アルテミス 投稿者: 神凪 了
第十話 「間奏『流れる時』」



・・・・・。


明後日。そう、明後日だ。
『ラグナロク』の、運命を賭けた総攻撃の日は・・・


・・・・・。


『ラグナロク』の特別訓練室のMINMES2。
今日も『第二世代の子供達』は訓練を行っていた。




MINMES2:設定:精神深度:7:時間:四時間
:人数:四名:管理者:名倉由依
:PASSWORD:**********:[ENTER]

・・・深度7:四時間:四人:管理者:名倉由依:

・・・パスワード確認・・・

この設定では対象となる人間の精神に過剰な負担がかかります。よろしいですか? Yes

確認完了:MINMES2を起動します

NOWLOADING・・・・完了


・・・・・。


七瀬留美は公園のぶらんこに腰掛けていた。
少女の・・・言葉を封じられた姿で。
(私を見ては、何かを話して去ってゆく同年代の子供達・・・)
自意識過剰なのではない。それはずいぶん前からのことだったから。
リボンに、触れる。
別れの時に、お母さんがしてくれたリボン。
いつも肌身離さない。
これが私とお母さんの唯一の絆だから。
(早く帰ってきて・・お母さん・・寂しくてたまらないよ・・)

そんな事を考えて、毎日を過ごしていた。

そんなある日のこと、私は名前も知らない男の子が私の前に立った。。
その映像が、七瀬留美の心をかすめた時、何か、違和感を感じた。

(・・私は知っている。『ここであったのは』初めてだけど・・・この人が誰なのか・・・私は知っている・・・。)

スケッチブックと・・・青いクレヨンを受け取る・・。

(でも・・)

『澪』
スケッチブックに名前を書く。

(誰なんだろう・・・・)


しかし、この違和感を持ってかえることはかなわない。
これは上月澪の記憶なのだから・・・。


・・・・・。


里村茜は戦っていた。
そこは、剣道場。

里村茜は中学生だった。
竹刀による攻防は一進一退を極めた。

だが、次第に里村茜は押されぎみになり、そして相手の竹刀が胴を薙ごうとした瞬間・・・。

世界が、変わったような気がした。
ものすごい意識の奔流が体中を駆け巡り

「やああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!


「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


悲鳴。
何が起きたのかはわからなかった。
まさか、『防具を突き抜けて肩の骨を砕く』なんてことが起こるとは思わなかった。

・・再起不能・・。


・・それは昔、七瀬留美が心の奥底に封印した忌まわしい記憶。



・・・・・。



天沢未悠は雨の降る空き地に佇んでいた。
目の前に、ずっと思い続けていた幼なじみが佇んでいる。
その時。


ぐにゃり。

(えっ?)

・・MINMESの映像が、歪んだ。
これは現実にあったことではない・・!

(・・『歪む』なんてことがありえるはずが・・・!)


「!!!」


天沢郁未は現実に引き戻された。



・・・・・。



上月澪は友達数人とともに下校している所だった。

交差点の所で友達と別れて、手を振りながら信号を渡ろうとした時。

・・・居眠り運転だった。
一台のダンプカーが信号を無視して、突っ込んできたのだ。
手を振っていた友人の顔に絶望が浮かぶ。


・・・あるいはこれが他の人間だったなら、それはよくある交通事故の一つとして処理されていたのかもしれない。
友人や、家族は酷く悲しみ、轢いてしまった運転手は一生かけてその贖罪をする。

それだけの話だったのかもしれない。

しかし上月澪・・・その時の天沢未悠は何かが爆発するような感覚を感じ・・・


次の瞬間、ダンプカーは運転手ごと木っ端微塵になった。


・・・それは、天沢未悠が『日常』を失った原因。



・・・・・。



(未悠さんと留美さんのMINMES値が飛躍的に向上している・・・やはり郁未さんの死は彼女たちにとって大きいみたいですね・・・)
MINMES2の操作室に名倉由依はいた。
その表情には憂いが浮かんでいる。
(葉子さんも一度は取り戻した意識ですから・・・再び目覚めると思うんですけど・・・)
操作室室の制御パネルに目を落とす。そこには

