メサイア 投稿者: 神凪 了
やあ・・来たんだね・・。

僕は時々思うんだ。
人は何故生きているのかって。
僕は生まれたことはチャンスを掴むことができたということだと思ってた。
そう、人生と言う一度きりの物語を演じるチャンスを。
自分が生まれてきたのはいくつもの偶然が重なって起こった奇跡だって。

そう・・・思ってた・・・・。

永遠を意識するまでは。

君はあの言葉を唱えることができた。
君にはこの物語を知る権利がある。
だから、同じ『魅入られし者』である君に語ろう。
その上で、君が判断するんだ。
僕らの仲間になるのか、どうかを。
僕の名は氷上シュン。
生まれた時からこうなる運命を背負って生まれてきた者だよ・・・。



『メサイア』



・・・・第一章



いつものように一階奥の人気の無い一角。
そこにはここしばらく使われていない倉庫がある。
その倉庫の鍵は表向きは紛失したことになっている。
それ以来、ここは使われてはいないのだ。
(そう・・表向きはね・・・。)
ポケットから銀色に光る小さな金属・・・鍵を取り出す。

カチャリ

金属音がなったのを確認してからその言葉を囁く。

「永遠の力に抗え」

カチャリ

再び金属音がなるのを確認してからノブを掴む。
一応あたりを見回してから中に滑り込む。
早朝の学校とはいえ必ずしも誰もいないと言う保証はないのだから。
黴臭く狭い空間。外側の学校とは全く違った雰囲気があった。
左腕のG−SHOCKのLIGHTボタンを押して時間を確認する。

6:30

少々早すぎたかもしれない。まあ、家にいても仕方が無いのだ。
そのまま壁によりかかって他の『黙示録の騎士』達が来るのを待つ。
大層な名前だ、と鹿沼さんがつけた時は思ったものだ。
自分も結構気に入っている。『人類を守る黙示録の騎士』なかなかいい皮肉だ。

・・・・。

三十分ぐらいたっただろうか?
密閉された空間であるからそれほど寒いとは感じないがさすがに一月だ。
体が震えてきた。
(名倉さんか鹿沼さん来ないかな・・・。)
彼女たちなら『暖かく』してくれるはずだ。
その忌まわしい力で。
部屋の奥に立て掛けてある一本の棒に目をやる。
魔力を封じ込めた布で封印してある槍。
「・・グングニル」
ぽつりと呟いてみる。
(住井君の『エクスカリバー』と同じようなものだけど・・・僕が使うことなんてほとんど無いんだよね・・・。)

きぃ・・・

ドアが軋む音。
ドアの方に目をやると住井君と鹿沼さんがいた。
「おっす、相変わらず早いな。シュン。」
「・・おはようございます、氷上さん。」
なかなか対照的な挨拶に思わず笑みがこぼれる。
「やあ、おはよう」
笑顔で挨拶を返す。
いつものように革の鞄と竹刀袋を持った住井君。
もっともその竹刀袋に入っているのは別のものだが。
これは余談だが住井君は全身あざだらけである。昨日、葉子さんとの間に何があったかは言うまい。
彼の人権を著しく損害する(謎)
同じように革の鞄を持った鹿沼さん。
二人は同じアパートに住んでいる。つまりは同棲中だ。
(僕と名倉さんは一緒に住んでないけどね)
心の中で付け足しておく。念のためだ。
何が念のためかはあえて言うまい。
「あ、鹿沼さん、暖かくしてくれない?」
言葉とともに白い息が漏れる。本当に寒い。
「・・・わかりました。」
楚々とした動作で頷くと
「_______。」
人には聞き取れぬ声で何かを唱え始める。
彼女の能力・・。

