アルテミス 投稿者: 神凪 了
第三話 「間奏『それはゆっくりと動き出す』」


・・・・・。


夜が、明けた。

志願兵総勢、五十二人。
俺、折原浩平は昨夜、瑞佳・・・自らの愛しい人のために戦うことを決意した。
そして、ここに立っているわけだ。その話はおいおいしよう。
住井、南の姿もみえる。俺達はいま、何処かの部屋のドアの前で整列していた。
「志願してくれたあなたたちに感謝するわ。それで、これから訓練を行うわけだけど、その前に自己紹介をしておくわ。私は『ラグナロク』特殊攻撃隊隊長 天沢郁未。」
蒼い髪のストレートヘアーの女性がそう告げる。
・・天沢郁未さんか・・・。それにしてもずいぶん若い人だな・・・。俺達と同じくらいじゃないのか?
見た感じ、本当に高校生ぐらいだ。
「それでこっちが、」
ふわふわの髪の毛。どこか猫を思わせる風貌。
「特殊攻撃隊の巳間晴香よ。」
・・この人も天沢さんと同い年ぐらいだ・・・。
そんな事を考える。二人とも美人だ。
「最後に、彼女が・・」
「作戦指揮担当の名倉由依です。よろしく〜」
肩までの髪に、黄色いリボン。
一応この三人の中では一番年をとってそうにみえるが、それでも二十代後半にしか見えない。
この年で作戦指揮担当だなんてそんなに優秀な人なのだろうか?
「さて、FARGOの不可視の力って言うのはね。」
天沢さんが再び喋り始める。
「不可視の力って言うのはね、平たく言うと魔法よ。これを使うにはある特殊な修練が必要なんだけど・・・」
「そういった修行をしなくても、生まれつきそういった能力を持っている人はいるわ。俗に言う超能力ね。」
巳間さんが続ける。
「そういったものはほとんどが、お金目当ての偽物だったり、スプーン曲げしたりとか愚にもつかない力だったりなんですけど、ごくまれに強い力を持つ人も居るんですよぉ。そういう人達が集まったのが」
と、名倉さん。なんだか間延びした声だ。
「この『ラグナロク』の中の特殊攻撃隊ってわけ。今は二人・・・郁未と私しかいないけどね。
本当はもう少しいるんだけど・・・」
「私達の仲間、一人は重傷を負って現在治療中。残りの数人は今は日本には居ないわ。」
「それでこの皆さんの中にそういった能力者がいないかどうか、適性検査をしますね。」
名倉さんが締めくくる。
・・つまりこの天沢さんと巳間さんは何かしら特殊な能力を身につけている、そして敵の中にもそういった能力を身につけている者がいるから、そういった奴等と互角に戦うために俺達の中にも力を持った奴がいるか検査するということなのか・・・。
なんだかややこしいな。
それにしても、適性検査? 何をやるのかとっても不安なんだが。
「ええと、そこのひと」
名倉さんが俺を指差す。
「じゃあ、あなたから始めますからこの部屋の中に入ってくださいねぇ」
お・・俺から・?
しかし逆らっても仕方ないので言われたとおり、部屋の中に入る。

・・機械のいっぱいある部屋。
そんな感じの部屋だった。
「ええと、じゃあそれをかぶってくださいねぇ」
と言って部屋の奥にある、コネクタがいっぱい付いた変なヘルメットを指差す。
・・? 何だこれは。
説明を求めようにも名倉さんは既にいなかった。
仕方がないのでかぶる。
「かぶりましたかぁ?」
部屋の奥の方の機械・・パソコンのような物の影から間延びした声。どうも緊張感にかけているような・・・
「はい。」
「じゃあそのまま動かないでくださいねぇ」
・・やや間があって、突然、


・・・ヴンッッ!!


・・・こーへい・・・


え!?


「はい、もういいですよぉ」
名倉さんの間延びした声。俺は無言でヘルメットを脱ぐ。・・しかし


・・『みずか』!?


「次の人を呼んできてくださいねぇ」
・・何だったんだ? 今のは。


数刻後、全員の検査が終わった。
「じゃあ、これから訓練を行うから晴香の後についていって。」
天沢郁未さんが横にいた巳間さんに合図する。
「それと折原・・浩平君?ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
・・俺か?
「え・・はい。なんですか?」
「君って、二重人格者?」
・・・? 二重人格?
「違いますけど・・・どうしてそんなことを?」
「・・・。いえ、別に・・。」
・・・。奇妙な沈黙が訪れる。
「それじゃあ、ついてきて。」
巳間さんが歩き出す。
後を追って、俺も歩き出した。
今の質問・・・どういう意味だ・・?


