アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十一話 「ナイトメア・1」


・・・・・。

・・下水道を疾走する。
本来ならば腰までずっぽりいってしまうような、かなり深い下水道だが私・・・巳間晴香も不可視の力を応用して『水上歩行』することくらいはできる。
もう一時間くらいは歩いただろうか。
いまだに下水道は奥へ奥へと続いている。


・・昔、聞いたことがある。


「二人ともおぼえてる?」
郁未の、言葉。
「何をですか?」
十年以上前の由依の声が今も鮮明に思い出される。
「FARGOの、あの地下通路のこと・・・」
あまり思い出したくないことを言う・・・
「それがどうしたのよ」
ついつい口調まできつくなってしまう。
でも、郁未は気にした様子は特にはなかった。
「あの地下通路、十字路の所で私達いつも落ち合ってたよね。」
「・・そうですねぇ・・。」
「あそこってさあ、それぞれA棟、B棟、C棟に通じてたじゃない?」
「・・そりゃそうよ。」
・・何がいいたいのだろう。
昔の、私や由依にとっては思い出したくないような思い出を蒸し返すことに何か意味があるのだろうか?
でも・・郁未は無意味なことはしない人間だ。

(そう・・どっちかって言うと合理的な性格だった。
でも・・その冷淡な性格の裏に大きな優しさを持っていることも知ってた。)

「もう一本、道があったじゃない?」
「ああ、私と郁未さんが一緒に寝た所ですね?」
「・・何かその言い方には語弊があるんだけど・・・」
「二人がそういう関係だったとはさすがに知らなかったわ。」
多少気に触ることもあったのでそんな事を言ってやる。
「そんなわけないでしょう。それはどっちかって言うとあなたと由依のことだと思うけど?」
冷静に切り返してくる。
それはたぶん・・・私と由依が一緒に住んでることをさしているのだろう。
「何言ってるんですかぁっ! 私と晴香さんはプラトニックな間柄なんですよぉ!」
「え・・プラトニックって・・そうなの?」
何故か後ずさりしながら私の方を見る郁未。
「由依もいい加減なこと口走らないでよ・・・それよりも、もう一本の道がどうしたの?」
「郁未さん、あそこはただの行き止まりだったと思うんですけど・・・」
由依の言葉に郁未がかぶりを振る。
「違うわ。巧妙にカモフラージュされてたけど下水道に繋がるマンホールがあったのよ。」
下水道・・・
そんなものがあったとは知らなかった。
でも、今更そんな事がどうしたんだろう・・。
「その下水道のところに、ちょっとした思い出があってね・・・」


・・・その時は適当に聞き流していた。でも・・。


(その下水道から奇襲をかける・・・私一人で。)

FARGOの本拠地から推測した下水道の出口・・・
あの時、下水道の話をもししていなかったら・・・
あるいはその郁未の『思い出』がなかったら・・・

(あなたにはわかっていたの? 再びFARGOに来ることが・・・)

『晴香さん』
通信機から声。由依だ。
『もうすぐ通信が盗聴される危険のある距離に入ります! 連合国軍、および『ラグナロク』本隊は陽動攻撃を開始しました!』
走りながら腕時計を見る。

『7:02』

「何時間くらいもつのよ!」
通信機に向かって怒鳴る。
『もってせいぜい今日一日でしょう! 晴香さん、それまでにFARGOの主要幹部を殲滅してください!』
「それとできるなら信者達の解放もね!」
『もう通信がきれます! 八時過ぎから志願兵達がFARGOに陽動攻撃を始めるはずです! 健闘を祈ります!』

ぶちっ

それきり、通信が途絶える。
走りながら通信機を懐にしまう。

(・・これが最終決戦よ・・・! 郁未、葉子、あなたたちが居ないのは辛いけど・・・一人で戦うのは辛いけど・・)

下水道を走り続ける。
走るペースは変わらない。
息一つ乱れない。
『不可視の力』の恩恵だった。

(平和に生きて行く為に私は戦う!)


