アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十九話 「アルテミス〜長森瑞佳」



・・・・・。



由依ウィルス。

かの『死亡した』天才、名倉由依が最近作り上げたウィルス。
人間に感染させるとその人間は不可視の力が使えるようになるらしい。
どういう構造なのかはともかく名倉由依なら成せる業である。

ウィルスそのものは空気に弱いため空気感染することはない。

ウィルスに感染したものは、まず、気が狂うことがある。
これはかのMINMES,ELPODなどによる精神の鍛練で回避することができる。
また、不可視の力を行使する度に精神・肉体に過剰な負担がかかり、その人間の寿命を縮める。
力を使いすぎると体が崩れ落ちて死亡することもFARGOでは確認されている。

由依ウィルスで得ることのできる不可視の力は物理的に作用する力のみで、力を行使するときは、普通の不可視の力ならば体が金色に輝くが、これは銀色に輝くようになる。

これは名倉由依が試作したもの、二つしかなかったが、厳重保管してあったものが一つ紛失された。

また、名倉由依は後に精神に作用する不可視の力が使える特殊な由依ウィルスも作り出している。



・・・・・。



・・ここだ。


彼は・・少年、かつて天沢郁未の同居人であった少年と、その部下たち、普通の人間数人はとあるドアの前で立ち止まった。

「ここに・・?」

部下の一人が呟く。
もちろん男だ。

「間違いないよ。」

部下を手で制して、

「僕が迎えに・・確認してくる。」

そういって、少年がドアに手をかざすと・・

ガギィィッ

ドアロックを破壊した。
もちろん不可視の力であろう。



・・・・・。



何があったかは知らない。
だが、南は残念だが見捨てよう。
そういうことになった。
一時間探しても見つからなかったのだから。

再び、山道を歩く。

「合流地点に着く頃には日が暮れるな・・。」
「ああ・・・」

住井の呟きに返事をする。

「・・・・。」
「・・・・。」

前よりも静かになってしまった。

「・・・・。」
「・・・・。」

仕方が無いのかもしれない。
もしかしたら、生き残りは自分たちだけなのかもしれないのだから・・。

(いや・・こんなことは考えたくない・・)

瑞佳は無事だ。
そうにきまってる。
誰かが連れ出してくれたに違いない。
あれだけ頼んで個室にしてもらったんだし・・

「みんな・・無事だよな・・。」
「ああ・・そうに決まってる・・・」

それでも、足取りは重かった。
天気は朝の快晴が嘘のように曇りはじめていた。



・・・・・。



部屋の中は赤一色だった。
といっても別に血の色というわけではなく、赤いランプが点灯し続けているからである。
その部屋の中に。

「だ、誰?」

いた。
ビジョンどおりの顔立ちに声。
おそらく、間違いはないだろう。

・・でも・・一応・・

「ええと・・長森瑞佳さん?」
「え・・はい。」

律義にも返事をしてくれる。
これで決まった。

・・体に傷を付けるわけにはいかないから・・

(・・眠れ!)

足枷の無いこの場所なら不可視の力を最大限にふるうことができる。
したがって高等な、精神に作用する不可視の力でさえ。

長森瑞佳はかくっ、と頭をうな垂れて、立ったまま眠りに就いた。

「君たち・・運んで。」

男達が入ってきて瑞佳を担ぎ上げる。



・・・・・。



・・『ヴァルキリー』に通達。
『里村茜』以下第二世代の子供たちを抹殺せよ。



・・・・・。



・・これは・・?


今更になって気づいた。
右手の指先が、指先の肉が腐ってボロリ、と崩れ落ちた。

高槻の方を見る。
奴も、既に右腕が白骨化していた。

(何てこった・・)

俺達二人に共通していることは何か?

・・再び生き返った。
・・由依ウィルスを使用した。

原因がどっちだが知らないがどちらか、あるいは両方、の副作用に違いない。

このまま高槻とにらみ合っていれば先に死ぬのは高槻だ。
奴の方が白骨化の進度が速い。
しかしその場合、自分自身もほとんどただの骸骨と化す。

(一気に飛び込んで勝負を付けるか・・?)

それができないからこうして何時間も睨み合ってるんじゃないか・・・
この勝負、先に隙を見せれば確実に殺られることはわかりきっている。

(くそ・・)



・・・・・。



邪魔な奴は殺して進む。
隔壁はぶち破る。

行く手を阻めるものなど無い。

だが、このだだっ広い基地内だ。
奴が何処にいるのか、確認する術はない。

ならば・・



・・・・・。



(ん・・?)


気がついた。
FARGOの人間の死体がいやに多い。


(まだ何か・・いたのか?)


・・・・・。



その部屋はもぬけのからだった。

(遅かったか・・仕方が無い。先にむこうに行こう・・)



・・・・・。



地下通路であったものは既に半壊していた。
それだけ、戦いは凄まじかった。

影と影が飛び交う度に、また壁が崩れる。

当人たちは何も気にした様子はないが。



・・・・・。



「あれ・・・?」

基地の外で待機しているはずの部隊。
FARGOの部隊。


それが。


皆殺しの憂き目に遭っていた。
全員問答無用で・・不可視の力で殺されている。


(これは・・・)


「待っていました・・」


一人の女性が進み出る。
体中、包帯で・・
片腕が亡くなっているその女性・・。

その金髪の女性は・・

「僕らに・・何の用だい?」
「一つはかたきうちと・・」

金色の光を帯びる・・・

「もう一つは彼女を連れていってもらうわけにはいきませんので。」

どさどさどさ

長森瑞佳を担いでいた男達が倒れた。
全員頭が破裂していた。

「君が・・・僕らを止める?」
「はい・・止めます。」
「残念ながら・・・君には無理だよ。」
「やってみなければわかりません。」

静かな、かすかに怒気をはらんだ声。

「君には・・絶対に無理なんだよ。鹿沼葉子・・」
「・・・やってみなければわかりませんと言いました。」
「いや・・」

少年はかぶりを振る。

「君には・・ね。天沢郁未なら、いや巳間晴香でも、あるいは名倉由依でも僕を止めることはできたかもしれない。」


「でも」





「君には、絶対に無理なんだよ。君には。」





<第十九話 「アルテミス〜長森瑞佳」 了>
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テスト前なんで今回は後書き無しということで・・・
こんな駄文に付き合ってくださった皆様、ありがとうございましたん♪