アルテミス 投稿者: 神凪 了
第六話 「間奏『黒の衝動』」


・・・・・。


それはもう午前一時だった。
FARGOにて『少年』とよばれる人物から連絡が入る。


『何でしょう』
「『セイレーン』をサンシャイン60に向かわせてくれ。彼女たちが現れたらしい。」
『・・それは構いませんが・・・彼女が従うでしょうか・・?』
「・・・彼女は『なる』ことを拒んでいるようだから・・・薬を投与するのを止めるって言えばきっと言うことを聞いてくれるはずだよ・・・。」
『はぁ・・・ではそのようにします。』

「・・果たして生きていられるかな・・・・郁未・・・。
この程度で死んでしまうのなら・・・僕らの勝ちだよ・・・。」



・・・・・。


同時刻『ラグナロク』。


第二世代の子供達、一人一人に宛がわれた部屋。

(・・・精神の鍛練って・・・・難しいのね・・・。)
七瀬留美はそんな事を考えながらベットに入って天井を見ていた。
無機質な白い天井が闇に浮かび上がる。
まだ心にMINMES2で感じたわだかまりが残っていて、どうしても暗い気分になる。
(・・本当に・・私に力があるのかな・・・。)
顔の前に、手のひらを持ってきて、握ってみる。
どうってことのない、見なれた自分の手。
突然何か変わったりすることはない。
(・・でも・・・)
知っていた。高校生になってしばらくして言われた。

『私達はお前の本当の両親じゃないんだ』

ショックだった。
世界そのものに裏切られた気がした。
学校にも、行かなくなった。
(何で・・・・父さんと母さんはそんな事を私に言ったんだろ・・・。)
今でもわからない。
言う必要があったのだろうか?
何か・・・理由があったのだろうか?
(それで、私は何かを変えようと転校して・・・)
住井君に、折原に、瑞佳に出会った。
一緒にいるだけで、楽しかった。
住井君も折原もろくなことしなかったけど・・・。

(天沢・・・郁未・・・私の・・・本当の・・・)

だめだ・・・。
認めてはいけない。
それをしてしまったら、本当に私の両親が嘘になってしまう。
・・・。
腰を触ってみる。別に、痛みなんて物はない。
剣道の試合中に痛めた腰。剣道はもう無理だといわれた。
・・・。
・・この一週間で私のまわりは大きく変わってしまった・・。
それが当たり前で・・・今はあまりにも遠くなってしまった日常。
全てが懐かしい。
住井君の下らない冗談も、折原の度を越した悪ふざけも、瑞佳との何気ないやり取りも。

(そういえば・・・住井君達、どうしてるんだろ・・・。)

もう一週間会ってない。

(もう寝ちゃったのかな・・・。)

腕時計を見る。
一時。

(会いたいな・・・。会って、みんなで騒ぎたいな・・・。)



・・・・・。


サンシャイン60。
東京の名所としては影の薄い方だろうか?
どうしても浅草や東京タワー、あるいは秋葉原や新宿に押されてしまう。
午前、一時。
作戦開始から移動時間も含めて八時間が経過している。
天沢郁未から連絡を受けて、巳間晴香らはここに来ていた。

「それで、俺達はここで何をするんですか?」
住井の声。
「退路の確保、よ。作戦が終了したら、そこの・・・」
いいながら傍のマンホールを指差す。
「マンホールに入り、下水道から撤退するわ。そのさい、敵の攻撃がないとも限らない。」
「その敵を倒す・・・と。」
「それに、中から逃げてくる者もね。電話などで連絡ができない以上、敵は直接援軍を呼びに行くしかないはずよ。」
先のミサイル攻撃によってこの東京都内には電気も通ってないし、電話も使えないのだ。
「了解しました、巳間隊長・・!」
わざわざ敬礼して見せる住井。相変わらず変な奴である。
「じゃあ、チームごとに散開して敵が現れないか見張っていて。」
『了解』
俺は住井、南とともに手ごろな瓦礫の影に隠れる。


