変わり行く『いつも』 投稿者: かっぺえ
カシャァッ!!
軽い音をたてカーテンが引かれる。眩しい陽光。瞼を通して視界が白く……ならない。
「折原く〜ん」
何故か布団を嬉しそうにばしばし叩きながら、長森がオレを叩き起こそうとする。
「長森……あと3テラバイト程、寝ておらねばならぬ使命がオレにはあるんだ……」
「はい?……ま、頑張ってね」
「ああ…死なない程度に頑張る……」
(ぐー…)



「そろそろ、3テラバイト経ったよ♪」
再度、布団を嬉しそうにばしばし叩きながら、長森がオレを叩き起こそうとする
「ん……そうかぁ……3テラバイトも寝たのか……」
ふぁ……。
オレは寝転んだまま大きく伸びをする。
その際。ふと、長森と目があう……
「……長森。柚木のコスプレして楽しいか?」
「あ、この制服?私、これ。気に入ってるんだよね」
………
「いや、柚木のコスプレしても、いいこたぁ、無いんじゃないかと言いたいのだが」
「え?変かな?」
「いや、柚木そっくりだぞ。いや……そこが問題だな」
「折原君」
「ん?誰だね?それは?」
「今日、私の誕生日なんだよね」
……はぁ。
「ああ、それは目出度いな。……で、どうして柚木。お前がここに居る?」
オレはついに、柚木の存在を認めざるをえなくなった。シラ切り通したいとこではあったが。
「いたら駄目なの?」
至極、当然と言った感じでさらりと応じる柚木。
「思いっきり駄目だっ。何故ここにいるっ」
「え?あ…だから。私の誕生日なんだよね、今日は」
「それは聞いた。それなりに目出度いかもしれんな。…で、何故お前がここに居る?」
「うん。だから、しいこさんの誕生日パーティを開こうかな、って♪」
「貸さないぞ。我が家は」
柚木が次に口にするであろう、言葉に予想がついた。
「場所が折原君の家しか無いんだよね」
ほら…な。
「貸さないぞ。我が家は」
「大丈夫だよ。折原君も参加になってるから」
「おい、オレは参加したいと、一言でも言ったか?」
「……言ってないけど」
「じゃ、なんでオレも参加になってるんだ?」
「でね。時間の事なんだけど……」
「こら。人の話を聞けっ!!」
「あ、別に飾り付けして欲しいなんて、言う訳じゃないよ。子供じゃないんだし。ほら、買い出しとかの予定もあるし」
「……ちょっと待て。頼むから人の話を聞いてくれ」
「え?なになに?」
「まず第一に。柚木。お前は何故ここにいる?」
「ここまで、とことこ歩いてきたんだけど……それがどうかしたかな?」
「……質問を変えよう。何故、我が家に来た?」
「だから、パーティする場所がここしかないんだよね」
……頭が痛い。
「で、長森はどうした?……って、今何時だ?」
「7時だけど?」
「……柚木。何時からそこに居た?」
「え?…6時だけど?」
……頭ががんがんする。
「何故にこんな時間に叩き起こす? オレに恨みでもあるのか?」
「早起きって気持ち良いよね」
「オレを巻き込むのが、か?」
「は?で、時間の事なんだけど……」
「待て。待たんかいっ。次の質問だ。何故ここでパーティを開く?」
「だから〜。場所がここしかないんだよね。……って、駄目なの?」
「駄目だ。……さて、となれば質問は終わりだ。さっさと帰れ」
「ええ〜。私の誕生日を蔑にするとバチ当たるよ」
……頭ががんがんを超えて、ずきずきする。
「バチでもすり鉢でも、何でも当ててくれ。オレは学校行くからな」
「今日、休みだよ?」
「今日?……何日だ?」
「4月15日。国民の祝日。知らないの?」
壁に掛かってる、由起子さんがもらってきたのカレンダーを見る。
何やらオレには理解不能な抽象画が描かれてたりするが、日付が合ってりゃどうでもいい事ではある。
「…赤くないぞ。思いっきり平日だ」
「え?去年のじゃない?」
「正真正銘、今年っ! 1999年のカレンダーだっ!!」
「変だなあ。しいこさんの誕生日なのに……」
柚木は心底変だと、思ってるらしい。そんな顔をしながら、呟いてくれた。

