アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十二話 「ナイトメア・2」


・・・・・。

FARGOのとある場所。
赤い月が宙に浮かぶ不思議な世界。


「そう。巳間晴香だけ・・・ですか。」

・・・。

「・・ええ。一番の障害となるのは里村茜でしょうね。彼女は特殊な存在ですから。」

・・・。

「いえ・・天沢郁未亡き今、あの事を知っているのは僕と・・我が主よ、あなただけです。」

・・・。

「名倉由依も・・始末。はい。」

・・・。

「第二世代の・・・ええ。しかしまだ自分たちの力には目覚めてはいないはずですが・・・。」

・・・。

「『ヴァルキリー』ですか? ・・しかし障害になりそうなのは天沢未悠だけでは・・」

・・・。

「Class Bの者だけでは・・」

・・・。

「いえ、そういうわけでは・・わかりました。」

・・・。

「え・・この映像は・・この者が『アルテミス』なのですか?」

・・・。

「ええ・・仰せのままに。」

それだけ言うと赤い月は空中に溶けるように消えた。
後に一つ、ぽつんと一つの人影。

「・・やれやれ・・我らが主は心配性のようだね・・・。
やはり過去の一件が堪えているのかな・・・。」

その存在・・・FARGOの黒い服を着て、特殊な色の瞳と髪を持った少年・・・
過去に天沢郁未とともにあったであろうその存在は小さく一人呟いた。



・・・・・。


視界が唐突に開けた。
森の・・山の中に隠れるようにしてそれはあった。
大きな建物。

(FARGO本部施設・・)

数時間にも及ぶ山中行軍の末に、ようやく辿り着いた。
これからが本当の命懸けだ。
他のチームと合図を取る。この時の為にブロックサインがあるのだ。

(全員、いっせいに、奇襲)

(了解、FARGOの人間は、全て、倒せ)

(施設内には、入るな、敵を、引き付けろ)

森林戦闘用の迷彩服。
小型の通信機。
名称はわからないが、突撃銃というものらしい。

(訓練を思い出せ・・・)

銀の猫のペンダント。
お守り。

(俺を護ってくれ・・・瑞佳・・。)

住井と南に目配せする。
二人が、頷いた。

合図。手を振り上げる。

そして。



・・・・・。



跳ぶ。
周りの景色が流れてく。
車よりも、電車よりも、もっともっと速い速度で。
全ての感覚が鋭敏になっている。
朝の静謐な冷たさの中を駆け回る。
今までそんな事したこと無かった。

・・これが『せかい』なんだ。

今まで感じたことが無かった。
辛いこと、寂しいこといっぱいありすぎて。

でももうそんな事は気にしなくてもいい。

疾風よりも速い速度で東京湾を目指す。
そこにいっぱい遊び相手がいるはずだ。
みんな私のもの。
壊しても、何をしても誰も逆らえない。

だって。

「こんな世界無くなっちゃえ」
「私を拒否する世界なんて無くなっちゃえ」

無くならなかった。

「なら変えるよ。私の思うままになる世界に。」
「あの人の言うことを聞いてれば楽しい。」

変える為の力、手に入れた。

「いつか戻ってくる。あの人も。」

そう・・・。


・・・ひとつになったんだよね。わたしたち。
・・そうだよ。だから、だいじょうぶ。

闇が囁く。


人の姿をやめたりはしない。
でも、人の心はやめた。
気持ちよかったから。


人であるよりも。


目にも移らないほどのスピードで市街地をかけ、東京湾へと向かう。

朝の冷気。
朝日の心地良さ。
そういった物よりもずっと好きなもの。


・・血の感触。
・・断末魔の悲鳴。


そのために。


戦乙女を受け入れた。



・・・・・。


下水に埋もれたぬいぐるみ。脱腸ウサギのぬいぐるみ。

(あった・・・)

郁未の言った通りだ。
ここの鉄梯子を登って・・・


・・・。


確かに、ここだ。
悲劇の全てが始まったところ。
私の仲間たちが集った場所。
この地下通路の十字路。
だが。

「・・・!」


一枚の紙が落ちていた。
手書きの文字。何の変哲も無い。
ただ・・・

−巳間晴香へ

貴様の兄を預かっている。
巳間良祐を助けたいと思うのであればB棟の精練の間まで来い。
なお、貴様は既に囲まれている。
逃げようとした場合、或いは別の道に進んだ場合は外にいる志願兵達、貴様の兄、そして貴様自身の命は保証しない。
貴様が物分かりのいい人間であることを願う。 高槻−


