アルテミス 投稿者: 神凪 了
第四話 「遭遇(前)」



・・・・・。



結界をはるには条件があるという。
一つ目は、結界の大きさに比例する人数。
もう一つは・・・高い場所。
そう、東京タワー。
333メートルの高さを誇る鉄塔。
東京の観光地の一つ。
その東京のシンボルの一つから灯火が消えて一週間になる。
夜になると東京の町は暗闇に包まれるわけだ。
その夜の闇の中に巳間晴香以下志願兵の半数近く十九人が集結していた。
天沢郁未と残りの志願兵はもう一つの襲撃場所、サンシャイン60に向かっている。
「準備はいい?」
巳間隊長(立場上、こう呼ぶことにする)の声に、全員が無言で頷いた。
「・・散って・・!」
三人ずつのグループに分かれてタワーの入り口を取り囲む。
敵を捜して・・奇襲をかける。
俺達三人もそこらへんの瓦礫の影に隠れて様子を伺う。
・・・。
住井が瓦礫の端から顔を出してナイトスコープ・・・まあ、暗視が可能なゴーグルみたいな物か。で敵を捜す。
これと拳銃と予備の弾薬、都市迷彩の服、三人に一つトランシーバー、それにトーチ(懐中電灯)。
ずいぶんと軽装だが、その点は不可視の力でバックアップしてもらえるので問題無い。

・・・・・・?

(・・誰も、いないぞ?折原・・)
(・・そんなはずはないだろう。住井、もっとよく見てみろ)
(うーん・・・)
ナイトスコープを覗く住井。
(・・・あっ!!)
その住井が小さく声を上げる。
(なんだ!?見せてみろ!)
(あれは・・・)
住井の指差した先には・・・

・・・死体!?

FARGOの、黒い服を着た、首の・・・ない・・死体・・・
(巳間隊長!)
トランシーバーに向かって、呼びかける。
(どうしたのよ、作戦行動中よ・・)
(様子が・・・変です・・!!)
(何が・・・)
隊長が、絶句する。
よくみれば、わかった。

死体死体死体・・・。

およそ二十人ほどの首無死体・・・。
(・・これはっ・・・!!!)
(いったいどうしたんでしょう・・・。)
少しの間、考えて、
(突入するわ。あなた達、着いて来てバックアップお願い。それと他の者はこの場で待機。FARGOの人間を確認したら攻撃して。)
俺達だけ・・・というのはおそらく小人数の方が俺達の面倒を見やすいからなのだろう。ろくな訓練も受けていない新兵だからな。
それにこれが罠で、FARGOに包囲されると言う状況も予想して他の物はこの場で待機、ということらしい。
いろいろ考えてるもんだ。伊達に極秘部隊の隊員じゃないな。
(・・了解。・・行くぞ、南、住井)
二人に声をかけ、動き出す。
障害物づたいに、タワーの入り口に近づく。
「・・・死体だわ・・・。」
そこにも数人分の死体が転がっていた。
全て、首を吹き飛ばされ一撃で倒されていた。
「・・まだ、暖かいぞ・・。」
死体に触れてみる。
生暖かい。死後硬直という奴も始まっていない。
「折原、気持ち悪いことするなよ・・。」
南から非難の声が上がるが気にしない。
そんな事を言っている時でもないし・・。
「もしかして、俺達より先に襲撃をかけた奴が・・・」
住井が隊長に呟く。
「可能性は高いわ・・・。問題はそいつが敵か味方かすらわからない事よ。」
「どうします?」
「・・・行くわ。あなた達は援護を、ただし、私に何かあったらかまわず撤退して頂戴。」

電気は止められているので、当然階段で登る事になる。
もっとも、止められていなくてもエレべーター何ぞで行くのは自殺行為だが。
目指すは展望室だ。

「・・・ここにも・・・。」
階段の登り口に、首無死体。
壁まで鮮血が飛び散り、鮮やかな華を描いていた。
胃の内容物が逆流しそうになる。
「FARGOに敵対していて、それで『ラグナロク』でない人間・・・。一体・・・。」
巳間隊長の声。俺達に聞かせるためではないだろう。
あとで聞いた話、天沢さんと巳間隊長は『不可視の力』を会得しているらしい。
『不可視の力』ならこのぐらいのことはできるそうだが、隊長の口振りからすると心当たりがないようだ。
「・・それじゃいくわよ。」
隊長の合図で、俺達は階段をゆっくりと登りだした。



・・・・・。



一方、『ラグナロク』。
そのさらに奥にある、特別訓練室。
そして、MINMES 2。
第二世代の子供達、七瀬留美、里村茜、上月澪、天沢未悠はここで精神の鍛練を行っていた。





