ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十七幕 投稿者: ニュー偽善者R【読み飛ばしOK】
第十七幕「眠れる獅子 後編」


朽ち果てかけた小屋の前で、浩平と変太が対峙している。
闇雲を持つまとめし者としての浩平を知る変太に、浩平は一縷の望みをかけていた。
「俺のことを知っているのか?」
「当たり前だろ。妖怪達の間じゃあその剣は有名だぞ。と、言っても何百年の話か」
「教えてくれ!俺は何者なんだ!?この剣は一体・・・?」
「・・・?どういう意味だ?」
事情が掴めず変太が問い返した。
浩平は記憶を失ってからの経緯を要約して話した。
それらをうなずきながら変太は聞いた。
「ふむ・・・なるほど。しかし、記憶を取り戻す方法なぞ俺は知らないぞ」
「・・・そうか」
浩平は落胆した表情を隠せることがなく溜め息をついた。
だが、変太は言葉を続けた。
「だが、お前の使命は決まっている。人や妖怪全ての命運を担ったな。聞くか・・・?しかし、覚悟が必要だぞ」
「・・・・・・・」
「・・・・浩平」
迷っているのか、沈黙を見せる浩平に茜は心配気な目線を送った。
茜もまた迷っていた。多分、自分も浩平の運命に巻き込まれるのだろう。
浩平が望もうとも、望まなくても。
しかし、それが茜の望むことにつながるのかもしれない。
(司の帰還に・・・・・)
そして、浩平は変太の顔を真正面に捉えて言った。
「教えてくれ。俺の使命を、するべきことを」
「わかった。みけ、お前も聞いた方がいい。妖怪としての月日が浅いからな」
「へいへい・・・あんまり暗い話はやめてくれよ」
いつの間にか目を覚まし、盗み聞きしていたみけは体を起こしてちょこんと居座った。
言葉とは裏腹にその表情は真剣味を帯びている。
「お前の持つ剣の名は闇雲。妖魔の血をすする伝説の破邪刀だ。
そして、闇雲が生まれた最大の理由・・・それはこの世に狂気と破壊をもたらす大妖を打ち倒すことだ」
「大妖・・・」
浩平は変太の言葉を反すうした。その響きに何故か悪寒を感じたのだ。
「その剣は妖魔の血を求め呼び込む。
そして、その真の力を無数の血を屠った時に発揮する。また、闇雲を受け継いだ者は同時にまとめし者として生きることになる」
「まとめし者?」
浩平はやたがらすの言葉を思い出した。
「まとめし者」、神の使いであるやたがらすにまで知られた存在。
運命の大きさは途方もないものえある。
「闇雲は五武の対の一つで、他に四つの武器がある。それらが真の力に目覚めた時受け入れるのがまとめし者だ」
「・・・五武の対?」
それまで黙って聞いていた茜が口を開いた。
茜の記憶の底で遠い映像思い出される。
(消えた司も何かを持っていた・・・。一度だけわたしと詩子に見せてくれたもの。あれは確か・・・・・)
変太の言葉は続く。
「これらの五武は全て大妖を滅ぼすためのものだ。これらを伝承する二つの宗派、駄世門宗と赤月宗。志を同じとしながら彼らは対立している。くだらないことだがな・・・・・」
「なあ、その二つの宗派ってどこかに寺とかあるんだろ?」
もしかしたら自分を知る者がいるかもしれない。浩平の顔に希望が生まれた。
「駄世門宗は総本山を出雲とし、奥州、西海道と世には知られていないが分布が広い。赤月宗は南海道にその存在が知られている。今はどうかは知らないけどな」
しかし、手がかりにするとしては十分であった。
浩平は大きくうなづいた。その決意を露にして。
「ありがとう。あと、もう一つだけ聞いていいか?」
そう言って浩平は懐から鈴を取り出した。それを変太へと差し出す。
「この鈴に込められた念について知らないか?みけが術まで特定できないんだ」
変太はそれをまじまじと見つめて答えた。
「ふうむ・・・こりゃ探知の術だな。これを持っている者の足取りを掴むためのものだ。同じ足取りを踏まなくては意味がないが」
「なら、俺にこれを持たせた奴がいるっていうことか?」
「まあ、そいうことかな」
自分を知っている者がいる。これは確かな活力となっていた。


