アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十三話 「ナイトメア・3」


・・・・・。



壁に、耳を当てる。
意識を集中し、ドッペル化する。
不可視の力の応用で、部屋の中の様子をさぐる。

・・・。

人間が、三人。
一人は床に倒れて、二人は直立不動の姿勢で。
おそらく倒れているのが良祐、その近くにいるのが高槻。
そしてもう一人がFARGOのコントロール体か・・・。

手順はこうだ。
精練の間のドアを開けると見せかけて、ここから壁を突き破って奇襲。
そのまま高槻を殺すか人質に取るかして早いところここから脱出したい。
良祐が本当に生きていて、そしてそこにいるのが本物ならなおさらだ。

・・もはやこの時点でFARGO本部施設の奇襲作戦は失敗している。
指揮系統の抹殺は後回しだ。私が死んでしまったら『ラグナロク』には戦える人間がいなくなる。
・・この作戦が失敗したら日本は核ミサイルによる攻撃を受けるそうだが、この際それは考えないことにしよう。

不可視の力を練ってドアの方に飛ばす。
ドアノブを捻って前に押す、そうプログラムしてある。
これだけでもかなりの疲労だが、そうも言ってられない。

ギ・ギ・ギィ・・

ドアが軋む音を聞くと同時に・・・

グガッ!!

目の前の壁を突き破る!!

高槻に・・良祐!

それだけ確認すると突然のことに戸惑っている高槻に向かって・・・!


「『セイレーン』!!!!」


突然、目の前が真っ暗になった。
それが私の前に突然人が現れたからだと気づいたのは、今入ってきた側の廊下の壁に叩き付けられてからだった。

がっ
ぼきっ

「・・ぁ!!」
肋骨に嫌な衝撃が走る。
それでも無理矢理に身体を起こして立ち上がる。

部屋の隅にいたはずの女性が立っていた。
身に纏っていた黒いローブが光に消え去るように無くなり、全裸になる。
姿形は残したままに全身が光を帯びる。
そして、悪魔のような二枚の翼が現れた時・・・

・・『セイレーン』・・

「ごくろうだったなぁ・・・巳間晴香・・・」
目の前に立ち塞がるセイレーン越しに下衆の声。高槻だ。
「せっかく御足労いただいてわりいんだが・・・死んでもらうぜ・・・」


・・何故だ。なぜここに『セイレーン』がいる。陽動作戦はどうなったのだ。
おかしい。この作戦の全てが筒抜けだった時からそうだ。何かがおかしい。
内通者がいる? それともFARGOとはそれすらも分かってしまうような力の持ち主がいるのか?
予知能力とか・・・

だが次の高槻の言葉に、とっさに身体が反応した。

「やれ・・『セイレーン』」

『・・・クズ・・・あれさえなければ・・・あなたみたいな奴の・・・』


か弱い呟きが聞こえた気がした。


ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


吹き荒れる熱波。
反射的に跳んでいた。
ふっと後ろに目をやるとコンクリートが融解しているのが見えた。


冗談じゃない。



・・・・・。



東京湾。
ここでの戦況が突如、おかしくなった。
味方との連絡が取れなくなる。
通信が繋がらないのではない。
・・誰もいないのだ。
『セイレーン』と呼ばれる者の力ではない。
もしそうならば閃光とともに戦艦は沈没しているはずだ。
だが、突如連絡が取れなくなり、そのまま沈黙する。

最もおかしいのはそれがおそらくFARGOにもあらわれているだろうということだ。

東京湾内の軍艦はほぼ全てが沈黙し身動きが取れなくなった。


(どうするか・・・)


顎鬚に手を当て、そう考えた瞬間、

どばしゅぅぅぅぅ

腕、足、腹、胸、背中、首、頭。

全身のいたるところが突然、爆発したかのように熱くなった。
なのに、身体は恐ろしいほど冷え切っている。
目の前が真っ赤になった。
立っていられない。
ふっと見ると、艦内の人間全員が同じように赤い物を吹き出しながら倒れていくのが見えた。