ちょんちょん。
(折原・・・)
ひそひそ声で話し掛けてくる住井。
こんな時でもお喋りを始めようとする住井はすごい奴である。
(何だ住井。)
(さすがに、眠いな・・・。)
言って腕時計を見せる。
時計の短針は一時をさしていた。
(ああ・・でもこれが終わったら帰れるんだろ? がんばろうぜ。)
(ああ・・・)
(でも、)
南も話に入ってくる。
他の連中が目を血走らせて周囲を警戒しているのに俺達はすごい奴等かもしれない。
(東京タワーにいたの、確か俺達が二年の時に演劇部の部長やってた深山先輩だよな・・・。)
(うん、間違いないぞ。何度か面識があるからな。)
(折原、お前何処でどうやって知り合ったんだよ・・)
(そうだぞ。長森さんという人がいながら茜さんや七瀬さんに手を出したり、そうかと思えば後輩の演劇部の子に手を出したり、挙げ句の果てに先輩にも手を出していたのか、お前は。)
(誤解を招くようなことを言うんじゃない。)
(違うのか?)
(断じて違うわ!)
今の俺は瑞佳ひとすじだ。
もっとも、浮気してもきっとあいつは俺を許しちまうんだろうけど・・・。
(それで・・・どうやって知り合ったんだって・・?)
(それはな・・・屋上でみさき先輩が・・・)
あの盲目の先輩を思い出す。
(・・・誰だ・・みさき先輩ってのは。)
(こいつ、繭ちゃんも合わせると七股もかけてやがったのか・・・。)
ちなみにこの南の言った七股は『七瀬』『茜』『瑞佳』『みさき先輩』『澪』『繭』『深山先輩』である。
(だから違うって言ってんだろ・・・!)
・・こいつらは・・!
(住井、長森さんにチクろう。彼女の目を覚まさせてやった方がいいに決まってる。)
(全くだ。何でこんな奴に惚れたんだろうな・・・長森さん・・。)
銃口の先を住井に向ける。
(おまえら・・・撃つぞ?)
(わかったわかった・・・だから銃口をこっちに向けるんじゃない。)
住井が両手を挙げて『降参』のポーズを取る。
(それでみさき先輩ってのは誰だ?)
(ほら・・・いただろ・・? 去年の三年に全盲の先輩が・・・。)
(おお、あのおしとやかそうな美人か。一度お近付きになりたいと思っていたんだ。)
(南・・・そんなんだから里村さんに嫌われるんだぞ・・・。)
(何を言う。あれは彼女なりの愛情表現に違いない!きっと照れているだけだ!)

・・・それは絶対違うと思うぞ、南。

(あ〜、馬鹿はほっといて・・・)
(お前だって七瀬さんに相手にされてないじゃないか!)
(うくっ・・だがお前みたいに無視されているわけじゃない!)
(なにぃっ!?)
・・? 住井と七瀬? 意外な組み合わせだ。
一年も留守にしてると今更ながら驚くことだらけだ。
(おまえ・・・そうだったのか?)
(ふふふ、驚いたか折原。言っとくが、彼女には内緒だからな。)
いや・・勝ち誇られても・・。
(・・・畜生・・・何故だ・・何故俺だけが・・・狂ってる・・・世界が狂ってるぞぉぉぉぉぉ!!!)
(馬鹿、叫ぶな!巳間隊長にどやされるぞ!)
・・ちなみに巳間晴香は彼らがお喋りを始めた頃からずっと睨んでいたのだが・・・。
よくも三人鈍感がそろったものだ。
(あ・・・すまねぇ。)
慌てて口を手で押さえる南。もう遅いって。

・・・みさき先輩・・・か・・・。
そういえば、先輩も、椎名も、柚木も無事だろうか・・?

まだお喋りを続ける住井と南を横目に、暗く、深いみさき先輩の目のような闇夜を見上げて。
そんな事を思った。



・・・・・。



部屋に、黒服の男・・・FARGOの人間が入ってくる。
『命令だ。』
「・・・はい・・」
命令・・・。

また、戦うのか?
また、人を殺すのか?
もう、嫌だ。
・・・そうすればきっと・・・

《ねぇ・・・》
・・・。
《自分の本能に正直になろうよ》
・・・駄目・・。
《血が、見たいでしょう?》
・・・そんなことは・・ないよ・・。
《人間を切り裂いて、断末魔の声を奏でさせたいでしょう?》
・・・そんなことは・・ないよ・・・。
《それは、嘘》
・・・本当だよ・・・。
《だって。》



ドクン。
う・・・


ドクン。ドクン。
うぁ・・・

ドクン。ドクン。ドクン。
嫌・・・だよ・・・

《だんだん、間隔が短くなるよ。》
嫌・・・
《だんだん、自分の本性が見えてくるよ。》
そんなこと・・・
《だんだん、悦びになるよ。》
・・・・
《人を、殺すこと。》
・・・抗って・・・みせるよ・・・!
《・・ずいぶん苦しそうだよ?》
・・・!
《ふふっ・・・時間の・・・問題だね・・・。》

ドクン。


「だ・・・だめぇぇっ!」


胸が・・・
かきむしっても・・・


『おい、誰か抑制剤をもってこい!』


どんなに押さえつけても・・・


『早くしろっ!』



ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


ドクン。


『ひっ!』


ざしゅっ。
ざしゅっざしゅっ。
ざしゅっざしゅっざしゅっ。
ざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっ。

・・地面に押し倒して腹を切りサいて腸をヒきズりだしてきりさイテやっていもジンぞうもなにもかもひきずりだしてやってきりさいてきりさイテキリサイテナキワめき、きがクルッテわライダすえもののすがたをみてヨロコビをカんじてふきだすチノあたたかサによいしれて・・・・



