーん・・雪見が迎えに来る説はもう定番なのかな?
神凪もその説を取りたいですけど。
でも、みさき先輩ってやっぱり強いですよね(謎)。


>から丸様
>ラブレター <後半>

読んだ感想。
長森も普通の女の子なんだなあ・・・です。
でもこれだと『心凍らせて』イベント(勝手に命名)のあとに、長森と浩平の関係は修復されるのかな?
そこら辺の話のから丸さんバージョンも読んでみたいです。


>GOMIMUSI様
>D.S chapter.2

ついに新章突入ー!
・・もはや完全に一個の独立した話になってますねえ。
タクティクスさんとかにゲーム化して欲しい(笑)
感想、ありがとうございます。

>茜と澪がっ

ちっ、きづかれたか(笑)
だから・・三十X話は十八禁になる可能性あり(笑)


>PELSONA様
>innocent world  【episode Z】

浩平、壊れちゃうんじゃないの? これ(笑)
ところで・・MINMESとELPOD・・
ミンメスとエルポドじゃなかったっけ?
もう誰かが書いてるかもしれないけど。




ん、これで終わりです。次回は・・未定です。ま、二三日中に。