アルテミス 投稿者: 神凪 了
第二話 「決意」

(何故か住井護SIDE)

・・・・・。



「よく考えれば当然なのよね。」
「なんでですか?」
「何のためにコントロール体を増やしていたのか、私たちは何も知らないもの、FARGOの目的なんてね。
そして今回、ただ日本を制圧するだけでなく、『素材』になる人間を大量にさらっていってる。
結局のところ、奴等にとってコントロール体を作り出すとか不可視の力とか、それは本当の目的の過程でしかなかったのよ。
今は、奴等の目的を知る事ね。そうすれば、自ずと道は見えてくる。」
「そういう考え方もあるんですねえ。凄いです、郁未さん」
「まあ、ただ統率を失った連中の暴走ってのも考えられるんだけど・・・もしそうならあんな組織的な行動はできないし、アメリカとか中国とか適当なところが始末してくれるはず。そうでないってことは・・ね。」
『失礼します。郁未さん、晴香さんと未悠さんたちがあと一時間ほどで到着します。』
「了解。連中の食料と毛布を用意しておいて。」
『それと・・・先ほど東京都にミサイルによる攻撃がありました。全滅・・・とはいかないもののかなりの被害を受けている模様です。』
「東京に、ミサイル・・・。とんでもないことしますねぇ。」
「よっぽど自分たちのやっていた事に後ろめたい事があるのね。派手な証拠隠滅だわ。」
『い、郁未さん!』
オペレーターの焦った声。
「今度は何?」
『葉子さんが帰還しました、けど・・・!」
「葉子さんがどうしたの!?」
『全身酷い大怪我で・・・特に左腕が潰れかかっています!』
「・・・なんですって・・?」
『話したい事があるそうです・・・急いでください!」

私と由依はメディカルルームへと急ぐ。
あの葉子さんが大怪我を負わされるような相手・・・。並大抵の力の持ち主ではない。
葉子さんはFARGOの大部隊が蜂起した東京、軍とFARGOの間で最も激しい戦いがあったところを偵察に行っていた。そこに何があったのか聞いてみるよりほかは、ない。
前方に担架・・の様な物で運ばれていく葉子さんを見つけた。
走るペースを上げて、すぐ横に並ぶ。
「ようこさんっ!」
「ひ、ひどい・・・」
由依が悲痛な声を上げる。
メディカルルームに運び込まれようとしている葉子さんは全身に大小の無数の傷を負っていた。もはや傷を負っていないところを探す方が難しい。しかも左腕は『潰れかかっている』のではなく、『完全に潰されている』。
「郁未・・・さん・・・由依さ・・・ん・・。」
葉子さんの口がかすかに動いて声を紡ぎ出す。
「無茶しないで、葉子さん」
「い・・え・・・これだけは・・・つたえなければ・・・。
軍・・を・壊滅させ・・たの・・は・・一人・・・『セイレーン』・・・・・・と・呼・・ばれる・・コント・・・ロール体・・・で・・す・・・」
「・・・!」
「一人・・!?」

がふっ、

激しく咳き込んで、口から血の固まりを吐き出す。
そしてそのまま意識を失った。
「何としても助けて。今、葉子さんがいなくなったら・・・」
医療スタッフは当然、とでも言うかのように強く頷く。
メディカルルームへと運ばれていく葉子さん。
あの傷で、助かるのだろうか・・・。
「郁未さん・・・」
「わかってる・・・わかってるわよ・・・。」


・・・・・。


俺こと男、住井護とその学校の仲間たち(総勢五百人オーバー)はあの後、四時間ほどずっとトラックにのっていた。
窓一つ無いトラックに、四十人、ほぼ一クラスがのっていることになる。

がたん、がたん。

悪路を走っているらしい。トラックのタイヤが大きく揺れる。
「はぁ・・・まだ着かないのかしら。」
七瀬さんが溜め息を漏らす。
「お尻が痛くなってきちゃった・・・。」
その表情には不安がはっきりと浮き出ている。
でも、それは彼女一人に限ったことではない。同じトラックにのっている、他の連中にしてもそうだ。
いきなり学校に銃を持った男達が現れて、有無を言わさずトラックに乗せられた少年少女の当然の反応ともいえる。
俺、住井護はどうかというと俺はどうしようもないことでは悩まない主義である。
こういう時にはわざとのんびり構えてみるのがいい。そうすれば心にも自然と余裕ができる。
そうは行っても恐いことは恐いのだが・・・
俺はトラックのちょうど向かい側を見る。するとそこには

