アルテミス 投稿者: 神凪 了
(一応、作者の中では長森のエンディングのあとという事になっています。ご了承ください。)

第一話 「始動」

・・・・・。


十時ジャスト。
「『アルテミス計画』・・・開始・・・」
闇の中にぽつりと紡ぎだされた声。
それは物語の幕開けを意味する言葉。


・・・・・。


ん・・・・。
まぶしい・・。
カーテンの隙間から射し込む日の光。
ゆっくりと目を開ける。見なれた、天井。
そうか・・。帰ってきたんだよな・・。
そう、実感する。
そして、腕にあたる柔らかい暖かな感触に気づいて目をやるとすぐ横に静かに寝息を立てる瑞佳がいた。
一糸纏わぬ姿である。
すっ・・・
頬をなでる。
たまらなく、いとおしい。
大切な、女性(ひと)。
そんな事を考えながら、頬をなでていると、
「う・・・うぅん・・。」
目が覚めたらしい。ゆっくりと、目を開ける。
深い、優しげなひとみ。
「おはよう、瑞佳。」
「おはよう、浩平。」
「へへっ」「ふふっ」
慣れない寝起きのあいさつを交わして、二人で照れ笑いを浮かべる。
「ところで浩平、いま何時?
時間があるんだったら朝ご飯作るよ?」
「そう願いたいね。・・よっ・・と」
腕を伸ばして目覚し時計を取る。
・・・。
そしてそのまま硬直する。
・・・。
「どうしたの?」
手元の時計を覗き込んでくる瑞佳。
そしてまた、そのまま硬直する。
・・・。
「じ・・・・じうにじはん?」
ぎぎぎっ、とこっちを向く瑞佳。
「・・・・。」
重々しく、沈痛にうなずく俺。
・・・。
「昼まで眠ってしまうとは・・。 昨晩体力を使いすぎたようだ・・・。」
思い出したらしい。あかくなる長森。
「わーーーっ、ばかばか何言い出すんだよぉ!」
「そんなに照れるなよ。瑞佳。」
「も、もう、馬鹿なことばっかいってないで、さっさと着替えて学校に行かないと!」
一気にまくしたてるように言ってから、ふと思い出したように
「・・・でも、なんで起きられなかったんだろう。」
「いや、だって、目覚しセットしてないから。」
・・・。
沈黙。
世にも冷たい視線を投げかける瑞佳。
「・・浩平、わざとでしょ」
『実はそうなんだ。瑞佳。』と言いたいところだが、それは我慢である。
「そんなことないぞ。卒業がかかってるってのにそんなことするわけないじゃないか。」
一年間留守にしていた俺は出席日数がまずいのだ。
・・ちゃんと出席しても卒業できない可能性もあるが・・・。
「それより、胸見えてるぞ。」
俺の視線の先には瑞佳の形のよい胸があった。
うーん、いつまで見ていても飽きないぞ。
「わっ!」
あわててシーツで隠す瑞佳。
「そんな隠すような間柄じゃないだろうに。」
瑞佳の顔が、より赤くなる。可愛い奴だ。
「き、着替えるから出ててよ、浩平。」
「俺、瑞佳が着替えてるところ、見たいなー♪」
べし!
顔面に制服を投げつけられる。
「馬鹿いってないで出てってよ!」
「あーあ、残念。」
枕も飛んできた。

制服を引っつかんで部屋を出る。
そのまま階段を降りてリビングへ。
着替えながら、テレビのスイッチをつける。
・・・、確かに十二時だ。リビングの置き時計も正午を告げている。
・・テレビの音が、耳に入ってくる。
『ただいま、在日米軍とFARGOの戦闘が始まったようです!』
リポーターの声、爆音。
そんなものが聞こえる。
テレビには、戦車が砲撃を行うところが映し出されている。
「・・? 昼に特撮番組なんて・・。珍しいな。」
「浩平準備できた!?はやく行こ!」
階段を駆け降りてくる瑞佳。
「そんな急いでも、もう遅刻なんだが・・・。」
「お昼休みの間に学校に行った方がいいでしょ?」
それもそうだ。いくらなんでも遅刻しまくって(しかもカップルで)授業中に入っていくのは気まずすぎる。
「それもそう・・だな。」
テレビを消して、リモコンをソファーの上に投げる。
「じゃあ、行きますか。」


