あるいはこれもONE パート2 投稿者: 加龍魔
「あの…里村さん」
 放課後、あたしは里村さんを呼び止めた。あの事を聞くためだ。
「………はい」
「里村さんって幼なじみとかいる? 誠一って名前の…」
 誠一。繭の腹の中?で会ったあの男の名前。
「………どうして………」
 途端に、里村さんの顔色が変わった。
「…どうして…知っているんですか………」
 その瞳には、涙が浮かんでいた。

   あるいはこれもONE 〜学校はいつも七瀬のち繭〜 その2

「みゅーーー!」ガシイッ!!
 いつものようにあたしのおさげを掴んでくる繭。
「繭! ちょっとこっち来なさい!!」
 しかしあたしは、繭をぶらさげたまま屋上へと向かった。
「繭、いますぐ誠一さんを出しなさい」
 屋上についたあたしは、繭に命令する。
「なんで?」
「『なんで?』じゃないでしょう! 里村さんに誠一さんの事聞いたら泣き出しちゃったじゃない!!」
 あたしは昨日の事を繭に話した。
「ずいぶん面倒な事をしてくれたな」
「あんたが言うなぁ!!」
 思わず繭を怒鳴りつける。しかし…
「そう怒るな。怒られるとストレスがたまって胃酸が出すぎる」
「そんな事聞いていない!!」
 さらに頭にきて繭を怒鳴る。
「………うぁぁぁぁぁ!!………」
 かすかに声がする。彼の…誠一さんの声だ。
「な!? どうしたの誠一さん!!」
「………胃液が………うわぁぁぁ!!………」
 どうやら胃液にやられているらしい。こうなってはどうしようもない。
「ま、繭。分かった、分かったから胃液を止めなさい」
「最初っから言う事を聞けばいいのに」
 とことんむかつく。しかし、人質?がいてはどうしようもない。

「それで、どう面倒なのよ。繭が誠一さんを吐き出せばそれで済む事じゃない」
 とりあえず心をおちつかせて、繭に尋ねる。
「そういう訳にもいかんのだ」
「そういう訳って…じゃあ一体どういう訳なのよ!!」
 思わず声が大きくなってしまう。
「まぁ詳しくは…」
「詳しくは?」
 繭に詰め寄る。
「詳しくは…あいつに聞け」
 ばふっ!!
 あたしはまた、繭に飲み込まれた。

「誠一さーん。あたし、七瀬だけどぉ」
 2度目ともなるとずいぶん落ち着いている。まずは誠一さんを呼びだす。
「ああ、七瀬さん」
 途端に周囲の景色が変わる。砂場のような所で、少女と誠一が遊んでいた。
「こないだはさんきゅな。ほら、みずかも」
「おねえちゃん、ありがとう」
 みずかと呼ばれた少女は、ぺこりと頭を下げた。
「いえいえどういたしまして」
 つられてあたしも頭を下げる。
「それより、里村さんの事だけど…」
「ああ、俺の事覚えてなかっただろ」
「あなたの名前聞いたら…彼女泣き出しちゃったわよ」
 あたしは、昨日の出来事を誠一に話した。
「そっか、茜だけは覚えていてくれたか…」
「覚えてた…ってどういう事?」
 誠一に尋ねる。
「ここに長くいると他の人間から忘れられてしまうんだ」
 驚くような事を、誠一はさらりと言った。
「忘れる…って、里村さんは覚えていたみたいだけど」
「ああ、それは俺にも謎だ」
 謎って…あんたそれでいいの?
「まぁ、今度顔出してみるよ」
「そうしなさい。里村さんもきっと喜ぶわよ」

「さて。ちょっと繭! そろそろあたしを出しなさいよぉ!!」
 一通り話を終えたあたしは、繭を呼ぶ。
「七瀬さん。茜のこと、よろしくな」
「誠一さんも、ちゃんと顔出してあげなさいよ」
「おねえちゃん、これ…」
 みずかが、体温計を差し出した。
「ありがとう。みずかちゃんも元気でね」
 みずかの頭をなでる。
 来たときとは逆の、吸い出されるような感じ。
「それじゃあ2人とも、またねー!!」
 『また』があっては困るのだが。

「繭、ちゃんと誠一さん出してあげなさいよ」
 腹の中から出たあたしは、開口一発そう言った。
「えー、めんどいー」
「めんどいとか言うなっ!!」
 また、繭を怒鳴ってしまった。誠一さん達は大丈夫だろうか?

「七瀬さん、七瀬さん」
 数日後、誠一さんの声がした。
「繭、誠一さん出してあげたの…ってうっぎゃーーー!!」
 なんと、繭の口から誠一さんが顔だけ出している。
「約束通り顔出しに来たよ。茜はどこ?」
「顔出しに…ってほんとに顔だけ出すなぁ!!」
「うーん、奥が深いなぁ」
 いや、深いとかそういう問題じゃないわよ。
 当の繭はと言うと…
「いいねぇ」
 窓に映った自分の姿を見ていた。
「結構ビジュアル系って感じかなぁ」
「よし、行くか誠一」
 そのまま出ようとする繭。
「その状態で外出るなぁ!!」
 あたしの声が、誰もいない教室に響き渡る。

 ………あたしは、これからも繭に振り回されるのだろうか………

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加龍魔「お約束ギャグSSの続編です」
秋穂「とうとう連載決定だね」
加龍魔「かってに決めるな」
秋穂「えーっ、違うのぉ?」
加龍魔「ウケ良かったから続編書いただけ。連載はパイルだけ」
秋穂「えーっ、つまんなーい」

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