01−Rumi Nanase m=3452
02−Akane Satomura m=2863
03−Miyu Amasawa m=4022
04−Mio Kouduki m=2763

という文字がおどっていた。
MINMES・・・精神抵抗を表す数値だ。
(本当はMINMESだけでなく、ELPODも行いたいんですけど・・・)
時計を見る。あと十分ほどしたらMINMESを止めなくてはならない。
それ以上精神に過負荷をかけると昏睡に陥ったり、最悪の場合死に至る。
心が死んでしまうからだ。
(ELPODはかかる精神の負担が大きすぎる上に・・『精練』も合わせて行わないとほとんど意味がない・・・
どっちにしろ、この子達は最終決戦に間に合いそうにありませんね。明後日までには・・。
まあ、戦って欲しくないと言うのは本音ですが・・・。)
それにしても『由依ウィルス』・・・成功するのだろうか?
自分の腕についた注射の跡を見つめながら。
(でも・・今はわずかな可能性にかけるしかない・・。)

共に戦ってきた友人達の顔が思い出される。

(郁未さん、葉子さん、あなたたちの抜けた穴は大きすぎます・・・)



・・・・・。

FARGO。


「レジスタンス『ラグナロク』の所在地を確認しました。」
「・・・そう・・。計画どおり・・・だね。」
「ただちに攻め込みますか?」
「・・・いや、連合国軍の方に妙な動きがある・・・しばらく様子を見よう・・・。」
「・・承知いたしました。」
「それに既に手も打ってあるんだよ・・・。」
「手・・ですか?」
「せっかく高槻がいるんだから・・・巳間晴香には絶望を味わってもらおうと思うんでね・・・」
「・・それと『ヴァルキリー』の素体、MINMES値が3000に達しました。」
「ん・・・わかった。じゃあ『神降ろし』を実行しよう。」


・・・・・。


夜中・・・


「浩平!?」
ドアを開けて、瑞佳が顔を出す。
「久しぶりだな・・・」
そう、もう一週間以上顔を合わせていなかったのだ。
久しぶりに見る瑞佳は、心なしかやつれているような気がした。
「だめだよ浩平・・・志願兵は一般人と会っちゃいけないんでしょ?この部屋のことだってだいぶ無理言ってるのに・・・。」
こいつは・・・・いつもこうやって無理をする・・・。
『会いたくてたまらなかった』って全身でオーラ発してるくせに・・・
「いいから入れてくれよ。そんな事言うんなら今こうしてるのを見られるのだってまずいんだぞ。」
瑞佳はドアを開けて俺を部屋に招きいれる。
「・・寝てたのか?」
瑞佳はパジャマ姿だった。
女の子らしい上下ピンクのパジャマだ。
「あ、このパジャマ? うん・・この部屋に置いてあったんだよ。」
ざっと部屋を見渡す。
ベットにトイレにシャワー室・・・それに本棚か・・・。
名倉さんに頼んだかいがあるというものだ。
拝んでおだてて褒めて土下座までしたんだからな。感謝しろよ、瑞佳。
ふと見ると、瑞佳は泣きそうな顔をしていた。
「・・瑞佳・・ごめんな、寂しい思いをさせて・・・。」
優しく、できるだけ優しく言ってやる。この言葉に、想いの全てを託したかったから。
案の定、瑞佳は泣き出してしまう。
「・・・辛かったよ・・・志願兵のうち半分近くが死んじゃったって聞いて・・・浩平も死んじゃったんじゃないかって気が気じゃなくて・・・もう狂いそうだった・・・。
こんなことなら私も志願兵になればよかったよ・・・」
愛おしさ・・・瑞佳を大切に思う気持ちが込み上げてくる・・。
気が付くと俺は瑞佳を抱きしめていた。
「こうへい・・・」
何ら拒むことなく、俺に体を預けてくる。
「次の・・・明後日の戦いで決着がつく・・・絶対に帰ってきてやるから・・・そしたら・・・」
一瞬、言い澱む。だが次の瞬間にはその言葉を口にしていた。
「結婚・・・・しような・・・。」
「・・・うん・・・」
そして、強く強く抱きしめる。
「約束・・・したからね・・・絶対・・帰ってきてね・・・。」
「・・・ああ、絶対だ・・・。」