・・・なんか妙だな・・。
異変を感じたのは下駄箱を通ってからだ。
時計に目をやると12:53。
まだお昼休みである。もうちょっと賑わっていてもいいような気もする。
人っ子一人、いや、物音一つしない。
「なんか変だよ・・。」
「今日は、午前中授業、ってわけじゃないし・・」
今日は木曜日である。
「祝日でもないよ?」
・・しーーーーーん。
不気味だ。
いくらなんでも静かすぎる。
とりあえず、階段を上って教室へ。
途中の階段も、廊下も、誰一人いない。
がら・・・
教室の中も、だ。
ただ、食べかけの弁当やパンの袋が机の上にのっていた。
ついさっきまで誰かがいたかのように。


・・・・・。


『米軍基地、占領。いつでも攻撃が可能です。』
『了解。捜索班から連絡が入り次第、攻撃に移れ。』

「さあ、全ての始まりだよ・・・。」


・・・・・。


浩平たちの住む、中崎町に向けて疾走するバイクが一台。
しかしそれは、尋常な速度ではない。
時速120KMは出ている。
「おい、止まれ!!」
黒服の男達が道を塞ごうとする。
「・・・邪魔よぉっっ!」
髪が、眼が、全身が・・・金色に光る・・・!

めきぃぃぃっ

男達が・・・吹き飛ぶ。
ある者は四肢を、ある者は頭を吹っ飛ばされて道を開ける・・。
「あの子に何かあったら・・・・殺してやる」
「FARGOの人間全て、私が吹き飛ばしてやる!」


・・・・・。


・・・まだか・・・
時間がない。
早くしなければ、みんな連れて行かれてしまう。
私はまだ、完全に目覚めてはいないし、彼女たちは自分にそんな力があることにすら、気づいてはいないはずだ。
じれったい・・・。
デザートイーグルを構え直す。
今すぐにでも、飛び出していきたいところだが、数が多い。
ざっと、三十人。
なんとかできるかもしれないが生徒に被害が出るかも知れない。
それに、コントロール体が一人いる・・。
今の私じゃ無理だ・・。
校庭のFARGOのトラックに、人が詰め込まれてゆく・・。
もう全生徒の半分ぐらいになるだろうか・・。
早く来て・・・晴香さん・・!


・・・・・。


「・・・。どうなってんだよ・・・。」
学校丸ごと神隠しにあったとでもいうのか・・・。
それとも、永遠の世界に旅立ったとか言うんじゃないだろうな・・・。
教室の中に入る。廊下で黙って俺を見ている瑞佳。教室には入ってこない。
机を見てまわる。
茜の席にも、七瀬の席にも、住井の席にも食べかけの弁当が残っていた。
ふっと、窓の外に目をやる。
・・!?なんだ?
校庭に、トラックが止まっている。一台や二台じゃない。
そして、校庭にたくさんの生徒がいる。数百人。全校生徒のようだが・・・いったい何を・・。
俺の思考はそこで打ち切らざるを得なくなる。
「きゃぁっ!!」
悲鳴。
「瑞佳!?」
教室の、外に駆け出す。
「まだ残っていたとはな。さっさとこい。」
黒服の男がいた。瑞佳の手を引っ張ってどこかに連れて行こうとする。
「てめぇ!何してやがるっ」
男はさもめんどくさそうに
「まだいたのか。さっさとこい。それとも・・・。」
男が鉄の固まりを取り出す。
思わず息を呑んだ。
・・・拳銃だ・・・!
瑞佳がひっ、と短く悲鳴をあげる。
「命が惜しくない・・・。というわけではないだろう?わかったらこい。」
「・・・どこに・・連れて行くつもりだ・・。」
「そんな事を聞いてどうする。何にしろ、お前らに選ぶ権利はないのだからな。
まぁ・・とりあえずは校庭、だな。」
男はおれたちの後ろに回って、銃を振って歩けと促す。
従うほかは、なさそうだった。


