アルテミス 第二十四話の改訂版 投稿者: 神凪 了
(注:ええ・・投稿した第二十四話を見てみたらえらく描写が曖昧だった(笑)ので改訂版です
すみません、皆様方。本来はこういうことをすべきではないのでしょうが。なお、手を加えたのは前半部のみです)


第二十四話 「間奏『消え行く世界の前触れに』」



・・・・・。



人の精神と肉体は影響しあうものだという。

あまりにわかりにくい例かもしれないが、怪我をする、病気にかかるetc・・・
そんな時には確かに人の精神状態・・・感情も含めた・・・は影響され、悲嘆とかそう言った状態になる。
ただ、肉体による精神への影響・・それはあまりにも回数が多すぎて意識しても気づく事はほとんどできないと思う。


それが普通だからだ。




ではその逆は?
精神に過剰な負担がかかるとどうなるか?

それは例えばストレスによる胃潰瘍だとかそう言ったものが一番わかりやすい。

あるいは、思い込む事によって本当に何かができなくなったり、潜在能力を引き出す事もできる。
暗示というものである。

それに、プレッシャーに負けて本当の力が出せない、とか緊張してお腹が痛くなったとか。


肉体の変化が精神に作用すると同時に、精神の変化も肉体に作用するのだ。



(名倉由依 著 『精神の入り口』序文より)



・・・・・。



『ラグナロク』秘密基地・・日本支部といったほうが正確だろうか?・・の襲撃は失敗に終わったといってもいいのかもしれない。
雑兵を全て失った上、確保できた素体は一人だけ・・大損害である。

ただ・・その素体が『アルテミス』素体であることに意味があった。

FARGO本部施設、適正検査室。
以前は声の主の力で簡単に適正がわかっていたが、今はあまり信頼度の高くない機械の力で測定するほかない。
まあ、それで充分だった。

この機械を使うのは今日で最後になるだろうからだ。

横にいる女性・・『長森瑞佳』
高校生らしい。

彼女こそが『アルテミス』素体であるらしい・・。
今からそれを確認する、というわけだ。

もし『アルテミス』素体であるならばそれは不幸であるし、もしそうでなければ彼女は『地獄』というものを身をもって知る事になるだろう。


それは別にどうでもいい。


「多分・・大事な人だから丁重に扱うようにね・・」
「了解、しました」

雑兵ではない、正規の人間しかこの部屋にはいない。
礼儀というものを知っている人間のほうが言う事を聞いていい。

「あの・・これから何をされるんですか?」

さすがに不安なのだろう。

「うん・・心配しなくてもいいよ」

気休めだけ、言っておく。
最も心配してもらったところでどうにかなる物ではない。

長森瑞佳が機械に繋がれる。
コードのいっぱいついた奇妙な形のヘルメット、グローブ、そういったもろもろの品・・

数人が機械の前を動き回り、かちかちと機械を操作する。
それを他人事のように眺めていた。

「セット完了!」
「MINMES値のテストから行きます!」



・・・・・。



彼女は相当、過酷な過去を持っていたらしい。
それもここ一年程度に集中していた。

それが・・MINMES値



・・・・・。



「MINMES値は・・・1827!」
「続いて、ELPOD値のチェックに!」



・・・・・。



何も無かった。空虚だった。
『1』ではない。『0』なのだ。

種すら持っていなかった。



・・・・・。



「ELPOD値・・0!!」
「・・・『アルテミス』素体です!」

誰かの、呟き。

「当たりだ・・・・・」



・・・・・



三日が、過ぎた。
三日間、待ち続けた。

誰も来なかった。

「・・・・。」
「・・・・。」

住井護も、折原浩平も一言も口をきけなかった。

(瑞佳・・・・)

手のひらの中のペンダント。
約束。

(七瀬、さん・・・)


(生きてるよな?)
(・・・。)



