アルテミス 投稿者: 神凪 了
第二十五話 「間奏『やがて降り積もる、雪』」



・・・・・。



「心配する必要はないよ」
「・・!? お前は・・・」

俺の、住井護の前に現れたのは・・・
あいつ・・・

「死んだって・・聞いたぞ・・それに、何でこんなところに・・・」
「・・君が、君たちが、この世界のもの全てが選んだのさ。」

あの・・不思議な雰囲気を持つ少年・・・

「選んだって・・・」
「・・僕が氷上シュンで、とても特別な存在だったから・・。」

そう・・氷上シュン。

「僕は戻ってきた。間違った絆を打ち消すために。」

見慣れたはずの、それでいてもう何年も見ていなかったような、俺達の学校の学生服を着た、氷上。
昔と・・死ぬ前と変わらない。ある一つのこと以外は。

「お前・・病気だって・・」
「・・死人は病気にはかからないよ。」

言って、クスリと透明な笑みを浮かべる。
見覚えのある、アルカイックスマイル。間違いなく氷上だった。
空気のように希薄な存在で・・そばにいるとものすごく異質な、まるで人間ではないような錯覚をおぼえさせてくれる少年。
それでいて、何よりも人間らしい・・・そんな感じがした。
以前はその上、生きている、という感じがしなかった。
それはこいつがほぼ死人・・・不治の病にかかっていたからだ。
今は・・強い生命力、生きようとする意志のようなものが、俺にも感じられた。

「あらためて・・・久しぶりだね、住井君」
「ああ・・・。一年・・ぶりか?」
「そのぐらいになるね。」

氷上は笑みを絶やさない。

「それよりも、さっきのはどういうことだ・・?」
「ああ・・・折原君かい? 彼はね・・・」

一拍、置いて、

「自分の意志で消えたんだから、自分の意志で戻ってくることもできるはずだよ」
「・・・は?」

おそらく今の俺の顔は生涯でも一二を争うほどに間抜けな表情だったに違いない。
自分で・・消えた?

「それじゃ、折原も『不可視の力』みたいなものを持ってるってことか?」
「えっと・・・」

困ったような笑みになる氷上。
笑いながら困った顔が出きるんだから器用な奴だ。

「それもあるんだけど・・・この場合はそれだけじゃない。」
「・・・それも、ある?」

話が掴めない。
今まであれだけ異様なものを見てきたとはいえ、こういう話となると・・・

「ええと・・長森、瑞佳さんだっけ?彼女にも責任があるんだよ・・折原君は、感謝すべきなんだけど・・・」
「・・??? お前、長森さんまで知ってるのか?」
「うーーーん・・・じゃあ、説明してあげるから、取り合えず行こうか?」
「行くって・・・何処に?」

相変わらずこいつの言動はよく掴めない。
昔からそうだ。いや、昔はもっと遠回しに、難しい言葉ばかりをならべて物を言う奴だった。
今のこいつは・・何か、違うような気がする・・

「・・中崎町、はじまりの地さ。」

その時、冷たく白いものが落ちてきた。
雪だ。・・ずいぶんと・・・季節外れな・・・

「雪・・だね・・早いところ、出発しようか?」



・・・・・。



・・・『彼女』は考える。

上月澪の精神を垣間見たとき・・・。

・・見えた。

あれは何だったか・・そう、リボン、リボンだ。
上月澪の、リボン。

あれだ。

あれが、封印の柱になっているのだ。
あれを作ったのは巳間晴香・・・だろうな。

不可視の力で精神に干渉するのに、肉親ならばより確実性が増す。
それに、鹿沼葉子や天沢郁未が気づいたなら、放っておくはずが無い。

自分たちの・・力にするはずだ。天沢未悠のように。
せめて人並みの幸せを与えたいと思っても無理だろうから。

気づいたのが巳間一人だったからのことだろうか?

それはまあ、いい。
どうやってほころびを生じさせるかだ。

里村茜は考える。


不可視の力を持ちいて精神に干渉することは実に難しい。

精神を『破壊しろ』といった単純なことならともかくとしてだ・・。
精神を・・記憶を垣間見たり、読心術といった類のものは難しい。
あるいは、とある物語の『電波』といった力のように何かをさせるというのも。
また、精神そのものを支配するというのも。

それは何故か、考えてみればわかるだろう。
簡単なことだ。

例を挙げよう。

例えば・・精神を破壊する場合には、つまり積み木で作られたお城を壊すにはどうすればいいか。
そう、遠くからボールを投げて、当てるだけでも十分だ。
それで簡単に積み木は崩れる。

これがあの、広瀬真希が使っていた力だ。
彼女はおそらくこれの特化したコントロール体なのだろう。
今のFARGOならあるいは可能だ。


では、精神をコントロールしたり、心を読んだりするなら?


