誰も知らない世界の片隅で 投稿者: 神凪 了
3rd

・・・・・。



「ええと・・・それで、一体あんたは何なのよ!?」

七瀬は既にキレかかっている。
思うように話が進まないのだ。

「ご、ごめんなさい・・・」

俺には七瀬が怒っているのがわからないわけでもないのだが、何故にここまで怒っているのか理解できない。
『彼女』の落ち着いた様子を見ていると特に、だ。
それにしても・・

「でも・・本当に・・わからないんだよ。七瀬さん。」

可愛い。
むちゃくちゃ可愛い。

あのみさおが大きく成長するとこんな感じになるのか・・。
みさお、お前が生きていたら兄と妹の禁断の関係を結んでいたというのに・・お兄ちゃんは悔しいぞ。

でもみさおの分まで彼女を可愛がってやれば・・・
なかなかぐらまぁだったし・・。

ぽかっ

「ぐわっ・・」
「折原!? 何にへらにへら笑ってんのよ!」
「いや・・ちょっとな。」

むむむ、怒りの矛先がこっちに向きそうだ。
それは困る。まだ体中が痛くてしょうがないというのに。

「お、俺ちょっと電話して確認してくる」

怒り心頭状態の七瀬と不安そうな面持ちの『彼女』を残して部屋を出る。

電話機はリビングだ・・

・・俺は学校の電話番号をダイヤルする。

・・・・とぅるるる・・・

何回かの呼び出し音の後・・

「もしもし、県立中崎高校です」

野太い男の声。

「ええと・・高二の折原ですけど・・」
「んあ〜? 折原か?」

この間延びした感じは・・髭?

「先生? 渡辺先生ですか? ・・ちょうどよかった。」
「ちょうどいいってのは何だ〜折原〜」
「あのですね・・ちょっと聞きたい事がありまして・・」
「授業の事か〜」
「いえ・・あの・・この学校に『長森瑞佳』っていう名前の生徒はいましたか?」
「・・ながもりみずか? ・・ちょっと待て〜」

髭の声が途切れて保留の明るいような、でもどこか悲しげなメロディーが流れはじめる。
これは・・『追想』か。最近流行りはじめた曲だ。

・・・待つ事数分。

「折原〜?」
「あ、はい」
「今学校のコンピューターで調べてみたんだがな〜」
「はい」
「そんな生徒はいないぞ〜」
「・・・そうですか。」

これで深山先輩に聞く必要はなくなったな。
しかし・・どういうことだ?

「ありがとうございました、先生。」
「それはいいけどお前、今日いやに元気なかったな〜?」
「え? ・・それは・・」

だって今日学校休んでたんだし(笑)
やっぱり気づいてないでやんの。

「ちょっと風邪ひいてまして・・」
「そうか・・明日で学校も終わりだからな〜今日はゆっくり休めよ〜」
「ありがとうございます、先生」
「じゃあな〜」

がちゃり。

「どういう・・・こと・・・なんだ?」

知らぬ間に俺の頬を冷や汗が伝っていた。何故か。




・・・・・。




「名前・・『長森瑞佳』・・です」

彼女は確かにそう名乗った。

「住んでる場所とか・・電話番号は・・?」

やや、間を置いて彼女は言った。

「・・・知りません・・」

と。

おかしい。記憶喪失?

なら、『思い出せません』そう言うんじゃないのか?

偽名、もしくは嘘をついている?

ありえない話じゃない・・でも、なぜ?

制服のまま、鞄も持たずに倒れていた彼女・・・

その倒れていた理由すら『知りません』

そんなことって・・あるのか?


・・みさおそっくりの彼女が俺の家の前に倒れていた。

そして記憶喪失か・・あるいは・・・

これは偶然だろうか?

偶然というにはあまりにもできすぎてないだろうか?




『えいえんはあるよ』




・・・昔、聞いた。

みさおが、言った。

死の瞬間に呟いたんだ・・。


『おにいちゃん・・はうっ・・・えいえんは・・ある・・よ・・はあっ・・はあっ・・・・』
「みさお、みさおっ!」

苦しみながら、何かを呟く幼い日の思い出の中の妹。
もう、忘れかけていた記憶。

『わたし・・まって・・る・・よ・・ううっ・・』
「みさおっ!!」


・・?

何で、こんな事思い出してるんだ・・俺・・?


・・死の間際、何かにうなされたようによくわからないことを呟いていた・・いや、俺に何かを伝えようとしていたみさお。

あれは・・どういう意味だったのか・・?

『えいえん』・・?

何のことだ?

死後の世界・・天国で俺を待ってるって言う事か?

でもそれなら・・何でみさおは『えいえん』なんて言葉を使ったんだ?