その時・・・


ふっ、視界から掻き消えた。




折原浩平が。





・・・・・。



一面、白い世界。
光り輝く場所。
手の届くところに、たくさんの輝く季節がある場所。
絶対不変の世界・・・。


えいえん。


猫のペンダントを握り締めていた。
そして・・瑞佳のことを想って・・

ここに、来ていた。

「また・・・来ちまったのか・・・」

一年前にくぐった、えいえんの入り口。
もう一度くぐれば、もう二度と・・・

「・・それもいいか。」

消える。
また・・・消える・・。

「現実は・・・もう・・・」

また・・・消えてしまうのか・・・
でも・・・

「今は・・・俺が望んでる・・・」

一陣の風が舞った。

『浩平・・」

顔を上げると、そこに、いた。
最愛の人。
あの時とは違う、成長した姿。

「瑞佳・・」
『一緒に・・行こうよ・・』
「ここにいるってことはやっぱり・・」

みず・・か・・

『ずっと・・一緒だよ・・・』

すっ、と手を差し伸べてくる。
その手を拒む理由が・・もはや・・無い・・。

「えいえんのせかい・・か・・」

あの幼い頃に望んだ世界・・・
・・俺は・・

「ずっと・・一緒だ・・」

ぎゅっ、と手を握りかえす。

「盟約を・・・果たすぞ・・・」
『結婚・・・しよ?」

光の中を歩いてゆく・・・。
輝く季節に向かって。



・・・・・。



「・・折原?」

目の前で起きたことが信じられなかった。

『消えた』・・・・。
折原が。
音も立てずに、空気に掻き消えるかのように、消えた。

「な・・何の冗談だよ・・・つまらないぞ・・・」

空虚。

「お、折原・・?」

静寂。

「な・・・」

永遠。

「なんなんだよ・・・」


「どうしたんだってんだよっ!折原っ!!!」
「心配する必要はないよ」




・・・・・。



「部屋に案内するよ。」

少年が、私の前に立って先導する。
コンクリートごしらえの建物の中をどこまでも歩く。

「ちょっと遠いんだ・・申し訳ないけど・・・」

本当に申し分けなさそうに言う、彼。
少なくとも悪人には見えなかった。

(浩平・・私どうなるのかな・・・)


少なくとも冷遇されているようには思えないけど・・・


壁に、『A棟』の文字。
今までの通路から抜け出て、所々にドアが見受けられるようになった。
多分・・ドア同士の間隔からして個室・・・。

数人、女性の姿も見られる。

「もう少しだから・・・」

十字路に差し掛かり、少年がそう言ったときだった。
ふっと、少年が進んでゆく方向とは別の通路に目をやる。

そこにいたのだ・・・


「ま・・繭!?」


夏休みに会って以来だから、半年以上だ。
いたのだ・・ここに。

椎名繭が。

繭は機械的な動作でこっちを向く。
でも・・・

「・・・」


無言。


繭に間違い無かった。
でも・・・

どろり、と濁った生気のない瞳。
死体のようだった。

「・・? 何してるんだい?」
「え・・あの・・・」

もう一度振り返ったときには繭はもういなかった。



・・・・・。



FARGOの誰も知らない場所で。

「ようやくここに戻ってくることができた・・・。」
「・・・・・。」

赤い月が浮かんでいた。
運命の傍観者が。

「ようやく・・時が来たのだな・・・」
「・・戦力もそれなりに整っています」

対面しているのは僕自身・・・
運命の鎖に縛られた・・虜囚・・。

「日本の人口と同じほどのコントロール体、それに自意識を持つ強化コントロール体が百体程度・・」
「古き盟約の友は・・・」

何もかもが狂った方向に進んでゆく。
でも・・・

「二体とも・・復活・・」
「ふふふ・・これで復讐が・・果たせるというものだ・・・」



・・・・・。


「司って・・誰?」
誰に聞かせるでもない、柚木詩子の呟きは闇に吸い込まれた。



<第二十四話 「間奏『消え行く世界の前触れに』」 了>
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改訂版です。
よって感想はなしです。

なんだかどんどんダークになってゆく先行分の第二十九、三十一話。
このままだと希望者のみメールで送付方式になりそう・・

ちなみに、友人に十五メートルの電話線を持ってかれたため、三日ほどお休みしてました。

今夜、掲示板独占計画を実行・・・(ニヤリ)