気配を感じた。
本当に、囲まれている。
FARGOの人間ではない。
コントロール体だ。それも、数十人。

「・・・。」

強行突破は危険だ。
ここで戦えば犬死にする可能性は高いが、高槻のところまで行けば奴を人質に何とかなるかもしれない。

(どっちにせよ作戦は失敗だわ・・由依。撤退命令を・・)

通信機のスイッチを入れる。
・・聞こえるのは雑音だけ。通信妨害されている。
しかたなく通信機を懐にしまう。

(そういえば・・外は一体どういう状況になってしまったのかしら・・。)

志願兵達は捕まってしまっただろうか?
それならば『ラグナロク』秘密基地の所在がばれる可能性がある・・・!

「・・・。」


それよりも・・何故ここまで作戦が筒抜けなのだろうか?


・・・・・。


(いつもと違うな・・・)

部屋で待機。
名倉さんが私達にそう指示を出した。
いつもならMINMES2に入っている時間だ。

(何かあったのかな・・)

最近、思い出したことがある。
腰を痛めて剣道ができなくなる前に、何か事件があったような気がする。
なにか、あったような気がする。

でも、どうしても思い出せない。
(ひどく大事なことだったような気がするんだけど・・・)

「はぁ・・・。」

どうも暗い気分になりがちだ。
折原でも住井君でも瑞佳でもいいから誰か話し相手になって欲しい。

「いつになったら会えるのかな・・・。」



・・・・・。



「お目覚めか。巳間。」


目を開けると高槻がいた。
俺は両手両足を縛られた上に、ご丁寧に猿轡を噛まされているらしい。
全身がひどく痛む。口の中に血の匂いが充満している。

・・・。

痛む首を巡らせて部屋の中を見渡す。
部屋の中は薄暗く、窓一つ無い。
窓どころか、部屋の中には何一つ無い。
強いて言うならば、ドアが一つ。
鉄ごしらえで、頑丈そうで、内側からでも鍵が無いと開かないタイプのドアだ。
それと、高槻が俺のすぐ傍に立っているらしい。革靴と俺を見下ろしている濁った目が見えた。
そして部屋の隅にぽつんと人影。
どうやら女性らしい。長くつややかな黒髪が眼に入った。
うつむいているがゆえ、その顔は分からない。

既視感。

夢じゃない。
俺が死んだ日と同じ。
俺は縛られてて、高槻がいて、コントロール体が一人いて・・・

そして晴香が・・・


「もうすぐお前を助けにお姫様がやってくるぜ?」

皮肉な口調。恍惚とした笑みが浮かんでいる。

「あの時みたいにな。」

く・・


・・・・・。


そして、悪夢の始まり。



<第十二話 「ナイトメア・2」 了>
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と、いうわけで『アルテミス』です。ちょっとうざったいくらい余計に長くなってます。
でも、『セイレーン』も『ヴァルキリー』もみんな正体の目星ついてるんだろうな・・・。
みさき「あれ? 了ちゃんにしては日があいたね。どうかしたの?」
あ、みさき先輩。実はPS版のTo Hea・・・

めきごす!

ぐはあああぁぁぁぁ・・・・
みさき「それは禁句!」
でもなんか最近投稿少なかったもん!絶対あれのせいだよ!
みさき「だめだよ!」
あれのEDテーマむちゃくちゃいいなあ・・・歌で泣いたのは久しぶりです。
ゲーム内容と重なって素晴らしいんだよね・・・。
みさき「SSは?」
うん? ここ三日愛機 『Serika』の電源入れてなかったし・・・
みさき「パソコンにそんな名前を・・・」
いいじゃないか。それじゃあ、感想は・・・すみません、今回はお休みということで・・・
みさき「・・まあ、いいけどね。」
じゃあ、また・・会えたらいいな?
みさき「? 何で疑問形なの?」
まあ、いろいろと。
次回は・・・セイレーンの正体明かされちゃうかもしれない編です。
では。