・・かわっていくよ・・わたし・・・
絶望が・・・見えた・・・。



・・・・・。



『『セイレーン』はロスト体ではないのですか?』
「違うよ。『彼女』が受け入れてくれないから・・・。暴れて見せているだけ。割と温厚なんだよ。本当はね。」
『しかし、これでもう三十人になります・・・。』
「僕は別に多いとは思わないな。僕としてはその十倍はいくとふんでたんだけど・・・。」
『はあ・・・』
「彼女はもう出撃した?」
『はい・・・抑制剤を打って、十分ほど前に・・。』
「そろそろ着く頃かな? ・・・『ヴァルキリー』『アルテミス』のほうはどうなってる?」
『『ヴァルキリー』の試験体、A−43はMINMES値が現在2302を示しています。
・・・『アルテミス』にふさわしい個体はまだ見つかっていません。』
「・・・ふぅん・・。ありがとう。」
『それと・・・あちらのほうは成功しました。』
「えっ? 二人とも?」
『はい。』
「・・そう。わかった。高槻には監視をつけておいてくれ。巳間は動けるようになったら監視をつけてA棟MINMESの操作を担当させるように。」
『え・・しかし巳間は・・』
「人手不足だからね。彼は優秀だし。それに他の棟の担当は、それこそ死んでもやらないと思うよ?
彼は・・昔から精練を嫌悪していたから・・・。どっちかって言うと、高槻の方が厄介だよ。
・・それに・・必要無くなるかもしれないしね・・二人とも」
『・・・ではそのように伝えておきます』
「ごくろうさま。『セイレーン』の結果報告よろしく。」



・・・・・。


「・・ん? なんだ・・? ずいぶんでかい流れ星だな・・・。」

同じ頃に『ラグナロク』秘密基地の周辺の見張りをしていた志願兵の一人が、東京の方へ向かって落ちてゆく流れ星を見た。
しかし、彼にはそれが何なのか・・・わかるはずが無かったのである。



<第六話 「間奏『黒の衝動』」 了>

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詩子「何か今回短いんだね。」
そりゃあ、「間奏」ってだけだからな、みさき先ぱ・・・・・
詩子「どうしたの?」
柚木詩子ではないか。何故お前がここに居る。俺の(別にお前のじゃない。)先輩を返せ!
詩子「私がここに居るのは川名さんの代役。なんでも本場の中華を味わいに○シア連邦にいくっていってたよ。」
・・何か今のお前の発言に不適当なものがいくつかあったような・・?
詩子「気のせい気のせい。さあ、ちゃっちゃと感想いくよ?」
・・? ちょっと待て! 面識のないお前が何故みさき先輩を知ってて、そのうえロ○ア連邦に中華を食べに行くんだ!
詩子「・・・そこまでばれちゃあしょうがねえ・・。」
な、何だその不適な、じゃない不敵な笑いは。
詩子「先生!お願いします!」
七瀬「・・滅殺!」

(ドゴ、バシ、ズガ、ベキ、バキ、グガッ、)

七瀬「私達の出番少なすぎるのよぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!」
ぐはぁぁぁぁぁぁっぁ! すみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんん!!!!

(乙女の)旬獄殺により神凪死亡。

詩子「じゃあ、感想行こうか?」


>まねき猫様
>雨の日の思い出


詩子「確かに折原なら斬新な視点で雨を語りそうだけど・・・」
七瀬「多分折原の人生が狂い始めた父親の葬式の時に雨が降っていたのが原因じゃない?
澪ちゃんとの約束も破ることになったしね。」
詩子「そこら辺の話をそこの馬鹿(神凪)に書かせようか?」
茜「無理です」


>静村 幸様
>夜想曲



七瀬「うーん、住井君って、案外女の子に優しそうだもんねえ・・・。」
詩子「でも茜は私のものだから・・・」
茜「嫌です」
七瀬「・・・えっ?」
詩子「ぼろアパートに一人暮らしをしているわりに土鍋を持っているとはおそるべし、ね。」
七瀬「この住井君も折原と同じように『過去』を背負って生きてるのかしら・・・。」



>雀バル雀様
>一窮さん その一


七瀬「雀バル雀さん、上手い!(笑)でもなんであたしが和尚なのよ!」
詩子「タイトルが『一窮さん、大地に立つ!の巻』なのも笑いを誘うし、ほんとそこの死に損ない(神凪)にはかけらもないセンスがあるよねぇ・・。頭が上がりません。」
七瀬「でもホント里村さんってどのSSでも妖怪よね・・。」
茜「・・嫌です」
詩子「ああ、あんな茜もす・て・き☆」
七瀬「・・・・・・・・・・・。
柚木さん?」
詩子「きっと次回は『この橋渡るな』ね!一窮さんも楽しみだわ!」
七瀬「あと、感想書いてくださってありがとうございます。そこの生ごみ(神凪)が『雀バル雀さん、こっちこそあなたの作品には裸足でとほほ・・です』なんていってました。」
詩子「それにしてもやっぱりみんな『アルテミス』が月と狩の女神だってのは知ってるんだね。」
七瀬「有名だから。」



七瀬「ええと・・今回はこのぐらい、かな?」
詩子「・・・ん? こんなところにメモが・・・どれどれ・・
『・・天沢郁未って、郁美じゃないんですよね・・・。』・・・。」

びゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー・・・

詩子「・・・間違え・・てたのかな・・。」
七瀬「・・・多分。」


(そのまま、フェードアウト)