リバイバルSS劇場 『鏡・中1編』('94)  投稿者:加龍魔


 ……そうだ

 ……俺はあの時、確かにパンを持っていたんだ

 ……そこには存在しないはずのパンを……


 〜〜〜 リバイバルSS劇場 『鏡・中1編』('94) 〜〜〜

「だーかーらー、あんたが寝ぼけてただけでしょ」
「ちーがーうー。確かに持ってたんだって」

 昨晩の話を七瀬にしてみたが、やはり信じていないようだ。
「なぁ長森。俺は確かにパンを持ってたよな」
「えっ? あ……うん」
 とりあえずうなづいてはいるが、おそらくこいつも信じていないだろう。
「それにしても、うまかったなー」
 俺が起きた時、パンはまだ焼きたてのように暖かく香っていた。
 さすがに腹が減っていたのでその場で食べたが、あの味と言ったらもう……
「まぁなんにせよ、俺のように徳のある人間にしかできない経験って事だ」
「あんたのどこに徳があるって言うのよ」
 七瀬がじと目で睨む。
「ま、凡人には分からん事だ」
 話を締めくくると同時に、授業開始のチャイムが鳴った。


「さて、殺るか」
 放課後、校舎裏の焼却炉の前。
 手に持っているのはこの間書いた七瀬の肖像画。
 そう、長森が○シと勘違いした絵だ。
 こんな物持って帰っても由起子さんに笑われるし、なにより七瀬に監視されているようで気分が悪い。
 というわけで破壊決定。
 さすがに顔を潰すのは気が引けるので、裏を向けて焼却炉に突っ込む。

 ゴン ゴンゴン

 ……入らない。
 向きを変えてもう一度。

 ゴンゴンゴン

 ……ダメだ。
「しょうがない、砕くか」
 絵を焼却炉に立てかけ、近くにあったスコップを手に取った。
 精神を集中し、気の流れを掴む。そして、
「せーの……ナルトセイバー!!」
 スコップを振りかざし、絵の中心に叩きこ……
「浩平…何してるんです?」

 スカッ

 スコップの先が外れ、どこかに飛んでいってしまった。俺の手元に柄の部分だけが残る。
「いやなに、こいつを処分しようと思ってな」
 慌てて柄を投げ捨て、平静を装う。
「これって…絵…ですか?」
「うちに置いてても邪魔になるからな。この際燃やしてしまおうかと…」
「……嫌です」
 俺の絵を見た茜の目が変わっている。
 そう、あれは山葉堂で蜂蜜練乳ワッフルを見つけた時の…
 ショーウィンドウで不気味なヌイグルミを見つけた時と同じ目だ。
「可愛い……」
 俺の書いた絵を見て、うっとりと呟く茜。
 可愛い? あの七瀬の絵が!?
 これはちょっとマズイかもしれない。
 確かに七瀬はそこいらの男より数段強い。惚れる理由もわかる。
 だが、茜には柚木がいる。このままでは三人の血で血を洗う戦いに……
「……ください」
「いや、ダメだ茜。そんな不毛な事は俺が認めん」
「……はい?」
 ……どうやら俺の勘違いだったようだ。


「でも、どうしてそんな絵がいいんだ?」
「可愛いですから」
 可愛い…、茜の美的センスはあの人形並だからどうとも言えないが。
「浩平…この絵をください」
「嫌です」
 そんな恥をさらすような真似を認めるわけにはいかない。
「……意地悪しないで」
「嫌だよもん」
 いくら茜の頼みでも、あれは燃やすと決めたんだ。
「……持って帰ります」
「嫌だみゅー」
「……なんでもしますから」
「了承」
 ぐあ、勢いでOKしちまったぜ。
「よかった……」
 安堵の息をつく茜。
 しょうがない、ここは無茶苦茶な望みを言って無理に断らせよう。

「よし、それじゃあ俺の言う事を1週間守れたらこの絵をやろう」
 すでに絵を抱いたまま離そうとしない茜の前に、指を3本突き立てる。
「まず一つ、俺の言う事は絶対服従。『嫌です』とは言わないこと」
「……はい」
 茜の口癖の『嫌です』を封じるなんてどうせ無理。すぐにボロが出る。
「次に、長森の代わりに俺を起こしに来る事。当然遅刻したらそこで終りだ」
「……はい」
 難関その2。七瀬でもそう簡単に俺を起こせなかったんだからな。
「そして最後。甘いもの禁止だ」
「え……」
 見たか、俺の完璧な作戦を。
 茜が甘いものを我慢するなんて無理。これで勝ったも同然だ。
「どうした? 嫌ならいいんだぜ」
「……分かりました」
 半ば渋々と言った感じでOKする茜。
 さて、これから1週間が楽しみだ……


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蘭華「初めましてアル☆」
加龍魔「って、なんでお前がここ出てるんだよ。秋穂はどうした」
蘭華「連載終ったから九州に帰ったネ」
加龍魔「………茜編どうすんだよ」
蘭華「代わりに蘭が出るアル」
加龍魔「……無理だって。そんな事より、とりあえず自己紹介しろ」
蘭華「分かったアル」

蘭華「皆さん初めまして、蘭は『楼蘭華(ロウ ランファ)』アル。
   15歳の高校1年生。趣味は料理と空手ネ。お姉ちゃんとお父さんの三人暮らしアル。
   本当は来年の夏まで外に出ちゃいけないネ。だから今日はナイショアル」

加龍魔「その割に、チャットとか出てるよな」
蘭華「そんな事言ったらまた怒られるアル!」
加龍魔「そんなわけで、秋穂が帰ってくるまで代わりにこいつがサポートです」
蘭華「まだ話は終ってないアルー」
加龍魔「てなわけでごきげんようー」
蘭華「蘭は…蘭は来年の夏に……」ブツンッ☆

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