アルテミス 投稿者: 神凪 了
第八話 「間奏『巳間良祐』」



二点同時襲撃作戦が終了した日の二十三時頃。


・・・・・。

がしゃぁぁぁぁん・・・・

マグカップが・・・落ち・・砕け散る・・・
コーヒーが床に広がり絨毯に大きな染みを作る・・・
「・・嘘・・ですよね・・・?」
震える声で名倉由依は呟いた。
声が・・・足が・・・震えている・・。
『ラグナロク』内、名倉由依の私室。
その部屋の中の調度品は、あたかもその部屋の主が少女であるかのように可愛いものばかりだ。
ピンクの絨毯、ふかふかのベット・・・
その部屋の中に居心地の悪い静寂が訪れていた。
「・・晴香さん・・・嘘・・ですよね・・・?」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
それが、偽りであることを祈って。
「・・・嘘じゃないわ・・・。」
とても、目を合わせていられない・・
巳間晴香は視線を床に落として声を絞り出した。
「・・そ・・な・・・」
由依は床にへたり込んでしまう・・。
「どうして・・・どうして嘘だって言ってくれないんですかぁっ!」
「わたしだって・・・信じたくないわよ・・・」
視界が・・・滲む・・・涙で・・。
「郁未が死ぬなんて・・・そんな事有り得るはずがないって・・・」
「・・・晴香さん・・郁未さん・・わたしを驚かすつもりなら、もう良いじゃないですか・・・
いい加減出て来てくださいよぉ・・・郁未さん・・・」
「『セイレーン』から・・私達を助けるために犠牲になって・・・うぐっ・・
本当は私が・・・えぐっ・・死ぬべきだったのに・・・」
「どうして死んだんですかああぁぁぁぁぁぁ!!!!
生まれは違っても、死ぬ時は一緒に死ぬって、桃源で誓ったじゃないですかああぁぁぁ!!」
由依は錯乱してわけのわからない事を言っている。
・・桃源の誓い・・。
でも、それを結んだも同然の、強い絆。
「由依・・・・!」
晴香は由依を胸に抱きしめる。
「・・晴香さんっ・・晴香さぁぁぁん・・・」
由依はついに泣き出してしまう。
(・・郁未・・・良祐・・・・仇は取るわよ・・・!! 『セイレーン』は・・私がこの手で殺して見せる・・・!)
晴香は泣き続ける由依を・・・抱きしめていた。
自らの目に涙を溜めたまま・・・。


・・・・・。


FARGO。


「そう。郁未は・・・・死んだんだ・・・。」
『ええ、ほぼ間違いないでしょう。ビルごと吹き飛ばしたようですから・・・。』
「・・・彼女でも止められなかったか・・・。」
『・・どうかされましたか?』
「いや・・・あっけないものだね・・これで僕らの最大の障害は取り除かれてしまったわけだ・・・。」
『・・・。』
「まあ、これでようやく僕らの本当の目的に全力を尽くせるってわけだ。」
『ええ。それで、『ヴァルキリー』の方ですが・・・』
「ん? 何か問題でも起きたのかい?」
『いえ・・MINMESの伸びが悪くなってきてしまって・・・。』
「ふーん。でも焦ることはないよ。気長にいこうじゃないか。」
『わかりました。『アルテミス』の方なのですが・・・』
「・・見つからなかった、だね」
『ええ・・しかし日本にはもう素体がいませんし・・・』
「・・いや・・いるじゃないか。まだ・・・」


言って不敵な笑みを浮かべた。


「『ラグナロク』にさあ・・・」
「しかし、まだ巳間が・・・それに『セイレーン』では・・・」
「・・そのために『巳間良祐』と『高槻』を生き返らせたんだよ?
・・・せいぜい役に立ってもらうさ・・・」


・・・・・。


(十八年・・・世界が変わるには十分な時間だ。
まだ『ラグナロク』は残っているんだろうか・・?)

