誰も知らない世界の片隅で 投稿者: 神凪 了
2nd

・・・・・。



・・そろそろ朝だ。
目は開けないで、ベットの中でそう、考える。

・・頭がだんだん覚醒してきた。

小鳥の囀りが聞こえる・・すがすがしい朝だ・・・
なんたって今日は七瀬の一撃を受けずに目覚めることができたんだからな。

爽やかな・・?

・・何かそのわりには体に妙な圧迫感が・・ん?

どがっ!!

「がふっ・・・や、止めろ七瀬・・」

いつものように鳩尾に強打が入る。
いつものようにって・・なんちゅう日常を送っているんだ。俺は。

どがっ!どがっ!どがっ!

「・・・!」

鳩尾に連打で入れられ、あまりの激痛に声を出すこともできない。
い・・いくらなんでもやりすぎじゃないか・・?
これ以上やられたら本当に命に関わる・・
そうして抗議の視線を七瀬に送ろうと目を・・

そこには鬼がいた。

「・・・・(にこにこ)。」

いや、正確には笑顔の七瀬が、その七瀬の顔が俺の目の前にあった。
ただ、ものすごい威圧感があった。
その笑顔は明確に・・そう、

『あなたを殺します』

と宣言していた。某柏木家長女のごとく。

(・・逃げよう)

本能で生命の危機を察知した俺は、取り合えずそう思った。
今すぐに、逃げよう。スリジャヤワルダナプラコッテ(スリランカの首都。何故か有名)あたりまで。
そして取り合えず現地の女性と偽装結婚して名前も変えて・・・・・・

しかし。

ぐい。

・・七瀬が馬乗りになっているので動けなかった。

「・・・。」
「・・・(にこにこ)。」

笑顔の七瀬。
これは・・もしかして普通ならものすごく美味しい状況なのではないだろうか・・
ベットで寝ている俺、馬乗りになって迫ってくる美少女・・・
そうだ・・俺は幸せものだ・・

と、俺が現実逃避を始めて永遠の世界に逃げ込もうとした時だった。

「折原・・・その右手の『もの』何?」

七瀬は笑顔のままだった。
ただ、声には恐ろしくドスが効いていた。
この声で日本を滅ぼせるんじゃないかというくらいに。

俺は生まれて、初めて真の恐怖というものを理解したような気がした。

さて、七瀬から殺気が放たれはじめているのでいつまでも逃避しているわけにはいかない。
ええと・・・右手のもの・・・。

何・・?

右手?
その時になってようやく、右手に柔らかいものが押し付けられている感触がした。
恐る恐るそっちを・・・


ぴきっ


俺は自分の中で何かが壊れる音を聞いた。
そう・・いたのだ。

俺の妹、みさおそっくりの美しい顔をした彼女が・・。

全裸で。俺のベットに。
しかもご丁寧に俺の右腕を両手でホールドし、胸を押し付け、両足を俺の右足に絡めるという男なら一度はされてみたい、『抱擁』の体勢で。
ついでに世にも幸せそうな笑顔を浮かべていたりもする。


・・これは!!


昨日・・家に帰ってきて何があったんだ・・・!!!
あ・・頭の中がパニクって・・
何か弁解をしないと・・・

「・・・遺言は?」

地獄の底から鬼の声が響いた。
七瀬の形相は本物の鬼と化していた。
もはや説得が効きそうにも無い。

「ご・・誤解だ・・」

でも一応言ってみた。

「・・・とりあえず殺すわ。」


・・弁解は聞きいれられなかった。





・・・・・。





それから一時間ほどが過ぎた。

「・・歯・・折れてんすけど・・」
「・・気のせいよ。」

しかし・・この目の前にある物体はどう見ても・・なあ?