・・・・・。


中崎町。
そこは、崩れかけた学校の一角。
ミサイルの余波で窓ガラスは完全に吹き飛んでいる。

視界が暗くなる。
それは闇の中にいるから。
冷気を感じる。
それは風を受けているから。

風を受ける・・・。
それは触覚が機能している事の証。

闇を感じる・・。
それは視覚が機能している事の証。

触覚が、視覚が、嗅覚が、聴覚が、そして味覚までもが自分がこの世界に存在している事を呼びかける。
あまりの感覚の強さに、動く事もできずに立ち尽くしている。
「・・・・・かえって・・・・きたのか・・な・・。」
誰に聞かせるでもない。自分が存在している事を確かめるため。
指を曲げて、そして再び伸ばす。
自分が存在している事を確かめるため。
焦げ臭いにおいが鼻を突き、風のびゅうびゅうという音が耳に入る。
それすらも自分が存在している事の証。
「何の・・・ために・・。」


自分は何故戻って来る事ができたのか?
・・・そうそれは自分と何かとの間に強い絆ができたから。
それは、狂った絆。
間違った絆。
存在してはいけない絆。
それを断ち切るために・・・。

「戻って・・・・来たんだね・・・・。」

その少年、氷上シュンは一歩一歩、その場を踏みしめ、自分を確認しながらその場を立ち去った。


・・・・・。


「私は反対だわ!」
天沢郁未の自室に巳間晴香の声が響いた。
『ラグナロク』の特殊攻撃部隊の隊員で日本に滞在していることがほとんどの彼女たちはこの基地の中に自室を持っていた。
飾り気のない、無機質な部屋。必要な物だけが効率よく置いてあった。
「でも・・・あの子達の安全を考えると・・・」
名倉由依の声。彼女もまた、この部屋の中にいた。
「そう、ここに攻め入ってこないとも限らない。その時に自分を守る力があるのとないのとでは話が違うわ。」
これは天沢郁未である。晴香とは対照的に、落ち着いた声である。
「でも・・それで未悠ちゃんは『日常』を失ったんでしょう!? 他の子にもそんな思いをさせたいと言うの!?」」
未悠、と聞いて郁未の眉がぴくっ、と動く。しかし、
「・・晴香。これは『命令』よ。逆らうのなら容赦はしないわ。」
「・・・!!」
「晴香さん・・・別に澪ちゃんを前線に立たせようとかそんな事を言ってるわけじゃないんですから・・・。」
今にも掴み掛からん表情になった晴香を由依がなだめる。
「・・・。」
「・・とりあえず・・正体を明かしましょう。それについては晴香も異存ないわね?」
無言で、頷く晴香。
「・・・私だって、こんなことはしたくないわよ・・・実の娘なんだから・・・。」
郁未が他の二人には聞こえないよう、ぽつりと呟いた。



・・・・・。



銃声が、聞こえる。
私を狙う銃弾。
何の造作も無く、跳ね返す。

・・・何のために・・・。

心でそれを願い、そしてそれは起こる。
男の頭が消し飛ぶ。
血が、吹き出る。
返り血を浴びながら前に進む。

・・・どうして・・・。

悪意が私を襲う。
コントロール体。・・・四十人・・・てところね。
「これだけの人数から攻撃を食らえばひとたまりもあるまい!」

・・・愚かね・・。

悪意が・・・・押し寄せる。
でも、無駄。
私に届く前に、すべて霧散する。

「・・・な・・どうした、お前ら!あいつを・・殺せぇ!!」

してるよ。
殺そうと・・・してるよ?
無駄だけどね。
無意味だけどね。
何の役にも立たないけれどね。

「何故だ・・・何故攻撃をしなぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」

コントロール体の・・・あわれな犠牲者達を端から一瞥してゆく。

ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!

首が・・・宙に舞う・・・。

ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!

「な・・・・。」

ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!

無感動な、眼。

ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!
ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!
ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!
ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅっ!ばしゅぅぅぅ・・・!