「里村さん、お尻痛くないですか?」
「・・・ないです」
「喉乾きませんか?」
「・・・乾きません」
「お腹空きませんか?」
「・・・話し掛けないでください。」
「がぁーーーん」

なんてかんじでさっきから声を掛け続けては拒否される南の姿と、うつむいている里村さんの姿があった。
拒否されて南もショックを受けるのだが、十分も過ぎると

「里村さん・・・」
「いい加減にしてください」

何度でも話し掛けるのである。
里村さんも少し疲れた顔をしている。
・・・南よ・・・このクラスの他の里村茜ファンがお前を睨み付けていることに何故気づかない・・・。
そんなんだから里村さんに嫌われるんだぞ・・・。
だいたいに、こんな非常時に・・・。デリカシーのかけらも無い奴め・・・。
「住井君」
俺のすぐ隣に座っている七瀬さんが呼びかけてくる。
「ん、何、七瀬さん」
彼女とは一年とちょっとぐらいの付き合いになるか。
一昨年の十二月という時期はずれに転校してきた彼女。
その時、すぐそばの席につくことになったので時々話なんかをした。そして、席が席替えするたびに何故か近くになるのでお互い仲良くなっていた。
・・誰にも言っていないが、俺は本当は彼女のことが・・・。
七瀬さんの言葉を待つ。
「折原君と瑞佳はなんで今日来なかったのかしら・・・。」
折原と長森さんは今日、学校に来ていない。
折原だけが遅刻したりさぼったりすることは時々あるが、あの真面目な長森さんが理由も無く学校を休むというのは珍しい。
「・・うーん、もしかして二人で『お泊り』でもしてたりして・・」
折原はついこの前、クラスメートの前で長森さんに告白するという大胆極まりない行動に出た。
もともと幼なじみということもあって、仲は良かったのだがこれには流石の男、住井護も驚いた。
ちなみに長森さんのファンクラブが密かに『折原浩平抹殺計画』を立てているのは秘密である。
「なに言うのよ!」
七瀬さんが顔を赤らめる。外見と違わず初な彼女である。
七瀬さんもさっきの里村さん、長森さんと並んで人気がある。うちのクラスにはこの学校の中でも五本の指に入る美女がそろっているのだ。
「しかし、もう四時間か・・・。」
腕時計を見ながら呟く。
時計は午後二時を指していた。
「腹減ったなあ・・・せめてもうひとつパンを食いたかった・・・。」
「住井君、のんきね・・・。」
七瀬さんがあきれたような声を出す。当たり前か?
「うん? だってこんな時に暗い顔して悩んでてもしょうがないよ。楽天的に構えた方が気が楽さ。」
「・・うらやましいな、そういう考え方。」
「七瀬さんも、きっとできるよ。」
と、微笑みかける。
「・・ふふっ、それって褒めてるのかしら。」
「もちろん。」
一応、俺なりに元気付けたつもりである。
と、その時。

キキッ・・・

ブレーキの音がして、エンジンが停止した。
「着いたみたいだ・・。」
トラックの中に緊張が走る。誰も、口を開かない。
そのままの状態で数分が経った。

がちゃり・・・

トラックのドアが開けられる。これから何が待っているのか・・・
俺達は緊張で身を堅くした。
しかし、俺達の想像と違っていたのはそこに立っていた人と、その口から紡ぎだされた言葉。

