アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十六話 「ナイトメア・6」


・・・・・。


「・・・あれ?」

俺がそれに気づいたのは昼頃だった。
山を抜け、田舎道を歩いている時だった。
ぽつぽつと点在している家々。
車一台通らない道路。
そこを・・・歩いていた時。

「どうした?住・・。」

言いかけて折原も気づいたらしい。


「・・南は何処に行った?」


いついなくなったのかわからない。
南明義が・・・いなかった。

「確か・・山を抜けるまでは一緒にいたと思ったんだが・・・。」

確かに俺達の一番後ろで何一つ喋らずに黙々と歩いていたはず・・・。

「一体どうしたんだ?南ーーーっ!」
「何処に行ったーーーーっ!?」

返事はない。

「・・・まさか・・・誰かにやられちまったなんてことはないよな?」

時計の短針が十二を示す。
その腕にぽつり、と冷や汗が落ちた。
一体いつのまにいなくなったんだ?南。

「・・・どうする?」
「・・・・・・・・。」



・・・・・。



長い長い非常階段を降りる。
そこからは一本道。
また長い通路とIDカードの必要なドア。
力押しでは決して開けることはできないはずだ。

そして、動力室へ。



・・・・・。



「・・七瀬さん・・・彼女の言っていることは・・全て真実です・・・。」

意外なところから返答が来た。
里村茜。

「何故か・・・わかるんです・・。」

淡々とした口調で続ける。

「あなたは中学生の剣道の全国大会の準決勝で・・・。」

何で、何で里村さんがそんな事を知っているのだろう。
私が剣道をやっていたことも、その大会のことも転校してきてからは誰にも話していない・・・いや。

(それ以前に・・・私、そんな大会に出たのかしら・・?)

その時、おもむろに広瀬が口を開いた。
感情のこもらない口調で。

「・・あの暑い日の剣道場。先鋒、次鋒と連勝し、惜しくも中堅が破れて同じ副将同士の戦いになった。
私はずいぶんと長い間、剣道に打ち込んできたわ・・・。
二年生にしてあの剣道の常勝校の副将を務めるようになるほど・・・。
冗談でもなんでも無く全日本の選抜の候補にも挙がっていたくらい。
その時も・・・負ける気なんかしなかったわ・・・。」

・・!?

不意に、頭の中に見たことのある、見覚えのない映像がフラッシュバックする。

竹刀。
私の胴を薙ごうとしている竹刀。
それは・・・・。



・・・・・。



・・それはずいぶん昔の話だった。
中学生の時だ。
剣道の、全国大会。
私・・七瀬留美は二年ながらも部の副将をつとめ、準々決勝まで勝ち抜いてきた。

2−1。

先鋒、次鋒と立て続けに破れ、中堅が辛くも勝利を収めた。

・・私が勝たなければ勝負が決まってしまう。

勝負は一進一退を極めた。
そしてわずかな隙を突いて相手の竹刀が胴を薙ごうとした瞬間。


・・ひかり
・・てにあつまって
・・ちから
・・めざめて
・・それが


世界そのものが変わったような気がした。
意識の奔流。
耳元で何かが囁いたような気がした。


「やああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


その瞬間、確かに世界は止まっていた。
私の竹刀が・・・・相手の肩を・・・




ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!




手に、確かな感覚があった。


めき


防具すら突き破って。


めき


人間の力じゃ絶対に無理で。


めき


肩の骨を。


めきめきめきめきめきめき


粉砕した。


めきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめき



ぐちゃっ



「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




百万光年遥か先から悲鳴が聞こえた。







そう・・そうだ・・・






対戦相手の名前は・・・・








『広瀬真希』










・・・・・。



「・・嘘・・・。」

そう口から出た言葉は自分でも驚くくらいに弱かった。
何故そんな事を忘れていたのだろう。
何故広瀬に会ってもそのことに気が付かなかったのだろう。

「・・・ようやく思い出してくれて嬉しいわ・・・。」

・・ヨウヤクオモイダシテクレテウエシイワ。

何なのだろう。
何か、取り留めの無い音の羅列が耳に入ってくる。

・・コレデワタシノフクシュウモヨリイミヲナスモノ。

・・?
・・?
・・?

わからない。理解不能。私はそんなことしてない。竹刀で人間の肩が砕けるわけが無い。
嘘だ。


でも、わかってる。


・・『私はそれをやった。』って。


広瀬の肩を砕いた。
その時はわけが分からなかった。
そのまま気絶した。
起きたら私達は決勝に勝ち残っていた。
自分がどうやって勝ったのか記憶になかった。

腰が、痛かった。

そのまま忘れてた。ずっと。



・・・・・。



がっくりと地面にうな垂れた留美を見て思い浮かんだ。

・・精神攻撃!!

