第惨だーん 投稿者: 神野龍牙
第三弾


澪のSS

キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り終わると同時に先生が
「はい!今日の授業はここまで」
と告げる
長い授業が終わり、退屈な一日の授業から解放された子供達から
教室のいたる所から、一斉に歓声があがる

「そうだ!望ちゃん、ちゃんと残ってるようにね」
そう言われ、望と呼ばれた女の子が不満の声を挙げる
「自分の責任でしょ?
 文句を言わないの、先生も一緒に考えてあげるから」
しょうがなさそうに、先生が言う
「はぁい、先生ありがとう」
嬉しそうに望が答える

夕陽が教室を包む中、
二人は30分ほど望の机に向かい合って座り、勉強をしていたが

「先生、今日はここら辺にしておこうよぉ、あとは家でやってくるから」
じっとしているのが苦手な望らしい言葉だ

「だ〜め、そう言って望ちゃん、やってきたこと一回もないでしょ?」
そう先生に、言われると、望はしゅんとする
「それに、今日出した宿題もあるんだから、2日分も1日で、できないわよ?」

どうやら、望は、宿題をやってこない常習犯で、見るに見かねた先生が
放課後に面倒を見ているようだ

「今日の分が済んだら、一つお話をしてあげるから、頑張ってやろうね?」

そう聞いたとたんに、望は嬉しそうに
「うん!頑張るね、先生のお話おもしろいから、私とっても、とっても好きなの」
嬉しそうな望を見て、微笑みながら先生は
「今日は、とっておきのお話をしてあげるからね、
 だから早く終わらせちゃおうね」
「うん!」

望がノートと格闘すること、さらに30分
「できたぁ〜!先生できたよ!」
勢いよくノートを見せる
「え〜と、間違ってるところも無いみたい
 やればちゃんと出来るのに、やってこないのが望ちゃんらしいね」

望はそう言われて、えへへと照れ笑いをし
「どうも教科書開くと眠くなっちゃうの、それより、先生お話をして!」
身を乗り出すように、望は先生に顔を近づける
「もう、褒めてるんじゃないのに・・・
 まぁ、良いでしょう」

「これからするお話は、先生がまだ教師になり立ての頃の話しなんだけど
 少し長くなるけどいいかな?」
先生は少し時計を気にして、そう望に尋ねた
「うん!大丈夫だと思うよ?先生と一緒だったと言えば
 お母さんも怒らないと思うし・・・」
その答えを聞いて、安心したのか先生は話を始めた

でも、何故だろう
教師になって25年くらいたつけれど、一度も話したことはなかったのに
そんなことを考えながら・・・・

それは私が教師になり、もうすぐ一年が経とうかと、3月も終わろうとしていた時期の出来事だった
私が、廊下を歩いているときに不意に服の裾を引っ張られ
下を向くとその子がいた
今にも泣きそうな表情で、私を見ていた

「どうしたの?」
そう訊ねてもその子は返事をしなかった
名前を聞いても何処のクラスか聞いても
ただ、うつむいているだけ・・・・

ここにずっと立っているわけにもいかないし
この子のことを知っている先生方がいるかもしれないので
私は、職員室につれていくことにした

「とりあえず、職員室に行きましょう・・・ね?」
そう言うと、その子は小さくうなずいた

職員室に入るとその子は、不思議そうにあたりをキョロキョロと見回し始めた
忙しそうに歩き回る中年の先生、たばこを吸いながらテストの採点をする先生
職員室で働く先生たちを、じっと眺めているうちに緊張も解けたのだろうか
少しずつ笑みをこぼし始めた

「こっちに来て、ここに座って」
私は、その子を手招きし自分の机のイスに腰をかけさせた
「ねぇ、あなたはここの学校の生徒?」
そう訊ねると、その子は首を左右に振った・・・
「そうなの、それじゃ、この学校に何か用事でもあったの?」
コクリとうなずく
「どんな、用事なのか教えてくれないかな?」
その子はキョロキョロとあたりを見回し、机の上にあった紙に
ポケットから出したクレヨンで、お世辞にも上手とはいえない文字で
『スケッチブックをさがしにきたの』
とだけ書いた

「そっか、でもどうしてこの学校にあなたのスケッチブックがあると思うの?」
そう訊ねると、その子は泣きそうな顔をして
『おともだちが、スケッチブックをここのどこかにおいてきたっていったの』
なるほど、そう言うことか・・・

「そうなの・・それじゃ私も探すのを、手伝ってあげよっか?」
そう言うとその子は嬉しそうに大きくうなずいた

私とその子は、生徒がいない学校の中を探し回った

階段、廊下、教室、特別教室、体育館、体育倉庫・・・

思いつく限りの、ありとあらゆる場所を探し回った
でも、見つからなかった・・

「ねぇ、私が新しいスケッチブックを買ってあげるから、あきらめよ・・・・ね?」
私がそう告げても、その子は首を縦には振らなかった・・・

私が途方に暮れていると、不意にその子が駆け出しはじめた

「ねぇ・・・何処行くの?」

私は、その子を追いかける
私がその子に追いついたとき
ゴミ捨て場で嬉しそうに、汚れたスケッチブックを
その小さい体にしっかりと、抱きしめていた・・・

「そのスケッチブックなの?」
そう訊ねると、首を大きく縦に振った
見ているこちらまで嬉しくなるそんな風な
はち切れんばかりの笑みを浮かべて・・・・

「よかった」
ふと、時計に目をやると、もう17時を回っている・・・

「ねぇ、そろそろお家に帰った方が・・・・」
そう言いかけたとき、すでにその子の姿は見えなくなっていた・・・

「先生のお話は、これでおしまい、面白かった?」
望は、見ているこちらまで嬉しくなるような
はち切れんばかりの笑みを浮かべて
「うん!すごく面白かったよ!」
そう答えた

そっか・・・
似てるんだ、あの子の笑顔と望ちゃんの笑顔が

そして時計に目をやる
もう短針が7時を指している

「ずいぶん遅くなっちゃったね、今日は先生がお家まで送ってあげるね」
そう言うと
「うん!先生ありがとっ!正直言うと、お母さんに怒られないかちょっと、不安だったの」
そして、望ちゃんを連れて車に乗る

この子の親も心配してるいるだろうから、一応謝っていった方がいいだろう
そんな事を考えているうちに、望ちゃんの家に到着する

そして、ドアベルを鳴らし、しばらく待つ

ガチャリと、ドアが開き望の母親が出てくる

どこかで出会ったことがある・・・
そんな気がしてならない

そして、手に持ったスケッチブックには
『どちら様でしょうか?』
そう書かれている


                          おしまい