アルテミス 投稿者: 神凪 了
第二十一話 「ヴァルキリーストライクス(中)」



・・・・・。



ドゴォォォン!!



軍用トラックが吹き飛んだ。

ラグナロク秘密基地の前で。
立っているのは『少年』と鹿沼葉子のみ。
加勢しようとしていた人間は全て頭を潰されて血に転がった。


圧倒的な、不可視の力。


鹿沼葉子は強かった。
天沢郁未など、問題にもならないくらいに。
あれほど不可視の力を行使しても、息一つ切らしてはいない。

「さすが・・やるね」

『少年』は攻撃はしない。
いや、防戦一方で反撃に移れないだけしれないが。

「逃げる・・だけですか。」

次々と不可視の力による重圧を放ちながら言う。
全身傷だらけで、包帯を巻いていて、おまけに腕を一本失っているが、そんな事はハンデにもならないらしい。

体内に宿った少年。
そのせいで自分を倒せないといったのであれば・・

(この、体に宿った力は既に私のものです・・・)

闇の中で聞いた。

『三人は死んだ』

『この・・『少年』の差し金で』



(仇を、討ちます。)


(私に生きる意味、日の当たる場所、ひとときの幸せな時間を与えてくれたのはあの人達・・)


(郁未さん・・食堂であなたと出会えたのが全ての始まりでしたね・・・)


(晴香さん・・あなたといると、元気が・・勇気が湧いてきたんです・・)


(由依さん・・あの人と・・私の夫と出会えたのもあなたが紹介してくれたからでしたよね・・)


(茜、未悠、留美、澪・・・第二世代の子供たち・・・)


(きっと、この後もFARGOと戦い続けなくてはいけないはず・・)


(その辛い運命を紡がせることを、避ける事はできないけれど・・・)


(少しでも、楽にする事はできる)


(私が、ここでFARGOの部隊を壊滅させる事によって)


(この・・『少年』を殺す事によって。)


(だから)



「殺します」



そして、最大のパワーで不可視の力を放ち・・・



・・・・・。



そう・・それは受け継がれた。

天沢郁未より。

天沢未悠が受け継いだものは楯。
あるいは、彼女の冷静な凍れる心を。
防御的な部分の、性格を。

七瀬留美が受け継いだものは剣。
あるいは、彼女の熱く燃える魂を。
攻撃的な部分の、性格を。



では・・上月澪と里村茜は誰から何を受け継いだ?



・・・・・。



ドクン

(何・・?)

ドクン

(この感じ・・)

ドクン

(前にも・・)

ドクン

(あった・・!!)

ドクン!!


世界の色が、反転した。
時の刻みかたが変った。
1/1000秒単位で世界を感じた。


そして・・見えた。


ドクン


『願いなさい』
(誰・・?)

『強く・・強く・・』
(誰なの・・?)

『願いなさい』
(願う・・・)

『力が・・欲しいと。』
(力・・)

『全てはこの時のために』
(力・・)

『だから・・・』
(力・・)

『自分の中にある力を・・』
(力・・)

『手に・・・』
(手に・・)

『集めて・・』
(手に・・)



・・ひかり
・・てにあつまって
・・ちから
・・めざめて
・・それが



世界そのものが変わったような気がした。
意識の奔流。
耳元で何かが囁いたような気がした。


『がんばって・・留美・・私の大事な・・』
(まさか・・)


き・い・い・い・い・い・い・い・い・い・い・い・い・い・い・ぃ・ぃ・ぃ・ぃ・ぃ・ぃ!!!


『娘・・』
(お母さん!!!)



・・・・・。



バシシシィィンッ!!!

「破られた・・・!!!」

不可視の楯が砕け散った。
ここまで、耐え切れたのはあるいは奇跡かもしれないが・・・

(ここまで・・なの・・!?)

