あるいはこれもONE 〜学校はいつも七瀬のち繭〜 投稿者: 加龍魔
「おはよーーー」
 いつもと変わらない朝、いつもと変わらない教室。そして…
「みゅーーー」 ガシイッ!!
「うっぎゃああああぁぁぁぁぁあ!!!!」

   あるいはこれもONE 〜学校はいつも七瀬のち繭〜

 いつものように繭のおさげ引っ張り攻撃。
「痛いいたいイタイ!!」
 あたしはなんとか繭を振りほどこうと首をぶんぶん振ってみた。ところが…

 ドガシャアッ!!

 ものすごい音と共に頭が軽くなる。なんと繭がロッカーに激突したのだ!
「繭! 大丈夫!!」
「七瀬! いくらなんでもこれはやりすぎだろう!!」
 折原の非難の声が飛ぶ。
「ごめん繭! 大丈夫!!」
 慌てて繭のもとへ駆け寄る。
「…うぐっ………いたいぃ………」
 意識はあるみたい。
 だけど、大事を取って繭を保健室に連れて行くことにした。
 幸い保健の先生は産休で代理の先生が来ている。
 繭を連れていっても何も気付かれなかった。

 1時間目の終了後、あたし達は繭の様子を見に行くことにした。
「おーい椎名、生きてるかー」
 折原がベッドのカーテンを開く。そこにはいつもの繭が…
 ………繭が………い……………
「うわあああぁぁぁあ!!」
「なんだ!? どうした七瀬」「七瀬さん、どうしたの?」
 一瞬目を疑った。そこには………
「あ………あんた誰よ!?」
「何言ってんだ七瀬。椎名に決まってるじゃないか、なぁ椎名」
「おうよ」
 …全然違う………「おうよ」って何!?………
「どこが繭よ! 全然別人じゃないの!?」
 顔つきは退化してるし話し方も全然違う。同一人物だと言う方に無理がある。
「………七瀬………お前もここで休んでろ………」
 折原はあたしが危険な存在に感じたのか、保健室に置き去りにしてさっさと帰ってしまった。
「七瀬さん…ちゃんとノート取っておくからゆっくり休んでて………」
 続いて長森さんも帰ってしまう。

 …………………………
 二人っきりになると、一気に間が持たなくなってしまう。
「ね…ねぇ繭………繭?…」
 ふと見ると、繭は体温計を咥えていた。
「繭…熱あるの………?」
 ボシュウッ!!
 突然、繭の咥えていた体温計が煙を上げ始める。
 しかし、繭は臆することなく体温計を手に取り…
「……………」 ぱくうっ!
 なんと口に入れてしまった!!
「繭! そんなの食べちゃ…」
 バキバキッ! ギャァァァ メリメリッ! 風邪薬…ゴキイッ!!
「…………………」
言いかけた言葉を全部飲み込む。関わってはいけない世界だと直感した。
 やがて、体温計を飲み込んだ繭は…
「………かぜぐすり………」
 ベッドから起きあがり、どこかへ行こうとする。
 ………ここから出してはいけない………
 直感的にそう感じたあたしは、
「ま、繭。どうしたの? おくすりならあたしが取ってあげるから!」
 慌てて薬品棚をあさり、風邪薬を見つけだし手渡す。
 しかし、繭は受け取った風邪薬をじっと見つけたまま。
「あ、そうか。お水だね。ちょっと待ってて、あたし取ってくるから」
 慌ててコップに水を入れ、繭に差し出した。
「……………」
 繭はコップを受け取ろうとしない。
「………ちょっとつらそうだから…しばらく面倒見てやって………」
 繭がそういった次の瞬間…
 ばふっ!!
 あたしの視界が何かに覆われた。

「………ここは………どこ?………」
 気がつくと、どこかに漂っていた。
 上も下も分からない。ただフワフワ漂うだけの世界。
「おーい、そこの人ぉ!!」
 誰かに呼ばれ、声のする方…上を向いてみた。
「そこの人、風邪薬持ってないかぁ? みずかが熱出して大変なんだぁ!!」
 年はあたしと同じくらいだろうか? 制服を着た男が立っていた。
「風邪薬なら持ってるけど…」
 そう言った瞬間、あたしは子供が眠るベッドの前に立っていた。
「………ケホンケホン………」
 まだ幼い少女だった。ベッドの中で苦しそうにうずくまっている。
「さんきゅ、この世界には風邪薬がなくてさ。ちょうど困ってたんだ」
 少女の咳がようやくおさまってきた頃、彼はお礼をいってきた。
「いや、いいのよ。それより、ここはどこなの?」
 あたしは一番気になっていた事を彼に聞いてみる。
「ああ、ここはあいつの腹の中だ」
「腹の中?」
「ああ、あんた外の世界から来たんだろ?」
「外の世界??」
 訳の分からないことを言われ、しばし唖然とする。
「そうそう、里村茜って知ってるか? 俺の幼なじみなんだけどさ」
「え? 里村さんなら…って外の世界ってどういうことよ!?」
「あんた、こいつのことこう呼んでただろ。『繭』って………」
「えっ!?」

 突然、竜巻にでも巻き込まれたかのような感覚があたしを襲う。
 次に気がついた時には、保健室の床の上だった。
「………え………保健室!?………」
 慌てて立ち上がると、目の前のベッドで繭が寝ていた。
「………みゅー………」
 繭の寝言が聞こえる。
「………今の全部………夢!?………」
 夢なのだ。今のは全部夢なのだ。七瀬はそう決め込んだ。

 放課後………
「椎名、調子はどうだ?」
「みゅー」
 繭の元気な声が響く。
「繭、すっかり元気になったみたいね」
「元気すぎるわよ。おかげでさっきからおさげ引っ張られっぱなし」
「七瀬のおさげを引っ張るのは、椎名が元気な証拠だ」
「頭打ったショックでもうちょっとおとなしくなってもよかったのに」
 あたしは繭をほっといて先を歩く。
「………せっかく吐き出したのに………」
「ん、何か言ったか椎名?」
「ううん。…みゅー!」ガシイッ!!

 繭があたしのおさげをつかむ。そして…
「うっぎゃああああぁぁぁぁぁあ!!!!」
 今日も学校に七瀬の悲鳴が響き渡るのであった。

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加龍魔「たまにはこういうのもいいやね」
秋穂「ってかハレのちグゥまんまやん」
加龍魔「〜時の挟間で〜がシリアスだからこういうギャグ書かんと身が持たんのよ」
秋穂「どうでもいいけど、茜の幼なじみまで出すなよ」
加龍魔「いいやん。みずかと一緒に永遠の世界コンビにしとけば」
秋穂「……………いいのか?」

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