・・・・・。


三人一組のチームで山中行軍する・・・
思ったより神経を使うものだ。

どこかに敵が潜んでいるのかもしれない。
どこかに罠があるのかもしれない。

慎重に、慎重に進んで行く。
今回は巳間隊長のバックアップは受けられないのだ。
俺を狙って銃弾が飛んできたら、当って死ぬ。
当たり前のことなのに、どうしてこんなに怖いんだろう。

木の影から住井が『OK』のサインを送る。
そのサインを受けてもう少し前の木の影に入る。
そして前方に罠が無いか、敵がいないか確認した上で後方の南にサインを送る。
その南は俺と同じ事をして住井にサインを送る。
この繰り返しだ。
・・一歩一歩確かに目的地には近づいている。
それでも気が遠くなりそうだった。

胸にかかっているペンダント。
銀でかたどられた小さな猫のペンダント。

『お守り・・・だから・・・』
『これ、お前がすごく大事にしてたやつなんじゃ・・・』
『そう、大事なんだから。絶対に返してよね・・・』

何のことはない。
暗に生きて返れといっているのだ。
以前のこともあるからこういった物でより絆を深くしておきたいのだろう。

『・・絶対返すよ・・』
『約束だからね・・・。』

・・・瑞佳・・・・。


・・・・・。


FARGO。


「東京湾に総攻撃をかけてきた?」
『はい、いかがしましょうか』
「・・彼ら、陽動のつもりらしいね。じゃあ・・名倉由依の絶望をより深める為にも『ヴァルキリー』に出撃してもらおうか。」
『しかしまだ能力のテストも行っていません・・。』
「いいじゃないか、ぶっつけ本番で。このぐらいで死ぬようならはじめっから用無しだよ。」
『では・・『ヴァルキリー』を出します・・』

ぷちっ。

通信の切り替わる音。

『・・・・なんでしょう・・・』

機械的な、無機質な声。
彼女は『受け入れた』。『セイレーン』とは違って。

「東京湾はわかるね?」
『・・・はい』
「そこにいるものをすべて殺してきて」
『はい』
その返事にだけ、強い生気がこもっていた。


・・・・・。


東京湾。

FARGOと連合国軍・『ラグナロク』本隊との激しい艦隊戦が繰り広げられていた。
そのとある一隻の戦艦で・・・。

(・・おかしい・・・)

その艦の艦長の思考にはその一文字が大きく鎮座していた。

確かにFARGOには不可視の力という得体の知れないものがある。
それによって魚雷などの攻撃が不自然な動きをしてこちらに命中したり、あるいは絶対に当るものが外れたりすることはあるかもしれない。
しかし・・

(ど素人だ・・・FARGOの人間がこういった物の訓練を受けているはずが無い・・・だが・・・)

自分は世界に多々いる戦艦の艦長の中でもかなりの指揮能力を持っていると自負している。
数々の戦争を生き抜いてきたことがその証だ。
しかし・・・

(何故・・こんなにも訓練された奇麗な動きをする!? )

そう、FARGO軍の戦艦の動きは明らかに正規の訓練を受けたものだ。
もちろん敵の動きは自分達より劣る。
それでも『不可視の力』のせいで互角の戦いになってしまっている。

(まずい・・まずいぞ・・・このままで『セイレーン』が来てしまったら・・)

焦燥感。
本来ならば東京湾をほぼ制圧状態にした上で『セイレーン』を迎え撃つつもりだった。
自分達も大きな被害を受けるが、何しろこの数だ。相当に時間を稼ぐことはできるだろうし、もしかしたら『セイレーン』を討つことができるかもしれない・・・
そう考えていた。
だが、徐々に、徐々に押されてきているのは自分達だ・・・

(半日も持たないかもしれんな・・・・)

その老艦長は自分の顎鬚をさすりながら、自分が死んだら家族の人間は悲しんでくれるだろうかと考えていた。


・・・・・。


名倉由依はメディカルルームにいた。
ベットには鹿沼葉子が横たわっている。

(葉子さん・・・)

結局、意識を取り戻さなかった。
もし取り戻したとしても・・・

(左腕・・・。)

シーツの上からでもわかる。
左腕を・・・失ってしまった・・・。

(それに全身のやけどに骨折している個所が数十個所・・)

もはや生きている方が不思議なくらいだ。
それでもこの『ラグナロク』の優秀な医療スタッフは瀕死の彼女を生き長らえさせた。
いつか、目を覚ます。必ず。

(その時には平和な世界が来ていますよ・・・)

FARGOなんかに命を狙われない。
私は晴香さん、澪ちゃんと。
葉子さんは茜ちゃんと。
郁未さんは・・・

・・・。


「葉子さん・・・郁未さん、死んじゃったんですよ・・・」


ぽつり、ぽつりと涙の雫がこぼれた。


・・・・・。


頬に、冷たい感触。

(俺は・・・)

体が動くようになってA棟のMINMESの操作の担当にされた。
当然かもしれない。
巡回員や・・・『精練』の人間と違って専門知識が必要だからだ。

いろいろと調べた。

FARGOの武力侵攻・・・。
Class Dの存在・・・
『声の主』・・・

現在のFARGOの構成員は大半がさらってきた学生・・・
その大半はClass Dにまわされているようだ。

(ひどいもんだ・・・)

Class Cよりもひどい扱いだ。
精練しか行わない。
そしていつしか精神を破壊する。
その廃人にとある薬を打つ。
すると何でも言うことを聞くロボット人間の完成だ。
しかも・・・

(・・人工的にコントロール体を作り出すだと?)