……何故に、柚木との会話はこれほどまでに疲れるのだろうか? みさき先輩の胃袋と並ぶ七不思議だな。
「もういい。解った。とにかくオレは学校行く。柚木も、偶には自分の学校、行ったらどうなんだ」
「創立記念日だって。私の学校」
「12月にの終わり頃にも、んな事。言ってなかったか?」
「あ、あれ?今日のはね。新校舎の創立記念日」
じゃあ、何故。制服着てるワケだ? ……つっこみでも入れてやりたかったが。こいつとまともな会話しようなんてハナから無理な話だった。
「……そうかそうか。はいはい。良かったな、それは」
限界を悟ったオレは、二度寝ですっきりしない頭を冷やすべく。顔でも洗う事にし、適当に言い放ち部屋を後にした。


「はぁ……朝から疲れるったらないな…」
鏡に映る、怒った自分の顔をまじまじ眺めながら溜息をつく。
……交差点が額に出来ている。他多数、謎のファンタスティックなキャラクターや咲き乱れる色とりどりの花。誰と対戦したのか○×まである。

きゅっ。

軽い金属音をたてて、蛇口を捻り。水を少し手にとり顔を撫でる……
「油性か……」
朝も早くから、今日。二度目の仕事が転がり込んできた。


「よう、折原。今日は早い……って、珍しい。いや、本当に……」
オレと違い。真面目な沢口は朝が早い。
この時間にオレが登校してきたのが余程、珍しかったんだろう。そんな顔をしてオレに聞いてきた。
「今日は天気が良くないな。沢口」
「……晴れてるけど?」
窓の外を見ながら不思議そうに問う沢口。オレもつられて外を見る……
「ん……君の眼にはそう写ってるのか。それはいい事だ。大切にすべきだ」
「お、おい。大丈夫か?折原。……何かあったのか?」
「ん……今朝……ちょっとな……」
「そう……なにかあったら言って。いつでも相談にぐらいなら、のるから。僕に出来る事ならなんでもするし」
「ああ。ありがとう。沢口」
「いや、僕はみなみ……」
オレは友達の大切さを噛み締めていた。

「ふぅ……」
溜息と共に自分の席に「どかっ」っと腰を下ろす。いや……疲れた…マジで。

結局。油性マジックは幾ら洗っても、完璧には落ちない事が判明した。(外に出られる程には落ちた)
パジャマの袖口を、濡らしまくった挙げ句。諦め、洗面所を出ると。柚木が由起子さんの料理の腕前を賞賛していた。
お褒めの言葉の代償はオレの朝飯。……パンのストックも無かった。

長森に何か言われるのも嫌で、こうしてさっさと登校してきた訳だ。……当たり前の如く付いてきた柚木と。
「そういえばさ。学年上がっても、生徒の入れ替え無いよね。この学校」
柚木は何時の間にか一つ机が増えていたオレの横の席。そこに当然の如く、居座り不思議そうに聞いてきた。因みに、ここ最近。学校のある日は、毎日柚木と顔を突き合わせてる。
「この学校の方針だそうだ」
「ふぅん。……馴染んできたとは言え、私がまだ知らない事。いっぱいあるよね。この学校」
オレも解んない事だらけだ。例えば、髭が柚木がこの学校に来なかった日の事を心配していただとか。

「こうへ〜い」
感慨に耽っていると。何故だか、懐かしくすら感じる幼馴染の声が聞こえてきた。
「はぁはぁ……浩平、来てる?」
肩で息をしながら、教室の入り口付近にいた、手短な生徒を捕まえてオレの所在の有無を聞き出している。
「折原君?あ…今日は早く来てたよ。ほら」
名前も忘れた女生徒がオレの方に目を配らせた。
「ふぅ…良かったぁ……。ありがと」
長森は安堵の溜息と共に女生徒に礼を言い、オレの方に歩いてきた。

