第十幕「吸血鬼、再来 前編」
暗い洞窟の中、一つの黒い影が体を引きずっている。
その身にまとう漆黒の外套はぼろぼろで、見ると左腕がなくなっているのがわかる。
「はあ・・・はあ・・・時間がない。このままでは滅んでしまう」
彼、パール三世は息も絶え絶えに呟いている。
座敷童の澪の血を求めるも、氷上に敗れ姿を消した吸血鬼。
彼は今、死の淵にあろうとした。
「ぐふっ・・・」
体を抱え込み吐血する。顔は憔悴しきり、目は充血している。
日の時間を待たなくても、彼の体は消滅に向かっていた。
「随分長く生きていたな・・・」
目を閉じると遠い異国の故郷が思い出される。
同時に化け物というだけで追われたつらい日々も。
仲間も多く殺されてしまった。彼は魔物として生まれた自分を呪った。
この忌むべき血を。人間になりたかった。
だから、彼は多くの人間の血をすすり、それが駄目だとわかると大陸の妖怪の血をすすった。
そして、日本に渡り今に至る。
人々に幸せを与える座敷童、これが彼の最後の希望だった。
(しかし・・・もう遅いか・・・)
べったりと洞窟の壁に背をつけるパール三世。
しかし、その鋭敏な五感はあるものを捕らえていた。
「これは・・・我が希望!」
顔を輝かせて彼は立ち上がった。幸せを掴むために・・・・・・・。
浩平が消えて数カ月。瑞佳達は山陽道の播磨にいた。
手がかりは以前掴めず、一度出雲の本山に戻ろうということになったのだ。
今、瑞佳達は山麓のふもとのとある村にいた。時は夕暮れ時である。
「はあ・・・」
『元気を出すの』
村を見下ろす山の斜面に瑞佳と澪が座っている。
最初は希望に顔を輝かせた瑞佳だが、半年は長い。
浩平を思う気持ちは募る一方で、溜め息の回数は多くなるばかりである。
「浩平今頃どうしてるのかな・・・?元気だといいけど」
『きっと大丈夫なの!』
「そうだよね・・うん、きっと元気だよ!」
自分をはげますようにして、瑞佳は勢いよく立ち上がった。
(ずっとそばにいるって約束したもんね・・・)
瑞佳がそう思い夕陽に霞む村を見ると、ちょっとした騒ぎが起こっているのに気付いた。
「あれ、何だろ?」
『いってみるの』
二人は斜面を滑りながら村へと戻った。
一方、村の広場では瑞佳達と共に旅をするかまいたちの凪と、一人の旅衣装の若者が向かい合っていた。
周りの村人達は人語を話す獣と、見慣れない二つの円輪をかざす若者に恐れと好奇心の目で見ていた。
「かまいたちがどうして人間と一緒にいるんだ!」
『いたら悪いのか?』
「ふん、生意気な口聞きやがって」
『わたしの姿を見破ったからにはただの人間ではあるまい。ま、かなりの馬鹿といったところか』
「何ぃ〜〜〜!」
凪の挑発に怒りを露にする男は円輪、大陸製のチャクラムを握りしめた。
その目に殺気がこもる。
「みゅー!がんばれ!」
事態をよく掴んでいない繭は、凪に声援を送る。
喧嘩程度にしか思ってないのだ。
『小僧・・・名を聞いておこうか』
「桃太(とうた)退魔士の桃太だ!」
そう叫ぶと桃太は右手のチャクラムを凪めがけて投げつけた。
空を切り裂き鋭い刃が凪に襲いかかる。
『ふん』
凪は素早い身のこなしでそれを軽々とかわす。
「もういっちょ!」
続けて左手のチャクラムも放たれた。
それも凪の素早い動きに当たることもなく、空を切り裂いた。
『甘いな・・・この程度でわたしは倒せん』
「へへへ、まだ終わりじゃないぜ」
不敵に笑う桃太。言葉通り、彼の芸当はこれだけではなかった。
凪が異変に気付き、後ろを振り返るとかわしたはずのチャクラムが弧を描いて戻ってくる。その交差点にちょうど凪がいた。
『くっ!』
かろうじて身をよじりかわす凪。しかし、かすめた刃先に数本の毛が舞った。
「もらったぜ!」
戻ってきたチャクラムの柄を見事に掴んだ桃太が、勝ち誇った声を発して凪に打ちかかる。凪も応戦しようと鎌を構えたその時、瑞佳の戦いを止める声が響いた。
「二人共止めてください!」
「?」
『?』
桃太と凪が声の方を見ると、野次馬をかきわけてこちらにやってくる瑞佳と澪が見える。
瑞佳と澪がここまでたどりつくと、桃太と凪の間に入り戦いを止める。
