演劇部部日誌その壱 投稿者: 神野龍牙
演劇部部日誌


秋が終わりを告げ、本格的な冬の寒さが訪れてきた12月のある日
私は、ある人物を捜すために屋上への階段を駆け上がっていった
ある人物とは、川名みさき
私の幼なじみである

彼女は、目が見えないと言うハンディを背負っているが
先天的な物ではない、彼女が小学生の時に見えなくなったのだ
詳しい話は、みさきはしてくれなかったが・・・
私も、深くは聞かなかった

階段が終わりを告げ
鉄の扉が見えてくる
ドアノブを捻り重いドアを開く

ひゅ〜〜

とたんに身を切るような寒さが吹き付ける

うぅ・・・寒い
屋上を見回してみるが、みさきの姿は見えない

「あれ?ここだと思ったんだけど・・・・勘が鈍ったのかな?」

こんな時期に、屋上に来る物好きはさすがにいないか・・・・
そう、諦めかけたとき一人の男子生徒の姿が目に入った

ちょうどいいここに来てるかもしれないし、聞いてみよう

「ねぇ、あなた」

私がそう声をかけると、その男の子は

「オレか?」

と短く答えた

「ここに、ぼーーーーっとしてて脳天気そうな女の子来なかった?」
みさきには悪いけど、我ながら上手い表現だと思う
あの子って、結構ぼーっとしてるところあるから
そんなことを考えつつ訊ねると、

「確かに来たぞ」

そう答えた
BINGO!やっぱりここに来たんだ
あとは、この子が何処にいるか知ってればいいんだけど・・・
そう期待しながら、彼の続きの言葉を待った

「そこのフェンスをよじ登って飛び降りた」

まさか、そんなことは・・・・
いやでも、みさき最近なんだか、いつも以上にぼーっとしてたし
もしかしたら悩み事でもあって、思い詰めて・・・
悪い方、悪い方に考えがいく

私は、大慌てでフェンスに駆け寄り下を見た

・・・・・・・・・・

よかった、いない
安心すると、だんだんその男の子に腹が立ってきた

「・・・いないじゃないっ」

そう、睨みながら言うと

「おかしいなぁ?」

と、とぼけて見せる・・・
そっちがそういう気なら私にも、考えがある

おもいっきり、怪訝そうな顔をし
その子の顔をのぞき込む
そうしておもむろに、ほっぺたを引っ張る

「いたたたたた」

その子が非難の声を上げる
ちょっと、気が晴れた・・・

「もしかしたら、みさきの変装かと思ったんだけど・・・」

「そんなわけあるかっ!」
かなり怒ってるみたいだ

「そうよね、ごめんなさい」
一応大人しく謝っておいたほうがいいだろう

「わざとやってるんじゃないのか?」
う゛っ・・・鋭い・・・
早めに退散した方が良さそうだ

「それじゃあ、もし、ぼーーーーーーーーっとしていてていかにも
何も考えなさそうな女の子をみたら深山が探してたって伝えてね」
そう付け加えて立ち去ろうとしたが

「だから飛び降りたって」
ひつこいなぁ、こっちは急いでいるのに

「・・・お願いします」
私はそう念を押して屋上を後にした

あと、みさきが行きそうなところと言えば
食堂か・・・そっちにも行ってみよう

階段を駆け下り、渡り廊下を駆け抜ける
そして食堂の前にたどり着く

「みさきーーーーっ!ここにいるのは判ってるんだから
大人しくでてきなさい!!」

そして食堂を見回す
食堂にいる生徒達が一斉に私の方に目を向ける
・・・・・いない・・・

「あっ・・・あはははは」
き・・・気まずい
みんなの視線が痛い
どうしようかと、悩んでいたとき
食堂の中に見知った顔を見つける
「あっ、澪ちゃん、こんにちは」
少しわざとらしかったが、
まぁ、気にしない気にしない

この子、上月澪は
私が部長を務める演劇部の部員だ
みさきと一緒で、この子もハンディを背負っている
『先輩、こんにちはなの』
スケッチブックにそう書き私に見せる

そう澪ちゃんは、言葉を話せないのだ
だから、こうやってスケッチブックに文字を書きコミュニケーションを取っている

「澪ちゃん、みさき見なかった?」

そう訊ねるとスケッチブックに
『ここでは見てないの』
そう書いた
この子は決して嘘を付くような子ではないので
見ていないと言うことは、ここには来ていないのだろう

「それじゃ、また、後でね、部活に遅れちゃダメだよ?」

そう言い残して私は脱兎のごとく食堂を後にする

ふぅ・・・全く何処に行ったのかしら

一度教室に戻ってみよう
そんなことを思いつつ階段を駆け上がる

そうして三階にたどり着いたとき
屋上からの階段を降りてくる、みさきの姿を見つける

「みさきっ!やっと見つけた」

よく見ると先程の男子生徒と一緒にいる

「・・・えーっと」

みさきが、少し後ずさりする

「嘘つきっ、やっぱり屋上にいたじゃない」
とりあえず、あれだけ言ってたのに、みさきをかばっていた
男子生徒に文句を言う

「本当に飛び降りたんだって」
全く、嘘を突き通さなくても
素直に謝れば許してあげるのに・・・
「だったらどうして、屋上から出てくるのよ」

「がんばってよじ登ったんだ」
「うん、がんばったよ」

この二人はまったく
私は怒りを通り越して、あきれてきた

「・・・・はぁ」
私が大きく溜息を付くと
みさきがすまなさそうに

「ごめんね、雪ちゃん、ちょび髭はわざとじゃないんだよ」
みさき、何のこと言ってるんだろう?
「・・・ちょび髭ってなに?」
すると横にいた男の子が

「だから、違うって・・・それで深山さんはどうして先輩を追っかけてたんだ?」
そう訊ねてきたので、別に隠す必要もないので正直に
「掃除当番さぼってどっかいってたから」
そう答えると、その男の子も黙ってみさきを見つめる

二人の沈黙に耐えれなくなったのか
俯いていたみさきが申し訳なさそうに口を開く

「・・・えーっと、ごめんなさい」
まったく、これで反省してくれるといいんだけど

「まぁ、今回は許してあげるけど」
まったく、しょうがないんだから

「ごめんね、雪ちゃん、この埋め合わせはするから、ね」
そう言われて、私は一つの名案を思いついた

「期待してるよ」
と、一応答えていおいたが

「じゃ、俺はこれで帰れるな」
みさきにが向かって横にいた男の子そう言う

「うん、また会おうね浩平君」
みさきがそう告げると
その浩平と呼ばれた男の子は
「あぁ」
と短く答えた

みさきは嬉しそうな笑みを浮かべて
「ばいばい、浩平君」
と別れを告げた
しかしこんなに嬉しそうなみさきの顔は
久しぶりのような気がする

「さてと・・教室に戻ろうか」
私はみさきにそう促して教室の方に歩き始める

「まってよー、雪ちゃん」
みさきが後ろから小走りで走り寄ってくる

「みさき、ところであの浩平って子だれ?」
私は、ふと疑問に思ったのでみさきにそう訊ねた

「浩平君は、浩平君だよ?」
みさきは真顔でそう答える
私は、軽いめまいを覚えたのでそれ以上追求するのは、やめておいた

そうだ、さっきの埋め合わせの件だけど・・・

続く