お母さんに聞いたことがある。
FARGOの教主、声の主は精神に直接干渉してくるような攻撃をしてきたって。
気が狂いそうに・・気を狂わせたくなったって。

・・でも、『私』が助けてくれた。自分自身、ドッペルゲンガーが。

もう一人の自分は『ELPOD』で訓練することによって成長するらしい。
でも・・私達はそんな訓練受けてはいない。
受けていないってことは・・・


気が狂うの?留美は。


・・その『広瀬』の身体は金色に光っていた。
不可視の力だ。
・・こいつをどうにかして止めなければ。
両手を胸の前に持ってきて・・

・・集中。

貫く風のイメージ。


こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおぉおぉぉおぉぉぉおぉぉおぉぉ


手のひらの宇宙。
渦巻く空気。
コンクリートくらいなら吹き飛ばす。

・・これで!
不意をうってその空気を撃ちだそうと・・・

「邪魔。」

唐突に声がして、



ぱきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん・・・・



「!?」

まわり数十人のコントロール体の干渉を受けて、私の集めた『風』は砕け散った。

「何をするつもり?」

広瀬が声をかける。
いかにも面倒くさそうに。

「・・あなたも狂いたい?」


広瀬の目が、光った。



・・・・・。



動力室の中心部、コントロールパネル。


−−正常に稼働中


時計を確認する。
・・ずいぶん時間が経ってしまった。
これなら第二世代の子供達は少なくとも逃げおおせているはずだ。
この『ラグナロク』の人間以外で非常通路の存在も、その出口も知っている者はいない。

指紋照合、網膜照合。IDカードの入力。
これでやっと画面上に仮想キーボードが出てくる。
躊躇することなくキーボードを叩く。

・・LASTWISH

エンターキーを叩く。


−−自爆装置起動を承認。最終ロック解除まであと二分。


・・これでいい。


そう思って壁にもたれかかった瞬間・・・


ぱん、ぱんっ


拍子抜けするほど間抜けな音が聞こえた。
そして、胸に燃えるような感覚。
そのことを理解するまでに多少の時間を要した。

・・問題は銃で撃たれたことではない。

・・問題はその私を撃った人物が今、ここにいるわけが無いということだ。


「・・あ、あなたは・・」


足の力が抜ける。
ずりずりと床にへたり込んでしまう。


・・その人物は由依のすぐ横を通り過ぎるとコントロールパネルの前に立ち・・・


−−自爆、ロック解除終了、自爆までの時間を二時間に設定。


そして邪悪な笑みを浮かべ、動力室を後にした。
由依は何かその人物に声をかけようとしたらしいが、ごぽごぽと口から血が流れるだけで言葉にはならなかった。



・・・・・。



・・薄れ行く意識の中で考える。

彼女がここにいるわけが無い。
彼女が私を撃つわけが無い。
なにより、彼女は・・・・



・・・・・。



悪夢も現実もたいして変わらないのかもしれない。
違うのは逃げることができるかということだけ。



<第十六話 「ナイトメア・6」 了>
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はぁ・・
由依「どうしたんですか?」
予約してた『輝く季節へ』買う金がない・・・。
由依「・・予約してたのにお金とっておかなかったんですか?」
いや、LF・TCG買ってお金が・・

めきごすっ

いや・・主に生活費に・・
由依「うかつな言動は慎んでくださいね。」
・・はい。
由依「じゃあ感想かきましょう!」


>PELSONA様
>棘

う・・罪悪感が・・
由依「・・? 罪悪感?」
いや、気にしないでくれ。
読んでると何故かこう・・幸せなような不幸なような気分に・・・
由依「・・?」
いや、こういうの好きです。もっと書いちゃってください。


>雀バル雀様
>一発劇場!その3

ONEキャラ、特に茜と澪は謎だらけな感じがしますよね。
由依「もしかしてこの澪ちゃんのローカルな嗜好は・・」
いや、浩平に寿司をおごらせようとする陰謀。
由依「えっ?」
陰謀。(断言)
それはそうと感想ありがとうございます。
しかし何故にパウエル?(笑)
また後書きが続き物ですか。その格好・・iMACでもかついでたのか?
後書きの続き、楽しみです。
果たして『同情するならヘルプミー』を超える名言が出るのか!?(爆)


>ひさ様
>感想だけでもいいですか?(8)

みさき先輩の報復が気になってしょうがないんですが。
続きはやっぱり一週間後なのですか?(すみません)
感想、ありがとうございます。
由依「ちなみに『メサイア』の『彼女』の正体は簡単に目星が付くように書いていますが・・」
『アルテミス』深山先輩に憑いている何かが分かるようには書いていません。
心配御無用です。


>WTTS様
>一方その頃…広瀬 (第11投稿)

えーと、これはやっぱり広瀬がどうして七瀬をいじめるかにつながっていくんですよね?
意外にも七瀬に対して好意的な印象を持っている広瀬・・この後二人の間に何が起きるのか予想できません。
由依「『中崎町』の続きもやるんですか? 私、楽しみですよお。」


>ニュー偽善者R様
>Disappear Memory

ええと・・反応を見ようとしているんですか?
それなら神凪は面白いと思います。
DNML版ぜひ完成させてください。


>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十一幕

ええと・・面白いんだけど状況がよくわからん(爆)
HPに行けばバックナンバー(とは普通言わない)ありますか?
由依「論より証拠ですよぉ」
なんか微妙に違うような気もするが・・・確かに考えるよりも行動に移した方がよさそうだ。
パール三世カッコ良かったです。


ええと・・読み終わったのはこれで全部か。
由依「ええ。じゃあ次回は?」
まだ書いてません。

めきごすっ。

神凪 了、やっぱり死亡。

由依「ではまた今度ー」