Moon.2〜月下の忘霊〜  投稿者:神野龍牙


月下の忘霊
〜Ghost In The Moon Light〜

第壱章


夢を見た
最近になって、毎日のように見るようになった夢
どちらかというと、悪夢に近い夢
男───血だらけの青年と抱き合って繋がっている夢

もういい・・・
え?
もういいんだよ、晴香・・・
え・・・?

そう言い残して、男性は私をきつく抱きしめ息絶える

───夢
そう───これは夢だ、何度も見ている夢
この男性も知らないし、こんな状況に陥ったこともない

「晴香?ねぇ晴香ってば」

誰かに身体をゆすられているのに気が付き目を覚ます

「う・・・うぅん」
「あっ、起きた?もうとっくに講義終わっちゃったよ?晴香ったら開始と同時に爆睡してるんだもん」
「あはは、ごめんごめん。最近あんまり寝て無くて」
「彼氏が寝かせてくれないの?」
「だから、どうしてすぐそっちの方に話をもっていくの。私は彼氏なんか居ないって」
「なぁんだ、晴香って結構もてると思うんだけどなぁ
まぁ、冗談はこれくらいにして・・・でも、何だかうなされてたよ?」
「ちょっと、夢見が悪くて・・・」
「前に話してくれた、あの危ない夢?」
「危ないかどうかは判らないけど・・・そうよ」
「晴香の本性は、猟奇的な危ないヤツだから、私も気を付けないとなぁ・・・」
「あのねぇ・・・」
「あっ・・・冗談だよ。あはは、やだなぁ。でも、一回お医者さんに見てもらった方が良いんじゃない?」
「どうせ考えたって解らないし。この話はやめましょ・・・。それで、これからみどりはどうするの」
「この間ね、駅前に美味しいケーキ屋さん見つけたの」
「ふぅん」
「ねぇ、晴香も一緒に行かない?」
「え〜と・・・ゴメンね、今日は遠慮しておくわ」
「え〜〜?晴香最近付き合い悪いよぉ?」
「ごめんなさい、今日は本当に用事があるの」
「あ〜〜、さては晴香!やっぱり彼氏できてるんでしょ〜!女の友情ってはかないわね〜!」
「もう!そんなんじゃないってば!それじゃ私・・・急ぐから」

そう言って晴香は友人達と別れ
一人で駅の方へ歩いて行く途中に夢のことを考えてみる

どうしてあんな夢を見るんだろう。
あんな非現実なことが起こるはず無いのに・・・

何か言いしれぬ違和感が頭に残る
───ホントニ私ハアンナ体験ヲシタコトガ無イノ?

夢のはずなのに、まるで本当にあった事のように
鮮明に感触が残っている・・・・

──────ホントニアレハ夢ダッタ?

思いだそうとするたびに頭が痛む
まるで何かを拒絶するかのように・・・・

思い出せそうで思い出せない
悶々としながら人通りの無い通りにさしかかった時
不意に視線を感じ立ち止まる

「私───ストーカーの類って陰湿で嫌いなのよね・・・・」

数メートル離れた物陰から一人の少女が姿を現す
年の頃なら17.8歳くらいだろうか
セミロングの髪をいじりながら笑みを浮かべている

「なんだ・・・気付いていたんですか───あなたが、巳間晴香さんですね?」
「そうよ。・・・由依だったら気付かないかもしれないけどね」
「なるほど」
「で───あなた誰?」
「申し遅れました、私は村崎恭子と申します」
「で───その村崎さんが私に何の用かしら?宗教の勧誘なら間に合ってるわよ」
「そうですか・・・宗教の勧誘は間に合ってますか・・・だったら───」

恭子の周りの大気が渦を巻き、やがて胸元に集まってゆく

「なっ───それはまさか」
「すいませんね、こう言う事なんです。大人しく付いてきてくれるのなら
手荒な事はしないのですが、そうもいきそうにないですし」
「そう言うことならしょうがないわね・・・・」
「大人しく付いてきてくれるんですか?」
「そんなわけ・・・・ないじゃない」

晴香のその声と共に、近くの標識が”メキッ”っと言う音を立て折れた
見れば晴香の瞳も金色の皓り(ひかり)を放っている

「やたらと、公共物を破壊するのは感心出来ませんね」
「・・・・・おしゃべりな人間は自分に自信がないからというけれど、あなたはどうなのかしら」
「それは───あなたがこれから身をもって思い知るはずです」

恭子のその言葉が開始の合図であったかのように苛烈な戦闘が開始した

アスファルトが剥がされ、弾となって打ち出される
割れたガラスの破片がナイフのごとく互いを狙い合う

「今更───今更FARGOの残党が私に何のよう?」
「あなたがそれを知る必要はありません。我々に組みする意志は無いのでしょう?」
「あたりまえじゃない!あんな教団無くなった方が───」

そう言いかけたとき不意に一つのヴィジョンが晴香の頭に蘇る

───もういい・・・
え?
もういいんだよ、晴香・・・
え・・・?

最近よく見る夢?
違ウ夢ナンカジャナカッタ!
アレハ現実ニアッタコト?

「そう───そう言うことだったんだ」

繰り出される恭子の攻撃を避けつつ晴香は呟いた
氷が水になるように

頭の中でわだかまっていた違和感が
スーッと溶けていった

「戦闘中に他事を考えるのは危ないですよ」

恭子の放った力の塊が晴香にクリーンヒットし派手に吹き飛ばされる

「負けられない───私は負けられないのよ!私のせいで死んでしまった良祐のためにも」
「故人に理由を求めるのはどうかと思いますよ」
「うるさい」

晴香の怒声と共に力が放出され、恭子に襲いかかる

「うぐっ・・・」
「決まり───かしら?」
「まだ!・・・まだよっ!」

恭子の口から少量の血が吐き出される

「くっ・・・・迂闊だったわ。これだけの力があったとは」
「降参───かしら」
「晴香さん。あなたに、二つ謝らないといけないことがあります」
「何かしら?」
「一つは、あなたの力を見くびっていたこと・・・もう一つは───」
「もう一つは?」
「あなたを殺さないといけないかもしれないこと」
「私を殺す──あなたが?その様で何が出来るって言うのよ!
大人しく手を引いて。そして──二度と私の前に現れないと言うのならば、許してあげるわ」
「それは出来ません」
「だったら・・・・あなたを殺すわ。さようなら───村崎恭子さん」

晴香の周りに強い力が集まり始める

「いいえ───あなたは私に勝てない」

そう、呟いくと同時に恭子の姿がフッっと消える
次の瞬間、晴香は地面にゆっくりと沈んでいき、血が広がっていく

「中途半端に力が使えると言うのも考えものね。生半可に力だけ強いから
ろくに手加減が出来なかった───大人しく私の言葉に従ってくれれば
こんな事にもならなかったのに───ごめんなさい、巳間晴香さん」

少女のバックから携帯の電子音が響く

「はい───任務の方は先程終わりました。少々手こずりましたがターゲットの巳間晴香は恐らく
もう我々の支障になることはないと思われます。はい───解りました、今からそちらに戻ります」

電話を切り、恭子は溜息をもらした
血塗れで、倒れている晴香に目を向け、恭子は寂しそうに呟いた

「明日は我が身・・・・か」

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今更・・・・MOONですの