FARGOの・・・十八年前には無かった、特別棟の医療室。
そのベットの上に巳間良祐は寝かされていた。

(あれは・・・たしか・・・)
俺が、大学生になろうという頃・・・


・・・・・。


『良祐・・・』
『何、父さん。どうかしたの?』


その日は、珍しく明るいうちに父が帰ってきていた。
それに、父と話をするなんて何年ぶりのことだっただろうか・・。


『・・・お前、父さんとアメリカに行かないか?』
『えっ?』


そう、父がアメリカに転勤することになった。
それで俺に付いて来ないか、という話である。
もちろん、ついていくつもりだった。
俺は自分の可能性を試したかったし、このまま大学を出て、そこら辺の平凡な会社に就職するなんていう、典型的日本人の一生を歩む気なんてさらさら無かった。
でも・・・一つ気がかりなこともあった。


『お兄ちゃん・・・』


妹の・・・晴香のことだ・・・。
俺の・・・義理の妹。幼い頃から一緒にいる、義理の妹。
本当の兄妹と言っても差し支えなかったかもしれない。
それだけ仲が良かったし、あらぬ噂をたてられたこともあったぐらいだ。
この時、晴香はまだ中学生だった。


『父さん、晴香も連れて行けないの・・?』
『・・病気の母さんを一人置いていくわけにはいかないだろう・・・』


『なら、何故その病気の母さんを置いてあんたはそんな遠い所へ行ってしまうんだ。』


父は仕事の虫だった。
家族のことを顧みず、仕事だけをしていた。
母さんはずいぶん長い間病床に臥せっていて、家にはいつも俺と晴香の二人きりだった。
晴香と結ばれたい・・・。そんな事を考えたことも何度かある。家の中には俺と晴香しかいないのだし・・・。
・・そしてそんな事を考えるたびに深い後悔の念にとらわれて、自分が嫌になった。


『なら、何故その病気の母さんを置いてあんたはそんな遠い所へ行ってしまうんだ。』


こんなこと、言えた義理じゃない。
結局俺は晴香と病気の母を捨てて、アメリカに行くことにしたのだから。
それだけ、自分の可能性を捨てたくなかったからだ。


『・・すぐに帰ってくるから・・・』
『約束だからね・・・』


しかし、最後までその約束は果たされなかった。
思えば、俺がこんな選択をしなければ晴香はあんな目に合わずにすんだのだ。
そして、もしかしたら母も病死せずにすんだのかもしれない。
俺のこの選択が全てを壊したのだ。


俺は・・・馬鹿だった・・・。


・・そして俺は渡米した。

一年が経ち・・・
二年が経ち・・・
三年が経ち・・・

後で聞いた話だが、この頃に母は病死したらしい。
・・・父は俺には一言も知らせてくれなかった。
いや、父も後になるまでこの事を知らなかったらしい。
何しろ、アメリカにいた時でもこの人と顔を合わせることは滅多になかったので、俺は自分でアルバイトをして、独りで暮らすようになった。
・・・俺も・・一度ぐらい晴香と連絡を取るべきだったのだ・・・。
大学が楽しくて、毎日に一所懸命で日本に残してきた家族のことなど、俺の頭には無かった。


晴香は・・・晴香はずっと一人でいたのだ・・・。


それから数年が経ち、大学を卒業した俺は政府の公的機関で働くことになった。
詳しくは述べないがFBIだとかCIAだとかそんな感じの場所だ。


職業上、晴香と連絡を取るのは困難なことだった。


ある日、俺はその機関の長官に呼び出された。
以下、その概略である。

『巳間君、だね。君の噂は聞いているよ。なんでも大変優秀、だそうだね。』
『光栄です。』
『最近、こういった動きがあるのだよ。』

世界を、今のバランスから崩すことは場合によってはそのまま世界の崩壊を意味する。
そんな時に国という枠にとらわれずに行動ができる部隊。
そんな部隊を作ろう、という話である。
最初は、この人なりのジョークかと思った。