うぉぉぉん・・・・

奇妙な反響音とともに、暖かな感覚。
「ありがとう。」
この空間の温度がおよそ十度ほど上がった。
突然冬から夏になったような感覚だ。
「ところで、シュン。」
住井君が不意に声を上げる。
「なんだい?」
僕が声を返すと、
「昨日・・・『出た』」
「・・・。」
僕らの間でこんな会話になった場合の『出た』ものといえば決まっている。
『天使』か『死神』だ。
それもほとんどの場合が『天使』だ。
天使にも階級がある。
seraphim 【セラフィム】
cherubim 【チェルビム】
thrones 【スローン】
dominions 【ドミニオン】
virtues 【ヴァーチャー】
powers 【パワー】
principalities【プリンシパリティ】
archangels 【アーチエンジェル】
angels 【エンジェル】
セラフィムに近づくほど強大な力を誇るようだ。
ようだ・・・というのは僕らはエンジェル、アーチエンジェルとしか戦ったことが無いからだ。
それよりも気になるのが・・・
「・・・何が『出た』んだい?」
「・・・エンジェル一体だ。」
・・少々問題になる。
天使というのは伝承ではどうかは知らないが『単体行動はしない』ものらしい。
戦った時には必ず三体以上はいた。
『エクスカリバー』『グングニル』を持つ僕らの敵ではないが。
「・・誰が目的なんだ?」
「・・・・この学校に間違い無いはずだ。」
・・この学校には『魅入られる』要因を持つ者が多すぎる・・。
「・・・折原か?」
住井君の口に上った言葉。
『折原』。そう、折原浩平。
「いや、」
黙って首を振る。
「彼には十二月中にあって話をしておいた。
おそらくは『絆』を得たはずだよ。」
そう、十二月中に彼を軽音楽部に招いて『説明』しておいたのだから。
「・・ああ、そういえばあいつ長森さんと付き合い始めたんだよな・・・。」
長森瑞佳。折原浩平の幼なじみだ。
・・そうか・・・彼女が・・・。
「うん。ならしばらくは問題無いはずだ。」
「・・・もっとも・・・彼の傷は大きすぎますから・・・。」
いままで黙っていた鹿沼さんが言葉を発する。
折原浩平が背負っている傷のことだ。
『みさお』という彼の妹の。
「じゃあ、誰なんだ?」
少々焦れた感じがわかる住井君の声。
僕は・・自分の心が揺れ動くのが分かった。
「・・・きっと・・・彼女だよ・・・。」

・・・・。

「彼の者の痕を癒し給え・・・汝、万物の命を司る聖霊よ・・・」

ふぉわぁぁぁ・・・・

全身に感じるやわらかな、暖かな、喩えるならば春の日溜まりのような感覚。
「はい、終わりましたよ。調子、どうですか?」
毎日、僕の痕を癒してくれている名倉さん。
彼女がいなければ僕はもうこの世にはいなかっただろう。
(感謝、してるよ)
心の中でお礼を言う。
名倉さんは今日もぶかぶかの帽子を被っている。
『かくすため』だ。別に気にすることではない。
僕らも彼女が帽子を取った所なんてあれ以来見ていないのだし。
でも・・本当は美人なんだよね・・・名倉さん・・・。
「由依ぃ〜俺の傷も治してくれぇ〜」
全身の痣を見せながら住井君が言う。
名倉さんは一瞬困ったような顔をしてから、
「それは二人の愛の証(笑)じゃないですかぁ〜。
私なんかが消せませんよぉ〜(はぁと)」
いたずらっぽく言った。
ちなみに後ろで鹿沼さんが顔を赤らめているようにみえるのは気のせいではない。
「・・・こんなものが愛の証か!?」
住井君が声を荒げる。
ちなみに後ろで鹿沼さんが静かな怒りの表情を浮かべているのは気のせいではない。
住井君はからかうと面白い。
だから僕もこんな事を言ってみたりする。
「・・住井君、首筋にキスマークが!」
『!!』

一瞬、時が止まった。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何のことだか俺は全然わからないし身に覚えが無いし昨日は葉子とはそんなにしてないしって言うかよく考えたらそんなものがある訳が無いような気もするけどって、うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

あっはっは。

面白いほど大袈裟なリアクションを取ってくれる住井君。

「・・・。」

その住井君の首筋を凝視する名倉さん。
顔が真っ赤だし。

「・・・・馬鹿・・」

同じく赤い顔でぽつりと呟く鹿沼さん。
その光景をひときしり眺めてから
「冗談だよ」
と宣言してあげた。



追記

そのあと住井君に七回、エクスカリバーで斬られた。
鹿沼さんに『お仕置き』青空コースをされた。
名倉さんにぼこぼこにされた後、傷を癒してもらった。

・・・死ぬかと思った。


・・・・。

キーンコーンカーンコーン・・・・・

「あーあー、ただいまマイクのテスト中・・・」
いや、別に気がおかしくなったとかそういうわけではない。
ただ・・ちょっと鹿沼さんの『お仕置き』の後遺症が残って一時間前まで声が上手く出ていなかっただけ。・・・住井君よく毎日のようにあんなことやられて生きてるなぁ・・・
なかなか頑丈にできてるものだ。
さて、四時間目の授業の終わりを知らせるチャイムも鳴った。
魅入られていそうな人達の様子を見に行こう。
同じクラスの名倉さんに目で合図を送る。ちなみに教室の中でも大きめの帽子を目深く被っている。
(それじゃあ、様子を見に行ってくるよ)