「よぉ……長森」
「浩平。どうして先に行っちゃったんだよ。心配したんだからね」
「……こいつのせいだ」
オレは柚木を顎で差した。
「あ、詩子さん。おはよう」
「おはよう。瑞佳さん。ご苦労様、折原君にも困ったもんだよねえ……」
「本当。いつも勝手なんだもん」
「何を言うか。ちゃんと書き置き残しておいただろうが」
「何処にだよ?そんなの見当たらなかったけど」
「揃えた靴の中に『……先経つ不幸をお許しください』って。無かったか?」
「はぁぁ〜……」
長い溜息。なが〜い溜息。
「いや、長森なら気がつくと思って……な」
「誰がそんなところにある書き置きに気がつくんだよ。大体。浩平の靴なんて、一足しかないじゃん」
当然、その一足は下駄箱まで履いてきた訳だ。
「由起子さんの靴なら他にもあるじゃないか」
「……浩平とまともに話をしようとした私が馬鹿だったよ」
何処かで聞いたような台詞を吐いてくれた。
「仲良いよね。二人とも」
オレと長森のやり取りをにこにこ眺めてた柚木がそんな事を口にする。
言いながら少し寂しそうなのは………ま、気のせいか。
「いわゆる腐れ縁だな」
「うん。まあね」
長森も苦笑しながら相づちを打つ。
「でも、金の切れ目が縁の切れ目って言うし。そういう関係。大切にするべきだよね」
「柚木にしては難しい言葉を知ってるじゃないか。……関係ない言葉だが。茜に金借りたまま返さないんで愛想、尽かされたか?」
「え…あ。茜じゃないよ。昔…お金貸したまま。返さなかった腐れ縁持ちは居たけど……」
……珍しく神妙な顔してる柚木。違和感ばりばりだな。
「柚木?」
「あ……ごめん。こっちの事。……ま。腐れ縁だからこそ大切にってことかな」
確かに……な。長森が居なかったら色々、苦労していただろう。
失ってから、気がついた事も、幾つかあったしな……
「…だとさ」
まあ、それを口に出すのも癪なんで長森に振る。
「あははっ。ま、そうかもね」
再び苦笑しながら、長森も適当に相づちを打ってくれた。
「毎朝。乱暴な起こしかたされるのも考えものだけどな」
「あぁっ。それって酷くない?毎日、わたしがどれだけ苦労してるか知らないんでしょ?」
「知らないも何も、起こしてくれなんて頼んでないだろうが」
「寝坊するのが解ってて、放っておくのも、悪いでしょ。だからわざわざ毎日起こしてるのに」
「何を言うか。今日だってきちんと起きて、こうして登校してきてるだろう。見て解んないか?」
「あ…そういや、今日はどうしたの? 珍しい……傘忘れちゃったけど…大丈夫かなあ」
「柚木が起こしてくれたんだ。ど〜だ、オレにはこういう人徳があってだな…」
いや。実際は毎朝、柚木に。6時に起こされるぐらいなら、遅刻したほうがマシなんだが……
長森と飽きるほど繰り返してる、いつものやり取り。……そういう事だな。

一度、失いかけた退屈で代わり映えのない日常。
そして、思いのほか簡単に戻ってきた退屈な……失いかけて大切な事に気がついた、日常。


−−−あとがき−−−

 ま…間に合った(^^;
詩子「奇跡だよね♪」
 うん(^^; ちょっぴし達成感(笑)
詩子「と、言う訳でかっぺえちゃんの『SSコーナー引退記念。4/15SS』の前編でした♪」
 目出度いねえ、今日は(しみじみ…)
詩子「学校はどこも創立記念日だしね♪」
 なんとか記念すべき日に、間に合いました(笑) あと2本程、日を見て投稿させていただきます。
感想は……すいません(^^; 読めてすらいないです(^^;;;
詩子「故に。これ、読み飛ばして下さい(笑)」
 そういう事です(^^; 元々、HPだけに置くつもりだったのですが……正式引退記念にしようかと(爆)
詩子「まだ引退してなかったのか?って声が聞こえて来るよねえ(笑)」
 ふっふっふ(^^;;; な〜ぜか、浩平の『消え』まで出て来る事になっちゃったし(^^;;; 
 かなり、勝手な設定で突っ走ってます(爆) 御了承下さい(^^;;;
詩子「ではでは〜♪」
 で、ではでは〜(^^;

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