アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十七話 「ナイトメア・7」


・・・・・。


(意外と無機質な廊下だ・・。FARGOのコンクリート剥き出しの通路とそう変わらないな・・)

ラグナロクの中でも閑散とした区域の廊下。
関係者区域・・とでも言うだろうか?
人の足音も、怒号も悲鳴も聞こえない。
危険、自分たちFARGOの侵入、を告げる意味のアラームはいまだ鳴り続けるままだったが。

(まあ・・気になるものでもないしね・・。)

所々に点在する個室を一つ一つ当たる。
それらは名倉由依の私室であったり、天沢郁未のであったりしたのだが、生憎この『侵入者』である少年にわかるはずも無い。

(名倉由依も巳間晴香も始末したはずだからね・・もともと人員が極端に少なかったこの基地だ。僕らの障害となるような人間がいるはずも無い・・。)

ゆっくりと歩みを進める。

・・『この近くにいる』

(わかってますよ・・結局はそのための『制約』なんだろうから・・)

頭の中に響く声。
高いとも低いとも、大きいとも小さいとも、そして男とも女ともとれない声。
『声の主』と呼ばれる者の声・・。

(すまないけど・・・犠牲になってもらうしかないんだよ・・・・)

・・天沢郁未と呼ばれていたあの少女が聞いたら何と言うだろうか・・?
・・それ以前に同じ所に行けるのだろうか・・?

(無理矢理・・生かされているというのも辛い物なんだよ・・郁未・・。)



・・・・・。



どさり。


七瀬留美に続いて天沢未悠も倒れた。
精神を防御するすべなど、普通の人間は知らない。
・・残念なことだが。

「・・あんたに用なんかない・・。」

・・一斉攻撃をして、ここで殺してしまってもいい。
だが、七瀬留美だけはそれ相応の屈辱を味わってもらわないと気が済まないのだ。
だから精神が壊れてしまうような強烈な攻撃はしていない。

(・・さて・・。)

一番重要な標的は『里村茜』。
たとえ全滅したとしてもこの女だけ殺せればいいと言っていた。
この学校に通っていた頃でも美人ではあるが大して目立たなかった存在に何の危険があるのだろう?
それに・・

(確かに・・美人・・よね。)

広瀬の壊れてしまった精神は考える。
この里村茜という存在に自分が今までされて来たことをしてやったら・・どうなるのだろうか
もはや倫理観や他人の痛みなど気にならなくなっていた。
それだけのことが・・・あった。

(七瀬留美・・里村茜・・それに、あと二人も・・)

今この場でひん剥いて、絶望という物を教えてやろうか・・
里村茜はその上で殺せばいい。
心の中の狂気は命じた・・やれと。

「・・え?」

コントロール体達に命令を下そうとしたときに、それは起こった。


・・それは。



・・・・・。



その部屋の中の空間は渦巻いていた。
すさまじい、空圧。荒れ狂う、刃のような空気。
もし、誰かがうっかりその部屋に入ろうものならその誰かはものの一秒とかからずにミンチにされているはずだ。
それほどの物だった。
だが、信じられないことにはその部屋の中に二人の人間がいたのだ。

良祐と、高槻。

「・・・・。」
「・・・・。」

お互い、無言で対峙している。

・・おそらくはこの部屋が精練の間でなかったら決着は付いていただろう。
二人の死をもって。
部屋の中にあった物が細切れになって吹き荒れれば二人とも身体に無数の裂傷を負って死んでいたはずだ。
そうならなかったのはこの部屋の中には何もなかったからである。


・・お互い、もう数時間も動かない。
それはどちらかが動けば二人とも、お互い相打ちになるのが分かっているからだ。

はじめは、高槻には勝算があった。

(早く戻ってこい・・・『セイレーン』・・何ならコントロール体の一人でもいいぞ・・・)

・・ふたりがかりなら、勝つのは俺だ。

だが、『セイレーン』はともかく、コントロール体の全てが深山雪見に倒されていることは、高槻は知らない。

良祐には援軍の来る見込みは一切無い。
でも・・

(・・・・せめてこのまま膠着状態のままで時間を稼ぐ・・上手く逃げろ・・晴香・・・。)

ただそれだけのために。
そのまま、二人は動かない。



しかし・・実は高槻は・・。

(俺は・・・)

右手。
高槻の右手。
巳間は気づいているだろうか?

(もう・・かよ・・)

そう・・高槻の右手は既に肉がこそげ落ち、白骨化していた。
『由依ウィルス』で覚醒した『不可視の力』を使いすぎたため・・だ。
この強すぎる力は精神のみならず肉体にまで影響を及ぼす・・。

(結局俺は素体としても不完全だってことか・・。)

良祐にそう言った予兆は見られない。
同じだけの『不可視の力』の応酬をしているにもかかわらずだ。

(巳間はあれだけの『過酷』を経験したことで相当「MINMES値」が上がってるんだろうからなあ・・)

・・体が壊れちまうのは俺の方が先かな・・


二人はまだ、動かない。



・・・・・。




(晴香・・葉子・・由依・・あなた達に伝えなくちゃ行けないことがあるのよ・・)

(はるか・・ようこ・・ゆい・・『・・・・・・・・・)

(・・・・・・・・・)



・・・・・。



「・・・えっ?」

思わず、足を止める。
声が、聞こえた。
聞き覚えのある声。

「・・まさか・・郁未?」

呼びかけても、返事はない。

(幻聴・・かしら。)

こんな所に郁未がいるわけが無い。
こんなさびれた下水道の中の一角で偶然で会うなんてことはありうるはずはない。
何より・・・郁未は死んだのだから。

・・そういえば・・

(あの深山雪見とかいう子はどうなったのかしら・・それに・・・)


(良祐・・。)




・・・・・。



(郁未・・さん?)