・・・・・。


「それで最後か?」
「校舎に二人で残っていた。」
「こりゃまた俺好みの美人だな。DかCに配属されてほしいもんだ。」
「・・・。」
「どうした?」
「・・いや。別に。」
「これだけの人数だ。明日からが楽しみだぜ。」
「・・班長に連絡してくる。お前も早いとこ乗り込め。出発するぞ。」


・・・・・。


トラックの一台目が出発する・・。
・・・もう限界だわ・・!
そう思って飛び出そうとしたとき
ブォォォォォ・・・
「・・・来たわ・・・。」


・・・・・。


ようやく、学校に到着する。
トラックが、出て行こうとしているところだった。
・・ぎりぎりセーフってとこかしらね・・・。
バイクに乗ったまま、『力』を放つ。

ぐにゃり。

今、校門を出ようとしていたトラックの運転席の部分があらぬ形に歪む。
「・・・ぐぎゃぁっ」
悲鳴。
出口のところでトラックが止まってしまったため、後続のトラックの止まらざるをえない。
「・・!なんだっ!」
異変を察知し、男達がトラックから降りてくる。
その数、およそ二十。

どぅんっどぅんっどうんっ!!

数人が血飛沫を上げて倒れる。
「なんだっ!?」
バラバラに散開し、辺りを見渡す男達。

どぅんっどぅんっどうんっ!!

銃声は聞こえるが・・・
「・・・不可視の力・・・ね。」
障壁をはって、弾道をそらしている。
最初の数人以降、誰一人としてかすりもしていない。

男達の方を、見る。
一人だけ、女性。生気のこもっていない眼。無表情な顔。間違いない。
晴香は男達の中心にいる、ローブを着た女性に『力』を放つ。
(障壁を・・・封じる!)

ギシィ・・!

何かが軋む音がして肉眼では確認できない不可視の障壁が崩れ去る!

「・・!」
同じ力を持つ者に気づいたのだろう。
こっちを向く、女性。
力を、放つ!

バンッ!

衝撃波を感じる。バイクが、ひしゃげた。
「未悠!狙って!!」

どぅんっどぅんっ!!

血煙を上げて、女性は倒れた。


めきぃ

目玉が飛び出て、鼻から血が溢れ出す。

どぅんっどぅんっどうんっ!!

「うおっ!」「ぐあ!」

もはやただのFARGOの構成員など敵ではない。

めきぃぐしゃぁっ

小気味のいい音がする。

どぅんっ!

同時に、最後の一人が倒れ伏し、耳障りな銃声が止む。
「晴香さん!」
未悠の声がする。
「間に合ってよかった。」
「どうします?このあと・・。」
晴香はトランシーバーを取り出す。
「由依、状況を教えて。」
『関東圏全ての中高学校がFARGOに襲撃、生徒が誘拐されています。
それと日本にある全ての軍事施設がFARGOに占拠されました。警察も、もはや機能していません。
晴香さんと未悠ちゃんは救出できた人たちを連れて、『ラグナロク』に向かってください。』
「了解。・・・。蜂起から三時間足らずで全ての軍事施設を占拠、並の兵力じゃないわ・・。」


・・・・・。


・・・メキメキメキッ・・!

「・・・ん? 何だ・・?」
「止まっちゃった。どうしたんだろう。」
ざわつく、トラックの中。
・・・。

・・・。
がちゃり・・。
しばらくしてから、解錠音がなった。
ギシギシと音を立てて、扉が開く。
入り口に、女性が二人いる。顔は逆光になっていて、よく分からない。
「中に乗っている人達、早く出て他のトラックに乗り込んで。」
「それと、誰か車の運転のできる人いますか? 免許のあるなしは問いませんけど。」


・・・・・。


数刻後・・・。

『捜索班より通達。第四班が全滅しました。どうやら『巳間 晴香』の仕業のようです。
それ以外は問題無し。作戦行動、完了します。』

(・・やはり生きていたんだ・・。)

『了解。・・・襲撃班、・・・・攻撃開始』
『了解。威嚇のためのミサイル発射。攻撃目標、東京。』
『発射までカウントダウン開始。10,9,8・・』


・・・・・。


その日、東京が赤く染まった。



<第一話 「始動」 了>

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書きたいことはあるのですが・・・あ、明日テスト・・うわぁぁぁぁ・・・・・。
感想、かいてくださるとうれしいです・・・。