ONE総里見八猫伝彷徨の章 十五幕 投稿者: ニュー偽善者R【読み飛ばしOK】
第十五幕「動き出す記憶」


・・・なぜわたしはあいつを待ち続けるのだろうか?

・・・約束すらないのに

・・・あいつの心を理解できないくせに

・・・それでもわたしは帰りを待つのだろう

朝日が差し始めた頃。
茜は浩平とみけがいまだ眠っている中、宿を借りた民家の外に出た。
そして、一人雪のうっすらと積もる景色を眺めている。
息を吐くと、それは真っ白で冷え込む寒さを彷彿させる。
だが、茜にはそんなことはどうでもよかった。
(・・・・・浩平を利用している)
茜のこの自覚が自らを苦しめていた。待つことに疲れ選択した手段。
これでよかったのだろうか?と、茜は自問する。
(・・・・・司を呼び戻すことを、司自身は望んでいない)
茜には二人幼なじみがいた。幼い頃からずっと一緒にいた幼なじみだ。
一人は柚木詩子。もう一人が司と言った。
三人は同じ時を穏やかだが幸せに暮らしていた、と茜は信じていたがそれは違ったのだ。それぞれの事情と感情はすれ違っていた。
茜は何も知ることがなく、司を密かに思い続けていた。
その気持ちは打ち明けることなく、幸せな時は終わりを告げたのだ。
茜が瞼を閉じると、あの時の光景が鮮やかに思い出された。


それは数年前のこと・・・・・・。


『僕は旅立つ』
司は茜に背を向けて言った。司の前には巨大な洞窟・・・いや、暗闇が広がっている。
『司・・・?』
茜の心に言い知れぬ不安がよぎった。
二人が前にしているのは、大人達に近づいてはいけないと強く言われている大穴だ。
地獄へとつながる闇だとも聞いている。
『僕は流れに従って生きていける人間じゃない』
『・・・どういう意味ですか?』
茜には司の真意が掴めない。
だが、司は茜に答えることがなく闇へと一歩踏み出した。
『司・・・!?何をする気ですか!?』
『茜・・・君は関わってはいけないんだ』
それが茜の聞いた最後の言葉であった。


闇へと身を落とした司の姿は、闇に包まれると本当にかき消えてしまったのだ。
大人達に説明しても捜索することもない。
詩子でさえ、ただ、皆の表情に悲しみとも捉えれるやり場のない感情だけは感じられた。
それから間もなくして、茜の住んでいた村の者は一人、また一人と姿を消してしまった。
なぜかは全くわからない。
そして、詩子も村を去り、茜の家族も村を出ると言い出したが茜は聞かなかった。
司の帰りを待つと心に決めた茜が首を縦に振ることはなく、両親も仕方なく茜を一人残すことを承諾した。
大事な娘を残すからにはよっぽどの事情があったに違いない。
どうせ、聞いても教えてくれないのはわかっていた。
そして、悲しみに包まれた茜には全てがどうでもよかったのだ。
(・・・・・・どうしてわたしには何も言ってくれなかったのだろう)
これが茜に絶望をもたらしていた。
真実を打ち明けることなく消えてしまった幼なじみ。
二人には絆はなかったのだろうか?しかし、答えなぞないのだ。
「はあ・・・」
茜は一度大きくため息をついて家の中へと戻った。


一方、浩平は覚醒前の眠りの中で夢を見ていた。
いや、夢ではないかもしれない。
遠い昔に閉ざされた思い出を見ているのだ。


母さんがいなくなった。

理由はまったくわからない。

でも、そんなことはぼくにはどうでもいい。

ただ、いい兄でいられるかどうがが大切だったんだ。

『お兄ちゃん、おかあさんはどこにいったんだろうね』

『わからん。でも、おばさんがごはんとか作ってくるからだいじょうぶだろ?』

『でも・・・さびしいよ』

『なくなよ!ぼくがついてるじゃないか!』

『うん、そうだね・・・』

そうだ、ぼくがついている。

だから、何も心配はいらない。

ずっとふたりでいられたはず。

でも、それはかなわぬ願いだったんだ・・・・・・。


「おーい、朝だぞー」
「・・・・・・・」
胸に重みを感じて浩平は目を覚ました。
見ると、みけがのしかかっている。
「さっさっとどけよ・・・」
「お前が起きないからだぞ。茜さんはとっくの昔に起きてるんだから、少しは見習え」
「茜が・・・?」
浩平はみけの言葉をにわかに信じられなかった。
茜は浩平と同じく朝が弱い。だから、早く起きたとしてもぼーっとしてることが多いのだ。
「飯にしようぜー」
「ああ」
浩平は布団を抜け出すと、座敷に向かった。


「・・・おはようございます」
「はよ・・・今日は早かったんだな」
「・・・はい」
囲炉裏では家人の妻が朝食を用意してくれている。
浩平と茜は礼を言ってそれをいただいた。
横ではみけも食事を出され、機嫌よくそれを平らげにかかっている。
それからほどなくして、朝食を終えると旅の準備を整えた。
それから、礼を告げると彼らは旅立った。
その道の途中、茜がぽつりとつぶやいた。
「・・・記憶がないことはつらいですか?」
「ん?うーん、何というかもどかしいというか、何というか・・・どうしてそんなことを聞くんだ?」
「いえ・・・何となく」
茜は視線をそらし、質問をやめた。
だが、話題を変えずに浩平は続けた。
「何かさ、深く考え込むと何かを忘れている気がするんだよ。そう、大切な誰かを・・・・・・」
「誰かをたらしこんだんじゃないのか?茜さん、こんな男のはひっかからない方がいいですよ」
「馬鹿、そんなんじゃないよ」
浩平は真面目な顔でみけをたしなめた。
心のどこかにひっかかるそれは、一体何をさすのだろうか?
浩平は気づかないが、全ては動きはじめていたのである。





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なぜなに0NE猫!
えーと、後記の前に。
ONE猫はながすぎなので、おもしろくないと思った方はどんどん読み飛ばして下さい。感想も無理してかかなくてもいいです。HNはそんな感じです(^^;
さて、今回は短いです!しかも、伏線はりまくり(^^;理解できた人はいないだろうな。
ちびみずか「そりゃそうだよ」
まあ、一度はこういうのを入れないと後で苦労するんですよ。数稼ぎにもなるし(^^)
ちびみずか「あー!ひきょう!」
今更遅いわぁ!さて、次回からはちゃんと本筋に戻って、ついに核心を握るかどうかはわからないけど、SS作家さんが出演!変身動物ポン太さんです!
ちびみずか「おまたせしました〜!」
メール公開なさってなかったので、話は勝手に作りました。ご了承下さい。ま、そういうわけで・・・それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 十六幕「眠れる獅子 前編」ご期待下さい!


解説・・・は無理(TーT)