・・・本人に聞かなきゃわかるはずない・・

でも、そのみさおはもう、いるはずがないんだ・・



「な・・ちょっと折原? どうして泣いてるのよ?」

「七瀬・・?」




・・・・・。



「むー・・知らないわね・・。」
「やっぱり駄目か・・・。」

深山先輩はそう言った。
やはり長森瑞佳は知らないらしい。
偽名だったら、あるいは彼女を知っているかもしれないというので呼んでみたのだが・・

無駄だったようだ。


「あの子だったらね・・」
「ええと・・川名さん?」

頷く、深山先輩。

「でも、もういないものね・・。」
「・・どういう人だったんですか?」

俺がそう聞くと、深山先輩はほうっ・・と小さな溜め息をついた。

「話してもしょうがないわ・・もう、いない人間だもの・・」
「・・・すみません。」

川名みさき。
深山雪見先輩の幼なじみ・・・・・・だった人。
人の本質を見抜く力に長けていた・・とか。

何でも昔、俺達の今通っている県立中崎高校のすぐ目の前の家に住んでいて、小さい頃から学校を遊び場にしていたらしい・・

だが、ある日に何か、教材が置いてある部屋に入っていって・・


不幸な事故に見舞われて、死んだ・・・


・・・誰もが心に傷を負っているんだ・・・。


「深山先輩でも知らない、と。」
「すみません・・私のせいで・・」
「別に気にする事じゃないぜ。長森。」
「折原・・?」

七瀬が不信そうな声を上げる。

「あ・・呼び捨てはまずかったか?」
「・・構わないよ・・でも、」
「でも?」
「私も浩平・・でいいよね?」
「!」

ゴゴゴゴ・・・・

七瀬が殺気を発してるぞ。
このゴゴゴ・・とかいう擬音からして『ザ・○ールドッ!』とか叫びそうだ。
他にも『オラオラ』とか。

・・きりがないし、生命の危機が近づいているから止めよう。

「いや・・できれば折原のほうがいいんじゃないかなーと・・」
「そうなんだ・・」

本当に残念そうな声を出す長森。
すまない、命がかかっているんだ。

「折原君、他に知ってそうな人、いるのかしら?」
「他に・・あいつしかいないか・・・」
「あいつって・・」

七瀬も分かっているのだろう。事態が事態じゃなけりゃあんな奴呼びたくもない。
でも、身元不明だからといって警察に連れて行くわけにはいかない・・・心がそう警告していた。

なぜだかはわからない。

・・普通なら警察に届ければ、家出少女かなんかとして保護されるはずなのだが・・。


ところで・・あいつだ。

「クラスメートの、柚木詩子」

あのおちゃらけた女。
嫌いなわけではないのだが・・疲れる。

それにあいつはこの長森の事をあたりそこらにばらまきそうだ。
もし、この長森に何か特別な事情があるのだとすれば・・

「折原・・・・」
「七瀬?なんだ?」

俺のまとっている奇妙な雰囲気が気になったのだろう。
七瀬が声をかけてくる。

しばし、時間が流れた。そうは言っても数分の事だったのかもしれないが・・。

沈黙を破ったのは意外にも深山先輩だった。

「そうね・・折原君。とりあえずその柚木さんを呼んでみましょう」
「・・うん。」



<続くんじゃない?>

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掲示板独占計画始動(笑)

では、五月五日分の感想です。


>PELSONA様
>SA・YO・NA・RA

会社の・・同僚?司君が?
しかも家に来ちゃうの?
・・うーん、修羅場の予感・・・
次回を見逃すわけにはいかないな(笑)


>innocent world  【episode Y】

いのせんとのつづきだー。わーい。
・・・。
晴香と郁未・・友情っていいですねえ(涙)
これからどうなるのか・・チャンネルはそのままですね(笑)


>うとんた様
>海へ行こう!

浩平は自業自得だよ(笑)
体操服の繭・・? くっ、神凪はその程度ではおちないぞ(笑)。
茜もおばさん呼ばわりされたら怒るわなあ・・
実は浩平は近眼だったとか? ありそうかな・・?


>雀バル雀様
>たいせつなもの

・・上手いですねえ・・。
浩平は外道だけどちゃんとハッピーEDになるし。
外道SS書きの神凪とは大違いだ。
感想ありがとうございますね。
ただ、一つ、レス。

>氏の作品とは思えない程明るい展開である(失礼)この作品が氏の新しい境地を切り拓くのであろうか

誤解です(笑)
これから信じられないくらい暗くなる予定(笑)

ああ・・神凪ってやっぱり外道なのね・・


>まてつや様
>続・おめかし

七瀬の乙女希望は母親からのものだったのか。
・・納得。
巫女さん姿の繭ってのがいい感じだとおもいます(笑)


一つ目は・・ここまでです。