Pileworld 〜時の狭間で〜 第二章 投稿者: 加龍魔
   第二章「逃れられぬ宿命」

「浩平…その娘………誰?」
 七瀬は長森を睨みながら、静かにそう言った。
「な…何言ってんだ七瀬、長森じゃないか!!」
 抑えていたつもりでも、つい声が大きくなってしまう。
 七瀬も俺の声で思い出したのか、
「あ、ごめーん。ちょっとど忘れしちゃったぁ。ごめんね長森さん」
「えーっ、忘れちゃうなんてひどいよぉ」
 とりあえずはいつもの二人に戻ったようだ。
 だけど、この日を境にみんなの長森を見る目が変わっていった。
 最初はその都度俺がフォローしていたが、いつしか長森も異変に気付いていたのであろう。
 だんだんみんなとも話さなくなり、一人で入ることが多くなっていた。
 そんな長森を見ていられず、なるべく傍にいてやるようにする。
 かくいう俺も、気を抜くと長森のことを忘れてしまいそうになっていた。

 そんなある日の夕方…
 トゥルルルルル トゥルルルルル
「もしもし」
「………あ………浩…平………?」
 長森だった。こころなしか、声が震えている。
「長森、どうしたんだ?」
 いやな予感がした。そして、それは的中していた。
「………今……帰ったらね………部屋の物が………全部………」
 ところどころ途切れながら聞こえる声。その内容は、あらかた予想がつく。
「長森! いまどこにいる!!」
 とにかく長森のそばにいてやりたかった。俺にはそれしかできなかった。
「…角の………タバコ屋の…公衆電話………」
「すぐ行く! そこから動くな!!」
 ジャケットを掴み、家を飛び出す。一直線にタバコ屋へ。
「………長も…り………」
 そこには、誰もいなかった。
 公衆電話の受話器が掛けられずにぶら下がっている。
「………そんな………長…も………瑞佳………」
 受話器を握りしめ、力なく呟く。
 手元の受話器が滲んでいる。俺は泣いていた。
「………浩…平………?………」
 かすかに聞こえた声。その方向に振り向く。
「浩平?」
 引越しでもしたかのような荷物。だが、それはすべて瑞佳の部屋の物だった。
 そして、その前に彼女はいた。
「………な………瑞佳!!」
 俺は瑞佳のもとに駆け寄り、強く抱きしめる。
「浩平、どうしたの? なんで…泣いてるの………?」
 瑞佳の頬も濡れていた。やはりさっきまで泣いていたのだろう。
「………瑞佳………俺…お前に話しておかなきゃおけない事があるんだ………」

「……………そういう訳なんだ」
 俺達は公園に来ていた。
 そこで俺がこの世界から消え始めた時のこと、永遠の世界のこと、すべてを話した。
「だから瑞佳はこの世界のことだけ考えてればいいんだ。俺がずっと待ってるからな」
 保証はどこにもない。
 でも俺が瑞佳の事を忘れなければ、瑞佳がこの世界の事を思い続けていれば。
 瑞佳はこの世界へ帰ってこれる。俺はそう直感していた。
 しかし………
「いいよ浩平。そんな事しなくても」
 瑞佳の口から、予想外の言葉が返ってきた。
「浩平には里村さんや柚木さん、七瀬さんがいるもん。あたしがいなくなっても大丈夫だよ」
「馬鹿! お前なに考えて………」
 言いかけてやめた。瑞佳はこういう性格なのだ。
 自分よりも俺の事を気に掛けてしまう。
「浩平………あんまり柚木さんをいじめないようにね」
「………お前………」
 瑞佳の姿が少しづつぼやけていく。瑞佳の心がこの世界から離れていくせいだろう。
「里村さんはあんまり体が強くないんだから引っ張りまわしちゃダメだよ」
「馬鹿!!…そんな事より………」
 声も少しづつ遠くなる。
「七瀬さん…きっと浩平とお似合いだよ………」
「………瑞佳!!」
 俺は瑞佳を思いっきり抱きしめた。少しでも長く、この世界にいられるように。
「………浩平………お別れだよ………」
「瑞佳! 俺はお前のこと、絶対に忘れないからな!!」
「………だめだよ………あたしはもう………かえってこないから………」
 腕がふっと軽くなる。そして………
「………浩平………しあわせにね………」
 ………瑞佳は………俺の腕の中から………消えた………

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と、いうわけで第二章です
毎度の事ながら、この作品をもって皆様の感想に変えさせていただきます(コラ)
現在はオラタン大会に出るべく特訓中ー
大会記念限定SSの配布も考えておりますです
であであ

http://www.biwa.ne.jp/~karuma/