鹿沼葉子はその声を聞いた。
暗く濁った意識の中で。

(声・・・何故生きている人の声が聞こえるのでしょう・・)

まわりは牢獄のような闇。
一筋の光明さえ、射さない。


・・そう、混沌の闇に光の矢はささないのだ。


(でも・・)


気の迷いかもしれない
でも・・何かの、前触れかも・・しれない・・。




・・・・・。


郁未の、声がした。

「・・・・。」

自分では声を出したつもりだったのだが、やはり音にはなってくれないらしい・・
いや、もはや指一本動かすこともできないのだ。
いまだ血の流れ続ける胸の銃痕をみつめながら考える。

(・・これはお迎え・・でしょうか・・)

お迎え・・それって死んだ人を迎えることじゃなかったっけ・・
あれ?なんで・・私死んじゃったんだろう?

(本当に・・死んじゃったのかな私・・)

・・もし・・そうなら・・。
郁未さんでももちろん嬉しいけど・・
お姉ちゃん、迎えに来てくれないのかな・・

名倉友里。
遥か昔に死別した一人の姉。
長い間全く会っていなかったような気もするのに、今さっきまでそばにいたような気もする。

(郁未さんも・・晴香さんも・・葉子さんも・・澪ちゃんも・・留美ちゃんも・・未悠ちゃんも・・茜ちゃんも・・みんな・・そばにいてくれたんですね・・)

現在、過去、未来・・そう言ったものの足枷から外れることができるのかな・・死んじゃったら・・

(もし、そうならお姉ちゃんに会いたいな・・)

ゆっくりと・・瞼を閉じる。
動力質の味気ない風景が目に焼き付いた。

(最後に見た光景が、こんな味気ない物だなんて悲しいけど・・)

・・誰かの・・胸に抱かれるような感覚・・。

(由依・・・)
(郁未・・さん・・)


その天使は私の両頬に手を当てて、キスをする。
もう、それを拒む必要はない。

・・やわらかな幻に包まれる。



コツ・・コツ・・コツ・・



誰かが・・来たような・・そんな気がした・・
でも・・

(由依・・・)
(・・・・・)



「・・・・・」


何か・・声が聞こえた・・。



・・・・・。






そして、悪夢からの帰還。



<第十七話 「ナイトメア・7」 了>
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と言うわけで長かった悪夢もここで終わり、ついに反撃開始・・になるのかな?
郁未「さあ?」
って、郁未ではないか。みさき先輩はどうした。
郁未「かき氷食べに北極に行ったわ。シロップ持って。」
・・・。
郁未「ところで、これっていつ終わるの?」
むぐ・・そんな事を聞くな。予定は未定だ。
本当なら『ナイトメア』は三つ目くらいで終わるはずだったのに、何故か長くなっちゃったんだから。
郁未「行き当たりばったりね。」
うるせい。
それでは、感想です。

>雀バル雀様
>笑わないお姫様

住井、浩平、お前ら寒すぎ。神凪が茜であってもお前らは死刑じゃ!
郁未「由依が某葉っぱの包帯を巻いた人みたいなイメージがあるんだけど・・」
放送禁止用語のところだな。
そして笑わせておいて最後はほのぼのでしめる・・と。
雀バルさん、流石、かな。
今回はホント、笑ったし。


>千乃幸様
>帰還

おかえりなさい!
って、神凪のこと忘れられてたり・・してませんよね(笑
郁未「詩的な作品、とってもよかったです。」
でもギャグなのかと思った。
後書きのみさき先輩のセリフもずっと、まだ作品中なのかと思って(笑


>PELSONA様
>PS版ONEにおまけシナリオ追加決定!? 3

やはりそうきたか
ある程度予想できてしまったです。
郁未「最後のセリフ、繭ちゃんなの?」
うーん・・・由起子さんか華穂さんが言うものだと思っていたけど・・。


>ニュー偽善者R様
>感想代わりだ!番外編締め切り!

感想、ありがとうございます!
郁未「でも・・あまり期待しない方がいいかもね・・。」
余計なこというな。


>Dissapair Memory

面白いです〜。
郁未「やっぱり折原君は長森さんを選んだのね。」
DNMLだとそこの分岐もできるのかな?
続きがあるそうなので、期待してますね。


>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十六幕

毎回楽しみなんですよね。ONE猫。
今回、仮面がなかなかカッコよかったです。
「ふう・・・時には立ち向かえということか・・・」のセリフが彼の変化をあらわしてるです。
郁未「ところで・・幕数が間違っているような・・?」
い、いいじゃないか。


>PELSONA様
>innocent world 【episode U】

うむむ・・氷上・・どの話に出てきてもそうだけど、何者なんだ?
郁未「ONEの中で一番正体のわからないキャラだから・・。」
使いこなすのは難しいんだけど・・おもしろいんだよね。
メールで感想、ありがとうございます。
やはりシュン=司は予想外でしたか。ふふ、狙いどおり(笑)
設定、使っちゃってもオッケイです、って言うかPELSONAさんのそれを使った話もぜひ読んでみたいです。
神凪より芸術的になるだろうなあ・・。


今回は!
郁未「ここまで。」
次回は!
郁未「アルテミス第十八話 『アルテミス』」
乞う、御期待、しないでね(汗)