ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十八幕 投稿者: ニュー偽善者R【読み飛ばしOK】
第十八幕「夢追い人壱 前編」


奥州に位置する駄世門宗の一派であり、浩平が育った土地でもある乙音寺。
そこを襲撃されてから、一週間以上が経とうしている。
七瀬とその部下吉三はそれを阻止することができずに、総本山に報告に戻ろうとしていた。
「はあ・・・失敗の報告に行くなんて、気が進まないわね」
「しかし、七瀬様。私達は駄世門宗の奴等に、尻尾を振っているわけじゃないんですから気を病むことはありませんよ」
「・・・・・それはそうなんだけどね」
七瀬達は赤月宗を抜け出した手前、その追っ手を警戒しながらも、赤月宗内部を探る密偵として暗躍していた。
だが、赤月宗のそれなりの地位があった七瀬でさえ、その根源は掴むことができなかった。
妖怪と戯れる自分は所詮信用されていなかったのだ。
しかし、不思議なことに追っ手は姿を現す所か、その気配すら見えない。
(わたしなぞ相手にする程でもないということか・・・それとも)
七瀬は鬱蒼とした山中の道を進みながら、赤月宗の狙いを想像していた。
(奴等はもっと恐ろしいことを考えてるのでは・・・・・・?)
「七瀬様!」
「!?」
思案にくれていた七瀬は吉三の声にはっと顔を上げた。
同時に周りに漂う不穏な空気にも気付いた。
「・・・・・いかがいたします?」
「そうね・・・化け物ではないようだけど・・・・・」
「そこの者!武器を捨てろ!」
七瀬の言葉が終わるか終わらないかの内に、辺りの茂みから鋭い制止が飛んだ。
まぎれもない人間の男の声だ。
「俺達の縄張りに入ったんだ。それなりのものは頂くぜ娘さん」
七瀬達を囲むようにして次々と男達が湧いて出てきた。
皆粗末な服を着て、手には粗野な鉈や斧を握っている。
ここらを荒らす山賊であろう。その疑問を問うまでもなく頭領らしき、男が威勢よく叫んだ。
「俺達はここらを仕切る脇賊(わきぞく)!そして、俺はその頭領の南だ!」
南と自称した男はまだ少年だ。この若さで荒くれ者をまとめているのだから、それなりの器量なのだろう。
だが、七瀬にしてみればただの同い年の子供にしか過ぎない。
「ふーん、脇賊だなんて脇役が集まった雑魚集団みたいね」
「な、何だと!?」
挑発に乗り南は顔を紅潮させる。
「女・・・身ぐるみと慰み者にするだけで済ませてやろうと思ったが、許さん!そこのでかぶつもろともあの八つ裂きにしてくれる!」
南の言葉と共に周りの山賊達に殺気がみなぎる。南自身もまた腰の剣を抜いた。
「やるしかないわね・・・吉三、殺してはだめよ」
「俺にはそっちの方が難しいですよ」
吉三は不敵ににやりと笑って、七瀬の前に一歩踏み出す。
敵は南を含めて七人。七瀬達にしてみれば、大した相手ではない。
だが、その時両者の間に予期せぬ仲裁が入った。
「双方共待ったーーーっ!」
「!?」
「?」
一同は一斉に茂みの向こうを向いた。
「多勢に無勢とは、幾ら下衆な賊でも卑怯というものだ」
「何者だ!?」
茂みの向こう、木々の間からは一人の男がゆっくりと歩み寄ってきていた。
腰には見慣れない長剣、背中にはこれまた見慣れない中ぐらいの刀を背負っている。
「通りがかった者だが、貴様等の暴虐は目が離せなくてな」
「おもしろい・・・・お前から始末してやる、この俺自らな」
南も剣を構え男に近づいていく。七瀬と山賊達は二人の対立を見守っていた。
南の構えは我流でありながら、戦い慣れた感を思わせる。
対する男の構えは。
「何だ?その面妖な構えは?」
男の構えは見慣れないものであった。腰の長剣を抜いているが、片手でそれをかざしているだけである。
「あの男・・・どこかで?」
見守る七瀬は男の姿にどこか見覚えがあった。嫌な予感がする。
「まあ、どうでもいいことだ、行くぞ!」
皆が見守る中、南は剣を振り上げ走り出した。
一気に間合いを詰めるが、男は動かない。その様子に南は勝利を確信した。
「どりゃあ!」
南の手から強烈な突きが繰り出される。
「そこだ!」
男はそれを軽く受け流すと、手首を返して南に突きを返す。
「な、何だと・・・・・!?」
南は驚愕した表情で後ろにふらりとのけぞった。
辛くも体をひねりかすめる程度だったが、男の反撃はいまだ続いていた。
隙を見て南の懐へと入り込む。そして、そこから膝のばねを利用して真上に跳躍した。
同時に剣の切っ先が南をとらえた。
「ぐ・・・!?」
腹部から右肩にかけて、着物の裂け目から赤いものが吹き出す。
「安心しろ。死にはしない」
着地した男が剣を収めたのと同時に南は倒れた。
「頭ーっ!」
「よくもっ!」
山賊達は慌てふためき、矛先を男に変えたが、それは七瀬が許さなかった。
「私達の相手はどうしたのかしら?」
「あまり退屈はさせないでくれよ」
そんな声に、山賊達は振り返るがそこには雁貫を抜き放った七瀬と、筋肉を隆々と発達させた吉三がいた。
山賊達が武器を構えたのを切っ先に、七瀬達は動き出した。
「はぁっ!」
七瀬が疾風のごとき速さで山賊達の間を駆け抜ける。
「うおおおりゃぁぁぁーーーっっっ!!!」
吉三は手近な山賊の頭を掴むと、その体を軽々と持ち上げ地面にたたきつけた。
あっという間に半数が駆逐され、残った山賊達はおびえた表情で、立ち尽くしていた。
「致命傷ではないから、さっさとこいつらを連れて帰りなさい」
七瀬の静かな声に山賊達はうなずくだけで、傷ついた仲間を抱えると脱兎のごとく走り逃げていった。
「ふん・・・」
「大したことない奴等ですね」
「なかなかやるなお前達」
七瀬と吉三が一息ついた所に男が近づいてきた。
「別に助けてくれなくてもよかったけど、礼をいうわ。ありがとう」
「別に感謝されなくてもいい。ただ、気が向いただけだからな」
男は七瀬の口調に合わせぶっきらぼうに答えた。
「ところで一つ聞きたいんだけど、あんたどこかで会ったことない?」
七瀬は男の顔をまじまじと見つめるが、男は嫌そうな顔をして視線を反らせた。
「悪いが俺は女が苦手でね。あまりかかわらないんだ」
「そう・・・」
「それじゃあ俺は行かせてもらう」
男が背を向けて進むのを七瀬は何事かを考え込みながら見送る。
(確かにどこかで会った気が・・・・それもとてつもなく嫌な感じが)
記憶をさかのぼる内に、七瀬のとある出来事が思い浮かんだ。
男との出会いと共に。
「あーっ!思い出した!あの時の痴漢!」
「な、七瀬様?」
七瀬は叫ぶや否や雁貫を抜き放ち男を追い始めた。
烈火のごとし怒りの表情に吉三は目を丸くしている。
「待ちなさい!あの時の借りは今日こそ返すわ!」
「・・・・・?・・・うわぁ!?」
振り向いた男に天高く跳躍した七瀬が剣を振りおろした。
それを辛くも後ろに飛んでかわした。
「な、何だいきなり!?」
「・・・北村毅裕ね?」
「貴様、なぜ俺の名を?・・・はっ!?お前はあの時の!?」
「そうよ!この痴漢!ここで決着をつけてやるわ!」
「ちょ、ちょっと待て!あれは誤解だ!」
北村は顔に汗を浮かべていた。七瀬の殺気は本物である。
その証拠に七瀬は雁貫を北村に突き出している。
「くっ!こんなところで死んでたまるか!」
北村は素早く背中の刀を抜き、それで雁貫を弾いた。
「貴様!」
七瀬が応戦しようとするが、北村はすでに逃げ出している。
「逃がさないわよ・・・あの時の屈辱を晴らしてやるんだから!」
七瀬も北村の後に続く。どうやら北村の進路からしてふもとまで降りる気らしい。
「な、七瀬様・・・・・」
吉三は七瀬の豹変にただ驚くばかりで立ち尽くすのみだった。
しかし、これが意外な出会いの始まりになるとは誰も知るよしがなかった。




