第三章「君がいない世界」
瑞佳がいなくなって1日目…
俺は大学へは行かなかった。
現実を突きつけられるのが恐かったのかもしれない。
この世界に…瑞佳がいないという現実を………
瑞佳がいなくなって2日目…
何か瑞佳の事を忘れずにいられるような物を探す。
出てきたのは、シャーペンとアルバムにあった写真。
それと、あの日瑞佳の荷物から持ってきたウサギのぬいぐるみだった。
瑞佳がいなくなって3日目…
なにげにぬいぐるみのスイッチを入れてみる。
……………
電池が切れているようだ。新しい電池に入れ替えてみる。
……………
メモリーも消えているようだ。
結局、ぬいぐるみが何かを語る事はなかった。
「………ここが………永遠の…世界………?………」
上を向いてるのか下を向いているのかすら分からない。暗い闇の中。
瑞佳は何かに引き付けられるかのように、その中を流れていた。
「………け…て………助けて……………」
少女の助けを求める声。見ると、闇の中に一個所だけ明るい場所がある。
そして、瑞佳はそこへ向かって流れていた。
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
そこへたどり着いた瑞佳は、少女にやさしく声をかける。
「………おねえ…ちゃん………わああああぁぁぁぁぁ!!」
少女は瑞佳の姿を見ると、大声で泣き出した。
瑞佳は、何も言わずに少女を抱き留める。
やがて、少女が少しおちつきを取り戻した頃。
「ねぇ、あなたのおなまえは?」
「……………みずか………」
瑞佳がいなくなって6日目…
七瀬が見舞いに来た。
俺がいない間の大学での出来事を演技を交えながら話す七瀬。
久しぶりに見る七瀬の顔は、なぜかとても優しく見えた。
けれど、その会話の中に瑞佳の名が出てくることはなかった。
瑞佳がいなくなって7日目…
………瑞佳………
忘れないように瑞佳の事を考えるたび、心が締め付けられる。
瑞佳も俺がいなかった間、ずっとこんな気持ちに耐えてきたのだろうか。
………俺は…瑞佳が帰ってくるまで耐えられるだろうか………
瑞佳がいなくなって8日目…
茜と柚木が見舞いに来てくれた。
2人とも、口には出さないが俺の事を心配してくれている。
茜の持ってきたワッフルは、あの激甘ワッフル。
さすがに俺は遠慮したが、茜はいつものように平気な顔で食べていた。
茜も柚木も、やはり瑞佳の事を覚えてはいなかった。
「……………みずか………」
「えっ!?」
驚いた。少女は自分と同じ名前。
しかし、それは少し違っていた。
「…あたしは………みずか………ながもりみずかだよ………」
「………ごめんね………おねえちゃん………」
みずかはゆっくりとこの世界の事を話し始めた。
その話は瑞佳がいつも夢の中で思い描いていた世界そのもの。
そして、永遠の世界の終わり。
浩平を迎えるために作られた世界がその目的を失った今、消滅は避けられなかった。
永遠の世界の消滅。それは、世界を作りだした瑞佳自身の消滅でもある。
みずかが話を終えたとき、瑞佳はみずかが自分自身である事を確信した。
「………おねえちゃん…ほんとうに………ごめんね………」
「ううん、いいの。みずかは浩平のためにやったんだから」
ささやくように、そして自分に言い聞かせるように。瑞佳は言葉を続けた。
「浩平はきっと幸せになれるよ。だから、あたしはいなくなってもいいんだよ」
瑞佳はみずかをぎゅっと抱きしめる。
2人の姿が霧のように薄れ、重なりあう。
そして…瑞佳とみずかはひとつになった………
瑞佳がいなくなって13日目…
朝起きて、トイレに入って、顔を洗って、歯を磨いて………
何かしようとする度に、瑞佳の事を忘れそうになる。
俺には耐えられないのかもしれない。
忘れてしまえばもう二度と思い出せなくなりそう。
その日は、もう何もしない事にした。
瑞佳がいなくなって14日目…
ピンポーン
ドアのベルが鳴る。
もう何もしたくない。瑞佳が帰ってくるまでなにもしない。
俺は居留守を決め込んだ。
ピンポーン ピンポーン
訪問者は一向に諦める気配はない。そして………
「折原君居るんでしょう! ここを開けなさい!!」
居留守がばれていたのでは隠れていてもしょうがない。
俺は瑞佳の写真を握りしめ、階段を降りてしぶしぶドアを開ける。
訪問者は、岩水先輩だった。
しかし、その顔には明らかに怒りが満ちている。
………そして…俺は記憶から消えかけている名前を聞く事になる………
「折原君! 長森さんはどうしたの!!」
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うい、ほんとはもうちょっと後にアップする予定だったんですが
オラタン進行というやつです(なんだそれは)
よく「ずいぶん早くに瑞佳消えちゃいましたね」って言われます
けど、消えたのはただの序章です。
これからさらにブルーな運命が待っているのです。
であであ、又の機会にhttp://www.biwa.ne.jp/~karuma/