「もう危険はないから安心していいわ。ようこそ『ラグナロク』へ。私は天沢郁未・・・。」

青い髪をした、奇麗な女性は微笑みとともに告げた。
そして、真顔に戻る。

「これから、あなた達に現在の状況を説明するわ。」



・・・・・。



数時間が過ぎた。

「名倉さん、依然として国外への通信が繋がりません。」
オペレーターの一人が声を上げる。
由依は黙って私の方を見る。
「・・・結界ね。」
一命を取り留めた葉子さんの話だと、外部とこの中・・・日本との連絡が取れないようにする「不可視の力」の結界が張られたらしい。
「どうしましょう・・・」
そんな不安そうな声を上げないでほしい。
私だって恐いのだ。FARGOとこの人数で全面対決しなければならないのだから。
「とりあえず当面の目的は決まったわ。」
私にかわって晴香が宣言する。
「結界を張っているらしい、東京タワーとサンシャイン60の二点同時襲撃。そして本隊と連絡をとること。」
「そうね。」
でも・・・主戦力である葉子さんは全治数ヶ月の重態だし・・その左腕は・・・
「郁未、悩んでても仕方ないわ。できることをしましょう。」
遥かのみんなを引っ張ってゆく性格はこんな逆境の時にとても頼りになる。
十八年前のあの時も・・・。



・・・・・。



腕時計の短針が午前十二時を指す。


あのあと、俺達は今の現実を教えられた。
FARGO宗団という宗教団体によるクーデターで日本が占領されたこと。
そのFARGO宗団の崇めている「不可視の力」。
そして、この世界の力の均衡を維持するための極秘部隊「ラグナロク」。
そして、日本で残った戦力が「ラグナロク」だけであること。
外部と連絡を取るためにはFARGOが張っている「結界」を破らなければならないこと。
それを踏まえた上で、素人の俺達の協力を求めてきた。

『私達は医療用のスタッフを合わせても現在二十人足らずしかいないわ。
本隊と連絡がつかないから援軍も望めない・・。
FARGOと戦うために力を貸して頂戴・・。 ただ、強制はしないわ。
・・・じゃあ、今日の所は休んで、明日答えを聞かせてください。』

一クラスに一つ割り当てられた部屋。
四十人も入るとかなり狭いが、寝るには十分である。
まあ、男女一緒に雑魚寝だ。布団もベットもない。
さすがに背中が痛い。


・・・FARGOと戦うために力を貸して頂戴・・。


あの人達は冗談で言ったのではない。はいと答えれば本当に戦うことになる。殺しあうことになる。

・・・恐い・・。

流石に、死の恐怖というものがある。そう簡単に抗えるものではない。
しかし・・・もし戦わずに逃げて、そしてそのFARGOに殺されたりしたら・・・
・・きっと、死んでも死にきれないぐらいに後悔する・・・。

・・・どうすればいいんだ・・・

折原ならどうしただろう。長森さんのために戦うだろうか・・・。
俺は・・・。

「住井君、起きてる?」
闇の中にぽつりと響く声。
「・・・七瀬さん?」
どうやらすぐ近くで寝ていたらしい。気が付かなかった。
「住井君はどうするの?」
「・・何を?」
・・わかってる。だけど、聞いてしまう。
「・・戦うの?」
「・・・。」
安易に答えることはできない。それは自分の運命を分ける言葉かもしれないのだから。
「・・・そう・・。私ね、戦おうと思うんだ。」
意外な、言葉。
「え?」
七瀬さんが戦う、だって?
「無茶だよ!」
俺は思わず声を荒げてしまう。
その声に驚いて数人が目を覚ます。でも、俺はそんな事にはかまわずに声を上げた。
「女の子が戦うなんて・・・無茶だよ!」
「無茶でも構わない。何もしないなんて嫌だから・・できることはやっておきたいから・・」
強い意志のこもった声。俺は言葉に詰まってしまう。
七瀬さんは本気だ。
「・・ごめんなさい。それだけ。」
ごそごそと衣擦れの音がする。俺に背中を向けてしまったらしい。
・・七瀬さん・・・。
後悔の念が巻き起こる。あんなこと、言うべきではなかっただろうか。

・・俺は七瀬さんが好きだ。

少しずつ、少しずつ俺の中で存在が大きくなっていっているような気がする。
去年の頃はそんな事考えもしなかった。
折原がいて、長森さんがいて、七瀬さんがいて・・・みんなでふざけあっていただけだ。
いつからだろう・・・。七瀬さんを目で追うようになったのは。