(何が・・・起こったんだ・・・)


ブラック、アウト。



そして東京湾付近での戦いは終了した。



・・・・・。



おかしかった。
何もかもがおかしかった。

防備の手が薄かった。
陽動作戦の成果が出たのだろう。
それはいい。

内部に突入した。
警備の人間はいなかった。
陽動作戦の成果がずいぶんと出たのかもしれない。
それはいい。

各部屋、施設内、全てまわった。
信者も、FARGOの人間も誰一人としていなかった。



余りにもおかしかった。



極めつけはこれだ。

俺、住井、南が外に出て、連絡を取ろうとした時、FARGO本部施設が大爆発した。
志願兵で生き残っている者はいないだろう。




何なんだ。




一体俺達は何と戦っているんだ。



・・・・・。



「えっ?」
『ラグナロク』に志願兵の折原君から連絡が入った。


彼の話。誰一人いない本部施設。
信者も、FARGOの人間も。
その上、突然爆発する本部施設。
それに、先程から東京湾で陽動を行っている部隊と一切連絡が取れなくなった。

私は・・・名倉由依は頭がおかしくなりそうだった。
なにが起こっているのか理解できなかった。

どういうわけか陽動部隊は全滅している。志願兵もだ。
晴香も連絡が取れない。
戦っている人間がいなくなった。
そしていま、この『ラグナロク』秘密基地を守ることのできる人間はいなくなった。

(・・まさかそれが狙い!?)

そう思った時、作戦司令室が赤く染まった。
「基地が・・・FARGOの大部隊に包囲されています!!!」
オペレーターの声が空しく響く。



駄目押しだった。



・・・・・。


熱波、閃光、氷塊。
さまざまな攻撃をしてくる『セイレーン』。
その中で気づいたことがある。

(前に見た時よりも・・・格段にパワーもスピードも無くなっている・・!?)

それでも私は逃げるしかなかった。
実力の差がありすぎるのだ。
・・今更ながら郁未はすごかった。
今以上の攻撃を何回も受けて時間稼ぎをしていたのだから。
へし折れた肋骨が・・痛む。

・・・背後にものすごい威圧感を感じる。
ずっと、追跡してきている・・。

地下通路を走って逃げる。
下水道から逃げよう。
十字路を曲がろうとしたところで・・・

じゃうっ

右足が猛烈に熱くなった。
見ると氷の固まりが突き刺さっていた。

立てない。

もはや感覚はなかった。痛みすら。
それほど深い傷だった。

・・そして気が付いた時にはもう、目の前の十字路のちょうど真ん中に『セイレーン』が立っていた。
腕を、振り上げる。

殺られる・・!!

そう思った瞬間、


ぐおががががぁぁぁ・・・!!!


奇妙な反響音とともに、『セイレーン』は突如横っ腹からあふれ出た闇の奔流に弾き飛ばされた。

カツ、カツ、カツ・・・

そして十字路にあらわれる一人の女性。

「あなたは・・・巳間、晴香?」

女性。きつめの眼。ウェーブのかかった髪。
口から言葉が漏れる。自分でも弱々しすぎると思える声で。

「深山・・・雪見・・・?」



・・・・・。



『セイレーン』が誰かに攻撃しようとしていた。
闇を解放してセイレーンを弾き飛ばす。
地下通路の一番端まで吹き飛んだのを確認してから十字路まで走る。
そこにいたのは東京タワーでかつて出会った『巳間晴香』とかいう女性だった。