人間の遺伝子・・DNA・・・そういった物を書き換えて人工的に不可視の力が使えるようにする『ウィルス』。


『由依ウィルス』


(誰だか知らないが迷惑なものを作ってくれたもんだ・・・!)
なるほどFARGOが武力侵攻に乗り出すわけだ。
この人工的に作り出したコントロール体が今のFARGOの主戦力なのだろう。
何とかしてウィルスを全て破棄したい。
そう思った。
そのためにはやはり爆破するのが一番だろう。
爆発物の入手と・・・そして脱出経路の確保。
それと・・もしいるのであれば晴香の救出。


しかし昨日、MINMESの操作をしていた時だった。
突然、FARGOの人間がやってきて・・・

物も言わずに俺を殴り始めた。
気絶するまで。

(何故だ? 計画が・・・ウィルスの破壊計画がばれたのか?)

そんなはずはない。
誰にも言ってないし、誰かにわかるようなことはまだ一切していない。

(確かあの時・・・)


『役に立ってもらうぜぇ!? 巳間ぁ・・・!』


高槻!?

目を開けるとそこには・・・

「お目覚めか。巳間。」


・・・・・。


ゆっくりと運命の歯車は回り出す・・・



<第十一話 「ナイトメア・1」 了>
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と、いうわけで今回はここで引きです。
みさき「なんていうかぜんぜん話しが進まないね。」
いや、どうやら物語のラストシーンも見えてきたし・・・
みさき「わたしは? 繭ちゃんは? 柚木さんは? 他のONEキャラは?」
・・・。
みさき「MOON.のキャラばっかり目立ってるよ〜」
MOON.は僕の中でONE、東鳩、アトラクと並ぶ名作だから・・・
みさき「それでもONEキャラなんて見せ場もないよ〜」
・・それでは感想です。

>千乃幸様
>折原 帰宅!

ええと・・感想書いても読んでもらえないのかな?
みさき「3/24以降ネットに繋げなくなるって書いてあるけど・・・」
残念だな・・・ABCD包囲網なんか俺スマッシュヒット!(意味不明)だったのに・・
みさき「事情はわからないけど残念だね・・・。」
早く復活してくださるといいけど・・・。

>ニュー偽善者R様
>アルジーと一緒

うん? アルジーはわからないけど・・・
みさき「ホト連は『ホットケーキは生の方が〜』のことだよね?」
しかし茜と一夜を共にするとは・・・
みさき「里村さんって積極的だね(ぽっ)」

>ばやん様
>『かせぐの』−7−

お久しぶりです。『かせぐの』楽しみにしてましたです。
みさき「澪ちゃんがすごく・・・」
ああ・・・むっちゃ欲しい・・(爆)
みさき「雪ちゃんがちょっと怖い」
茜とセットでね。それがまたいいような(核爆)
次回楽しみにしてますね。

>いけだもの様
>業務連絡! つっこみ茜ちゃん

いけだものさん、こんなにきっちり感想をいただけると恐縮してしまいますです。
みさき「澪ちゃんの障害の話、ちょっと不安だったんだよね。」
うん。『生まれつき』と取る人と『何かしらのトラウマ』と取る人がいるから。
でも否定的な意見じゃなくてよかった。
みさき「あと『メサイア』の かっこいい住井君ってそんなに少ないのかな?」
神凪はWILYOUさんのマッドサイエンティスト住井のイメージが強いんだと思う。
『チェンジ!』なんかすごく面白いし・・・
みさき「ところで座談会するんだって。」
う〜ん・・神凪も行きたいけど生憎、埼玉県草加市在住・・・。
みさき「だめだね。遠すぎるからね。」
中部地方だもんなあ・・・
無理すれば行けなくも無いけど仕方ないかな。


と、今回はこんな所だね。
みさき「あれ? ずいぶん少ないね?」
いや一日分だから。
みさき「毎日SS書いてるなんて暇だね。」
うぐ・・言ってはならんことを。
みさき「じゃあ次回は!」
もしかしたら『メサイア』第二章かもしれません。
みさき「じゃあ、」
またお会いしましょう。