Pileworld 〜時の狭間で〜 最終章(後編) 投稿者: 加龍魔
「……くん…折原君!」
 耳元で俺を呼ぶ声。岩水先輩だ。
「うーん、あと1Mbpsだけ寝させてくれ先輩ぃ」
 このここちよい惰眠を貪る事のなんと気持ちの良い事か。
「岩水先輩、ここはあたしに任せてください。浩平ー、起きないとこないだ生まれた小猫半分引き取ってもらうよぉ」
「うーん、引き取ってもいい…なんて言うかぁ!」

 がばっ!

「あ、起きた」
「へぇ、長森さん起こすのうまいんだぁ」
 目を覚ますと、先輩と瑞佳が俺の顔を見て笑っていた。
「あれ?、俺今までどうしてたんだっけ?」
 頭を軽く振って考えてみる。

 ・・・・・

「浩平は、あたしの事助けてくれたんだよ」
「おう、そうだ。確か巨大化した七瀬に喰われそうになったのを、助けてやったんだ」
「あれ、そうだっけ?」
 そんな訳ないだろう。
 実は何かから瑞佳を助けたというのは覚えているのだが、その何かが思い出せない。
「うーん……ん?」
 ふと何かに手が当たった。見るとキャラメルのおまけに付いてくるような小さなおもちゃ。


 コロコロコロ………

 いつの間に紛れ込んだのだろうか。全く覚えがない。

 コロコロコロ………

 ガラクタに時間を割くのは無駄な事。それを握りごみ箱へ照準を合わせる。
 だけど…なにかとても大切な物だったような気がして、結局捨てる事はできなかった。
「ふふっ、お困りのようね」
 先輩が割って入った。
「長森さんが悪い宇宙人にさらわれたのを、折原君が助けたのよ。だけどその時記憶が奪われたから二人は覚えてないのね」
 なるほど、そういえばそんな感じだったような気がしてきた。
「そうだ、悪いだよもん星人から助けてやったんだ。感謝しろ瑞佳」
「どうしてだよもん星人なんだよ!」
 いつものようにドタバタした時間。なぜかそれがすごく懐かしいような気がする。

「折原君」
 いつしか瑞佳との枕投げに興じていた俺に、先輩が声をかける。
「なんです先ぱ…ブフォッ!」
 先輩に気を取られていた俺に、瑞佳の投げた枕が命中した。
「ああっ、当たっちゃったぁ」
 いかにも、しまったという感じの顔をする瑞佳。
「お前俺が先輩と話をしている時に………」
「ごめん、わざとじゃないんだよ」


『ああっ、当たっちゃったぁ』

 その言葉を聞いて何かを思い出しそうな気がした。
 幼い頃の思い出。
 けれど、そこだけぽっかりと穴が空いたように何も思い出せない。
 俺は一人っ子だったから兄弟とかはいないはずだ……
「……浩平?」
 枕を抱えたまま悩む俺を心配そうに覗き込む瑞佳。
「大丈夫だいじょうぶ。それで先輩、さっきは何か?」
 俺はとりあえず無事なのをアピールして先輩に問い返した。
「ええ。ずっとあなたを思っていた人のこと、大切にしてあげてね。あなた達の身代わりになった人の為にも」

 俺は最初、先輩の言った言葉の意味が分からなかった。
 だけど、考えてみれば確かにいたような気がする。ずっと俺の事を見守っていてくれた誰かが。
「……はい」
 少しだけ、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 俺はこれから瑞佳と二人で生きていく。

 この現実の世界を。

 俺を救ってくれた誰かの為に。

 身代わりになってくれた誰かの為にも。

 生きていく。この時の狭間で………

                    True