「・・何であなたがここに・・?」

わかりきった質問をするものだ。
私はそのためだけに生きてきたのだから聞かずともわかるようなものだろう。
最も、この巳間晴香とかいうのが知るわけも無い。

「・・・。」

今、こいつには、いて欲しくない。そんな事、聞いて欲しくも無い。
(殺そうか・・)
闇が揺らいだ。でも。

「・・さっさと消えなさい。」

まだ見逃そうという気があるうちに。

「・・え?」

物分かりの悪い奴だ。

「さっさと消えなさい。『ラグナロク』秘密基地は今、FARGOの大部隊の襲撃を受けている。」
「・・!!」

息を呑むのがわかった。
顔色が変わった。

「それにあなたがいても足手纏いだわ。」
「・・わかったわ。」

巳間晴香は足に刺さった氷塊を引き抜くと自分の服を破った布で止血し下水道へと消えた。



・・ゆっくりと『セイレーン』の方に向き直る。


「そう・・この場に第三者はいて欲しくないよね・・・」


『セイレーン』がゆっくりと起き上がる。
私は闇を解放する。
いつでも戦えるように。


「つもる話もあるものね・・・ねぇ・・・」




「みさき?」




・・私の愛しい人よ。




「雪ちゃん・・・」




・・・・・。


ほんの小さな行き違いと大きすぎる奇跡。
それが悪夢の種になった。
川名みさきは何を見ているのだろう・・・・



<第十三話 「ナイトメア・3」 了>
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みさき「・・・・。」
どうしたみさき先輩。
みさき「・・私がセイレーンなの?」
うん。ちなみにこれが「第X話 『絶望に蝕まれたのは・・・』」だ。みさき先輩のエピソードが書いてある。
みさき「ええと・・・」

読書中
(赤面)
(青ざめる)
(赤面)
みさき「・・ええっ!!!!!」(顔真っ赤)


みさき「・・こういう経緯だったの・・? 私が『セイレーン』になっちゃうわけ・・」
うん。
みさき「私がかわいそうだなーとか思わない?」
おもう。だからこの話、発表するかどうかわからない。
実はもう第二話の時点でこの話の原形はできてた。
でもお話の中でセイレーンの正体が判明していないのと、みさき先輩ファンの人に確実に抹殺されるから今まで隠しておいた。
みさき「・・・。」
ぜひ読みたいって言う人が数人いたら多分カキコする。
でも・・これ書いたら最後、追放されそうだし・・・・。
みさき「・・確かに・・。」
まあ、ぼちぼち考えるということで。それでは感想です。

>ニュー偽善者R様
>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第七幕

わかっていてだますなんて浩平・・いい趣味してるなぁ・・。
みさき「なんかこうずいぶん可愛い妖魔だね。」
嵐、吹き荒れてるし。
みさき「次回・・戦いの予感だね。」

>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第八幕

・・もしかしてこの二人(一人と一匹かな?)って似た者同士なんじゃ・・・
みさき「そういえばそっくりだね。」
今回、笑ってました。
『彷徨の章』から読み始めた神凪にとっては次回の七瀬の話は楽しみです。


>いけだもの様
>花より団子じゃない気分

感想、ありがとうございます。ちなみに勝負になるかどうかは・・・今回のを見てもらえればわかります。
みさき「でも花より団子じゃない気分って・・」
うん・・とても食べられないんだろうな・・この団子。
みさき「ところで茜ちゃんがすごく可愛いね。」
うん・・神凪のSSと違ってずいぶん浩平も『らしい』し・・。
みさき「見習わなきゃね。」


>まねき猫様
>雨月物語〜菊花の約〜第八話

これだけ単品で呼んだ感想なのですが・・・
『ああ! 雨月物語って秋成だったっけ!?』です。
みさき「・・・?」
あ、気にしないでください。
シュンはここまでして約束を守る奴だろう、というのが僕の談です。
みさき「うーん、そうかもね。」
ぜんぜん感想じゃないですね。すみません。


>雀バル雀様
>感想スペシャル その2

感想ありがとうございます。
こんな風に批評されると怖くって投稿できなくなっちゃいます(笑)
あとどう考えても『ひまわり』は雀バル雀さんで神凪は『ぺんぺん草』でしょう(笑)
みさき「あと『茜草記』、どこか失敗してたのかな?私は好きなんだけどな。」
神凪も。あの暗めの雰囲気が好き。
・・あと『あれ』というのはやはり・・ニヤリ
楽しみにしてますよ!