@@@@@@@@@@@@@@
なぜなにONE猫!
つーわけでなぜか後半がギャグ風味!WTTSさんの登場だ〜〜〜!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
SS作家出演に関してはうちのHPで本音、愚痴、暴言を吐いているのでそちらを参考に(^^;;
ちびみずか「こんかいはよくわからなかったよ」
二人の関係だね?ふふふ・・・それは次回のお楽しみということで。でも、七瀬ファンにWTTSさんがぼこぼこにされるかも(^^;;;でも、希望設定だから俺のせいじゃないよ(無責任)
ちびみずか「またにげる〜〜」
ほっとけ。さ、多分一日おきに投稿されるだろう後編まで!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」

次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十九幕「夢追い人壱 後編」ご期待下さい!

解説


北村 毅裕・・・WTTSさん希望のキャラ。通称タクドー22歳。 5代前より続く刀剣鍛冶屋の長男。店は日本刀をはじめ、槍、大金槌、忍者武具、西洋の剣など幅広く取り扱う。家の取り決めにより、家系に携わる者は何らかの剣技を修得することが義務づけられているため、サーブルフェンシングの心得がある。段位にして7段程度。 「忍び刀」の万能さに大変魅せられ、腰に自作の愛用ロングソード『高田馬場』に加え、背にはこれまた自作の忍者刀『乾杯』を常に装備している。最近、「妖刀」なるものに興味が湧き、父から三ヶ月の休暇をもらい、現在、「全国妖刀めぐり」の真っ最中。自分に「パワー」が無いのを自覚しているため、暇さえあれば新技の開発に余念が無い。目を見張るような大技から、ウケを狙っているとしか思えないヘッポコ技まで、結構オリジナル技を開発している。ちなみにこの解説は全てメールの文なのであしからず。

蜻蛉斬り・・・とんぼぎりと読む。北村が後に使った技で、素早く相手の懐に潜り込み、真上に跳び上がりながら下から斬り上げる、というものらしい。WTTSさんに設定を送ってもらった。「ブシドーブレード弐」より抜粋したらしいが、作者は経験なし。

稲妻返し・・・いなづまがえしと読む。相手の一撃を受け流し、スナップを利かせてそれ相応の角度から斬る。同じく、「ブシドー・・・」からによるものらしい。

http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/