アルテミス 投稿者: 神凪 了
第九話 「間奏『巳間晴香』」


・・・・・。


午前二時『ラグナロク』内の名倉由依の私室。
ベットに由依が横たわっていた。
そのすぐ横に私は立っている。

「・・・・・・・落ち着いた?」
なるべく優しい声で由依に呟く。
泣きはらして由依の両目は真っ赤だ。
「・・・何年ぶりに思いっきり泣いたんでしょう・・・・・・」
俯いたまま、静かに囁く。
「・・そうねぇ・・・『ラグナロク』に入る前・・・・十六年ぶりぐらいかしら・・」
「あの頃は・・・三人で生きていこうなんて言ってましたよね・・・・・」
私と、由依と、生まれたばっかりの・・・澪で。
「ええ・・晴香さんがうらやましいです・・・ぜんぜん老けなくて・・あの頃と変わらない・・。」
巳間晴香も、鹿沼葉子も、今は亡き天沢郁未もFARGOで出会った時以来歳を取った様子はなかった。
「あんたも変わらないわよ・・特にこの貧乳具合が・・・」
手を伸ばして・・

ぷにっ

「きゃ・・・・もう・・晴香さん・・貧乳は止めてくださいよぉ・・」
「ふふっ思い出すわね・・・澪もあんなに大きくなったんだものね・・・もう遠い昔の思い出話だわ・・・。」
「澪ちゃん、本当にいい子になったみたいですもんね・・・。」
「はぁ・・・・もう大丈夫なの?」
「・・ええ・・・まあ・・」
「じゃあ私は・・・」
「あ、ちょっと待ってください・・・」
立ち去ろうとした晴香を由依が引き止める。
「ん・・何?」
「あの・・・今日だけ添い寝してもらえませんか?」
真っ赤になって呟く由依。
「は・・・・・・」
呆然とした表情になる。
「あんた・・・何歳だと思ってんの?」
「歳のことは言わないでくださいぃ」
「まぁ・・いいけどね。葉子に話したらなんて言うかしら?」

意地悪く笑って見せる。

「・・もぅ、やめてくださいよう・・・・・。」
いつまでも由依をからかっていても仕方ないので上着を脱いでベットの中に入る。

「・・・そういえば結局郁未も結婚しなかったのよね・・。
結婚したのは葉子だけ。それも『ラグナロク』にすぐ入ることになったし・・・。」
「里村葉子って名乗ってたのは二年かそこらですもんねぇ・・。」
「私も郁未も愛する娘を養子に出して・・・その娘達全員が中崎町に集まったのも因縁なのかもしれないわね。」

天沢郁未と鹿沼葉子は中崎町に住んでいた。
そして今までは里村茜も、七瀬留美も、澪も・・・。

「でも本当に郁未さんは死んでしまったんでしょうか?」
「・・わからないわ。私もその瞬間を見ていたわけじゃないしね。できれば、生きていてほしい。でも」

ふぁさ・・・

髪を掻き揚げる・・・。

「何にしろ仇は討つわ。郁未の死を悲しむのは全てが終わってからにするつもり。郁未は・・私に戦えといったもの・・・」
「私も・・・私も戦いたいです・・いつもここで留守番なんて・・・」
「滅多なことは言わないほうがいいわよ・・・。血を見ただけで卒倒しそうなくせに・・・。」
「・・もうそんな事ばっかり・・・・・・」
「でも、あんたも落ち着いてきたみたいでよかったわ・・・。」
「・・私もすることができましたからね。明日の朝一番に本隊に連絡して、対策を練ります。それが私にできるかたきうちですから・・・。」


