ONE総里見八猫伝彷徨の章 第十四幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十四幕「運命を変えし者 後編」


つと蛇の毒牙にかかってしまった茜。
その茜を救うために奔走する浩平。
定められた運命に流されるまま生きる仮面。
浩平は仮面の見る茜の死という運命を変えれるのだろうか?


闇が視界を閉ざす中、浩平は必死に樹木の根元を掘り起こしていた。
探すのはつと蛇の巣穴にある卵。
みけの話ではこれが唯一の解毒剤らしい。
「くそ!時間が!」
何度も外れをつかまされても、浩平は作業を止めない。
でに両手はぼろぼろである。息をつかせながら浩平は立ち上がった。
(駄目だ・・・見つからない・・・)
浩平の心にあきらめが生じる。しかし、それでは茜はどうなるのか?
今、茜を救えるのは自分しかいない。
浩平がそう再び決意を新たにした時、後ろから意外な人物の声がかかった。
「茜さんに残された時間は少ない。そんなことじゃ茜さんは救えないぞ」
「仮面・・・!どうして!?」
振り返るとそこには仮面が立っていた。
表情こそ変わらないが、声は出会った時のからかい気なものとは違っていた。
「どういうつもりだ?」
「さあね・・・ただ気が向いただけさ。ほら、早くしないと」
「・・・・・・」
浩平は仮面の顔をじっくりと見つめた後、にやりと笑った。
「わかってんならつったてないで手伝え」
それだけ言うと場所を変え、他の根元の土を掘り返しにかかる。
仮面も無言でそれにならった。


どれくらいの時間そうしていただろう。
何十もの根元を漁るが巣穴は見つからない。
二人の焦りは押さえ切れなくなっていたその時、浩平から少し離れた所で仮面が声を発した。
「あったぞ!巣穴だ!」
「ほんとか!」
浩平は期待の表情を浮かべ仮面の所に駆け寄り、頭上から覗き込んだ。
確かにそこには複雑に絡み合った根の間に、ぽっかりと人の頭ほどの丸い穴が開いていた。
仮面は穴の中に何もいないのを確認して、右手を突っ込んだ。
「あるのか・・・?」
「待て・・・」
中をごそごそと探る手の動きが止まった。次に仮面はゆっくりと手を抜いた。
その手の中にはしっかりと白い卵が握られていた。
「やったぁ!すぐ茜の所へ・・・!?」
浩平は腰の闇雲が鳴動したのと同時に、後ろを振り返った。
ちょうどそこに闇の中から凶悪な赤い双眼が飛び出した。
浩平は鞘に収まったままの闇雲でそれを打ち払う。
「こいつ、さっきの!」

シャアアアーーー!!!

襲い掛かってきたのは茜を襲った、つと蛇の首であった。
いや、少し違う。浩平が倒したはずのその首の部分は肥大化している。
つとっこに変化したのだ。
「今はこんなことをしている暇じゃない、仮面!それをもって茜の所に行け!」
「しかし・・・」
「未来がわかんなら、それを変えてみせろ!」
「・・・わかった!」
わずかな間の後、仮面は大きくうなずき長髪をなびかせて走り出した。
それを見逃すまいとつとっこは牙を向こうとするが、そこに浩平が立ちはだかった。
闇雲を抜き放ち、殺気を漂わせている。
「茜をよくも・・・!」

キシャア!

つとっこも猛毒を含んだ牙をむき出しにし応戦する。
一噛みされればお終いである。
浩平は慎重に間合いを取った。
そして、一瞬の間の後、浩平は素早く地を蹴った。
射程に入った瞬間、空を切り裂き刃がうなった。
つとっこの牙と闇雲の刃がぶつかり合い、鈍い音が響いた。
その僅かに後、つっとこの断末魔の叫びが響いた。
ぶつかった牙をそのままぶち抜き、つとっこを真っ二つにしたのだ。
どさりと二つに分かれた体が落ちる。
「茜・・・!」
浩平は闇雲を収めるとすぐに走り出した。



「はあ、はあ、はあ・・・」
仮面は怪我の治っていない体で必死に走っていた。
茜の死という運命を変えるために。
(運命は変えられる・・・か)
仮面は自分の力を呪っていた。未来の見える夢見の力。
幼い頃から幾度となく、漠然とした抽象的な未来を見てきた。
その度に未来を変えようとしていたが、信じる者は少なく、彼の努力は無駄に終わっていた。
わかりきっている結果を見せつけられ、彼は打ちひしがれ疲れきっていた。
その力故に命を狙われるようになってからは、人というものに交わることすら忘れていた。だが、何故かはわからないが茜の苦しむ姿を見て、仮面は心が痛んだ。
そして、彼女に降りかかる死の影を憎んだ。
そして、気づいた時には浩平の後を追っていた。
(しかし・・・彼の運命は・・・)
一方でもう一つ協力する気になった理由がある。
それは浩平の運命だ。仮面は漠然としながらも、そのとてつもなく巨大な未来の激しさを感じた。
今までに見たことがないほどの強大さである。
自然に仮面は興味がひかれたのだ。
「着いた!」
足を上げることもできなくなった頃、茜が横たわるのが視界に入った。
傍らで切実に浩平達の帰りを待つみけが仮面の姿に気づいた。
「卵は!?」
「ここだ」
茜の元にやってくると、仮面は懐にしまい込んだ卵を取り出した。
「よし、中身を湯に入れてくれ」
殻を割ると、すぐにあらかじめ用意してあった湯の中に流し込む。
透明な湯は黄色く変色した。仮面はそれの入った椀を、茜の体を抱き起こして口に注ぐ。
「間に合うか・・・?」
すでに息の細い茜であったが、何とか二、三口飲んでくれた。
しかし、それ以上は無理であった。
「これぐらいで大丈夫か?」
「聞いた話だと十分らしいが・・・」
さすがに確信がもてず、みけはいまだ心配気な顔である。
仮面とみけはしばらく無言で効果を待つが、茜は目を閉じたままぐったりしたままであった。いつしか、待ち疲れた彼らは眠りに入っていた。
そこに遅れて浩平がやってきた。
「茜?」
浩平が呼びかけても返事はないが、その息遣いがやや落ち着いたものになっている。
浩平は少し安堵した。それから眠っている。仮面を見る。
「お前のおかげで茜は助かった・・・」
浩平は寝ずに看病しようと茜に寄り添った。