この二度目の永遠の盟約にかけて。


・・・・・。


「なぁ・・・」
「ああ・・・。」
志願兵の部屋はチームごとに割り振られていた。
ここは折原・住井・南の部屋。
だが、ベットに入っているのは住井と南だけで、折原浩平の姿はなかった。
「あの野郎・・・こんな時間になっても帰ってこねぇ・・・」
住井が南に時計を示す。
午前、三時。
「・・長森さんとよろしくやってんじゃねえだろうな・・・。」
怒気を通り越して殺気すら含んだ声。
南は嫉妬深い。
「絶対に巳間隊長にチクってやる・・・!」
でもまあ、俺も悔しいし。
「畜生・・・何でこの世はこんなに不公平なんだ・・・里村さんに夜這いをかけようにも何処に居るのかすらわからないし・・・」
「七瀬さんもだ・・・一体何処に行ったんだろう・・・?」
「ところで、住井。」
いきなり口調が変わる。
「なんだ、南。」
「・・・名倉さんって、いいと思わないか・・・?」
・・こいつわ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でお前はそうデリカシーがないんだ。」
「・・何を言う、住井。」
「お前里村さん一筋とか言ってなかったか?」
「・・うむ、あれはあれだ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・絶望的・・・だな・・。」
「何のことだ。」
「・・気にするな。」

それきり会話が途絶える。
暗い部屋の中で彼女のことを想う。

(それにしても・・・七瀬さんは何処に行ってしまったんだ・・?
あの戦うと言った時の声は間違いなく本物だったはずだ・・・。それなのに志願兵の中に居ないなんて・・・。
まあ、戦わないで済むのなら、そうしてくれた方がうれしいけど・・・。)

疑問ばかりが残る。

なんとなく、ゴロンと寝返りをうつ。
暑いわけでも寒いわけでもないが、何故か寝苦しい。

(明後日・・・か。せめて一目会いたかったな・・・。)

眠りに落ちようと目を閉じる。
瞼の裏に七瀬さんの姿が浮かんだ。

(俺は・・・死なない・・・。七瀬さんともう一度会うためにね)



・・・・・。


(まだ・・戦いは終わらない・・・)

パチパチとたき火のはぜる音がする。
暦の上ではもう春とはいえ夜は十分に寒い。
中崎町の荒れ果てた商店街の一角に一つぽつんと人影。
深山雪見だった。

(・・私の行く所に『セイレーン』はいない・・)

FARGO宗団。そこに行くことができれば『セイレーン』はいるかもしれない。

(でも・・・)

それが私の捜し求めている者なのか・・・わからない。
だいたいにFARGOの本拠地が何処にあるのかすらわからない。

誰も知らないのだ。何故?

・・額にうっすらと滲んだ汗を制服の袖で拭う。

(ぜんぜん食欲が湧かない・・・・・)

もう何日も何一つ口にしていない。
一応誰もいなくなった商店街から缶詰などの食料は持ってきている。
しかし無理しても食べようという気は起こらなかった。

(それともこれは・・・この力の・・・)

それは、イメージ。
安らぎの闇。護るための力。

(闇・・・・・)

ふっと、あたりが暗くなった。
みるとたき火の火が燃え尽きていた。

(・・・今日はもう・・休みましょう)

地面にじかに横たわって、目をつぶる。
寒いが・・・風邪をひくこともないだろう。
闇が私を護ってくれるのなら・・・。

(それにしても一体・・・・何処に・・・。)