『それで各国から数人づつ、優秀な人材を派遣することになってね。
・・私は君を推薦しようと思うのだよ。巳間良祐君。』
『俺・・ですか・・?』


自慢するわけではないが俺は小中高と学校では常にトップの成績を保持してきた。
それは、ただ晴香にとってかっこいい兄で居たかったというだけの理由・・・だった。
・・そんな事、晴香と自分の将来を秤にかけて自分の将来をとった奴の言うことじゃないか・・・。

・・とにかく、その組織の中でも優秀であろうと勤めていたから長官の目に留まったのかもしれない。



そんなおりに父が病気で急死した。
俺は別に何の感慨もわかなかった。
そして・・俺はこの世界の均衡を維持するための部隊『ラグナロク』に入隊することとなった。
その直後に、晴香から手紙が届いた。父の死がきっかけで、俺と連絡が取れたらしい。

・・・母が死んだこと。そして俺に帰ってきて欲しいという旨が綴られていた。

しかし・・・俺にはもう、それはできなかった。




『FARGO?』
『その組織の正体を突き止めることが、君の最初の仕事だ。』




日本に存在する怪しげな宗教団体『FARGO』。
『不可視の力』という怪しい力をうりにしている。
本物かどうか、それは問わない。どんなことでも戦争の火種になりうるからだ。

そして、俺はその組織に潜入した。

・・数ヶ月で、全貌は見えてきた。
不可視の力は正真正銘本物だった。FARGOはただのいんちき宗教団体ではない。
どのような経路で手に入れたのかは知らないが、銃器などで武装もしていた。この組織は危険だ。
だが、どうしてもこの組織の支配者が見えてこない。
どうしても、この組織の資金源が見えてこない。
それは、大きな問題だった。それを確かめるまで、ここを離れるわけにはいかない。
それに、外部と連絡を取ることも不可能だった。あまりにも閉鎖的すぎるのだ。


・・・その頃だった。どうして俺の居場所がわかったのかはわからない。
晴香が現れたのは。


(・・・・!! くそぉっ!!)


思い出したくもない、悪夢。
妹が、自分の目の前で下衆に犯されているのに、何もできないという無力感。
晴香を助けることは、俺だけでなく、晴香の死も意味する。
『FARGO』の鉄の掟だった。


晴香・・
自分のために・・・陵辱を受け入れた晴香・・。
俺は・・・兄らしいことを何かしてやれたのだろうか・・?


・・・。
この数日間で体がだいぶ動くようになってきた。
明日には歩き回れるようになるだろう。

とにかく・・今、何がどうなっているのか、それを知る事が第一だ・・・。

俺は再び目を閉じ、眠りに落ちていった。




<第八話 「間奏『巳間良祐』」 了>
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長森「えい!」

ごがんっ!

うぐはぁぁぁ・・・何故いきなりにそのフライパンで私を殴り倒そうとするのですかマドモワゼル・・
「え・・?七瀬さんと住井君と天沢さんがここの伝統だって言ってたんだよ」
・・あの野郎ども(怒) それより先輩はどうした!
「川名先輩はかき氷を食べに言って来るってシロップ持って北極に行っちゃったんだもん。」
・・・どんどん人間じゃなくなって行くな・・・。
早く帰ってきてくれ・・・みさき先輩・・そうしないとそのうち殺される・・
「じゃあ、感想だよ?」

>ひさ様
>終わらない休日 第1話・第2話

あれ? 浩平しか出てないや。
長森「そうだね。あと強いて言えば猫、かな?」
ほのぼのしているような、割にシリアスのような・・・?
長森「つかみ所の無い不思議なはなしだよもん。」