その日の夜。浩平達は変太の住処を一晩借りていた。
朽ち欠けているとはいっても、外に比べれば格段にましである。
「ふう・・・知らない自分か・・・・」
浩平は外に出ていた。
風のない穏やかな夜である。
気分は悪くない。なぜなら自分を知る者がいるのだから。
記憶のない自分を探してくれる人がいるのだから。
だが、同時に宿命を背負わされたことにも、気負いを感じていた。
その時、後ろから土を踏み締める音と、気配を感じた。
振り返るとそこには変太がいた。
「何か用か?」
「伝えることが残ってた。お前の話を聞いてて一つ思い当たることがある」
「・・・それは?」
変太は間を置いた。自信のあることではないのだ。
「あの娘の通ったという闇の大穴・・・・・多分お前はそこを通った」
「あの穴を通る?どういう・・・?」
「黄泉の穴さ。次元の裂け目のつながり。そのつながりをお前は通ったのかもしれない」
浩平が火口から時と場所を越えた理由。
確かにこれなら説明ができる。
黄泉の穴が実在すればの話だが。
それに、浩平は茜と出会う以前の記憶がない。
「まあ、確証できるわけがない。話はこれだけだ。後は彼女が話があるらしい」
変太はそれだけ言うと、振り返って寝床へと戻った。だが、代わりに茜が後方に立っていた。
「・・・・・話はすでに聞きました」
変太がすでに姿を消したのを見計らって茜は口を開いた。
「・・・わたしは浩平に隠していたことがあります」
茜の表情はいつになく切ない。
いや、時折見せる顔だが決して人前では見せなかったのだ。
「・・・・・少し昔話につき合ってくれませんか?」
「ああ・・・いいぞ」
「わたしには幼なじみが二人いました。一人は親友の娘。もう一人は・・・初恋の人」
「・・・・・」
浩平は目線を合わせなかった。
ただ、無言で茜の話を聞いている。
「・・・・穏やかな平和な日々。でも、それはわたしの思い込み。幸せだと思っていたのはわたしだけ。あいつは・・・何かを背負っていたんです」
茜の目線をだんだん下へと下がっていく。
茜の心の中では、何故こんなことを話しているのだろう?と自分がわからなくなっていた。
「あいつはある日突然消えました。あの場所で・・・、だから待っているんです」
「何で・・・俺についてきたんだ?」
浩平は思わずそんな言葉を口にしていた。
感情がこもっていたわけではない。
ただ、何かに打ちのめされたような思いをしていたのだ。
「・・・・・あなたが同じ運命を持っていたとしたら、あいつが帰ってくる鍵をもっているかもしれないから」
二人の間を沈黙が支配した。
そして、その沈黙を茜の一言が打ち破った。
「・・・・・ごめんなさい」
それだけであった。
浩平は何も言うことなく茜の横を通り過ぎる。
言葉はなかった。
(・・・何故、ごめんなさいなんだ?・・・俺はどうして・・・)


「やべ!戻ってくる!」
「みけ・・・盗み聞きは行儀が悪いぞ」
家の中ではみけがその鋭敏な聴覚を使って、浩平達の会話をとぎれとぎれながらも耳にしていた。
聞こえた会話といえば、茜の「ごめんなさい」ぐらいなのだが、みけはそれを浩平がふられたのだと思い込んでいた。
「ふふふ・・・くそ坊主ごときが茜さんに釣り合うわけがないんだよ」
愉快そうに髭を揺らすと、みけは布団の上に丸まった。
「やれやれ・・・お気楽なもんだ」
変太はそんなみけを苦笑しながら目をやった。
男女の仲は図り難い。
ましてや、その胸中を知る等。
(絆を失った悲しみか・・・・・)
変太は記憶の底に埋もれた光景を思い出していた。
恋に燃え、最愛の人を失った悲しみと共に・・・・・・。


グオオオオーーーーーーォォォォォ!!!!!

荒れ狂う炎。
狂気の怒り。
憎しみの刃。
それらを振りかざし変太はとある寺院を駆け回っていた。
その身を巨大な龍へと変えて。
「ば、化け物め!」
「このままでは全滅だぞ!」
変太の怒りに染まった視界に、蟻のように僧達が群がっている。
(おのれ!この悲しみ!この怒り!貴様等に奪われた命を、貴様等の血をもって晴らしてやる!)
変太の口から燃え盛る炎が吐き出された・・・・・・。


憎しみに燃えたこともある。
しかし、それも遠い過去のことであった。
憎しみから生まれるものは何もなかった。
人間に殺された恋人が帰ってくるわけでもなかった。
それを変太はいさめの言葉と共によって悟ったのだ。
(破滅をもたらす大妖・・・もしかしたら奴も・・・・・・)


翌日。
穏やかな朝の日差しと共に浩平は達は出発した。
変太も見送りに出た。
目指すは出雲の駄世門宗総本山。
浩平を待つ誰かを求めて。
「ふふふ・・・・」
「気持ちわりぃな〜、どうしたんだ」
足元で意味ありげに笑うみけに浩平が問いかけた。
「別にぃ〜」
「変な奴・・・」
あれから浩平と茜の関係は表向きには変わっていなかった。
だが、浩平の中に何か引っかかるものと、それとは別に心の奥底に埋もれる感情にも気付き始めた。
(・・・・・夢の女の子か?)
浩平はその疑問を胸に秘めたまま、新たな自分を求める旅に出ることになる。




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なぜなにONE猫!
いえ〜〜〜〜〜い!!!ついに通算50話!やっと折り返し地点だぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!
ちびみずか「まだおわんないの〜〜〜!?」
はあ・・・まだ続くのか(TT)
ちびみずか「そろそろアシあきたよ〜〜〜」
残り50話・・・か?血へどが続くまでかくか。さて!話は変わりまして!
ちびみずか「とつぜんだね」
今回は今までの「まとめ」といったかんじ。ポン太さん暴れなくてごめんなさい!番外編で本両発揮だから!(多分)
ちびみずか「まっててね〜」
また、新たな謎ができたけど、それは後々の話といして・・・次回は!久々の七瀬SIDE!そしてぇい!ゲストは!
ちびみずか「だれだれ?」
WTTSさんだ〜〜〜!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
ふー、やっとここまで来た(^^;それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十八幕「夢追い人壱 前編」


解説

黄泉の穴・・・「よもつひらさか」が有名だが、本編ではそれにつながる次元の裂け目と考えて欲しい。言ってみればドラクエのギアガの大穴。火口に次元の裂け目があり、浩平はそこを通って次元を越えたことになる。同時に時間も数カ月経過している。残された謎はこれから解明する予定。

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