一瞬だけ、閃光が走ったかのように見えた。

体中に焼け付くような痛みが走る。

血が吹き出てからやっと、切り裂かれたという事に気がついた。

(もしかして・・これがセイレーンだったのかな・・)

わからないが・・もう、終わりだ。
全身の力が抜けて、地面に落ちる瞬間に。

聞こえた。


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」



・・・・・。



「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

一瞬、遅かった。
黒い影のようなものが走り、天沢未悠が・・・姉さんが切り裂かれた。

・・別の生き物になったみたいだった。

世界が静止してしまったかのように感じられるほど、早く、早く動いた。
全身の筋肉、神経が神の領域に達していた。
それでようやく・・

(見える!!)

影が。敵が。
倒すべき敵が。

顔も、男か女かも確認できないほどに、早く動いているけれど。


(この影を・・斬る!!)


バシュウウウンッ!!


それを意識した瞬間、手の中に剣が現れた。

[不可視の剣]

ごく自然に。
関節がもう一つ増えたように。
突然自転車に乗れるようになったみたいに。

新しい感覚が芽生えていた。

(わかる・・わかるのよ・・これが・・・)


だっ!


一足飛び。
おそらく上月澪には動いた事すらわからないであろう速さで。


(もらった!!!!!)


不可視の剣を、振り下ろす!!!!!!!!



すかっ



(えっ!?)



・・・・・。



何の感触も無かった。
斬られたという感触も。

ただ・・結果として・・

ぼとり。

右腕が転がった。



・・・・・。


(これが・・不可視の・・力!)



<第二十一話 「ヴァルキリーストライクス(中)」 了>
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シュン「やあ、みんな元気かい?」
少年「神凪了が行方不明なので今回の後書きアンド感想は僕ら二人でお送りするよ。」
シュン「今回の内容は・・まあ読めばわかるね。」
少年「じゃあ、感想に行こうか。」

>天ノ月紘姫様
>茜の一日

シュン「寝起きの里村さん、ずいぶんと可愛いねえ」
少年「それは核心だ。言えないよ」
シュン「気を使っている長森さんと七瀬さんもね」
少年「強いて言えば『一日』なんだから寝るところまでやって欲しかったな。」
シュン「ぜひ、読みたいね」


>ニュー偽善者R様
>0NE総里見八猫伝彷徨の章 第二十幕

シュン「謎の人物はやっぱり彼なのかな?」
少年「それは核心だ。言えないよ」
シュン「それにしても、似た者同士はひかれ会うんだね。」
少年「僕たちみたいにね。」
シュン「人と人との絆は意外なところにあるものさ。」


>かっぺえ様
>変わり行く『いつも』−中編−

シュン「この後、二人の夜を過ごすのかな?」
少年「それは核心だ。言えないよ」
シュン「それにしても折原君は寝起きが悪いね。」
少年「引退なんて悲しいことは言わないで欲しいんだけどね・・・」
シュン「彼自身が望んだ道だよ。僕らが文句を言うわけにはいかないさ。」


>ひさ様
>感想だけでもいいですか?(10)

シュン「こうして感想を書いてくれる全ての人に」
少年「この言葉を送り返すよ」

『ありがとう』

シュン「SSがあるから感想は書かれ」
少年「感想により書く意欲は高まり、再びSSは作られる。」
シュン「想像力に対する、一人一人の世界に対する」
少年「お礼の言葉、感想。」
シュン「それを紡いでくれる全ての人に」
少年「感想を持った全ての人に」


『ありがとう』


少年「最初の『感謝の言葉』に対する僕らなりの返答だよ。」
シュン「これを読んで、何かを感じてくれたなら、僕らは・・きっと嬉しい。」

少年「それと丁寧な感想、ありがとうございます」
シュン「ええ・・『メサイア』『今にも・・』についてですが『メサイア』は本当に続編を書いているところです」
少年「『メサイアリターンズ』としてね」
シュン「それと『今にも・・』の続きに関してですが・・・」
少年「それは核心だ。言えないよ」
シュン「でも・・この『アルテミス』が終わった頃にあるいは・・・」
少年「それじゃ遅すぎるんだけどね。」



少年「感想はここまでだね。」
シュン「次回は第二十二話 「ヴァルキリーストライクス(後)」でお会いしましょう・・」
少年「また・・ね・・」