「ふう…」
温かく優しいお湯がわたしの体を包んでくれる。
まるで一日の疲れが溶けていく気がする。
こうしてお風呂でぼーっとするのはけっこう好きだ。
目を閉じると、自然と一日のことが思い出される。
(今日は久しぶりに浩平と遊べたなぁ)
永遠に続くかのような二人の関係。
何事もないぬるま湯のような生活。
いつも一緒にいるのに、浩平のことを考えるのは飽きない。
多分沙織にこんなこといったら誤解されるんだろうな。
(そういえば今日…)
『そういえば長森少し太ったよな』
『そんなことないもん!』
嫌なことを思い出してしまった・・・・・。
ハンバーガーショップでの浩平の言葉。
普通、女の子にあんなこと言わないのに。
「はうー、こんなので浩平に彼女なんかできるのかなー?」
そう呟いて顔の半分をお湯の中にうずめて、ぶくぶくと息を泡立たせる。
バスルームから出て、バスタオルで身を包んで鏡と向き合う。
ドライヤーで髪をかわかしていると、ふと視界にあるものが目に入った。
(体重計・・・)
うう・・・浩平の前ではあんなこと言ってたけど増えてたらどうしよう?
ち、ちょっとはかってみようかな?
恐る恐る体重計に足を踏み出す。
「ええい!」
覚悟を決めて体重計へと飛び乗った。
その結果は・・・・・・。
「・・・・・・」
バスタオルを抑えていた両手の力が抜けて、バスタオルが床に落ちた。
何も覆うものがない中、動きを止めるわたし。
それでもやっと開いた口が紡いだのは。
「ダイエットするんだもん!」
カシャア!
いつものように開かれるカーテンの音。
「ほらぁ!起きなさいよぉー!」
ガバァ!
布団を引き剥がされて俺の体は冷たい空気にさらされた。
「うう、寒い〜」
「何いってんだよ。ほら、早く起きて」
仕方なく身を起こして長森から制服と鞄を受け取る。
リビングへと降り立ち速攻で朝食やら身だしなみを整える。
「ほら早く早く!」
「何だよ、今日はまだ時間があるじゃないか」
「いいから早くするんだよ!」
何かいつもとは違う長森の雰囲気。
それにのまれた俺は玄関に押しやられた。
「うーん、この時間だとぎりぎりかな?」
「はぁ?これだったら歩いても間に合うぞ」
「歩いたらだめなんだよ」
わけのわからないことを口走り、長森は俺の手を強く引いて外へと飛び出した。
そして、十分時間があるのに走り出す。しかも、めずらしく長森が俺の前を走っている。
「お、おい、どうしたんだよ?」
「はぁ、はぁ、い、いいから走って!」
わけもわからず長森に振り回される。
何か今日は行事でもあったけか?
ふと、前方を見るといつもの七瀬との衝突ポイントが目に入った。
(あ、もしかしたら今日は長森と七瀬の衝突が見れるかもな)
わずかな期待をもちつつも、長森が衝突ポイントに入る。
よーし、ここでお約束の七瀬が・・・。
だが、何を思ったのか長森は直前で急ブレーキをかけた。
「え!?」
逆に俺の方が長森を追い越して衝突ポイントに飛び出してしまった。
そして、お約束の・・・。
ズシャアアアアアーーーーーーーー!!!
「こ、この・・・またあんたーーーーー!」
「いや、今日は相手が違う予定だったんだが…」
もちろん衝突したのは七瀬だ。しかし、どうしてこいつも前を確認しないのかな?
「ほら、女の子が倒れてるんだから手を貸しなさいよ」
「お前そればっかだよな…」
俺が七瀬に手を差し上げたが、その手をふたたび走り出した長森がつかんで引っ張った。
「お、おい長森!?」
「時間がないんだよ!」
「ちょ、ちょっと瑞佳まで!」
俺は強引に長森に引き連れられ、七瀬を放っておいてしまった。
うーん、今日の長森は何か変だぞ?