血塗れの床。

血塗れの死体・・・。

そして・・・血塗れの・・・私・・・。

「・・・・あなたに・・・聞くわ。」
「くっ・・・くるなぁーーーーーー!!!!!!」

手をばたつかせ、足をばたつかせ、腰が抜け、失禁して・・・
人は・・・醜すぎる・・・。
あなたが嫌になってしまったのもわかるよ・・・。

「『セイレーン』は何処に居るの?」

「・・・・。」

「そう・・・知らないの。」
ぎりぎりぎり・・・
「それじゃあ、ごきげんよう。」
ぐちゃっ



・・・・・。



「浩平・・・。」
誰も居ない部屋で、一人呟く。
その言葉が浩平に、その思いが浩平に届くわけがないって、わかっていても。
もう一週間近くになるよ・・・
だんだん弱気になる。涙がこぼれてしまう。

・・・シャワーでも浴びよう・・・。

・・・わたしに、個室があてがわれた。
なんでも、ある人の強い希望らしい。
聞くまでも無かった。浩平だ。

・・・頭から冷水をかぶる。
そんなことでは私の心は落ち着かないけれど・・・。

浩平、今どうしてるのかなあ・・・。
ちゃんとご飯食べてるのかなあ・・。
いじめられたりしてないかなぁ・・・。
ちゃんと訓練についていけてるかな・・・。
・・わたしの事・・・想ってくれてるかなぁ・・・。

・・あいたいよ・・・こうへい・・・あなたのぬくもりを感じたいよ・・・
涙が・・・止まらないよ・・・。


・・・・・。


・・なに・・・これ・・・。
これが・・・不可視の力・・・?
すごい・・・すごいよ・・・・。

やっと・・・手に入れた・・・!



・・・・・。



俺、住井、南。
この三人で行動する事になった。六日間の基礎訓練も終わり、明日に実戦を控えて。
まず、外部との連絡を断つ、不可視の力の結界をはっている拠点、東京タワーとサンシャイン60。この二つを同時に襲撃する事になる。

「油断するなよ。」
(茜さんにいい所を見せるためにも!)

「当たり前だ。」
(七瀬さんが・・・戦わなくてすむように・・・
それにしても・・・七瀬さん、何処に行っちゃんたんだろう・・?)

「当然!」
(必ず・・・この手で平和を取り戻してやる・・!そして瑞佳と・・・!)



・・・・・。



「・・・そう、一人もいなかった。」
「はい。」
「・・やっぱり難しいのかな・・。
『アルテミス』を捜し出すなんてのは・・・。」
「確率的には0.0000000137%です。」
「うーん、十代の女性の中にいるって聞いたんだけど・・・。しかたないな・・・。引き続き、よろしく。」
「・・・はい」


「・・・しかし郁未が何処までやれるか・・・見物だよ。」



<第三話 「間奏『それはゆっくりと動き出す』」 了>


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みさき「何でタイトルが『間奏』なの?」
それは今回のお話はアクションも派手な展開もない、つなぎのような話だからなんですよ。
だから前回のお話のタイトルも正確には「間奏『住井護の決意』」となるんですね。
深山「それと、不可解な所が多すぎない?」
・・それについては弁解の余地もございません。
私めの文章力不足でございます。
みさき「ところでなんで私達しかここに居ないの?」

・・出番、無かったから。

一同『・・・・・。』

一同、武器を手にして神凪に詰め寄る。
・・まて・・早まるんじゃない・・
深山「遺言ぐらいは聞いてあげるわ。」
・・えと・・とりあえずじゃあ感想なんぞを書かせていただきます・・・・


>火消しの風様

>黒の代行SS


・・うーん、そういえば浩平が帰ってくるのって決まって一年後だったんですよね・・
短くまとまってるし・・こういう話がかけるようになりたひ・・・。


>ひろやん様

>みゅーが帰ってくる日1&2
>みゅーが帰ってくる日3


火消しの風様に重なる感想ですけど心が暖まるSSですね。
いい感じです!(失礼


>WTTS様

>ONE名作劇場 (投稿 9th)


う・・すみません、もとの歌一つも知らないです・・・
替え歌ここまで考え出せるってのも凄いですね。


>変身動物ポン太様

>手作りの・・・


手作りの恋! 瑞佳じゃなきゃこのフレーズは出そうにない・・・かな?
おもしろいです!


>雀バル雀様

>「ごめんね・・・」<前編>


広瀬子分ズ、カッコよすぎ。(笑
しかもこんな美味しい所でひき!?
後編、もとむ!

>ベンチ 


あのあと先輩はこうして家に帰ったのか・・・疑問が解けたぞ。
あと、感想ありがとうございます。



・・とりあえず、こんなところ・・かな?
みさき「じゃあ、もういいのこすことはないんだね?」
え!? いや、そういう意味ではなくて・・・
柚木「問答無用!!!」
う、うぁぁぁぁぁぁ!!何故柚木まで突然出てくるぅぅ・・・!!

(SE:どか、ばき、ぐちゃ、めきゃ、とっぷんぱらり、くにゃ)

・・うぐぐ・・次回もよろしければお付き合いください・・・ばったり。