ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十九幕 投稿者: ニュー偽善者R【読み飛ばしOK】
第十九幕「夢追い人壱 後編」


 七瀬はひたすらに走っていた。ゆるやかな山の斜面だが、雑草や低木が足を取り走りにくい。
「く・・・!絶対追いついて見せるんだから!」
 七瀬は旅の途中で遭遇した北村を追っている。七瀬が北村に固執する理由。それは数年前のことにある。


 当時七瀬は雁貫を不本意ながらも受け継ぎ、赤月宗に修業の旅に駆り出されていた。だが、まだ子供ともいえる七瀬には市でのめずらしい品々は魅了の物であった。
 北村との出会いも七瀬が市の活気にあてられさまよっていた時のことである。
「さあさあ!みてらっしゃい!来てらっしゃい!世にもめずらしい龍の髭だ!どうだい、そこの娘さんかわないかい?」
「え〜、偽物なんじゃないのぉ?」
 人込みの中、自分を指名され七瀬を舞い上がりながらも冷やかす。
「何言ってんだい。これさえ買っておけばどんな魔よけも無用の逸品だよ!」
「う〜ん」
 七瀬は特に欲しいわけでもないが、そのめずらしさに心惹かれていた。そして、懐から路銀の入った小袋を取り出し中を覗くが考え直して元に収めてしまった。
 だが、七瀬は無防備であった。七瀬の後ろに立っていた男は路銀の量を一瞥していたのだ。
 男の目が光り、素早い手つきで七瀬の懐に手が伸ばされた。男はスリだったのだ。そして、次の品物に目をとられていた七瀬は気づくはずもない。金をするだけでなく男はおまけも残していった。
「?」
 七瀬は突然胸に不可思議な感触を覚えた。だが、すぐにそれが胸を触られたのだと気づく。
「きゃああああーーーーーーっっっ!!!」
「わ!?な、何だ!?」
 七瀬が突然悲鳴を上げたので、隣にいた男が驚いて七瀬を見た。男は背中に見慣れない刀を背負っている。
「ちょっとあんた!今、わたしの胸触ったでしょう!?」
「はぁ?」
 男はあらぬ疑いをかけられ目を点にさせている。
「この痴漢め〜〜〜!許さないわよ!」
 そう言うや否や七瀬は雁貫を鞘jから引き抜く。周りの野次馬達はどよめきながら後ろにひいた。
「おいおい、子供がそんなものを振り回したら危ないぞ」
「うるさいわね!」
七瀬は怒りに任せて突進していった。


(今考えただけでも腹が立つ!)
 言うまでもないが七瀬が立ち向かったのが北村である。二人の対決は見るも無残な七瀬の敗北。
 幾ら雁貫の継承者だからといっても、七瀬にはまだ使いこなせていなかったのだ。そのため北村に峰打ちで返り討ちにあっていたのだ。
(この恨み・・・ただじゃ済まないわよ!)
 七瀬は怒りの目で北村を追っていた。姿は見えないが、足跡からして方向は間違いない。
七瀬は確実に北村を追いつめていた。
 そして、鬱蒼とし緑の視界が開けて目の前にはふもとの村が見えた。
「いた!」
 同時に必死に逃げる北村も見える。七瀬は足を早めて、雁貫を抜き放つ。
「待ちなさい!ここで勝負をつけるわ!」
「くっ!何て足の速さだ!」
 北村は観念したのか七瀬を迎え討とうと、背中の刀を抜き放った。
「勝負!」
「!?」
 七瀬は雁貫を振り上げると、まだかなりある距離を尋常じゃない跳躍力で北村に襲いかかった。落下の勢いと合わせて強烈な一撃が振りおろされる。北村の刀はそれを横腹で受け止めようとしたが、甲高い金属音とものすごい重みがかかり、あっけなく刀を弾かれた。
「ぬ!?こやつ!」
 北村に焦りの色が走る。それとは逆に七瀬はにやりと笑って着地した。素早く構え直し、北村が腰の長剣を抜かせる暇を与えずに剣をふるった。鋭い斬撃は北村の体ではなく腰帯を捉えた。北村が間一髪体をそらせたのだ。だが、その無理な動きに体勢を崩して北村は転んでしまった。
「ふふふ・・・いつかの借りを返してやるわ」
「ちょ、ちょっと待て!だからあれは誤解だって!」
「安心しなさい、命は奪わないから」
 七瀬はうれしそうにほほ笑みながら、北村を見下ろしている。その拳は力一杯に握られているのがわかる。
「ま、まさか・・・」
 北村に恐怖が走る。
「待ちなさい!」
「!?」
「・・・あ」
 村の方向から七瀬を制止する声が響いた。女の声だ。
七瀬がそちらの方を見ると、こちらに髪の短いこざっぱりとした女性が寄ってくるのがわかる。
「どんな事情があるかはわかりませんが、どうかその方を許してくれはまいりませんか?その方には御恩があるのです」
「あなたは・・・?」
「申し遅れました。小坂由起子と言います」
「ええっ!?もしかして折原の!?」
その名を聞いて七瀬は我知らず口を開いていた。そして、由起子もまた驚いていた。
「折原って・・・?まさか浩平のことですか?」
「やっぱり!」
思いがけない出会いに顔を輝かせる七瀬に、北村は呆気にとられていた。


