第二弾 投稿者: 神野龍牙
第二だ〜ん

瑞佳のSS


 6月の中頃、梅雨時には珍しく晴れた街を
俺は無邪気に笑いあっている子供達や,肩を抱き合い歩く恋人達の横を、
すり抜けながら走っていた

時計に目を向ける・・・11時55分
「ヤバイ・・・・完全に遅刻だ・・・・・」
俺は、少し速度を上げ約束の場所の公園に急ぐ
飛び込むようにして、公園に駆け込み、時計に再び目を向ける、

約束の時間は11時30分・・・・時計は12時5分を指している
どう考えても30分以上の遅刻だ

「はぁっ・・・はぁっ・・・まだ待ってくれてるかな?」

俺にとっては、もう掛け替えのない存在・・・
息を整え、大切な人の姿を捜す

・・・見付からない・・・

怒って帰ったのかな?
そう思い始めたとき、急に視界が暗くなった
「ふふふ・・・だぁ〜れだ」
突然のことで慌てたが、その声を聞いて、俺はホッとする

「よかった・・・長森・・・・・待っていてくれたんだ」
そう答えると長森は、俺の目を覆う手をそっと離してくれる
晴れた日差しが少しまぶしい
「長森待った・・・よね?・・・ゴメン!」
長森の方に向き直り、謝る
「ううん?ちゃんと来てくれたからいいよっ!」
長森はいつも、日差しに負けないような笑顔で、そう答えてくれる
「でも、どうしたの?少し遅いから心配しちゃった・・・」
隠す必要もないので、俺は素直に答えることにした、
「ゴメン・・・昨日の夜に住井が来てさ、懐かしくなっちゃって
 二人で話しながら遅くまで高校の時のアルバムを眺めてたんだ」
「そっか・・・でも、早いよね・・・
 私達が高校を卒業して、もう6年も経つんだよね
 高校の時・・・色々あったね」

 長森は、感慨深そうな顔をして噴水を見つめている

 今にして思えば高校の時、俺は長森に酷いことばかりしていた気がする
 
 きっかけは確か・・・住井から回ってきた「くじ」だった、
クラスメートの男子全員が温かく見守る中、「意中の彼女に告白できる」っていうやつだったっけ?
俺は見事にくじの当たりを引いてしまい意中の彼女に告白をするハメになってしまった
そして俺は、冗談だと解ってくれそうな長森に告白をすることにしたんだ・・・

でも、長森は真に受けてしまった

馬鹿な俺は、その事に腹を立て長森を冷たくあしらったり、酷い仕打ちをしたりした
なのに、長森は俺のことを好きでいてくれた
今にして思うと、俺は心のどこかで、ずっと長森のことが好きだったのかもしれない・・・
自分では、気付かなかっただけで・・・
いや・・・幼なじみと言う、曖昧な関係に終止符が訪れるのが怖くて、
気付かないふりをしていたのかもしれない・・
だから・・・

長森もそう思っているだろうって、勝手に思いこんでいて
俺の望んでいた答えと違う・・・OKの返事を貰ったとき、怒りを覚えたのかもしれない・・・
あの頃は・・・まだガキだったなぁ・・・

そして・・・
クリスマスの一件・・・
その時になって初めて、俺は自分の本心に気が付いた、
『長森の事が好きだ』って言うことに・・・・

でも、そう気付いたときはもう遅かった
その時に俺の存在はすでに稀薄になっていた
そして俺は、長森の前で存在を失った・・・

俺の存在が消失しても、長森はずっと俺のことを好きでいてくれた
俺のプレゼントしたぬいぐるみのメッセージを、
泣くのを必死でこらえて聞いてくれていたのだろう・・・・

もしかしたら・・・・
こうやって存在を取り戻せたのは、
長森のおかげなのかな?
長森があの一年間ずっと、俺のことを忘れないで
好きなままでいてくれたから、俺は再び戻って来れたのかな?

「・・・平・・・ねぇ・・・浩平ってば・・・」
気が付くと長森が、俺の顔を心配そうに覗き込んでいる
「ん・・・ゴメン、ちょっと考え事してたんだ・・・・」
不思議そうな顔をしている長森に
「さぁて腹も減ったし、長森・・・そろそろ飯でも食いに行くか?」
そう言うと長森は少し不満そうな顔をして
「もう!浩平ったら、私達は明日、結婚式あげて夫婦になるんだよ?
 長森じゃなくて・・・瑞佳って呼んで欲しいなっ!」
「ゴメン、瑞佳・・・つい今までのクセで・・・」

瑞佳は、はにかんだ笑顔を見せ、嬉しそうにいつも言ってくれる
「あはっ!何だか照れるね・・・
 そうだ!高校の時に約束した
 お好み焼きを食べに行かない?」

瑞佳は、そう微笑むと俺の腕に手を絡めてきた・・・

太陽はいつまでも、二人を祝福するかのように輝き続けている
夏間近の6月中旬の土曜の昼下がりの出来事だった・・・・・

                           おしまい