一週間前のある日。
そう、それは志願兵を募った日のこと。
里村茜、七瀬留美、上月澪は天沢郁未に呼び出された。

「私達に何の用?」
割に不服そうな声で七瀬が言う。
三人の前に立っているのは天沢郁未一人。
「・・・あなたたちに言わなくてはならないことがあるわ。」
「・・・それは私達が普通の人間ではないと言うことですか?」
突然、茜が喋り出す。無口な彼女の口から出たのは、その場の三人が予想のしていなかった言葉。
もっとも、その予想は郁未と澪・七瀬では違いがあったが。
「・・!!」
目を見開く郁未。
「里村さん!?」
「・・何でそれを・・。」
恐る恐ると言った感じで郁未の口から言葉が紡ぎだされる。
「・・・うすうす気づいていましたから・・。私の母、里村葉子のことも・・・。」
むしろ、悲しげな声。
「・・・それなら話は早いわ。」
かきかき。
澪がスケッチブックを取り出しサインペンで文字を書き始める。
『いったい何を言ってるの』
「・・・FARGOの『不可視の力』についての説明は受けてるのね?」
「・・手も触れないで煉瓦を吹き飛ばしたりする力のこと? あんなものあるわけないじゃない。」
「・・・・・七瀬さん。」
茜の感情のこもらない、抑揚のないいつもの声。しかし、それにはどこか非難めいた感じがした。
郁未は表情一つ変えずに言ってのけた。
「違うわ。あるのよ。」
そう、確かに言った。
直後、金色の光が見えた。
「うあ!?」
七瀬のうめき声。
茜と澪が目をやると七瀬が・・・浮いていた。
地上三メートルの高さに。
「・・七瀬さん。」
『いったい、何なの!?』
「これが、『力』よ・・・。」


・・・・・。


「私達第一世代はね、所詮人間の拙い精神力で自らの中に取り込んだ『魔物』を使役しているに過ぎない。
私・・・天沢郁未でもせいぜいが障壁だとか、『力』の固まりを生み出せるだけ。
でも・・・あなた達は違う。あなた達は人間と・・・魔物のハーフ。ドッペル化、つまり自分の取り込んだものに『切り替わらず』に力を自由に使えるはず。
そして、あなた達はその力に気づいてもいない。その力を引き出すためには肉体ではなく精神の鍛練を行うのが最も効果的だとされているわ。」
「・・・精神の鍛練というのはどんなことを行えばいいんですか?」
「拷問とか、そういうことをやるわけ? 冗談じゃないわね。」
「いえ・・この機械に『四人で』入ってもらうだけよ。」
「もう一人は・・・天沢未悠ね・・・。」
「留美・・・」
「なれなれしく呼ばないでよ!!」
「・・・。」
『何をする機械なの』
「精神を人工的に強化する機械・・・。」
「・・・それでは説明になっていません。そうではなくて、この中で私達が何をするのか、という事だと思います」
「・・夢。」
『夢?』
「夢を、見てもらうわ。」


・・・・・。


暗く、あまり広くない部屋。
床に描かれたペンタグラムが青い光を放っている。このMINMES2の中の光源はそこだけのようだ。
その中に七瀬、茜、澪、未悠の姿が青白く浮かび上がる。、
『全員、そのベットに横になってくださぁい。』
由依の、間延びした声がスピーカーから届く。
「あんまり柔らかそうじゃないわね・・。」
七瀬が不服を漏らす。
「・・・訓練ですから・・・。」
「MINMES・・か・・あんまり気分のいいもんじゃないね。」
かきかき。
『未悠さん、やった事があるの?』
スケッチブックを掲げる澪。
「一度・・・母さん達といっしょにね。」
母さん、と聞いて七瀬が嫌悪の表情を露にする。
「・・・どういうものなんですか・・・?」
相変わらず無表情の茜。
「やってみればわかるよ。よっ・・と。」
未悠がベットに横たわる。
それにならって茜、澪、七瀬も三人も横になった。
『じゃあ、眼を閉じてくださぁい』
ゆっくりと、目を閉じる。

・・・ぐぅうぉん・・・ぐぅうぉん・・・

なにか・・・深い闇へと落ちてゆく感触・・。

(里村さん)(七瀬さん)

精神が交わる。

(未悠さん)(澪ちゃん)

魂が、交錯する。

そして・・・・。
魂の研磨が始まった。



MINMES2:設定:精神深度:1:時間:四時間
:人数:四名:管理者:名倉由依
:PASSWORD:**********:[ENTER]