精神をコントロール、つまり、積み木でお城を作るには積み木を自分で持って、そして形を整えなければならない。
膨大な数の、心の破片を。

心を読む、つまり、積み木に書かれた文字を読むには、できるだけ近いほうがいい。
遠くからではうすぼんやりとしかわからないのだから。

それには、その、積み木に近づくのはどうするのか?


一番簡単なのは、額に手を当てること。
人の精神を司るのは脳・・そことなるべく近いところに接触すればいい。



もっと深く、心にダイブしたいのなら、キス。
ディープ、キス。舌を絡めること。



それで、これ以上心の奥に近づくとなると・・・



・・生殖器同士の接触を。
つまりは・・・セックス。
その最中、快楽を感じている時には心・・精神がごく無防備になる。
その時にダイブするのだ。


でも。


・・さすがに、『私』が許しては置かないだろうな・・
ましてや、同性で年下の上月澪ともなれば。


でも・・・




あまり時間が無い。
この体が教えてくれる。
時間が無いと。




どうする・・・




・・接触するか? 上月澪と・・・




・・・・・。



雪が、降っていた。



全てが消滅したその地に。



哀れな死者たちを、弔うかのように・・。



非業の死を遂げた、学生たちと、ラグナロクのスタッフと、名倉由依と、鹿沼葉子たちのレクイエムのように、しんしんと空から降ってくる雪。



(郁未・・・由依・・・葉子・・・)



死んだように動かない、人影が一つ。
巳間晴香だった。



(死んでるなんてそんな事があるはずが無い・・・)



殺したって死なないような連中ばかりじゃない・・。
でも。



(生きてるはずが無いって・・・わかってしまってる・・・)



同族・・・不可視の力が使える人間の『気配』がしない。



一人も。



(澪は・・・せめて澪は助かったのかしら・・・)



でも・・この日本に安全なところなんてもう・・・



(澪・・・)
「晴香・・」



不意にかかる声。
驚いて振り向いた先に居たのは、良祐だった。



「遅かった・・・のか・・・」



右腕の無くなった良祐。
いや、骨はある。骨は。


だが・・あるべきもののない、良祐のからだ・・・


白骨化した右腕・・


「・・・晴香・・すまない・・・」
「何で・・謝るのよ・・」
「あの時だって・・・俺さえ・・・」
「やめてよ・・・」
「俺がへまをしなければっ・・」
「やめてってば・・・」
「俺のせいでお前はっ!!」
「やめてよっ!」
「俺が一度でもお前と連絡を取ろうとしていればあんなことはおこらなかったんだっ!!」
「やめてっていってるでしょ!!!!」



ばああああああああんっ!!



突然不可視の力がはじけた。
さすがに、言葉を失う良祐。



「もう・・いいのよ・・・」
「・・・。」
「何もかも、終わったんだから・・・」
「・・・。」
「せめて・・少しの間だけでも・・そばにいてよ・・良祐・・」
「晴香・・・」

良祐が晴香を抱きしめると同時に・・・

「うっ・・うぐっ・・・・・・・・」

・・・涙の雫が、薄く積もった雪を溶かした。




いつまでも降り続ける雪・・・




ようやく再会できた兄妹にも降り積もってゆく雪・・・




それは、あまりにも傷つきすぎた二人を、優しく包み込もうとしているのか・・・




それとも・・すれ違うばかりだった愚かな兄妹を嘲笑ってのものだったのか・・・。




どちらなのか・・定かではない・・・





<第二十五話「間奏『やがて降り積もる、雪』」 了>
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ついに二十五個め。
まずい表現が一部含まれております。
いよいよつじつまが合わなくなってきた(爆)今日このごろ皆様いかがお過ごしでしょうか?
神野雅弓さん、から丸さん、うとんたさん、北一色さんらや、最近読みはじめた方々、この話は忘れてください(笑)
どうせこれを最初からずっと読んでくれている人は片手の指で足りるほどしかいません(笑)
間違ってもリーフ図書館に行って、バックナンバーをさがしてはいけません。
どうせ十話くらいまでしかないです(笑)
それよりも恐ろしいのが『黄昏』・・おおっと失言。なんでもないです。

どうしても十話目以降で『ここ読み逃したどうしても読みてえぞ、うおお』という方に限り(そんな人いないって)メールをくださると抽選でもれなく皆様にバックナンバーが届きます。

おもにPELSONAさん・・はそんなに暇じゃないか。聞き逃してください。


神凪は月曜からテストです。
最近ろくに感想書いてなくてどこまで感想書いたのかわからなくてピンチ(笑)


ちょっと、私信。

雀バルさん、相談にのってもらったり、わがままを聞いてくださったりして迷惑書けてすみません&ありがとうございます。

PELSONAさん、この前は残念でした。今度どこかでチャットしたいものです。


自分勝手しすぎてすみません。ではまた今夜・・・(笑)