Pileworld 〜時の狭間で〜 第十章 投稿者: 加龍魔
   第十章「禁慰」

「永遠の世界って……何なんだよ」
 俺は誰に聞くともなくそう呟いていた。
「瑞佳やみんなと俺を引き離したり、今度は俺から瑞佳を奪ったり…」
「折原君、それ本気で言ってるの?」
 先輩が険しい顔で俺を見る。
 分かっている、みんな俺の為にしてくれた事。俺が悲しまないようにしてくれたのだと。
 だけど…だけど俺には納得できない。
「あんな世界なんてなければ良かったんだ! そうすれば俺も瑞佳も離れずに済んだ! 何も変わらなかったんだ!!」
「折原君!!」
 先輩の怒声でようやく我に返る。
「………すいません先輩。俺………」
「私じゃなくて、あなたの横に座ってるみさおちゃんに謝りなさい」
 先輩に言われて側を見る。みさおは…泣いていた………
「みさお………」
「…ごめんね……お兄ちゃん………みさおのせいで…みさおが余計な事をしたから………」
 うつむいたまま肩をしゃくりあげるようにして泣くみさお。俺は…俺はなんて馬鹿なんだ。
「みさおは悪くない、悪いのは全部俺なんだ。俺があの時耐えられなかったのがいけないんだ」
 俺はみさおの肩を抱き、ゆっくりとささやいた。

「もう大丈夫だよ」
 みさおのその言葉で、肩を抱いていた手を放す。
「瑞佳さんを助けるにはどうしたらいいの? みさおにできる事ならなんでもするよ」
 みさおの心強い言葉。俺の記憶の中のみさおはこんなにも頼もしかっただろうか。
「今ならかなり危険だけど方法はあるわ。でも………」
 急に言葉をためらう先輩。
「先輩、方法って………」
 先輩が言うには、まず俺とみさおが瑞佳の体を使って永遠の世界へ行き、世界が消滅するのを待つ。
 そして完全に世界が消える直前に瑞佳を取り戻してこの世界へ戻ってくる。そういう話だった。
「だけど、たとえ成功したとしてもみさおちゃんを助ける事は…」
「みさおの事なら気にしなくてもいいよ。だってみさおはもうこの世界にはいない人なんだから」
「…どういう事ですか先輩?」
 言葉の意味はなんとなく分かっていた。
「長森さんを助ければみさおちゃんを失う事になる。分かるでしょう?」
 仮に瑞佳を助け出せたとしても、今瑞佳に入っているみさおは体を離れなければならない。
 心が入れる体がない以上、二人を同時に救うことはできないのだ。
 それに瑞佳の体を媒介にするという事は………
「………みさお」
「いいよ…お兄ちゃん」
 みさおは俺の手を取り、自分の胸に押しつける。
「みさおの代わりにお兄ちゃんの側にいてくれた人だもん。瑞佳さんは」
「でも………それじゃあみさおは…」
 瑞佳とみさお、二人を天秤にかけるようなものだ。
 だけど、俺の答えは決まっていた。そしてみさおも、分かってくれている。
「瑞佳さんはお兄ちゃんの大切な人なんでしょ? お兄ちゃんの大切な人はみさおの大切な人でもあるんだよ」
 もう迷いはない。みさおの言葉で俺の決心はついた。

「だけど、こういうのっていけない事じゃなかったかな? 確か近親そーかんって………」
 先輩は気を遣って廊下で待っていると言い出したので、部屋には俺とみさおの二人っきりになった。
 その矢先の一言。
 俺とみさおは兄妹なのだから確かに近親相姦にあてはまる。
 しかしみさおの体は瑞佳のものだ。その観点から考えれば禁慰ではない。
「うーん。みさおの体じゃないからいいんじゃないか?」
 とはいうものの、そういう事を考えてしまえば罪悪感を感じてしまう。
「お兄ちゃん…みさおの体が目当てなのね」
 みさおはいかにもいぶかしげな目で俺を見ていた。
「な…なんてこと言うんだ!」
「冗談だよ。ちょっと言ってみたかっただけ」
 なんだかみさおにからかわれているような気がする。
 考えてみれば、みさおとこんな風に話をすることなんて本当はできないはずだ。
 きっとみさおも同じ事を考えているに違いない。
 永遠の世界によって起こった奇跡。
 この少しだけの時間を大切にしたい。
 俺達は本来会うことができないはずなのだから。
「………お兄ちゃんはみさおのこと…好き?」
「何言ってるんだ。当たり前だろ」
 小猫のように俺の顔を覗きこむ。
「よかった。だってこういう事は本当は好きな人同士でする事でしょ?」
 みさおが言った『好き』という感情。
 俺がみさおに持っている『好き』とは別の感情。
 その違いには気付いていないだろう。みさおは俺の言った『好き』をそのまま信じているようだ。
「でもお兄ちゃん。もし…もしも赤ちゃんができちゃったらどうしよう。瑞佳さんきっと驚くよ」
「心配するな。その時は俺がみさおの分まで責任を取ってやる」
俺は瑞佳の…みさおの体を強く抱きしめ、そのままベッドへ倒れこんだ。

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加龍魔「あれ? 終わってない」
秋穂「まーた目算誤ったでしょう。最終回まる一回分残ってるよ」
加龍魔「うーん、40度近い熱があるのに大阪までDDRやりに行ったせいかなぁ」
秋穂「それで倒れてたら本当の馬鹿だよ」
加龍魔「いや、愛に死ぬ男こそ美しいものだ」
秋穂「………あんた本当に馬鹿だわ」
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