>ニュー偽善者R
>いい仕事しまっせ!-5-

いつのまにか七瀬が腕?をあげている・・!
長森「私も負けてられないんだよもん!」
それにしても緒トメさん、一体何者なんだ?
長森「なんで着ぐるみなんだよもん?」
単なる変装のような・・?ここらへんも「乙女着ぐるみ」のバリエーションのようなっていうか乙女は着ぐるみなんか着ないぞ?
そこんとこどうなってるんだ。緒トメさん。



>てやくの
>世界永遠滞在記〜昔話編〜

長森電波使いになるの巻。
長森「違うよ、今暴かれる真相!中崎の正体はストーカーの巻だよ。」
どっちにしてもナイスなギャグだ。昔話だし。
長森「それにしても某Kan○nとMOON.、ONEのクロスオーバーはありなのかだよもん?」
うーん・・画像としては違和感はないんだが・・・このあとがきにも『いる』なんて書かれてるし。
でもやっぱりだめじゃないのか? ここに投稿するのは特に。
そこら辺どう思いますか? てやくのさん。

>『映画部作品=ONE&MOON.〜GS〜』4;br>

GSはゴーストスイーパーですよね?
長森「うーん七瀬さんが『DI○』はいってるんだよもん」
いや、あれはきっとジョル○だろう。
意味不明の台詞がいかしてると思いました。
長森「変なまとめ方したら失礼なんだよもん!」



>WILYOU様
>空白(1)

おお、こういう書き方もありなんですね。
長森「浩平の代わりにしては頭が良すぎるもん」
重めの話だけどちょくちょく笑えるネタ(加速装置とかロケットパンチとか)があってやっぱり面白い!
何でも作ってしまう住井君に乾杯!
長森「続きが楽しみだよ。きっと海でとんでもないことやらかすんだよもん」



>いけだもの様
>めざまし

うああ・・・・・
長森「解説しておくとあまりの内容に思わず全身むずがゆくなってのた打ち回っているんだよもん。」
流石、いけだものさん・・・リーフ図書館にあった作品もみて、こういった話を書かせたら超一流だと思いましたよ、ほんと。
長森「ぜひぜひ、次回作期待してるんだよもん」



>雀バル雀様
>一窮さん そのニ

長森が死んだ!? そんな馬鹿な! なんてことを!
長森「自分のSSで天沢さん殺した奴の台詞じゃないんだよもん。」
う・・それを言われると・・
しかし今回ホント悪人ですね・・浩平もとい一窮、果たして彼は自分の犯した罪から逃れられるのか!? こんな時こそ屁理屈だ! 失敗したら茜、じきじきに手打ちにされること間違い無しだー!
長森「それと感想ありがとうございますだよもん。それに『あのこと』も・・・。」
本当にすみません・・『メサイア』自体朦朧とした頭で書いていたのでバグってますが・・・
あんな間違いを犯してしまうとは!神凪 了一生の不覚!
長森「ちなみに『アルテミス』はこの後数回『間奏』が続いてからメインの『最悪のシナリオ(仮)』という話になる予定だよもん。」
『茜草記』『一窮さん』続きを楽しみにしてます!

PS ごめんなさい、ウテナわからないです(汗)



>千乃幸様
>刻は流れて 〜相反季節〜

きれいにまとまってるなぁー
長森「短く、上手くまとめてあるんだよもん。ぜんぜん手抜きなんかじゃないもん。」
あと二作限りなんですか・・・残念だなあ・・
長森「期待して待ってますだよもん。」


>変身動物ポン太様
>輝け!第一回男子人気投票!(その7)

うーん、シュンがトップなのはともかく・・
長森「沢口と南君って別人だったのかだよもん。」
住井もツボついてくるし・・おもしろかったです。
長森「七瀬さんの髪型を気づかれぬよう斬新にするなんてすごいんだよもん。」
第一回ってことは第二回人気投票もやるんでしょうか? 楽しみにしてます。



感想はこのぐらい・・かな?
長森「じゃあさよならなんだもん。」

ごがん!!!

(フライパンで神凪を殴り倒す長森)


またオチ無し。