ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十六幕 投稿者: ニュー偽善者R【読み飛ばしOK】
第十六幕「眠れる獅子 前編」


長い間ここにいる気がする。

虚脱感と寂寥感に囚われた世界。

別に嫌なわけではない。

しかし、閉ざされたこの世界で何を知り得ようか?

最近、「外」が騒がしいのもあり、俺は眠りから目覚めることにしたのだ。


伊豆の国境を少し越えた街道。
「みけよー、お前の知り合いってどこにいんだよー」
「だー!うるさい!今思い出してる!」
「・・・大丈夫なんですか?」
「た、多分・・・」
浩平達は伊豆にたどり着いた。それはいい。
だが、問題があった。肝心のみけの「知り合い」の居所が掴めないのだ。
みけ曰く、ずいぶんも前のことらしい。浩平と茜に不安がよぎった。
「前に会ったのは・・・こっから見える山を越えた漁村だったんだ」
みけの指す先には遠く、木々が生い茂る山々が見える。
これは伊豆の半分を占める天城の山であった。
それを越えるとすれば、ここからなら二、三日はかかるだろう。
「どうせあてなんかないからな・・・しゃあない、行ってみるか」
「・・・そうですね」
こうして彼らは険しい天城の山へと入ることになった。


浩平達が天城の山に入って最初の夜。浩平は焚き火の夜番をしていた。
だが、昼間の強行軍もあり、疲れでうつらうつらとしていた。
そして、浩平は夢を見ていた。そう、夢なのだ。


ぼくは一人になった。家族のいない一人ぼっちにだ。

そんなぼくをおばさんは、どこかに連れていった。

思い出の積もったわが家を離れて・・・・・・。


『どうして泣いてるの?』

その女の子は泣きじゃくるぼくに聞いた。

あの日以来、ぼくは泣いて暮らしていた。

『かなしいことがあったんだ』

かなしいこと。

そうとてもかなしいことだ。

忘れることのない心の傷だ。

『いつになったら一緒に遊べるのかな?』

一緒に遊ぶ?そんな日は来ないだろう。ぼくは泣くことしかしないのだから。

『きみはどうしてここにいるの?』

でも、そう聞かずにはいられなかった。

こんなぼくのそばにいてくれる女の子。

ぼくには不思議でたまらなかった。

『あなたと一緒に遊びたいから』

『無理だよ・・・ぼくはずっと泣いて生きていくんだから』

『どうして?』

『永遠に続くと思ってたんだ。幸せな日々がずっと・・・・・』

本当にぼくはそう思っていた。

幸せな日々が永遠に続く。

でも、永遠なんてなかったんだ。

でも、彼女は言った。

『あるよ』

『永遠はあるよ』

その言葉に続いて、彼女の唇がちょこんとぼくの唇に触れた。

その時、ぼくの中で何かが変わった。

『・・・ねえ、きみの名は・・・?』

『わたしは・・・・・・』


「・・・・・?」
浩平はいつの間にか目覚めていた。
まるで夢が続いているかのように、浩平の意識はぼんやりとしている。
(・・・夢?)
とても懐かしい感じがした。
自分の空白を埋める大切なことにも感じた。
「・・・・・眠れないんですか?」
焚き火の向こうで茜が体を起こしていた。
「起こしたか?」
「・・・いえ」
茜の顔を見ていると、浩平は不思議な感慨を覚えた。
誰か茜のような知っている人がいたような。
そして、浩平はその感慨にとらわれ、思うままのことを口に出していた。
「誰かが俺を待ってる気がする・・・」
「恋人ですか?」
茜の言葉には感情が含まれていたわけではない。
「よくわからない、はっきりしないんだ」
「・・・・・・いつか、必ず思い出します」
「だと、いいけど・・・さて、そろそろ交代だな。起きろ、くそ猫!」
傍らで丸まるみけを小突いて、文句を言われながらも浩平は眠りにつくことにした。
そして、茜は浩平の話を聞いて、その心中は荒れていた。
(・・・・・浩平を待つ存在)
そんな人物がいたとしたら、茜はその気持ちを痛いほど理解できるだろう。
突然、消えた大切な人。恋人であればなおさらである。
そして、茜はあることに気づいた。
浩平と司は似ているということだ。姿や性格ではない。
(・・・突然消えた存在。あいつも自分を探しているの?)


永い眠りだった。

戦いに疲れ果て、この地にとどまるようになりどれくらいが経つだろう?

二十年?いや、五十年ぐらい経っているかもしれない。


ほとんどを眠りで過ごし、かけがえのない思い出を夢にしていた。

大切な・・・二度と帰ることのない日々を・・・・・・。


彼、姿からすれば人間の男なのだが、変太の思考はそこで中断された。
漁村の離れた位置にあるこの小屋に誰かが近づいてくるのを察知したからだ。
近づいてくるのは複数だ。変太の鋭敏な感覚はあることに気付いた。
人間の匂いだけでなく、妖怪の匂いも混ざっている。
変太は不思議に思い、近づいてくる気配の方を崩れ欠けた壁の隙間から見た。
すると、前方からは見知らぬ人間の男女二人と、一匹の猫がこちらに向かっていた。
もちろん、浩平達である。変太は浩平と茜は知らぬが、みけには覚えがあった。
「ほう・・・あの時の猫又か」
十年ほど前のことを変太は思い出している。
この険しい山を越えた漁村に迷いこんだ人間と猫一匹を変太は助けたのだ。
猫というのはもちろんみけを指す。
変太は猫又のみけが人間と行動を共にすることを驚いた。
何故なら彼自身が妖怪だからである。
人間の姿と変化している彼は、ここに人間として暮らしていたのだ。
だが、人間として生活する内に気付いたのだ。
人間と妖怪との格差というものを。
(・・・?あの剣は)
変太は闇雲に気付いた。