『・・何もしないなんて嫌だから・・できることはやっておきたいから・・』


ゆっくりと、目を閉じる。

そうだ・・どうせ死ぬのなら・・・・

七瀬さんを守って、それで死のう。


・・・・・。


同時刻、FARGOに占拠された成田空港・・・


血の匂いが充満している。
おびただしい数の死体。
FARGOの人間。

「無駄よ。」
コントロール体、八人を一度に薙ぐ。
上半身が吹っ飛んで、足だけになる。
いい気味だ。
「私にはついてるもの。」
最後に残った黒服の男に近づく。
「ひっ・・!」
「答えてもらいましょうか。FARGOの本部は何処?」
「それは・・・」
男が言い澱んだのを見て私は『影』に頭を掴ませる。
「ううううぁぁぁぁ・・・・ひぃぃぃぃ・・!」
「・・言わないのなら・・・潰すわよ・・・。」

じょぼぼぼ・・・。

水音。見ると、男は失禁していた。
・・汚らしい・・・。
「し・・し・し、し、し、しらないんだぁっ!たっ、たすけてくれぇ・・・!!!」
「・・・そう・・知らないの・・・残念だわ・・・とても・・・。」
首を振る。
「それじゃあ、助けてあげるわけにはいかないもの。ねぇ?」

ぎりぎりぎりぎり・・・・

「うがっ・・・うごぉ・・!」

男の眼が、見開かれた。

「まあ、もっとも・・・」

ぎりぎりぎりぎり・・・・

「どっちにしろ、助けるつもりなんてなかったけどね・・・。」

ぐしゃん

脳漿と、脳味噌をまきちらして男の頭が潰れる。

どさっ

男のからだであったものが、ゆっくりと倒れ伏す・・・。


・・・。
・・・・・・。
私は・・・絶対にあなたを探し出して見せる・・・。
そして・・・苦しみから救ってあげるから・・・。
約束したもんね・・・・・・。

死体に背を向けて、そこを離れた。

・・次は、何処に向かおう・・・。

何処でもいい。FARGOの居るところなら。

どのみち全員、殺すつもりだから。





・・・・・。


「m=2047、e=52・・・
これって、『アルテミス』じゃないのか!?」
「・・・いや・・・これじゃだめだろう・・・。」
「でも、別のものには使えるかもしれないぜ・・・。」
「一応、報告だ」

「ふーん・・・確かに惜しいね・・・。」
『どういった処置を取りましょう・・従来どうりに、Class Aで構いませんか?』
「うーん・・・いや、この子を『ヴァルキリー』にしてみよう。
Class Aで訓練してミンメスの値が3000を超えたら降すから。」
『わかりました。そのように処置します。』

そして、静寂が戻った。



<第二話 「決意」 了>


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ふう、期末テストも無事終了。この話も快調に書くことができたし・・・どうした茜。
茜「・・・駄文ですね。」
うぐ・・・いきなりそれか・・・
茜「他の作家さんに迷惑だから止めてください。」
ぐはぁ・・・茜・・・いくら出番が少なかったからって・・・。
みさき「でもMOON.組はもう全員出てるんだよ? 私達は浩平君に長森さん、七瀬さん、しかも脇役なのに今回主役をした住井君・・・。」
?「待てーーぃ!!」

(このとき突然、乱入。『新手のスタンド使いか!?』)

高槻「俺達も出ていないぞ!」
うぬぅ・・悪役の高槻・・・。
良祐「死人が登場するのは無理だ。あきらめろ。」
友里「・・由依がずいぶん立派になってるわ・・・。」

(良祐に引きずられて退場していく高槻)

高槻「・・俺はあきらめんぞ!!」

澪『でも私達はまだ出番がありそうなの』
深山「私達なんて登場する兆しもないもの」
みさき「あ、雪ちゃんだ」
柚木「そうだよ茜。私、深山先輩、広瀬さんに繭、そしてみさき先輩なんてどうやったらこの話に参加できるの。」
うぐはぁ・・なぜ詩子まで出てくる・・・。
みさき「ちゃんと私達も出さないと『おかわり』しちゃうからね・・・」

うぐ・・皆様のSSの感想は次回書かせていただきます・・・がふ・・
感想くださった皆様、とてもうれしかったです。

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