そうこうしている内に学校が見えてきた。
まあ、遅刻もしなかったからいいか。
「って、何で校門を通り過ぎてるんだ?」
「このまま一回りするんだよ」
「はぁ?何言ってんだ?」
「ほらぁ、早くしないと遅刻するよ!」
「だから学校はすぐそこだってぇぇぇーーーーー!!!」
その日の昼休み。昼食も食べずにぐったりとしている俺に住井が話し掛けてきた。
「よう、どうした死にぞこないの顔をして」
「いや、ちょっと世界平和を祈りすぎてな」
「お前は宗教の勧誘員かよ…。ところでさ、今日の長森さんちょっと変じゃないか?何か朝っぱらからお前と大汗かいて教室に飛び込んでくるし」
「あいつも何考えてるんだか。何が悲しくて学校の周りを一周しなければならないんだ」
「何だそりゃ?」
俺は住井に構うことをやめ、パンを手に席を立った。
今日はなんとなく屋上で風に当たりたい気分だ。
教室を出る時に、いつも友達といるはずの長森がいないのに気付いた。
(?…ま、いいか)
屋上のと扉を開ける血と、冷たい空気が通り過ぎていった。
さすがに寒いが天気のいいせいか、耐えれないほどではない。
「あれ?何やってんだお前」
「う」
何と屋上には意外な先客がいた。教室にいなかった長森である。
「え、ええとぉ・・・」
「あれ?お前弁当は?」
「も、もう食べたんだよ」
はて?長森が今まで早弁したことなんか、ないはずだ。
目にみえてうそをついているのがわかる。
「わけのわからない奴だなぁ」
まあ、いいとして俺は長森の隣に座った。
そして、ごそごそとジャムパンの袋を開けた。
もぐもぐ・・・
じー・・・
もぐもぐ・・・
じー・・・
「あのな長森・・・」
「何?」
「そんな物欲しげな目で見ないでくれ」
「え?そ、そんな目してた?」
「思いっきりな。腹減ってるなら、これやるよ」
「あ・・・」
仕方ないのでもう一つ用意してあったクリームパンをくれてやる。
昼食が減ってしまったがまあ、なんとかなるだろ。
「食べないのか?」
「・・・食べる」
「よし」
長森も袋を開けてクリームパンにかじりついた。
「もぐもぐ・・・おいしいよ、浩平」
「それはよかった」
それから二人でパンを食べ終えると、何をすることもなく雑談をして昼休みを終えた。
朝の行動の理由は教えてくれなかったけど。
それから数日、長森との学校一周マラソンは続いた。
遅刻ぎりぎりにまでしてこんなことやる理由がわからない。
それにこんなことに付き合ってしまう俺も不思議だ。
いまだに理由もわからないしな。
「お、やっぱりここにいたか」
「浩平」
昼休みの屋上。なぜか長森は弁当も食べずにここにくる。
稲木達も全く理由を教えてくれないらしい。
俺は真相をつかむべく毎日こうして長森のもとへやってきていた。
「ほれ、今日はミルクパンだぞ」
「ありがとう」
さらに人のいいことに俺は長森にパンを一個提供している。
何も食べないでいるこいつにあんな目をされるのがつらいからだ。
「もぐもぐ・・・・うまいか?」
「もぐもぐ・・・・うん、すごく」
「もぐもぐ・・・・それはよかった」
「もぐもぐ・・・・ねえ、浩平」
「もぐもぐ・・・・何だ?」
「いつもパンありがとうね」
こうして穏やかに昼は終えていった。
「長森が倒れたって!?」
「ああ、今保健室に運ばれたらしい!」
それは突然起こった。
体育の時間で校庭を走っている時に長森が倒れたらしいのだ。
そういえば朝もすぐに息があがってたしな。
うーん、いつもとは様子が違うだけに少し心配だ。
仕方ない顔出してやるか。
俺は昼休みの時間を利用して保健室へと向かった。
保健室には誰もいなかった。
だが、奥のベッドだけに仕切りが引かれている。
その隙間をのぞくと見慣れた黄色いリボンが見えた。
「おーい、長森ぃー」
「あ・・・浩平」
布団から顔をあげ長森が顔をのぞかせていた。
その声は弱々しい。
「何倒れてんだよ」
「えへへ、はずかしいな」
「まあ、あまり無理はするなよ」
「うん」
「ほら、今日はクルミパンだぞ」
「・・・・・・」
教室から持ってきてやったパンだが、長森は受け取ろうとはしない。
代わりに何かをいいたげにこちらを見る。
「食欲ないのか?」
「・・・・・浩平」
「何だ?」
「わたしやせたかな?」
「ん?ああ、もういかにもやつれた感じだ」
「ほんとに?」
やつれたと聞いて長森はわずかに顔を顔を輝かせた。
変な奴だなぁ・・・・・。
(待てよ)
そこでひらめくものがあった。
まさか今までの行動は・・・。
「お前ダイエットしてたのか?」
「う」
長森の動揺が俺の言葉を肯定していた。
「ふ、ふくく・・・あーはっはっは!」
「笑わないでよー!」