・・・・・。


FARGOから帰還した頃のことだから、もう二十年近く昔のことになる。
その後、郁未は元の自分の住んでいた中崎町の家に、葉子は何処に住んでいたのかは知らないがしばらくして中崎町に引っ越してきた。
由依は・・・FARGOの精練の影響だろう。私もそうだが由依は特に極度の男性不信に落ち込んでいた。
それで・・・というわけでもないが私達は一緒にアパートを借りて住むことになった。
その頃はまだ私も『記憶喪失』のお芝居を続けていた頃だったし、身寄りのほとんどいなかった(友里さんを探しに来たのも両親が亡くなってしまってのことらしい。)由依も一人で住むには辛かったのだろう。
自然と傷ついたもの同士身を寄せ合うようになったのだ。
FARGOのことを思い出すと良祐の仇をとれなかったことが唯一悔やまれるが、それ以外は普通に生きていた。

・・・・・。

それから数ヶ月過ぎて。
郁未、葉子、由依、それに私も大学に進むつもりだったから大検を取って四人で集まって勉強したり、予備校に通ったりしていた。
全員それなりにアルバイトをして・・・そんな風に楽しくやっていたのだが。
ほぼ同時期に私、郁未、葉子が妊娠していることが発覚した。
当然かもしれない。FARGOのことを考えれば。
郁未と葉子は父親に心当たりがあったようだが(特に郁未は嬉しそうだったが)私は・・・。
はじめは中絶しようかとも思った。
でも・・・

(この子は良祐の子なのかもしれない)

そう思ったから、絶対にこの子を産んで育てようと思った。
そんなわけで私達は勉強を断念した。
ちなみにこの頃、葉子はバイト先で出会った『里村』という男性と結婚した。

あと由依が部屋の隅で寂しそうに一人黙々と勉強していたのは余談だ。


・・・・・。


受験シーズンが訪れた。
私達のお腹もずいぶん大きくなってきた。
鼓動が、愛しさとして感じられるくらいに。

さて、由依は大学受験に挑戦したわけである。
ちなみにその前日の評価は

郁未「お金無駄にするようなものね。」
葉子「・・・悪いことはいいませんから、止めておいた方がいいと思います。」
晴香「あんたみたいな能天気な頭で受かっちゃうところなんて中学校くらいじゃない?ちょうど貧乳だし。」

と、由依は私達の暖かい声援を受けて試験会場へと出かけていった。
ちなみに

「そんな事ばっかり言って、後悔しますからねぇ!!」

と真っ赤な顔をして叫んでいたような気がするのは気のせいだろう。
結果は、第一志望の某超有名私立大学の理工学部に総代で合格である。
奇跡もいい所である。

郁未「・・由依、いくらなんでもカンニングはいただけないわよ。」
葉子「・・いくらお金を使ったんですか?」

「何でですかぁぁ!!」

でもやっぱり評価は変わらなかった。
でも、私は知っている。由依が誰よりも努力している天才だったことを。
私も由依が頭がいいと言うのは信じられなかったが、何しろ一緒に住んでいるのだ。


・・・・・。


それからまた数ヶ月。
郁未と葉子は三月中に、私だけやや遅れて四月半ばに出産である。
特に言うべきは郁未の子が双子だったことであろう。
『未悠』と『留未』。
『未』という字は郁未の母親の『未夜子』という名前から受け継がれているらしい。
葉子の子は『茜』と名づけられた。
彼女のだんな様が考えたらしい。
目つきから亜麻色の髪から無愛想な所まで母親そっくりで笑いを買ったものだ。
葉子は憮然としていたが。
私の子は・・・どういうわけか生まれつき言語障害を持っていた。
医者が言うには近親同士の子だとこういった障害を持った子が出やすいと言う。
(良祐の子だ・・)
そう思うことにした。
そして『澪』と名づけた。ちなみに由依の命名だ。

「澪ちゃんお母さんですよぉ〜」
「あんたの貧乳見たら人目で嘘だって分かるわよ。」
「晴香さん、貧乳は止めてくださいってばぁ〜」
「どっちかって言うと父親ね。」
「もう・・・」