「しかも奥歯なんすけど・・・」

おかげで歯茎から血が出て止まらないのだが・・・。
口ん中血塗れだし。

「・・自業自得よ」

七瀬はまだ怒りが収まってはいないらしい。
こめかみに欠陥浮き出てるし。

「しかもなんか右腕が動かないんすけど・・」

まじで、右腕が動かない。
しかも肩の部分が不自然に腫れていたりする。
もしかして・・・

「なんか・・重傷みたいなんすけど・・・・」
「・・・いい加減、黙りなさい」

殺意の波動を放ちながら、静かな声で呟く七瀬。
それは明確に、『これ以上くだらないこと言うんなら息の根止めるぞてめえ』と語っている。

「はい・・・」

俺は頷くしかない。

「で、これは誰なの?」

謎の美少女をさして言う。
俺としてはぜひとも『俺のあまりの魅力に虜になったのさ』とか言ってみたかったが命がかかっているのでやめておいた。
懸命だな、俺。

「俺にも何がなんだか・・あ!?」

そこまで言ってふと気づいた。
昨日・・家の前で・・

「何よ・・」
「そいつ、昨日雨の降ってる中、家の前で倒れてたもんだから俺が助けてやったんだ。」

そうそう、うちの学校の制服着て家の前で倒れてたし、これはただごとじゃないのかなって思って・・

「昨日は偶然由起子さんがいたもんだから、意識が戻るまでうちのベットで寝かせて保護者に連絡とろうって・・」
「・・・なら、何でその保護者って言うのは昨日のうちに迎えに来なかったのよ・・・
この子、女の子なんでしょう? 年頃の娘を心配しない親が・・」
「そりゃあそうなんだけど、鞄は持ってなかったし、生徒手帳とか身元がわかるようなものも持ってなかったんだよ。
それに・・・」

俺は窓を開けて、干してあった女の子の制服を持ってくる。
そして一点を指差し、

「一応校章はついてるんだけど、学年は分からないし・・」
「クラスを見分けるようなもの、無いからね。うちの学校。」
「昨日のうちに澪にも心当たり無いか、聞いてみたんだけど・・」

澪とは上月澪・・・俺の一年後輩だ。
大きいリボンが特徴の、喋ることができないというハンデを背負った女の子だ。
だからいつもスケッチブックを持ち歩いてはそれを使って意志の疎通をする。
その澪に、昨日のうちに家までひとっ走りして(電話が使えないからな、澪は)うちに連れてきて確認してもらったんだが・・・


「心当たりあるか? 澪」

ぶんぶん

『知らないの』
「うーん・・一年生じゃないのか・・?」
『それはわからないけど、少なくとも演劇部でもないの』
「深山先輩にでも聞いてみるか・・?」

深山雪見。高校三年生で演劇部部長。
澪のつてで割と面識もあるし、演劇部の手伝いも時々していたものだからこういう時に電話くらいかけても迷惑にはなるまい。
俺の知り合いで三年って言ったらこの人くらいしかいないからな・・・・
そう思って電話機の方に・・

くいくい

袖を引っ張る感触。
「ん? なんだ?」
『おこして本人からきいてみたほうがいいの』
「それはそうなんだが・・」

起きないのだ。
寝息は立てているし、脈もある。
外傷もないし、少々雨に打たれて体が冷えているのと、微熱があるだけなのだが・・・

「起きないんだよ」

澪は『?』と言う仕種をして見せる。

「何回か、俺と由起子さんで起こしてみようともしたんだが・・どうも起きてくれないんだ・・」

うーん

『じゃあ、おきるまで待つの』
「ああ、その間に深山先輩に・・」

だが、深山先輩にも心当たりはないらしい。
一人一人の人脈なんてたかが知れているのかもしれないが・・・

「じゃあしょうがない、起きるまで待つか。わざわざすまなかったな、澪」
『つきあうの』
「へ? 付き合うって・・起きるまで?」

うんうん

『のりかかったふねなの』
「うーん・・・でも、明日は学校だし・・」
『どうせテストもおわってまともにじゅぎょうなんてしないの』
「でも両親が心配・・」
『二人とも用事で出かけてるの』
「そ、そうなのか?」
『だから今日は外泊もオッケーなの』
「お、おい!」
『やさしくしてね・・なの』

がばっ!

「待て澪!」



「ちょっと待った!!!」

七瀬が声を上げる。
心なしか殺気が再びこもりはじめたような・・?

「な、何だ七瀬」
「何?あんたは。 この子だけじゃ飽き足らず、澪ちゃんにも手を出したってわけ!?」
「な、何誤解してるんだっ! 澪はもちろんこの子にも手なんか出してないぞっ!
だからその振りかぶったテーブルをおろせっ!」

はーはーはー・・・

息のあらい七瀬。しかしこいつは何でその事にやたらとこだわるんだ?

「澪は十一時に由起子さんに送ってもらって帰らしたよ・・・どういうつもりなのか知らないけど、本当に『既成事実』を作られそうだったからな・・」
「・・・むー。」

何故か難しい顔をして考え込む七瀬。
・・そういえば・・ずいぶん長く話し込んでるような気がするけど時間は・・

・・!?

「じゅ、十時!?」

目覚し時計を見てぎょっとなる。
いつのまにこんなに時間が・・

「学校、遅刻だぞ!?」
「構わないわよ、今日は休みましょう」

焦って言う俺に、平然としている七瀬。
・・なんなんだ?

「それよりもその・・・」

ベットのほうを見て七瀬が凍り付く。
そこには・・・

「え・・と・・おはよう・・ございます・・」

彼女は目覚めていた。



<続くかも。>

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二日続けて投稿っ!
調子が上がってきたぞ!
七瀬「・・・感想は?」
ぐはっ。

神凪死亡。

七瀬「ええと・・じゃあ。」

追伸 神凪は山葉堂「さんようどう」です。