「い、いや、ぶったおれるまでダイエットするなんてさぁ」
「むー!」
「でも、お前そんなに太ってないじゃないか。と、いうか全然やせてるって」
正直な話俺はそう思う。自分でも太ってないとか言ってたのに、どうしてこいつはダイエットなんかしたんだか。
「だって、浩平が太ってるって・・・・・・」
「あれ?俺そんなこと言ったか?」
「自分で言って忘れてるの!?」
「そうらしい」
とか、何とか言ってるが俺はもちろん覚えている。
ほんとは『胸が』と続くはずだったんだけどな。
「はうー、じゃあ、わたしの今までの努力は一体・・・」
疲れきったかのように倒れ付す長森。
うーん、何というか哀れというか間抜けというか。
「とにかく!」
「きゃ!?」
俺は長森のほっぺを両方つまんで横に引っ張った。
「ひゃひ、ふひゅんだよ!」
わけのわからない言葉で非難する長森だが、構わず続ける。
「うーん、いまいちなのびだな。これじゃあひっぱりがいがない」
頬の肉をふにふにといじりながら俺は言った。
「よし、もう少し太れ」
「・・・ほうふぇい」
「わかったか?」
「・・・うん」
手を離してやると、長森はうなずいた。
「それじゃあ、俺はいくぞ。しっかり休んでろよ」
「うん。浩平ありがとう」
「ばーか」
少し照れた気持ちで俺は保健室を後にした。
(しかし、俺を巻き込むなよな)
俺が原因とはいえ、ささやかな復讐をもたらした長森を元気になったら少しいじめてやろうかとも思った。
「はぁ、はぁ、ほら!早く走らないと遅刻するぞ長森!」
「はう〜〜〜ん!どうして今日も走ってるんだよぉ!」
目覚めにねばってしまったため、遅刻ぎりぎりで走らざるを得ない二人。
あわだたしいいつもの日常だが、なぜか新鮮に感じられた。
「あっ!やばい鐘なるぞ!?」
「ふぇ〜ん、これじゃあ何も変わってないよぉ〜〜〜!」
変わらない二人。
でも、これがとても心地いいんだ。
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えー、後記の前に一言。
「偽善者の作品じゃないみたいだ!?」という方、3人ぐらいいたと思います(^^)
それは作者にとっておほめの言葉です。
実は今回は「ONEらしさ」を表現しようと制作しました。ちょっと瑞佳様が強引ですけど(^^;
そこで、「おもしろみ」「感動」等はあんまり考えてません。
ONEを表現すると言っても、ゲームをそのまま引用するのはつまらないので、作者なりの表現をしてみました。これを「おもいしろい」という方はいないと思いますが「ONEだなぁ」としみじみ思ってくれれば幸いです。それでは全然ONEじゃないONE猫ともども読み飛ばしてもいいんでよろしくお願いします。
作者のぼやき:何か初めてまともに後記したなぁ(^^;
おお!久々に感想!?どうした作者!?でも中途半端だぞ!
神凪 了さん
>メサイア
うーん、考えてみれば同時長編でハイペースなんですもんねぇ。
大変なことです。個人的に戦闘よりも日常の方が好きかな?「S」な葉子さんだけど(^^;
擬音のないところから見て、ややアルテミスとは趣が違う感じ。
PELSONAさん
>innocent world 【EPISODE 0】
兄貴〜、「あれ」で話がかわ・・・ぐふっ!・・・ここらへんは触れないようにしますか(^^;
な〜んか、意外な要素が加わっていたんですね〜。しかも、ちょっとダーク。
今回は特におもしろかったですぜ。
>PS版ONE、おまけシナリオ追加決定!? (2)
どんなコスチュームだったんだ〜〜〜〜〜〜!!!
SSSSとしてはとても気になるのです(^^)
ONEキャラの現実的な会話もなかなかおもしろいです。
雀バル雀さん
>一発劇場!2
何か読んでたら気がつくと終わってました(^^;なんか、みんないい意味で暴走してるよ・・・。野球好きだったのねみんな(^^;
WTTSさん
>おまけSS(?)「中崎町」
いや〜、これは素直に笑えました(^^)ゲームを知ってるだけにますますグッド!
一瞬の判断でこうも変わるんですね。それと、台詞の指摘ありがとうです。うんうん、参考になるです。
変身動物ポン太(代理:いけだもの)さん
>激突!! 春の特別編 (前編)
あ、いけだものさんが届けてくれるんですね。なら、安心して感想かけますね。
では、感想。今回は無条件でグッド!この暴走具合は絶妙に俺を笑わせてくれました(^^)いや、セイカクハンテンタケの再来かと思いました。
あ、それとONE猫番外編設定承りましたと伝えておいてください。http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/