Pileworld 〜時の挟間で〜 第八章 投稿者: 加龍魔
   第八章「みさお」

「な…何言ってるんだ。瑞佳は瑞佳だろ?」
 瑞佳が発した言葉。俺にはその意味が理解できなかった。
 しかし、瑞佳は小さく首を振り、
「ううん、違うんだよお兄ちゃん」
 ……お兄ちゃん……
 失いかけていた…いや、俺の心の奥深くに閉じ込めていた記憶が甦る。
「………みさお………なのか…?………」
 何も言わず、ゆっくりと首を縦に振る瑞佳。
 顔も、体も、髪も、声も、間違いなく瑞佳。長森瑞佳だ。
 しかし俺には、瑞佳がみさおの姿とダブって見える。
 そう、あの頃の…まだ元気に遊んでいた頃のみさおに………
「みさお………でも…どうして……」
「神様が助けてくれたんだよ。みさおが、お兄ちゃんを助けてくださいってお願いしたんだよ」
 何も疑わなかった。なによりここにいるみさお自体が奇跡としか言いようがないからだ。
「………神様ってのは…時々無茶な事をするよな………」
 俺の頬を濡らすものをみさおに見せないように後ろを向きながら、ぽつりとつぶやく。
「無茶な事をするから神様なんだよ」
 みさおが笑顔で返した。

 ピンポーン
 玄関のベルがまた鳴った。
「あ、はーい!」
 ぱたぱたと出ようとするみさお。
「み、みさお! ちょっと待て!!」
 問題はまだ何も解決していない。
 瑞佳の姿をしたみさおを人に見られては大変な事になる。しかし…
 ガチャッ
 みさおは何の躊躇もなくドアを開けてしまった。
「あ、折原く…ん………」
 ドアの外にいたのは…みさおを見て固まってしまった先輩。
「……………」
「あ、お兄ちゃんに用ですか? どうぞ上がってください」
 みさおは固まったまま不自然に動く先輩をリビングへと案内する。
「コーヒーがいいですか? それとも紅茶の方がいいかな?」
「……………」
「せ、先輩コーヒーが好きなんだ。俺も手伝うよ」
 このままでは先輩が気絶してしまいそうな感じなので、みさおを先輩の目が届かないように台所へ連れて行く。
「………お兄ちゃんの先輩ってずいぶん無口なんだね」
「確かにあまり騒ぐような人ではないが、今日の原因はお前だみさお」
「えーっ! みさお何も悪いことしてないもん」
 その姿、先輩を驚かせるには十分すぎるくらいだ。
「とにかく先輩には俺から事情を説明するから、いいって言うまでここで待ってるんだぞ」
「はぁーい」
 病気でなければみさおはこんなにも元気だったのかと感心しつつ、コーヒーを持ってリビングに戻る。
「……………」
「…先輩………コーヒーです」
 ちびっ
 先輩はコーヒーを一口含み、ほうっとため息をつく。そして…
「折原君、分かるように説明して」
 一言、そう呟いた。

 とりあえず今朝からの出来事を順を追って説明していく俺。
「………それで彼女は長森さんの格好をして折原君のことを『お兄ちゃん』って呼ぶのね」
 一通り話を済ませて納得してもらった所で、みさおと3人で話をすることになった。
「あれから色々調べて方法は見つかったんだけど………同時に大変なことが分かったわ」
「大変なこと………ですか?」
「そう。彼女、こう言ってたでしょう?」
 言葉を続ける。
『この世界はもうすぐ消えちゃうから、あたしはそれまでここにいなくちゃいけないんだよ』
『だって、この世界はあたしが創ったんだもん』
 確かに、それは俺が聞いた言葉だった。
 先輩は、俺と同調することで永遠の世界での会話を聞いていたらしい。
「瑞佳が…あの世界を創ったって事ですか?」
「そう、あなたを迎え入れる為にね。でもあなたはこの世界に留まる事を選んだ」
 また一口、コーヒーを口に含む先輩。
「目的を失った永遠の世界は消滅するしかない。そして永遠の世界は世界を作りだした長森さん自身を消滅させないかぎり終わることはない」
「つまり、瑞佳を助け出しても永遠の世界は何度でもさらいに来る………そういう訳ですか」
 これではいたちごっこである。ただ連れ戻すだけでは根本的解決にはならないのだ。
 俺と先輩が頭を悩ませていたその時、みさおがゆっくりと口を開いた。
「……瑞佳さんとみさおが入れ替わればいいんだよ」
「みさお、気持ちはうれしいけど永遠の世界を創ったのは瑞佳なんだ……」
「違うよ…お兄ちゃんも瑞佳さんも気付いてないけれど、永遠の世界を創ったのはお兄ちゃんと瑞佳さんとみさおの3人なんだよ」
「3人で…永遠の世界を創ったんだよ………」

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加龍魔「このシリーズ、いよいよクライマックスです!」
秋穂「随分長いですねぇ」
加龍魔「すでに原稿用紙70枚近いし。もうショートじゃないなこれは」
秋穂「全部で100枚くらい行くんじゃない?」
加龍魔「その可能性はおおいにありうるな」
秋穂「持ち込みでもしてみたら?」
加龍魔「よし、ムービックにでも行ってみるか」
秋穂「本気にしないように。それよりまた質問が来てるよ」
加龍魔「なになに?瑞佳じゃなかったらお前は一体誰なんだ?」
秋穂「今回の話をよみましょー」
加龍魔「私のHPに第一章から載ってるんでそっちも読んでくださいね」
秋穂「LHA圧縮のデータ版もあるよー」
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