由依は大学が忙しい割にはしょっちゅう澪達にちょっかいだしに来る。

「自分だけ子供ができなかったしね。晴香も澪ちゃんに取られちゃったから寂しいんじゃないの?」
「・・なんで私が居ないと由依が寂しいのよ」
「晴香ママを澪ちゃんに取られて寂しがってるのよね〜♪」
「・・郁未・・・あんた性格変ったわ・・・。」

由依は入った大学でも類を見ないほどの成績を収めているらしい。
その割に由依が頭悪そうにみえて仕方ないのはやっぱり貧乳だからだろう。(根拠無し)

ちなみに名前からわかるとおり四人とも女の子だった。


・・・・・。


穏やかな日々が過ぎていった。
郁未は双子の世話でてんてこ舞いしていたし(『絶対に結婚はしないからっ!』は本人の談である。)
葉子は『里村葉子』となって幸せそうな日々を送っていた。
私と由依は未だにアパートで一緒に住んでいた。
由依は『遺伝子工学』だとかなんだとかで既に第一人者になるほどになって、かなりの有名人らしい。
貧乳は相変わらずだが。

・・あるいはそれが原因だったのだろう。
FARGOが星の数ほどいる人間達の中から私達を見付けることができたのは。

由依が撃たれた。
撃ったのはFARGOの人間だ。
幸いその時は私がそばにいたから助けることはできたが・・・・。


・・・・・。


深刻な問題だ。
由依がここまで有名人になった以上(なにしろテレビにもちょくちょく出るほどだ)そこから郁未、葉子を見付け出すことなど容易い。
そんな不安の中だった。
一通のE−メールが由依の所に送られてきた。
二重、三重に暗号化され、相当のプロテクトがかかっていたと言う話だが私にはわからない。
そのE−メールの差出人は・・・




『ラグナロク』




・・・・・。


真実を、知った。
何故良祐がFARGOに居たのか。

・・・結局、私のやったことは兄を苦しめ、死に至らせるだけのことだったのだ。

そして、FARGOはまだ残っている・・・


『我々は君の友人『天沢郁未』『里村葉子』『巳間晴香』そして『名倉由依』君自身を『ラグナロク』に迎えたいと思っている』


・・・・・。


「私達の娘の安全と・・・人並みの幸せを」
私達が出した条件はそれだった。
葉子はこの時から旧姓の『鹿沼』を名乗り始める。

『七瀬留美』
『里村茜』
『上月澪』
『沢倉深悠』

こうして私達は愛しい娘達と別れ、『ラグナロク』へ。
泣いた。
四人とも。


・・・・・。


最初は抵抗もあった。
娘達に会えないのも辛かった。
四人、同じ隊に配属されたのが救いだった。
親友よりも深い絆の・・・それはもう家族といえるのかもしれない。



本当にいろいろなことがあって・・・・そして今・・・・ここにいる・・・。



・・・・・。


「・・・」

「・・・」

『通信が可能』

「『ラグナロク』特殊攻撃部隊作戦指揮官『名倉由依』」

『無事だったか』

『FARGOの『セイレーン』は強すぎる』

『最後の希望だ』

「どうすれば・・・」

『一か八かの賭けにでるしか』

『自衛隊の生き残りから』

「FARGO本部施設の所在地!?」

『陽動作戦』

『気づかれる前に叩け』

「由依ウィルスの使用許可を」

『二人分しか』

『成功するのか?』

『鹿沼が倒れ、天沢がいなくなった以上・・・』

「私は賭けます」

『FARGOのこの行動は『アルテミス計画』ということ以外は・・・』

「まだ何か隠しているのかも」

『『セイレーン』は一体しかいないのだ』

『成功しなければ日本はなくなるぞ』

「核ミサイル!?」

『それしかないのだ』

「一週間後?」

『『第二世代の子供達』は』

「天沢未悠以外は能力の確認すら・・・」

「どっちにしろ戦力には・・・」

『期待している』


・・・・・。




「そう・・・FARGOの本拠地がわかったの・・・・」
「ええ・・・。」
「つまりは・・・反撃の時が来たってことね。」

(・・・何にせよ・・これでようやく良祐と郁未と・・・葉子の仇が取れるってことね・・・。)