翌日。
冬の遅い日差しが顔にかかり、眩しさに茜は目を開いた。
頭が重くいまだ意識がはっきりしない。
昨日の記憶もどこか乏しい。
それでも、心配そうに呼びかける浩平やみけ、仮面の声を遠く聞いていた。
茜は体を起こして、周りを見ると浩平とみけがだらしなく寝そべっている。
(・・・心配をかけてしまったようですね)
茜は彼らの寝顔を見てくすりと笑った。
だが、すぐに一人足りないことに気づく。
仮面の姿がどこにもないのだ。
茜は怪訝な表情をするが、すぐに何かを感じ立ち上がった。
まだおぼつかない足で早足に駆ける。
木々の合間を縫うようしにして走っていると、向こうで一つの後ろ姿があった。
あの長髪は仮面のものに違いない。
「・・・待ってください!」
茜は精いっぱいの声を上げた。
仮面は足を止めて振り返るが、特に声をかけわけでもない。
「病み上がりの体で無理をしてはいけない・・・僕もだけどね」
「はあ、はあ・・・どうして行ってしまうのですか?」
茜は息を切らして問いた。
「群れるのは好きじゃない。それだけさ」
仮面は振り返ると再び歩き出した。
茜は追いかけることはしないが、寂しげな目でそれを見送る。
それでも一つだけ言うことがあった。
「・・・助けてくれてありがとうございました」
「・・・・・・」
茜に答えることなく仮面は姿を消した。


浩平達から姿を消した仮面は人気のない山道を歩いていた。
傍らには冷たい水が流れとなっている。
ふと、仮面は足を止めた。そして、鋭い殺気を辺りに放つ。
「出てこい」
その言葉の後、周りの木陰や岩陰から四人の男達が現れた。
仮面を襲った刺客である。
「まだ生きていたとはな・・・驚いたぞ。しかし、ここで貴様の命は終わりだ」
「それはどうかな?」
仮面の表情は変わらないが、その声は挑発しているようだった。
「ふん、逃げないとは観念したようだな」
「いや、そろそろ飽きただけさ。今度からは自分で進むことにするよ」
「何を訳の分からないことを・・・まあ、いい。やれ!」
その言葉を合図に男達は獲物を振りかざした。
だが、仮面は動揺することなく立っている。
それは無防備なほどであった。男達はそれを疑うことなく仮面に襲い掛かった。
だが、彼らは気づいていなかった。
「臨・・・闘・・・兵・・・陣・・・前・・・行」
仮面が聞こえないほどの声で詠唱していたのを。
「もらったぁ!」
一人の剣が仮面に振り下ろされようとしたが、仮面はかっと目を見開いた。
その次の瞬間。
「ぐは!」
男は何かに弾き飛ばされた。
辺りには弾けた水飛沫が飛び散る。
「こ、これは・・・!」
男達がたじろいだ眼前に、巨大な龍が存在していた。
仮面の召喚した青竜である。

グオオオオオォォォーーーン!!!

「うぎゃ!」
「ぐう!」
青竜の巨大な尾が奮われ、男達は次々と倒れ伏していく。
勝負は歴然としていた。
敵をあらから始末し終えると、青竜はその姿を消していく。
「ふう・・・時には立ち向かえということか・・・」
仮面は何事もなかったかのように歩み始めた。
彼の行く未来はどこかで変わっていた。




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なぜなにONE猫!
まあ、こんなもんかね。満足してないけど。
ちびみずか「いまいちだよね」
うーん、どうも仮面を生かしきれていないのが実情だね。
ちびみずか「そうだね」
さて、仮面のメインの出番はまだあったり!でもだーーーいぶ後!なぜなら3部だから(^^)
ちびみずか「まだまださきだよー」
ふふふ・・・長さとペースだけが俺のすごさなのさ・・・。さて、今回の仮面のとなえた呪文の詠唱に関してですが、いいんちょさん資料提供ありがとうございましたー。
ちびみずか「ございましたー」
それと、作者にはよくわかんない(おい)話ですが、ここで使われている呪文に関しては時代設定は合ってないようです。だけど、つっこみはなしね(^^;(作者は世界史をお勉強しているので、日本史は知りません)
ちびみずか「てきとうだねー」
ごめん・・・。そんなわけでいろんな人に助けられてるこの作品ですが!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十五幕「動き出す記憶」ご期待下さい!


解説

つと蛇・・・槌の形又はつと(よくわからず)の形をしていて、非常に強い毒を持ち、かまれると命がないと恐れられていた。一度殺しても、その首を入念に殺しておかないと、つとっこという化け物と化して仇をなすという。解毒剤に関しては適当。参考資料柳田国男「妖怪談義」