メサイア 投稿者: 神凪 了
早朝、まだ人気のない廊下を歩く。
運動部の中でも早い者や、今の時期なら演劇部の人間なら既に登校しているかもしれない。
何しろ、今はもう二月。
あれから一ヶ月も経っているのだ。

・・運が良かった。
それに尽きる。
あの時、もしもそのことを聞いていなかったら、私は今ここにいることはできなかっただろう。

でも・・

(結局、私は司を失ってしまった・・・。)

城島司という幼なじみはもう、どこにも存在しない。あの世にさえ。

(でも・・吹っ切ることはできた・・。)

彼は過去に決着を付けたのだから。そして私は真実を知ったのだから。
復讐・・だろうか?

(違う・・)

失いたくないだけ。かけがえの無い、日常を。
まだ、この世界には家族や、浩平や、長森さんや、彼ら『黙示録の騎士』、そしてたくさんのクラスメートたちがいる。

(そして・・詩子も。)

詩子とウインドーショッピングするのもいい。
浩平にワッフルをおごらせるのもいい。
なんなら、上月さんもいることだから演劇部に入ってみるのもいいかもしれない。
あるいは、あの沢口といういつも言い寄ってくるクラスメートと・・付き合ってみるのもいいかもしれない。

・・どれにしたって、この世界にいる限り、楽しいことはあるのだから。

でも、それを壊そうとしている者がいるのも、私は知ってしまった。
だから・・・

「永遠の力に抗え」



メサイア



・・・終章



司は・・・殺された。
この人達が・・殺した。


住井護
氷上シュン
鹿沼葉子
名倉由依


変人。学校でも五本の指に入る変人たち。
そいつらが、寄ってたかって殺した。
司を・・私の大好きな人を殺した。
ようやく帰って来てくれた私の大事な人を殺した。


私達が、何をした?


何もしてない。
誰にも迷惑なんかかけていない。
なのに。


司を殺した。


『司は帰ってくる・・』
それだけを信じて、この世界にとどまっていた。
その司はもういない。


・・なら。


この世界にどれほどの意味がある?
意味なんてない。





なら・・・





悪魔が、囁いた。





「壊してしまえ。」





・・・・



「殺します・・・司を私から奪ったあなた達を・・・殺します!!」

説明できない感覚で、それは目覚めた。
無理にたとえるなら、突然腕に関節が一つ増えたかのような感覚。
それを動かしてみると炎が生まれた。
これはいい。
この意味のない世界なんて炎にまかれて焼けてしまえ。

不思議に槍が手になじむ。
槍は燃えていた。

「どうするつもりなんですか・・」

名倉が氷上に話し掛ける。

(どうするつもり・・ですって?)

せせら笑う。
どうするもこうするも無い。
お前らは私に殺されればいい。

人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。

お前らに何かを選ぶ権利なんかない。

「ごめん・・由依。」

氷上が何事かを呟く。
謝る相手が違うんじゃないですか?
謝っても・・許しませんけど・・。

「氷上・・」
「本気、ですか?」

残った二人も声を上げる。

「うん・・。鹿沼さん、少しの間でいい。突破口を。」

話している間にも、火の手はどんどん強くなる。
この空き地のまわりの家は焼け落ちた。

「話は・・終わりましたか・・。」

槍を、構えます。

「うん・・。いくよ・・。」


だっ!


その氷上が私との間を一気に詰めて来ます。
素手で。
他の三人は、動きません。

(殺します)


ゴォォォォォォォ


炎。


「_____!」

!?
炎が・・割れた!?
そこを掻い潜って氷上は私に・・!