(きゃっ、氷上君たら『愛してる』だなんて・・こんな教室の中で恥ずかしいです・・・)
実は通じてなかったりする。

それに名倉さんは笑顔で手を振ってくれた。
彼女はいつものように友人達と学食だろう。
僕は・・・別に友達なんていないからね・・・
住井君は鹿沼さんと一緒に何処かで手作り弁当を食べているんだろうし・・・邪魔するのも悪いからね。

この学校で魅入られていそうな人物・・・・
僕は二年生のある教室へと足を運ぶ。


折原浩平・・・・

今日は長森さんと弁当を食べていた。
このぶんだと心配はないだろう。

里村茜・・・・

今日も一人で自分の作った弁当をつついていた。
彼が消えてからずっとあの調子なのか・・・・

七瀬留美・・・・

時々表情に翳りが見える・・・
まあ・・・折原君達と一緒に騒いでたから大丈夫だろうけど・・・・


・・・次は・・・
一年生の教室・・・・
いない。
演劇部の部室かな?

上月澪・・・・

あのスケッチブック・・・
必要以上に過去に縛られなければいいけど・・・

最後に食堂に向かう。
その食堂のある一角だけが異様な雰囲気を醸し出していた。
いつものことだ。

川名みさき・・・・

縛られている過去はないけど・・・
あの強い精神力は十分『魅入られる』に値するからね・・・。

一通り見回ってから学食のAランチを持って席に座る。
食欲はほとんど無い。
いや・・あの時以来食欲なんて感じたことはないのか・・・
それでも食べることはできる。名倉さんのおかげだ。
(本当に感謝してるよ・・・)
君の気持ちはまだ受け取れないけど・・・

その後は黙々と昼食を口に運んだ。

・・・・。

「じゃあ、やっぱり彼女なんですか・・・」
帰り道。
いつものように四人で話をしてからだと帰りが遅くなる。
冬の日の、日の短いこともあってもうあたりは暗くなっている。
校門前で住井君と鹿沼さんと分かれた後、名倉さんと二人で歩いて帰る。
幸い近い所に家を借りられてよかったというところか。
「うん・・・」
彼女のについてのことだから、どうしても返事が曖昧になってしまう。
名倉さんの気持ちに気づいていればなおさらだ。
「どうしまするんですか? 待つんですか?」
一番いい方法は今のうちに殺してしまうことだ。
でも・・・
「待つよ。僕らはあいつらの邪魔をする為じゃなくて、自分達の日常を護る為に戦っているんだから。
誰かを殺しても、その日常は失われてしまう・・・」
「・・・安心しました。」
名倉さんがおそらくはその大きめの帽子の影で笑みを浮かべる。
「私も人を殺すは嫌だから・・・・・・。」
「僕だって嫌いさ。」
そのまま・・・二人、歩きながら時が過ぎて行く。
名倉さんの家の前まで来た時だった。
足を止め、下を向いたままで名倉さんが呟く。
「・・・あなたには・・・氷上君には・・・・」
「いや、今はそれは言わないでほしい。」
彼女の言葉を途中で遮る。
そのことに心が痛む。彼女が何を言わんとしているのかわかるから・・・。
「そのことは・・・今回のことの決着がついてからだ。」
そう。彼女についているであろう天使との。
「じゃあ・・・せめて・・・」
肩を震わせ、呟き続ける。
その言葉を皆まで言わせずに僕は屈み込んで。

「・・・ん・・。」
「・・・・。」

彼女を抱きしめてキスをした。
小枝のように細い身体、かなり小さい背・・・。
冷え切ったからだ。

・・・・。

「じゃあ・・・また明日・・。」
「はい・・・。」

・・・・。

忘れていないといえば嘘になる。
でも・・・僕が今愛しているのは由依だから・・・過去に決着をつけよう・・・。



・・・・



おっと・・・もうこんな時間だ・・・。
僕の話はどうだった? 上手かったかい?