「そう・・・そんなことがあったの」
ふもとの村の一軒の家で、吉三と合流した七瀬は自分の身分とこれまでのいきさつを説明した。
この民家は北村が間借りしているもので、中では由起子だけでなく髭や数人の僧達が生活していた。
聞くところによると襲撃の後に命からがら逃げた所、刀剣の仕入れで知り合いの北村頼ったのである。
「折原の行方は依然として掴めません」
「大丈夫、きっと会えるわ。瑞佳さんにはつらいでしょうけど大丈夫」
七瀬は希望を捨てない由起子が不思議でならなかった。長い間、瑞佳と同じくらい浩平と過ごしてきた由起子。その目には浩平はどう映っているのだろう?
「でも、このままじゃ・・・・・」
「七瀬さん」
「はい?」
由起子はいままで以上に厳しい顔を見せた。その表情は何かを伝えようとしている。
「あの子、浩平には妹がいたのは知っているかしら?」
「いもうと・・・・・?」
初耳だ。瑞佳にすら聞いたこともない。そして、それが何の関係があるのか?
「浩平が何故姿を消したのかは多分わかっているわ・・・・・・」
「本当ですか!?」
「運命は必ず導く。そして、真実はいつか見いだされるもの、例えそれがどんなに悲しいものでも・・・・・・」
これから由起子の口が紡ぐだろう言葉。それは七瀬に驚愕と新たな道を示したのであった。


由起子からの衝撃の事実を聞かされた後、七瀬は吉三と共に旅立ちの準備に入っていた。
同時に北村も本来の目的である妖刀探しに合わせて、由起子達の総本山までの護衛を努めることになった。
「瑞佳達に会ったら行き先を伝えてね」
「任せろ。それに鍛冶屋仲間達にもこのことは伝えておく」
いまだ浩平を探し続ける瑞佳への、新たな希望への導き。これを七瀬は頼んだのだ。七瀬は真実を求めて旅立つことになる。



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なぜなにONE猫!
前半ギャグ風味で後半は核心の片鱗!ふふふ・・・何て強引(^^;
ちびみずか「うーん・・・なんともいえないてんかいだね」
ちなみに核心につてはいまだふせます(爆)さて、核心はしばらくお預けとして・・・・
ちびみずか「じかいは?」
天ノ月紘さんの登場です!なぜ夢い追い人壱だったのかはこのため(^^)
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
ちなみに瑞佳様SIDE!いい加減再会させないと(^^;;まだしないけどね。それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第二十幕「夢追い人弐」ご期待下さい!


解説・・・あるわけない(^^;;