第一章「エピローグ…そして始まり」
「浩平、起きないと午前の講義遅れちゃうよぉ!!」
「長森…あと256バイトだけ寝させてくれぇ」
あれから数ヶ月、俺達は大学生になっていた。と言っても無事進級出来た訳ではない。
追試に次ぐ追試。やってもいない授業のテストをやらされるのだ。
まぁ、学校も生徒一人の記録がまる1年抜けていただけあって少しは大目に見てくれたのだろうが。
「浩平!、256バイトたったよ!!」
ぐあ、余計な回想をしていたおかげでせっかくの睡眠時間を無駄にしてしまった。
あわただしく着替え、トイレと洗面所を渡る。高校のときから何も変わっていない。
「早く、早く!」
「ちょっと待て長森、チャックにパンツが引っ掛かって…」
大学は本来なら高校からエスカレーター式に上がれる。
とはいえ大学まで行かない奴や入ってくる奴、さまざまだ。
「とっとっと………よし、外れた」
「浩平、前!!」
ズドーーーーーーーーーーン!!
衝突。といっても相手は大方予想できる。
「七瀬! またお前かぁ!!」
「なんでこう毎日毎日ぶつかってくるのよ!!」
大学になってからはほぼ毎日のようにこの交差点でぶつかっている。
俺達が学校まで行く道と、七瀬がカタパルトで発射される弾道のぶつかる地点がこの交差点なのだ。
「・・・・・・・・・って、だれがカタパルトで発射されるのよ!」
「いや、お前のその狙ったようなぶつかり方は機械を使っているに違いない」
「あんたがぶつかって来るんでしょうが! ああっ、またおニューの服が!!」
七瀬もさすがに大学まであの制服を着るわけにはいかなかったのだろう。
毎日毎日あきもせずに違う服を着ている。まぁ馬子にも衣装というヤツだ。
「浩平、七瀬さん。 時間!!」
長森に言われて時計を見る。かなりヤバイ。
「こりゃあ、裏山越えしかないな」
裏山へ続く階段を駆け上がり、森を抜けると学校の金網が見える。
俺達は高校の時に七瀬が開けた大穴をくぐって校庭に出た。
「高校時代はここまでで良かったんだけどなあ」
「文句言わない。さっさと走る」
そう、ここから大学まではざっと500メートルほど走らなければいけない。
校舎が敷地の一番奥に建っているのだ。
「おーっし、間に合ったぞぉ」
なんとか講義に間に合った俺達は、一番後ろの机に並んで座る。
どうやらまだ講義は始まっていないようだ。あちこちで雑談の話し声が聞こえる。
「折原ー、おはよー」「おはようございます」
………柚木………こいつが居たのを忘れてた。
高校の時はせいぜい学校に紛れ込む程度だったが、大学になってからは堂々と教室に入ってくる。
「お前、大学にまで忍び込むなんていい度胸じゃないか」
「失礼ね。ちゃんと受験に合格したわよ」
つまり、そういうことだ。
変わって茜は、大学に入って柚木と一緒にいる時間が多くなったせいだろう。
談笑する姿をよく見るようになった。
少しして、教授がやってきた。
こういう退屈な講義に限って出席を取る。
まぁ出席が取っていられるような人数なのが原因だが。
「長森、後は任せた」
出席を済ませると、朝取り損ねた睡眠を取ることにする。いつもの日課だ。
………暗い…暗い世界………
そこはひどく不自然な世界だった。
上も、下も分からない。けれど、俺は知ってる。
かつての俺がいた世界。俺が別れを告げた世界。
「もう二度と来ることはないと思ってたのにな」
そう、ここは永遠の世界。
………瑞佳………?…
はるか遠くに、見知った姿があった。
子供のままの姿の瑞佳…みずかである。
大粒の涙をぼろぼろと流し、何かを叫んでいる。
すぐにでも駆け寄ってやりたかった。だが、いくら走ってももずかとの距離は縮まらない。
どんなことをしても、この世界では俺とみずかとの距離は縮まらないのだ。
その理由は俺が一番良く知っている。
やがて、かすかに聞こえたみずかの声…
「………助け…て………浩………平………」
「浩平どうしたの? ボーッとして」
俺達5人は学食に来ていた。
「あ、いや、なんだ。みさき先輩どうしてるかなーと思ってな」
みさき先輩は、大学へは行かなかった。
ドイツの有名な医者のもとで、目の治療をしている。
「浩平君と歩いた外の世界を、自分の目で見たくなったんだ」
それが、空港から旅立つみさき先輩の言葉だった。
もう一度目が見えるようになる確立は、何百分の一らしい。
だけど俺は信じてる。先輩の目はきっと見えるようになるって。
「………みさき先輩がここにいたら、俺達の昼飯なんかあっという間に食っちまうかもな」
小さくなっていたからとはいえ、一度は俺と七瀬まで食ってしまった人である。
俺達の弁当なんかひとたまりもないだろう。
「それは………嫌です」
茜が笑いながら言った。
「あなたたち」
食堂からの帰り道、俺と瑞佳は誰かに呼び止められた。
「はい………?」
振り向くと、険しい顔をした女性が立っている。
しかし、すぐにその顔を笑顔に戻し…
「驚かせてごめんなさい。私は岩水楓、あなた達は?」
「折原浩平です」「長森瑞佳です」
岩水楓、俺はこの名前に聞き覚えがあった。
確か………高校の時に一年近く行方不明になっていたという先輩。
行方不明といえば、俺もそうだけど。
「折原君に長森さんね。私は昼間は図書室にいるから困った事があったらなんでも言ってね」
取って付けたような不自然な挨拶。
「は………はぁ…」
しかし、俺は岩水先輩との奇妙な親近感のほうが気になっていた。
「浩平! 早く早く!!」
「ちょっと待て長森、カバンがベルトに引っ掛かって…」
次の日、俺達はいつものように大学までの道を疾走していた。
「長森、お前がもっと早く起こしに来ればこんな事には…」
「浩平、前!!」
ズドーーーーーーーーーーン!!
衝突。となれば相手は当然………
「ちょっとぉ、なんでこう毎日毎日毎日まいにちぶつかってくるのよ!!」
………七瀬である。
「なにを! お前がカタパルトの角度を一度変えれば済む事じゃないか!!」
「だから何でカタパルトなのよ!!」
「浩平、七瀬さん。時間!!」
………七瀬の動きが止まった。
そしてその瞳…俺は見覚えがあった。あの時の………他人を見るような瞳である。
しかし、その瞳は俺に向けられていたのではなかった。
俺のすぐ後ろ…そこにいる人間に向けられている。
俺は………ここで初めて運命の歯車が狂い始めている事を知る。
「浩平…その娘………誰?」
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というわけで始めました(笑)
チャットでは壊れている人間として認識され始めているのでこれを感想とさせていただきます(おいおい、どんな感想だ)
あと、タクティクス襲撃記の感想くれた方々どうもです。
続編が見たい方、言ってくれればまた襲撃しますので(こらこら)http://www.biwa.ne.jp/~karuma/