>ガラスのお面

・・もしかしてこの後書きにしばらく来なかったのはこれに出演してたからなのか・・!?みさき先輩・・。
みさき「ちがうよー」
ホント外道だね。でもそんなところがまた・・・
みさき「・・・(汗)」
最後まで笑いっぱなしでした。おもしろかったです。


>はにゃまろ様
>お・か・し戦記3

みさき先輩・・・ここでも・・・
みさき「ちがうよー」
ところで○ンパンマンですか・・神凪たちの間でやばすぎる替え歌があるので披露しましょう。
見ても怒らないでくださいね。

○ンパンマンの替え歌 作詞 m・BURNING


そうだうれしいんだ ヤクの悦び
たとえ腕の痕がうずいても

(間奏)

なにが君の幸せ カミを喰らってブッとぶ
ラッシュこないまま終わる そんな時は追加だ
忘れないで注射痕 こぼさないでよだれ
だから君はとぶんだアッチまで
そうだおそれないで 鼻孔吸引
シャブとポンプだけが友達さ
あ、あ、○ンパンマン 怪しい君は
ゆけみんなに夢見せるため


みさき「・・・。」
ちなみにおじさんの名前はシャブおじさんです。話本編もあります。
みさき「・・最低」


>天王寺澪様
>NEURO−ONE 27

・・・ごめんなさい・・話に全くついてゆけません・・。
みさき「それは25から読み始めたんだからしょうがないよ。」
しかし対衝撃シールド・・・ぐはぁ、もう使われてたぁ!! よって「アルテミス」シナリオ変更。
みさき「あ!? でもそれを変更しちゃうと・・!」
ニヤリング。
しかし誰か過去ログ保存している人はいないのか・・・。
天王寺澪さんとネタかぶってそぉだぁ・・


>GOMIMUSI様
>D.S

D.S、今回はマジですね!
生きて行くことに絶望している澪(らしき人物)がこの後どうなるのか楽しみです。
みさき「アクアが石化しそうになった時はどきどきしたよ。」
感想、ありがとうございます。
ちなみにONEキャラはともかくMOON.のメンバーが笑顔でいられる可能性は・・・
かなり低いです。皆さんの強烈な突っ込み具合で決まります。
みさき「私が笑顔でいられる可能性は・・・」
12.03%。かなり低い。

>火消しの風様
>剣技修行 NO.1

あ、あれ? 前からの続き物ですか?
みさき「そう、なのかな?」
まだよくわからないのでこの先の展開に期待、です。
みさき「また新米のくせに生意気な台詞を・・・SS地獄に落ちるよ?」
でも本当に気になるような終わり方をしてるし・・・。


>WILYOU様
>空白

や、休んじゃうんですか? ネット。
ということはこれはWILYOUさんの遺作(違う)・・
みさき「一年間も休んじゃうんだ・・・。」
残念・・・です・・・・。
「空白」とても面白かったです。彼自身の居場所を見つけられてよかったです。


>パル様
>素朴な疑問−澪−

澪らしい。すごく柔らかいSSですね。
みさき「や、柔らかいSS!? すごい表現だね。」
この言葉以外にどう表現するべきなのかわからないんだ。
こんなのもいいなあ・・っていう。

>PELSONA様
>信じるか、信じないかはキミ次第

上手い! 一本取られました!
みさき「でもこの手紙は嘘だね。」
うん。致命的な欠陥がある。よって神凪は信じない派です。
みさき「消えた浩平君のことをこの手紙を出した人がおぼえているはずないもの。」

>PS版ONEにおまけシナリオ追加決定!?

あははははは。エ○ァですね。茜が綾○ですか。
みさき「そうすると最後にできあがるシナリオは音だけだね。」
華穂さんと由起子さんがいい感じです。
みさき「つづきたのしみだよ。」


ええと・・・とりあえずはこれくらいかな?
みさき「うーん・・これくらいかな?」
よし、なら歌うぞ!『桜の花が咲き乱れ 大きめのせ・・・』

めきゃ。

神凪 了、死亡。

みさき「では、次回は・・・なるべく『メサイア』といきたいよ。またね!」

神凪『どんな時もげ・・・』

めきゃ。

(フェードアウト)