それに私には失いたくないものもあるから・・・
だから、この『ラグナロク』で戦うんだ。
全ては己自身の為。



<第九話 「間奏『巳間晴香』」 了>
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
晴香「なんか・・・」
由依「変な感じですね・・・川名さんは寿司職人の修行に東回り世界一周の旅に出てしまったし・・・」
う? 一体どうしたのですか、タチの晴香さんとネコの由依さん。
晴香・由依「!! こ・ろ・おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!」
うああ・・・・! 冗談なのに・・!!
ちなみにタチって言うのは女性同士の場合の男役でネコが女役だったはずだあぁぁぁぁぁ・・・・

(ガス!ザク!ボキ!グシャ!グキ!ドガッ!メキ!)

うぐはあああ・・・
晴香「・・死になさい・・・脳味噌ぶちまけてっ!!!!!」
ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!

ぐしゃり。

神凪了死亡。
晴香「・・ふう・・少しは気が済んだわ。SS中で示唆するようなことを書かれていらいらしてたのよ・・・」
由依「私達は決して『百合の人』ではありませんから!」
晴香「じゃあ、感想を書きましょう。」


>静村 幸様
>コンビニに行こうっ!

由依「てりやきならなんでもいいんですねえ・・・繭ちゃん・・」
晴香「そういえば最近いろいろ変わった味のカップ麺が出てるのよね。」
由依「次の標的はやっぱり茜さんでしょうか? おもしろかったです。」
晴香「・・ところで『アルテミス』にいつ出るのかしら・・繭ちゃん」
由依「・・殺す前に聞いておくべきでしたね・・・。」



>幸せのおとしご様
>星に願いを3

由依「七瀬さんがいい味だしてます(笑)七瀬病に爆笑!」
晴香「感想メールありがとうございます! ところで一つ突っ込みを。藤崎竜といったら今は『封神演技』なのでは? いや、神凪はサイコプラスのほうが好きらしいですけど」
由依「うーん・・WORLDS・・どんな話だったんでしょうか? 気になりますねえ・・。」
晴香「短編集、今度探して読んでみますね。」
由依「ちなみに書くペースが早いって言うのは・・・好きでやってるからでしょうね。やっぱり。」



>ニュー偽善者R様
>ONE総里見八猫伝彷徨の章 第四幕

由依「茜の言った『司』はあの『城島司』から取ってるんですよね?」
晴香「あのONEの小説ね。」
由依「それにしてもやたがらすの言った『まとめしもの』・・・」
晴香「続きが楽しみです。それにしても三十七幕も続けてるんですか。すごいの一言です。」
由依「フリーズは・・・怖いですよね・・interQでぽっきり300接続したとたんきれるようなものです・・・。(昨日あった)」



由依「感想はこんなところですね。」
晴香「あ、あと雀バル雀さん、メールありがとうございます。
しかしホントぶっ飛んでますね・・・」
由依「『おねむ』がみさき先輩そのまんまだったり、『おばさん』の配役が椎名華穂だったこととか・・
これだけで笑っちゃいましたよ。」
晴香「これ、新宿TUTAYAにしか置いてないんですか?見たくなっちゃった・・・。」
由依「それと最後の『あなたのファンより・・・・』っていうのがすごくうれしかったです! でももちろん神凪はあなたのファンですよ?
本当はメールを送りたいんですけど・・・」
晴香「何書いていいんだか良く分からないのよね。」
由依「なのでここでお礼を言わせてもらいます!」
晴香「次回は、『アルテミス』より『メサイア』のほうがはやくできそうな予感。」
由依「・・『メサイア』・・やめておけばいいのに・・・。」
晴香「では、この辺で。」
由依「さよぉーならぁー」