「ここだ。間違いない!」
自信ありげにみけが髭を揺らしている眼前に広がるのは、朽ち欠けている小屋。
どう見ても誰も住んでいるようには思えない。
「来ても無駄だったようだ。帰ろう茜」
「またんかい!中を見てから言え!」
「だって、これじゃあ化け物だって住まないぜ?」
「でも、確認するぐらいの必要はあります」
「そうだそうだ・・って、おい!?」
茜の言葉を押すようにしてみけはうなずくが、浩平はその首ねっこを掴み持ち上げた。
「な、何をする気だ!?」
「中を見るのは・・・お前だ!」
「どわぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
みけを持ち上げた浩平は振りかぶると、廃屋に向かってみけを投げつけた。
弾丸よろしくみけはもろい壁を突き破っていった。
「・・・浩平、ひどいです」
「無駄足を踏ませた報いだ」
「まだ、わかりません・・・」
そう言って、希望を込めた視線をみけの消えた廃屋に向けた。


「いたた・・・あの坊主、いつか殺す!」
無情にも浩平に投げ飛ばされたみけは、暗い小屋の中を見回した。
湿った空気が鼻につく。
「やっぱいないのかぁ・・・」
みけがそう呟き、外へと足を向けた時。
暗がりの中で何かがうごめいた。
(・・・何かがいる!?)
危険を感じ外へと飛び出そうとした時、押し殺した声と共に、みけの首筋に銀色の刃が突きつけられた。
「何をしにきた・・・・」
「お、おいらは決して妖しいものじゃ・・・」
「嘘をつけ・・・あの剣を持っている者が、只の人間ではない」
「おわわ!」
言葉が止むとまたもやみけは首を掴まれ、例のごとく外に向かって投げられた。
「どわぁぁぁ〜〜〜〜!どうしておいらがこんな目に〜〜〜〜ぃぃぃ!!!」
そんな悲鳴と共にみけは外へと飛び出し、浩平達の前に落ちた。
「も、戻ってきました〜〜〜・・・」
それだけ呟くと、みけは気絶した。
「みけ!何があったんだ!?」
「・・・浩平!」
茜の言葉に浩平は前方を見た。すると、廃屋から一人の男が出てきた。
男と浩平の目が合う。
すると、闇雲が鳴動を始めた。
「妖!?」
「やはりな・・・外が騒がしいと思ったら奴が目覚めたのか・・・・・・」
「お前!一体何者だ!?」
浩平は柄に手を置きながらじっと睨みつける。
変太は表情を変えずに浩平を見据える。
まるで観察しているようだ。
しばしの間の後、変太は口を開いた。
「ふむ・・・どれほどの物か見せてもらおうか」
そう言った瞬間、変太からものすごい妖気が放たれた。
闇雲もそれに呼応して強く反応する。
(こ、こいつは・・・!)
浩平は変太の強さを感じていた。
半端な奴ではない。
そして、変太の体に変化が起きていた。その両手が変化し刀と化す。
「行くぞ・・・!」
変太は刀を構えて浩平に突進した。
物凄い勢いで二つの刃を振りかざし、浩平へと襲いかかる。
「速い!?」
辛くも闇雲を抜き放ち、それを受け止めた浩平。
だが、変太はすでに次の攻撃へと移っている。
獣のようなしなやかな動きで浩平の背後へと回り込んだ。
「もらったな・・・」
「まだだ!」
浩平は体を無理に捻り、鋭い突きを繰り出す。しかし。
「!?」
変太の眉間めがけ突き出された斬撃は、変太に手首を捕まれ簡単にそれてしまった。
「技が荒いな。この程度では・・・死ぬぞ」
そして、変太の二つの刃も突き出された。
「浩平!?」
鈍い音が鳴り響く。茜はそれを見て悲鳴をあげた。
「て、てめえ・・・」
浩平は動きを止めたままうめいた。
変太の刃は浩平の首筋に突きつけられ、もう一方は浩平の胸にのめりこんでいた。
しかし、それはすでに刃の形状から拳に戻っている。
「どういうつもりだ・・・?」
変太は答えずに離れると、その刃を元に戻した。
そして、改めて浩平を正面に捕らえる。
「俺の名は変太。まとめし者が何か用か?」
浩平の脳裏にやたからすの言葉が思い浮かんだ。
そして、自分の手がかりを知っている者に出会えたとも・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
の前に・・・送り忘れました!(爆)いやー、やってしまった(^^;この間幕数間違えてずれてしまったようだねー(^^)あはは・・・・・。ま、おきにせずに(笑)では、後記でございまする。
強い!強いぜ変太!・・・こと、変身動物ポン太さんの登場!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
そろそろ二部も佳境・・・とまではいかないが、核心に迫ります!うーむ、よくここまできたもんだ。
ちびみずか「ながいよね〜」
それだけがうり(^^)さて、作中の浩平の夢ですけど、別に永遠の世界にいくわけではないからね(^^;多分だけど・・・
ちびみずか「わ〜い、とうじょうできた〜」
これで同時出演が無理なのはわかったでしょう。さあ、次回はついに通算五十話を迎えるぞ!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十七幕「眠れる獅子 後編」ご期待下さい!


解説

変太・・・変身動物ポン太さん希望の妖怪。変化の能力を持ち、人だけでなく龍や天狗にまでなれる。長い間人として暮らしているうちに本来の姿を忘れてしまった。恋人がいたのだが人間に殺され、それが元で駄世門宗と抗争を繰り広げたが和解。静かに暮らすようになる。誰とも交わるのを断ったが、仲間には親切らしい。今では別に人間に恨みを持っていない。かなり強い。