・・・深度1:四時間:四人:管理者:名倉由依:

・・・パスワード確認・・・

確認完了:MINMES2を起動します

NOWLOADING・・・・完了



・・・七瀬留美は空き地の真ん中に立っていた。
雑草が生い茂り、誰も近寄ろうとしない空き地で雨の中、傘をさして一人で佇んでいた。
・・・私・・・なんで・・・こんな所にいるんだろう・・・。
『あいつを待つため』
・・そうだ・・・ずっと待ってるんだ・・・あの日からずっと・・・
『雨が降るたびに。』
・・あいつは・・・帰ってくるなんて、一言も言ってくれなかった・・・
『そう・・・無意味・・・でも』
・・・誰か・・・私を止めて・・あいつは帰ってこないって・・お前は振られたんだって・・・
・・・誰か・・・。



・・・里村茜は、部活中の体育館にいた。
皆が練習している中、部長として指示を出していた。
・・・非難の視線・・・何故?
『・・もう剣道ができないくせに・・・。』
・・・そうだ・・・私は怪我をして・・・
『なんであいつが部長なのよ・・・』
・・去年の部長に進められて・・・それで。
『辞めちゃえばいいのに。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
辛い・・・ここにいるのが辛い・・・。



・・・上月澪は休み時間の教室にいた。
窓際の席に、一人で座っていた。
・・・なんでみんなそんな目で私を見るの・・・
『ねえ・・・あの子だよ・・・』
・・・なんでそんな奇異の視線で私を見るの・・・
『へぇ・・・あの子なんだ・・・』
・・・どうしてこれ以上私を苦しめようとするの・・・
『あの子に触るとうつっちゃうよ・・へんなのが』
どうして、私から逃げようとするの・・・
・・どうして・・・。


・・・天沢未悠は午後の公園にいた。
約束の一週間の過ぎたあの日から、何日もここに来て、待ち続けていた。
・・・来ない・・・
『私の事忘れちゃったの』
・・・返せないよ・・・
『約束なの』
・・・どうして・・・
『信じてるの』
そう・・・信じてるから・・・
・・・ずっと・・・。


・・・・・。


・・・何・・・なんだか・・・とても嫌な事があったみたい・・・
まるで、あの頃みたいな・・・。

・・・胸の奥が痛い・・・。
この感覚は・・・。

・・・いったいなんなの。
この、酷く嫌な感覚・・。

・・・辛い・・・けど・・・
あの時ほどじゃない・・だけど・・・やっぱり・・辛い・・・。


四人が同時に目を開ける。

『これで今日の所は訓練終了ですぅ。出て来てかまいませんよぉ』
あいかわらず間延びした声。
それを聞いても、四人はしばらく動けずにいた。
「なんか・・・悪夢を見た後のような感触だわ・・。」
「・・・私もです。」
『同じなの』
「・・・。」
・・四人はしばらくそこを動けなかった。


・・・・・。


東京タワー、その上部にある展望室。
三百段を超す階段を上がって入り口まで来た。
半ば崩れかけてはいるが、確かに、人の気配と・・・
「・・・ぅ・・・・ぃ・・」
時折、悲鳴と、
ぐしゃっ、という何かが潰れる嫌な音が・・・聞こえた・・・。
(・・・いるわ・・突撃するわよ・・・)
押し殺した声で隊長が告げる。
(ええ・・・。)
俺は後ろを振り返って、住井と南に言う。
(いいか、隊長が合図したら突撃する。俺は正面、住井は右、南は左、だ。いいか!?)
(了解!)
そろってうなずく。
(いい!? 行くわよ!?)
と、同時に

ばんっ!

扉を蹴破る!
俺達はなだれ込み、銃を構える。
だが展望室にあったのは月の弱い光に照らされ映し出されたおびただしい数の死体死体死体・・・
「・・うぐっ・・」
南はおもわず吐き気を催す。無理もない。俺も、住井も吐きそうなんだから・・・。
ふと、隊長の方を見ると、何事も無かったかのように、平然としている。まあ、厳しい表情だが気持ち悪いと言った様子は微塵もない。
・・くぐってきてる修羅場が違うのか・・?どうして大丈夫なんだ・・。
しかし、そんな事よりも・・・。

・・・めきっ・・・
「ぐぎゃあぁっ!」
「早く答えなさい・・・。でないと・・・。」

円形になっている展望室の反対側から奇妙な声が聞こえる。


・・・ぐきり・・ごきっ
聞きなれない音。そして悲鳴。
「・・っ・・うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「力の加減を誤ったわ。腕がもげてしまったみたい。」