・・一応言っておくけれどこれは作り話なんかじゃない。全て現実の話だ。
もっとも、君にはよくわかっているだろうけど・・・・

じゃあ、僕はそろそろ失礼するよ。この話の続きが聞きたくなったのなら・・・
放課後にでもここに来て。きっと誰かがいるから。
君にはもう資格があるのだろうけど・・・・一応言っておくよ・・・

『永遠の力に抗え』

この言葉を知っている限り、僕ら『黙示録の騎士』達は姿をあらわすよ・・・。

じゃあ、また会えるといいね・・・。



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というわけで『メサイア』お送りいたしました。
シュン「今回は僕の視点なんだね。」
あれ?氷上。
シュン「今回は僕がアシスタントだから。川名さんはかつおのたたきが食べたくなったって、一本釣りの修行にインドに行ったよ。」
・・・? 何かそこはかとなくおかしいんだが・・・。
シュン「それよりも感想を書きなよ。」
ん・・ああ。じゃあ、以下感想でーす。

>はにゃまろ様
>永遠紀行 4

・・おもしろいや。
シュン「次回から『永遠の世界』ですか。書くのが大変そうですけどがんばってくださいね。期待してますから。」
・・しかし土日しか書けないというのは一体?
シュン「仕事かな?」

>天王寺澪様
>NEURO−ONE 26

うう・・話の流れについて行くだけで精いっぱいだ・・・。
シュン「興味深い話だけどね。」
リーフ図書館とかに収録されないのかな・・?
シュン「さあ? それと感想ありがとうございます。かっこいい住井君、珍しいですか? しかも主役だし。」
あの四人の人選はあまり目立たない人という。
シュン「というよりも僕と住井君はONE本編中にほとんど設定が出てこないからなんだよね。『もしかしたらこんなことがあったのかもしれない』って。さすがにエクスカリバーとかは持ってないと思うけど・・。」
ところであらすじ気になりますー。

>ニュー偽善者R様
>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第五幕

このONEの本編の話のアレンジ具合が・・・
シュン「ホント上手いよね。ぜひこの前の方の話も読みたいけれど・・・」
まあ、このままでも十分面白い話だから。
シュン「黒い影の正体・・・楽しみです。」

>雫様
>白い決意

雪ちゃん可愛い!
シュン「『アルテミス』での深山さんって虐殺してる人だったもんね・・・」
みさき先輩も・・・うう、ついにやにやしながら読んでしまった。
シュン「感想ありがとうございました。あの良祐の大きく無茶のある設定、苦労したんでそういってもらえると助かります。」

>GOMIMUSI様
>D.S

もはやここまで来ると一つの独立した話ですね。D.S今回も面白かったです。
シュン「それと感想ありがとうございます。住井君と鹿沼さんですか・・狙いどおり(謎)です。」
しかも今回は・・・
シュン「まあ、予想はしていたと思いますが。」

>WILYOU様
>同情するなら羊をくれ

うまいっ!
シュン「真説・狼少年。あの話の『裏』はそういうことだったんですね。」
このアイデアには脱帽です。
シュン「感想ありがとうございます。しかし、本当にMOON.で良祐がFARGOにいた理由は何だったんでしょうね?」

>雀バル雀様
>茜草記

ごめんなさい、うっかり二回分溜まってしまいました。
それにしても・・・重い!!
シュン「二回目の『究極の選択』。ズシーンときました。心に。」
住井、南、澪、みさき先輩・・報われない役だなあ・・・・。
シュン「いよいよ最終回近し、ですか。楽しみにしています。」
それと資料のメールありがとうございました。改めてお礼を言わせていただきます。

今回はこれぐらいかな?
シュン「・・そう」

ざすぅ!!!!

ぎはぁ!? 何故だ・・・?
シュン「僕と名倉さんをSS中にどういう扱いをしたかおぼえているかい?
殺らせてもらうよ・・この『グングニル』でね。」

どしゅ!どしゅ!どしゅ!

ぎゃはああぁぁぁぁぁ・・・・

神凪 了死亡。

シュン「ふう。
ではこのへんで、さようならです。」