・・深山雪見の体を優しく闇の翼が覆った。
それは恋人の抱擁のように優しく、強く。
不思議な安らぎと温もりを感じながら深山雪見は眠りに就いた。


・・・・・。

MINMESを操作していた俺の前に突然やってきたFARGOの男達数人。
そして・・・

「がはっ・・・」
強烈なボディブロー。
思わず身体が折れる。
そこを滅多打ちだ。
薄れ行く意識の中で思う。
何故?
俺はまだ何もしていない・・少なくとも制裁を受けるようなことは・・・

「役に立ってもらうぜぇ!? 巳間ぁ・・・!」

・・高槻の声が・・・・聞こえたような気がした・・・。


・・・・・。


・・・・何なんだろう。

MINMES、ELPOD、精練。
わけがわからない。
少なくとも自分の置かれている状況が悪いという以外、何もわからない。

(・・・・明日になれば何かが変わるのか?)

変わるわけが無い。
いつからか、眠るのが嫌になった。
目覚めの後に地獄しか残されていないのなら。

(いっそ死んでしまおうか?)

でも、できるならもう一度会いたい人間がいる。
その人の為、もう少しだけ耐えてみよう。


・・・・・。


そして、時は流れ行く・・・・
嫌でも。



<第十話 「間奏『流れる時』」 了>
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いったぜ、百万台ぃぃぃ!!!
みさき「ちがうよ、十話だよ。」
おお、みさき先輩帰ってきてくれたか!
みさき「ただいま、だね。」
これで毎回のようにアシスタントに殺されることもないんだな!?
みさき「・・? 何があったか知らないけど・・はい、おみやげのパイナップル。」
・・パイナップル・・一体どこにいってたんだよ先輩・・・。
まあいいや一ついただこうかな・・ってこれ手溜弾じゃ・・!

どっかーーん

神凪 了死亡。
みさき「あれ? 間違えたかな? まあいいや。じゃあ、感想でーす。」

>WILYOU様
>空白(3)

みさき「日記形式が相変わらずおもしろいです。あと、やっぱり住井君らしいや、と。(左手用自爆ボタンとか。)だんだん元の浩平とは相違点が出てきたようで、それでいて根幹の部分は似通っている・・・。どんな結末を迎えるのか・・とても楽しみです。」

>壱弥栖様
>お伽話を語ろうか

みさき「一応、はじめまして、ですよね?
浩平君も茜ちゃんも食ってばっかり(笑)元ネタがあるみたいですがわからないのでオッケーです(苦笑)
こういうほのぼのした話も書いてみたいけど、それをやると『メサイア』ができちゃうんですよね。
あと過去ログが無くて困っているそうですが神凪はその頃ここに来たんで完全じゃないです。
三月十日以降ならあるみたいですが・・
ぜんぜん感想じゃないですね。すみません。」

>ひさ様
>感想だけでもいいですか?(7)

みさき「わざわざ一個一個感想をつけてくださってありがとうございます。
なかなか参考になりました。あとFARGOでしゃべっている連中の会話の意味は・・・わかってくれない方がいいです(笑)
それと『メサイア』・・楽しくなったんで書いてるそうです(笑)
『アルテミス』はどうにも暗いし・・ついつい発作的に。」

>雀バル雀様
>茜草記

みさき「感想ありがとうございます。
茜草記も完結ですか。なかなか考えさせる内容でしたが、最後は一応ハッピーエンドで終わってよかったです。茜・・やっぱり待ち続けたか・・。
それと後書きの中にまで前回のあらすじが(笑)
SS地獄、僕も落ちそうだなあ・・
こっちも楽しいです。次の作品、楽しみにしていますから。」

みさき「えーと、とりあえずこれで全部かな?
じゃあ次回アルテミス 第十一話でお会いしましょう!
さーて、学食におやつ食べにいこっと!」