体が勝手に動いた。憎しみで。


どしゅっ


奇妙な音と、手に重い衝撃。


「!! 嫌ぁぁぁ!!」


名倉の、悲鳴。


がばっ


氷上が私に抱き着きます。
『槍で串刺しになったまま』。

「・・放してください・・!!」

体をよじって束縛を逃れようとしますが、氷上は私を放しません。
より強く強く抱きついて来ます。
腹に生えた槍からは次から次へと血が溢れ出していました。
攻撃してくるような素振りはありません。

「一体何を・・」

その言葉を遮って。
耳元で囁き。

「君は・・里村さんは・・・城島司がどういう人間なのか知ってるのかい・・?」



・・・・



・・何を言い出すんでしょう。


「司は・・・」



・・・・。
・・・・。
・・・。
・・・・・・・・・・・!?


あれ・・?


司は・・・どういう顔をしていたのでしょう・・。
司の体格・・声・・思い出せません・・

趣味や・・一つ一つの癖・・詩子と三人で一緒に遊びに行った思い出・・それらは全部思い出せるのに・・

何で一番大事なことを思い出せないんでしょう・・・!?


「わかったよね・・・。」


また、囁き。


「で、でも・・あなた達は司を殺したんです!!」
「・・違うよ・・。」


「もう一度、よく思い出してみて。城島司を・・・」



・・・・



何がいいたいのか・・。
この氷上は何がいいたいのか・・


それがわかってしまって・・





「嘘・・・」





心の底から震えがきます・・。





「そう・・僕が城島司なんだよ。」





・・・・



もはや出血量はおびただしいものになって。
もはや手遅れ。
氷上は・・司は助からない。


「司・・・司ぁっ!!」


「茜・・君が僕を見ても気づかなくて・・僕のことを忘れていて・・だから言わなかったんだ・・。
僕は戻って来たときにはもう、氷上シュンだったから・・。」
「どうして・・どうしていってくれなかったんですか!!」
「僕は・・茜を振ったんだよ・・・。」
「!!!」

「えっ・・?」

遠くから名倉の声が聞こえた。

「僕が今、一番大切なのは・・名倉由依だから・・わざわざ君に辛い思いをさせることもないだろうって・・」



「ごめん・・茜・・。」




ザァァァァ・・・・



空が・・泣いていました。
私も・・泣いているのでしょうか・・?


「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」


沈黙が続いて・・その時。


「茜!!」


氷上=司の叫びが聞こえて・・。


ぐわしっ


弾き飛ばされる氷上=司。


私の・・首を締め付ける感触。

「貴様・・偽物・・!まだ・・生きていたのか・・!!」
「こいつは・・里村茜はもらっていくぞぉぉぉぉぉ!!!!!」

ぐ・ぐ・ぐ・・

(息が・・・)


「ちくしょうっ!! 天狼・・」
「葉子さんっ!シュン君を!!」


「おせえっ!!こいつはもらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


視界の片隅に霞む炎。


そして・・・。



・・・・



使われることの無い倉庫のドアを開け、私は中に滑り込みます。
中にはやっぱり・・・いました。

彼らが。

「やっぱり・・な。」
「ええ・・。」
「来ると思ってましたよ。私。」
「・・思い出したかい?」

「・・はい。全部・・思い出しました。」

「おかえり・・茜。そしてあらためてはじめまして『里村さん』。僕は、氷上シュン。」
「住井護。って、同じクラスだから知ってるか。」
「名倉由依です!よろしくお願いします!」
「・・鹿沼葉子です。これからもよろしく。」



・・・これもまた一つの日常。



「・・里村・・・茜、です。よろしくお願いします・・・。」



・・・・



黙示録の騎士たち。
それは救世主なのかもしれない。
ごく、狭い範囲の、ではあるが。
そうこの物語の名は『メサイア』なのだから。














以上。

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茜「これで終わりなんですか?」
えとお・・茜、か? かの有名なつっこみ茜ちゃんじゃないんだな?
茜「『メサイア』の茜ちゃんです。」
槍振り回して氷上をぶっ刺した?
茜「・・何か語弊があるような気もするのですが・・そうです。」
そうか・・・。
茜「ところでこれで終わりなんですか?」
ん・・住井たちが何と戦ってるのか全く書いてないし・・。
住井、氷上の能力の記述なんか一つもない。由依の能力もまだ説明は特にしてないし・・
誰か読みたいって言う人がいたら続きを書くと思うけど・・。
神凪が書くと何故かMOON.に話がよるからなぁ・・(^^;
茜「・・そうですか。」
じゃ、感想ー。