どすっ

何か重い物が床に落ちた音。
そこには・・・俺達から少し離れたそこには・・・何か、赤い液体にまみれた・・

・・・人間の腕

「ぅっ・・・うげーーーーーぇっ・・・!!」
南は既に吐いていた。住井も限界に来ているらしく、極力下を見ないようにしている。
俺も気を抜いたら胃の中の物全てを出してしまいそうだ。
と、驚いたような声。女性の、声。
「あら・・?」
・・・気づかれた!?
緊張で身を堅くする。。
「・・・まだお仲間がいるの・・・。なら、そちらに聞くわ。じゃあ、」
「ひ・・・た・・・助けてくれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっっ!!!!!!」
「さようなら・・・」
ぐしゃり。
何かが潰れたような、聞きなれない音。

コツコツコツ・・・

足音が・・・近づいてくる・・・。
「・・構えて・・!」
巳間隊長の押し殺した声。
俺達は黙って銃を構え直す。


そして、月明かりに照らし出されたその人は・・・。


<第四話 「遭遇(前)」 了>
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みさき「変な所できれてるね。」
はぁ・・続きは一応書き上がってるんですけど・・・700行超してしまってたんで二つに分けました。明日明後日当たりに書き込みします。
みさき「interQ接続なのにそんなに何時間もやってていいの?」
うう・・・電話代が・・・。
みさき「ほら泣いてないで。それにしてもあいかわらず状況描写下手だね。」
・・・すみません。修行します。
みさき「そういえば第一話の評判がショック受ける程よくてこれ発表しようかどうか迷ったんだよね。」
・・ええ。皆様がとりあえず感想書いてくれたらいいな〜なんて思ってたら『面白いです』いってくれる人多くて、プレッシャ〜受けちゃって。
みさき「ところで前回の三話で伏線張りまくってたけど・・・大丈夫?」
ええと・・・このお話はラストシーンから展開して書いたんだけど・・・
そのラストシーンだと長森のファンの人に殺されそうで・・・。
みさき「一体どういうラストなんだよ〜」
できれば皆様に深読みしまくっていただけるとうれしいです。
みさき「じゃあ、感想を書くんでしょ?」
あ・・ええと、苦情も来ていないようなので感想を書かせていただきます。


>WILYOU 様
>さわやかな朝だねっ


はじめまして。ずっと前からファンでした。
感想は・・・『やるな、長森!』でしょう。
あと皿回しをしている繭は一体・・? っていうか皿回しできるのか!? 繭!
みさき「わたしは綱渡りならできるよ〜」
・・・ほんとか?


>GOMIMUSI様
>D.S act1.2.


おもしろい・・・ここまでONEをアレンジできるなんて凄い。
DSの略は・・・DARK SERVANTとか有りそうだなぁ・・。
みさき「うかつな事言ってると、またはじかくよ?」
だまらっしゃい。次のキャラの登場が楽しみです。


>パル様
>貴方のための贈り物


ホワイトデーか。ほのぼのしてていいなあ・・・。
みさき先輩はバレンタインに何をあげたんだろう・・。
ミルクチョコレート10kgとかかな?(笑)
みさき「そんなにあげてないよ〜。ビターチョコ7kgだよ〜
浩平君喜んでたんだから。」
・・・。


>ニュー偽善者R
>いい仕事しまっせ!乙女鑑定人-4-


長森大胆!負けるな七瀬!
次回は十八禁だ〜(爆
みさき「変な事言わないの!」
失礼。
でも、乙女の条件に年齢は入らないのか?緒トメさん。
ところで『告知』の意味がよく分からないのですが・・・?
これはオリジナルキャラクターの設定とかを考えると言うことですか?


>雀バル雀様
>由起子・・・・その愛


浩平・・毎日こんなノリなのか・・。
3ヤードとかよくネタが尽きないもんだ・・。
ONE、七人目のキャラは実は由起子さんだったのか(笑
GO!GO!


こんなところです。感想をくださった皆様、ありがとうございました。
あとMOON.の四人は一応対等の関係・・ですが『ラグナロク』では

由依(作戦指揮ようするに司令)、郁未(部隊長)、葉子(副隊長)、晴香(隊員)
の順に偉いことになっています。
でもその権力を振りかざすことは四人とも嫌いなので滅多にしません。

みさき「へぇ〜。
・・ところで、私はどうなったの?」
無言で目を合わせない神凪。
みさき「雪ちゃんも柚木さんも居なくなっちゃったし・・・。」
無言で死んだふりをする神凪。
みさき「もしかして出番決まってないの私だけ?」
無言で部屋から出ていく神凪。
みさき「・・ひどいよ〜」