変わり行く『いつも』−後編− 投稿者: かっぺえ
台風が通り過ぎたかの様に(実際、台風だな…)散らかりまくっているリビングを一通り二人で片づけを済ませて、家を出た。
役に立たないどころか、邪魔にすらなりそうだった柚木だが、思いのほか手際が良くて30分程で片づけを終えれた。

そして、柚木と二人きり。別段、何を話す訳でもなく淡々と夜道を歩いてる。

「……なあ、柚木」
「……え?……あ。なに?」
「起きてるか?」
柚木の前で、手を上下させながら聞く。
「起きてるってば。歩きながら寝るなんて器用な事出来ないよ」



「あ…で。なに? 起きてるか確認、取りたかったの」
「いや。なんでお前。オレの後ろ歩くんだ? オレは柚木の家、知らないんだが」
「え…。えっと……曲がるとこに来たら言うから」
「……茜を見習え。あいつ、6本は飲んでたぞ」
「茜。昔から強かったからねえ……」

夕方の喧騒も何処かに消え、シャッターを閉める店の明かりが僅かに漏れる、商店街を歩く。

ちらり…と、後ろを振り返ると、柚木は相変わらず。後ろをとことこくっ付いて来てる。

「…あ。何。どしたの?」
ふと、目が合い。不思議そうに聞いてきた。
「ん…いや。ついてきてるかな、って思ってな」
「……ちょっと寒いね」
問いには答えず、自分の体を抱きながら呟く柚木。
確かに。春になったとは言え、夜は少し肌寒い。
さすがに吐く息が白いワケじゃないけど。昼間の陽気に比べると寒さを感じる。
「貸す上着ならないぞ」
因みにオレはTシャツの上に、薄いパーカーといういでたちだ。
「うー…まあ、別に良いけどね」
「……コンビニ。寄ってくか?奢るぞ、誕生日プレゼントに」
「安上がりなプレゼントだねえ……。うん、なんか温かいものでも食べよっか」
「文句言うなら奢らないぞ」
「冗談だってば」
柚木はにっこり笑って答えた。

ぴっ。ぴっ。
淡々と仕事をこなす…バーコードを読み取っていく店員さん。
「税込みで8720円になります」
は?………8720円?
「……おい。柚木。お前、何買った?」
「え?色々だけど?」
店員さんが手際良く、詰め込んだビニール袋を覗く……。缶コーヒー、にくまんに混じって。本、ビール、電池、キャットフード、極めつけにゲーム。
……何時の間に。
「これもこれもっ。これも要らんっ。無駄な金使わせるなっ」
袋から缶コーヒーにくまん、以外の物を全て取り出す。店員さんが、険悪な顔して睨んでいるが、知る所ではない。
「あぁ〜。酷いよぉ〜。これじゃ、誕生日プレゼントにならないよ。このゲーム前から欲しかったのにぃ」
「知るかっ。大体っ、買い出しの時の金。全部、オレ持ちだっただろうがっ。5000円もっ。あれで十分だっ」
買い出しの時。何をそんなに買い込んだのか、レジで5000円程の支払いを命じられた。
レジで呆然としていたら、気がつくと柚木と澪は何処かに行っており、茜に目で訴えたら『…私は知りません』と、一蹴された。
「あれは、折原君の厚意じゃないの?」
……なんて都合の良い解釈出来るのであろうか、こいつは。…羨ましいぞ、その性格。
「……はぁ。コーヒーと肉まんで十分だろうが」
「う〜……残念」
「すいません。もう一度コーヒーと肉まんだけで計算して下さい」
「…解りました」
ぼそりと店員さん。……青筋が立ってるのは気にしないでおこう。

ぴっ。ぴっ。
淡々と仕事をこなす…多少、商品の扱いが手荒く見える店員さん。
「415円です」
声が投げやりな感じがするのは、気のせいだろう。
「415円」
オレは柚木に向かって手を差し出す。
「え?奢りじゃないの?」
「いや、奢りだぞ。ただ、オレは今。金を持ってない。一円も」
「えぇ〜。なにそれ〜。詐欺だよぉ」
「オレは奢るとは言ったが、金を出すとは言ってないだろう? 無い袖は振れない、貸してくれ」
「……そういやそうだよね。道理は通ってるね」
納得顔で、こくこく頷きながら言う。
そうか? 自分で言っておいてなんだが、今のはかなり説得力に欠けるぞ。……まあ、納得したならいいか。
「うむ、では払っておいてくれたまえ。ちゃんと返すから」
「なんかあ……ねえ〜……」
ぶつぶつ言いながらも、柚木はしぶしぶ金を払った。レシートをしっかり貰ってたのを付け加えておこう。


「ねえねえ。早く返してよね、お金」
コンビニを後にして、早速袋から肉まんを取り出しながら、借金の早期返済を迫る柚木。
「なんだよ……がめついな」
「お金貸したまま何処かに行かれたらたまんないからね」

何処かに……か。
――この人……誰?
向こうに行ってしまう事に、抗うつもりは無かった。……と、言うより抗う術をオレは知らない。
――えと…どちら様でしょうか? ご、ごめんなさい。
長い付き合いの幼馴染が、オレに向けた他人を見る目。
――折原君。今日、何処かに遊びに行かない?
そんなオレを覚えていた柚木。柚木と一日中、遊び廻った時は楽しかった。

……抗う術は知らない。
でも、抗える要素が……柚木がオレの事を見つけてくれたから、今オレは『ここ』にいる事が出来てるのかもしれない。

「……415円の為に、夜逃げするかよ」
「え?夜逃げまでするつもりだったの?」
「しないって言ってるだろう」
「……でも…早く返してね。本当に」
「なんだ? 415円で逼迫するのか? お前の家の財政は?」
「返してもらわなきゃ。ありがとう、って言えないじゃない。そんなの、もう嫌だからね」
「……じゃあ、返す時に。利子……の変わりに何処かに遊びに行くか。その時、ついでにおめでとうも言ってやろう」
「うん。楽しみにしてるね」
「ま、とりあえずだな。今日が終る前に言っておこうか……」

別にこちらにとどまるべき、大きな理由があるワケじゃない。
……だけどそれと同じように、向こうに行く大した理由も無い。

「誕生日。おめでとう、柚木」
「うん、ありがとう。折原君」

だったら、まず。柚木にありがとうを言わせてやらなきゃな。
……何時の間にか見慣れてきた笑顔を見ながらそんな事を思った。


−−−あとがき−−−

 終わったぁ〜(^^;;;
詩子「うんうん。分かるよ、その気持ち♪」
 わ…分かってくれるか(^^;;; 辛かったねえ……今回。プレッシャーとの戦い(^^;;;
詩子「裏切ってるけどね(笑) 「結局、何?」って感じだよね、このSS」
 はっはっは〜(^^;;; まあ、「裏切りますから」って言ってあるし(爆)
そんな訳で、感想くださった方、読んでくださった方、ありがとうございました♪
詩子「邪魔だとは思いつつも消去キーを割り出してまで消そうとしなかった方にも言わなきゃね(笑)」
 まあ、これでSSコーナーに投稿するのは最後だと思いますけど、ネット上から消える訳じゃあないので、一つ宜しくお願いします(笑)
SS書いたら自分のHPに置くでしょうし、時間を無駄にしてみたい方は一度どうぞ(爆)
詩子「それではみなさん、またあう日まで〜☆」
 ではでは〜☆