>ひさ様
>終わらない休日 第4話

終わらない休日の一日ももう夕暮れみたいですね。
ここで、茜から一言。
茜「・・浩平、またいい加減な約束を・・。その約束のせいで女の子が永遠の世界に行ってしまったらどう責任取るつもりなんですか・・。上月さんの件で懲りていないみたいですね・・。」
個人的には女の子の「……嘘だよっ!」が全てのような気もしますが・・どうでしょう。
おもしろかったです。


>雀バル雀様
>一発劇場! その4

ええと・・
茜「・・郁未さんはどっちでもいいんですか・・。」
うう・・このあとのシーンを考えると鼻血がっ!
茜「・・嫌です。」


>一発劇場 その5

ああ・・らしいというかなんというか・・。
茜「どうにもいいようがありませんね。」
この二人の友情って・・。
茜「ところで、このあとがきの方でも密かにドラマが進行中のようですが・・。」
って、葉子さんかい!
茜「・・私もこの前は危ないところでした・・。あの人、暴走すると見境ありませんから。」


>火消しの風様
>剣技修行 NO.3

あ、やっぱりシュンだったのか。
でも、姉を殺したってのは一体・・。気になるなあ・・ドキドキ。
茜「・・アルジーブレード、レベル九百九十九。」

ずば。

ぐはぁぁ・・何をする茜・・。
茜「・・やってみただけだったんですが・・出てしまいました。剣気。」
・・剣なんかもってないじゃないかあ・・。


>GOMIMUSI様
>D.S

アクアの様子がどうにも尋常じゃないなあ・・。
茜「魔剣氷禍魅(ひかみ)・・ですか・・。気になりますね・・」
まだほとんど何も語られていないからな・・。
茜「感想ありがとうございます・・川名さんの行く末は・・・この作者は外道だということを考えて見てください。」
いや・・きっとハッピーエンドになる・・・・・・・・といいな。


>いけだもの様
>花より団子! つっこみ茜ちゃん

なんか・・いけだものさんがいじめられただけのような・・
茜「(ぼそっ)天罰です・・」
え?何か言った?
茜「いえ、別に。」
感想、ありがとうございますね。
ところで最後にさりげなく詩子が「じゃあさ、山葉堂に寄って帰ろうよ。」とか言ってるのに笑いました。
ほんとに懲りてない(笑)


>ニュー偽善者R様
>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十三幕

ううっ・・やっぱりおもしろい・・。
あ、メールありがとうございます。
リーフ図書館には前から行ってたんですけど最近更新されるまで無かったんですよねー。ONE猫。
浩平犯科帳は読んでたんですけど。
一応全部読みました!HPの方にも行ってみました!
ONE猫外伝・・面白そうだなあ・・
茜「・・私が喋れません。」


>TOM様
>超人バロムONE 第二話(前編)

オ・・オトメルゲ・・
七瀬が素体じゃ駄目だろぉ・・・。
茜「私が詩子と合体・・嫌です。」
ところで『イブクロゲ』ってのはやっぱりみさき先輩なんだろうな・・。
バックナンバーは多分リーフ図書館にあるんだろうな。あとで落としてこよう。


>てやくの様
>世界永遠滞在記〜誘拐編〜

ぶはは・・おもしろい!
なんかもうタイトルと内容が何の関係も無いし・・。
それと少年最高!!
茜「天沢未悠さんってこういう人だったのでしょうか・・?」
と浩平・・赤ん坊の頃から今のままのノリだ。
すごい奴だな筋金入りだな。
続編が楽しみ!!



今回はここまで!!
茜「・・またお会いしましょう・・。」