Pileworld 〜時の狭間で〜 第六章 投稿者: 加龍魔
   第六章「ドアの向こうで」

 瑞佳を俺のベッドに寝かせ布団をかける。
 やさしい寝顔………とても信じられない………
 この瑞佳が、二度と起き上がることはないなんて。
「先輩…瑞佳も疲れてるみたいですから」
「認めたくない気持ちは分かるけど…これは事実なのよ、折原君」
「いいんです! 帰ってください!!」
 何が『いい』ものか。ただ、こんな瑞佳の姿を誰にも見せたくなかった。
 先輩も俺の気持ちを察したのか、
「………明日…また来るから………」
 そう言い残して帰っていった。
 ………二人っきり………
 ずっと待ち望んでいたこの時間。それがこんな形で訪れるなんて。
 静寂が二人を包む。
 言葉もなく、ただ時間だけが過ぎてゆく。
 誰からも忘れられたまま死んでしまった瑞佳。
 ようやく、落ち着きを取り戻した頃………

 ドンドンドンドンドン!!
 ドアを叩く音、そして響く声。
「折原!長森さんをどこに隠したの!!」
「浩平開けてください! 長森さんが行方不明なんです!!」
「長森さんが居なくなったのとあんたが学校に来なくなったの。なんか関係あるんでしょ!!」
 柚木と茜、七瀬。三人がそろって口にする名前…どうして瑞佳の事を思い出したのだろう。
 ………そんなことは分かっている。
 瑞佳はここにいる。瑞佳の存在が戻って当然。
 しかし、それは事態がさらに悪い方向へ向かっている事を示していた。
 ドンドンドンドンドン!!
「折原!居るんでしょう!!」
「浩平ここを開けてください!!」
「返事しなさいよ!!」
 彼女達はなおもドアを叩く。そのまま破壊しそうな勢いで。
 それだけ瑞佳の事を心配してくれているのだろう。
 だからこそ、こんな瑞佳の姿を見せたくはない。
 ゆっくりと階段を降り、ドアの前に立つ。
「………聞いてくれ………」
 どう言っていいのか分からなかった。
 だけど、これ以上彼女達を心配させる訳にはいかない。
 言葉を探りながら、たどたどしい口調で話しを始める。
「瑞佳は…ここにいる………俺のところに………」
「でも…みんなに会わせられる状態じゃないんだ………」
 彼女達を心配させたくなかった。
 だけど、瑞佳を心配して来てくれているのに嘘はつきたくない。
「少しだけ待ってくれないか………今は…これだけしか言えないんだ………」
 それがせいいっぱいの言葉だった。
「浩平…信じていいんですね?………」
「ああ………」
 茜はその言葉を聞くと、
「帰りましょう」
「ちょ、ちょっと茜! 長森さんはどうするのよ!!」
「里村さん! ちょっと待ってよぉ!!」
「今は浩平を信じましょう。私達の力ではどうにもできない事のようですから」
 茜の強い言葉に押され、しぶしぶドアから離れる二人。
「後でちゃんと説明しなさいよ!!」
 七瀬が離れ際に言った言葉が、俺の心を突き刺す。
 いつまでも隠し通せる訳がない。いつかは話さないと………
 その日はベッドで寝る訳にもいかず、毛布に包って床に倒れこんだ。
 ………朝、瑞佳が起こしてくれる事を信じて………

 ピンポーン
 俺の目を覚まさせたのは、瑞佳ではなく玄関のベルであった。
 瑞佳は、昨日のままの姿勢でベッドに横たわっている。
 ベルの主はおそらく先輩だろうと思い、急いでドアへ向かう。
 今は先輩に頼るしかない。先輩なら、きっといい方法を持ってきてくれる。
 そう考えるより他になかった。
 ガチャッ!!
 勢い良くドアを開ける。しかしそこに居たのは…
「すいません、捜索願いの出ている長森瑞佳さんの事でお話を伺いたいのですが」
 刑事だった。一人は20代後半だろうか、痩せ型で眼鏡をかけている。警察手帳には柳原と名打ってある。
 もう一人は50代前半、大柄で無精ひげで顔を覆っている。こちらは水島という名前らしい。
 捜索願い…おそらく瑞佳の両親が出したのだろう。
「あなたは半月前の午後、この先のタバコ屋の前で長森さんと会ってましたよね」
 刑事が話を続ける。
「はい」
 刑事達は瑞佳の事をどこまで調べているのだろう。
 そう考えると不安で仕方がない。
「その後、あなたと長森さんが会ってからの行動を詳しく教えてくれませんか?」
 内ポケットから手帳を取り出し、メモを取る体勢で尋ねる。
 教えると言っても、公園へ行って瑞佳が消えたなどと言っても信じてもらえるはずがない。
 かと言って、下手に嘘をつけばかえって怪しまれる。
「その後二人で公園へ行って…そこで別れました。それから後は瑞佳とは会ってません」
「別れ際に何か言ってませんでしたか?」
「いいえ」
 そこでもう一人の刑事が何か耳打ちする。
「それじゃあ、特に変わった事はなかったんですね」
 刑事達は話が終わると、手帳を内ポケットへとしまう。
「そうですか。ご協力感謝します」
 軽く敬礼をすると、後ろを向いて歩き出す。
 ………一歩………二歩………三歩………
「うっ、痛たたた」
 突然、若い刑事が腹をかかえてうずくまる。
「すいません、こいつ腹が弱くて。トイレ貸してもらえますか?」
 もう一人がそれを起こし、俺に尋ねる。
「え、ええ。トイレは右に入って階段の手前です」
「ど、どうもすいません」
 腹を押さえながらあわてて家の中へ入っていった。
「やれやれ、あいつはああなると長いんですよ」
 髭の刑事…水島がタバコに火を付け、ゆっくりとふかす。
「ところで折原さん。あなた長森さんが行方不明になってからずっと大学を休んでますね」
 !!
 はめられた。
 それに気付いたのは、水島の言葉とあの刑事が階段を上がる音を聞いた時だった。
「いろいろ調べさせてもらいました。あなたと長森さん、恋愛関係にあったそうじゃないですか」
「それが半月も行方不明なのに、あなたが何も知らないのはおかしいんじゃないですか?」
 調べていたのは瑞佳だけではなかった。刑事達は俺が何かを知っていると確信していたのだ。
「加えてあなたはあの日以来大学に出ていない。それどころか家からも出ていない」
 体から血の気が抜けていくのを感じる。
「長年の刑事のカンでね。私はあなたの部屋に何かあると………確信しているんですよ」
 その言葉と俺の部屋のドアが開け放たれる音を聞くのは、ほぼ同時だった………

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加龍魔&秋穂「あけましておめでとうございまーす!!」
加龍魔「新年合わせで第六章アップです」
秋穂「BS2にクリスマスに冬コミで遅れに遅れてたもんね」
加龍魔「だあっ! それを言うなぁ!!」
秋穂「ところで、質問が来てるよ」
加龍魔「なになに? どうして先輩とHすると永遠の世界へ行けるのですか?」
秋穂「どうしてだろうねぇ」
加龍魔「読んでると分かると思うのですが、この話は瑞佳がメインになっています。だから、中には出てこないキャラクターや意味が良くわからない所があると思います。たとえば今回の質問の場合、その答えは次回以降に発表する先輩シナリオで明らかになります」
秋穂「諸般の事情ってやつだね」
加龍魔「こんな答えでいいのか?」

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