「どくんだ、娘さん!こいつは凶悪な化け物だ!」
「違うんです!この子は・・・」
瑞佳を押しやりチャクラムを投げようとする桃太。
『戦ったらだめなの!』
「何?これは?」
澪の強力な思念が響き、桃太は動きを止める。
瑞佳がその隙に桃太の前に立ち懇願した。
「このかまいたちは私達の仲間なんです!決して、人に害を与えたりしません!」
「何だって・・・?」
「みゅー、大丈夫?」
そこに繭が凪の元に駆けつけた。
「人間が妖怪になついているだと?そんな馬鹿な!」
信じられないという顔をする桃太。
それも仕方ない、彼は今まで妖怪を邪悪として退治してきたのだから。
「あんた達は一体何者何だ?」
桃太はこの不思議な一団に、これだけしか言えなかった。
「ほ〜、そんなことがあったのか」
「そうなんです」
日もすっかり暮れ、村人達が各々の家に戻った頃。
瑞佳達が宿を借りている民家に、桃太も厄介になっていた。
村人達は凪の存在に驚いたが、人語を介す所や瑞佳達といる所から特に追い出す気配はなかった。
そして、瑞佳から事情を聞き、桃太の誤解は解けた。
元々は妖怪である凪の気配を感じ、戦いを挑んだ自分が悪いと桃太も非を認めている。
「しかし、世の中にはいい妖怪もいるんだな」
桃太は凪の存在から、これまでの考えを一新していた。
退魔士として妖怪を退治してきた彼だが、妖怪が邪悪とは限らない、このことは彼に新たな境地を与えていた。
『それにしても小僧。変わった武器を使っているのだな』
「これか?ああ、俺の自慢の逸品だ」
自慢気にチャクラムを見せびらかす桃太。
澪と繭はそれを感動した目で見つめている。
『持たせて欲しいの』
「嬢ちゃんがか?うーん、特別だぞ」
『ありがとうなの!』
うれしそうにしながら澪はチャクラムを受け取り、まじまじと見つめる。
「振り回したら駄目だよ」
「みゅー・・・わたしもさわりたい」
「はっ、はっ、はっ、ほらもう一個あるぞ」
楽しげな瑞佳達の声。更けゆく夜だが、迫り来る恐怖にいまだ気付いていなかった。
(美しい・・・今宵は何と美しい月が輝いているのか・・・・・・)
冷たい夜風に吹かれながら、パール三世は一本の高い枯れ木の頂上に立っている。
眼下には瑞佳達の滞在する村が広がっている。
「行くか・・・」
(時間もないしな・・・)
自嘲気味にほほ笑むと大きく彼は外套を翻した。
その瞬間、人の形は消え一匹の蝙蝠へと姿を変えた。
その左の翼はぼろぼろになっているが、それでも何とか飛ぶことができている。
彼の狙い、それは澪の血であった。
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なぜなにONE猫!
やってみました!SS作家さん対決!並びに桃太こともももさんお待たせしました!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
いつかはやるだろうと思っていた夢の対決!実は単なるネタ切れという説も・・・
ちびみずか「じぶんでばらさない」
いや、どうも希望の設定がかぶる作家さんが多かったからさ。こうでもしないとつらくつらくて(^^;
ちびみずか「いがいとかんがえたんだね」
一言余計だ。さて、もももさんとパルさんの同時出演となりましたが、今後もこのようなことはありえます!
ちびみずか「ねたがないんだね」
違うって(^^;準レギュラーの人もいるからね
ちびみずか「そっか」
さて、次回も浩平達はお休みして今回の続き!さあ、一体勝敗はどうなるのか?それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」
次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十一幕「吸血鬼、再来 後編」ご期待下さい!
解説
桃太・・・とうたと読む。ももたではないのでご注意を。もももさんご希望のキャラ。職業は退魔士。妖怪を退治してきたが、瑞佳達と出会った考えを変えたという設定にさせていただいた。性格は熱血という希望だったがうまく表現できなかったかもしれない。