ONE総里見八猫伝彷徨の章 第九幕 投稿者: ニュー偽善者R
第九幕「襲撃、乙音寺」


「はあ、はあ、はあ・・・」
荒い女の息づかい息はとっくの昔に完全に上がっていた。
足は鉛のように重く、進むこともままならない。
それでも彼女、五武の対の一つ雁貫の継承者、七瀬留美は懸命に深い夜の雪上を走っていた。
(早くしないと・・・)
七瀬の向かっているのは、五武の対の一つ闇雲の継承者、折原浩平の育った奥州にある駄世門宗の一派である乙音寺である。
七瀬はその駄世門宗と敵対する宗派、赤月宗に属していた。
だが、今はその思想の違いから抜け出している。
赤月宗・・・それは妖怪全ての排除を目的とする密教である。
化け物は全て邪悪、これが赤月宗の全てであった。
七瀬はこの思想に疑念を抱いていた。
赤月宗は妖怪の排除を目的としているが、人狐達や人語を介す妖怪達と接触、協力を行っていた面もある。
七瀬はこれに人と妖怪が共に歩める道があるのではないかと希望を持っていた。
しかし、現実は違った。
狐達は利用しただけであって、所詮排除の対象にしか過ぎなかったのだ。
無論、七瀬が片腕として信頼していた飛主も大怪我をおうことになったのである。
そして、七瀬は赤月宗を離れた。
「吉三!大丈夫?」
「な、何とか!」
七瀬が後ろを向くと飛主がいない今、片腕として働いている牛鬼と人間の半妖、吉三が必死に七瀬を追いかけていた。
吉三は2メートルはあろうかという巨体を汗にまみれて走っている。
七瀬は旅芸人の一座を追われて行き場を無くしていた吉三を護衛として拾った。
大妖の影響はそれほど見られないのと、その体の頑丈さはうってつけであった。
「もう少しよ・・・」
「はい」
言葉通り狭い林の中を走り抜けると、眼下に火を上げて燃える乙音寺が見えた。
「遅かった!」
七瀬がここまで来た理由。それは赤月宗の乙音寺への襲撃を止めるためであった。
敷地内では僧達が争いあっている。
しかし、突然の夜襲にその勝敗は決していた。
必死に抵抗をする僧達の中にはまだ少年の者も多い。
赤月宗の僧達はそれを容赦なく打ち倒していく。
「どうしますか、七瀬様?」
「・・・過ぎたことを後悔しても遅いわ。このことを本山に知らせなくては」
七瀬が後ろを振り返ろうとしたその時、右横の茂みから強烈な殺気が発せられた。
本能に導かれ七瀬はしゃがみ込む。
七瀬の頭上を数本の長針がかすめた。それらは後方にあった白樺の幹に突き刺さった。
「何者だ!」
吉三が七瀬をかばい前に出る。
「ふふふ・・・久しぶりね。七瀬さん」
「その声・・・広瀬ね」
七瀬の顔に嫌悪が現れた。
抜け出した身の七瀬に刺客が差し向けられるのは当然だが、相手は一番嫌な女であった。
「多分来てくれると思ったけど、あはは、一歩遅かったね〜」
「黙りなさい。妖怪の排除を目的としているあなた達がどうして、人々の命まで奪うの?」
七瀬の鋭い視線が飛ぶが、広瀬の余裕の笑みは消えない。
「ふん、邪魔だからよ。駄世門宗の奴等は甘いからね。このままではいつか私達に害をなすからよ」
いとも簡単に言い放つ広瀬に、七瀬は怒りで顔をしかめた。
「広瀬・・・あんた達はそこまで腐ったの?」
「ふん、いい気にならないでよ。ちょっと雁貫に選ばれたからと言って、調子に乗らないで」
かつて広瀬は雁貫の継承者の座を狙っていた。
しかし、それは突然現れた七瀬によって奪われたのである。
「あんたもしつこいわね。わたしはこれが欲しかったわけじゃないのよ」
「うるさい!」
広瀬は懐から長針を出したのを合図に、茂みから三人の法僧が現れた。
その手には各々錫杖が握られ、殺気にみなぎっている。
「やりなさい!」
広瀬の号令を契機に僧達が七瀬と吉三に飛びかかる。
対する七瀬は雁貫を抜き放って、吉三に言った。
「吉三、こいつらは任せたわよ!」
「七瀬様は?」
「広瀬を倒す!」
七瀬は広瀬目がけて間合いを詰める。
広瀬はにやりと笑うと一歩踏み出した。
そして、吉三と僧達の戦いは
「喝!」
僧達は左右正面と吉三を囲む。そして、各方向から呪縛が襲う。
「ぬうっ!この程度で!」
吉三は見えない圧力に顔をしかめた。
「どうだ!我らが不動の術は、動けまい!」
「このまま地の底に封じ込めてくれる!」
僧達はじりじりと近寄ってくる。
だが、吉三はにやりと笑うとその巨体は脈脈と筋肉が発達し始める。
「なめるなよーーーーーっっっ!!!」
吉三が大きく一歩を踏み出す。僧達に驚愕が走った。
「ま、まさか!?」
「術が破られるぞ!」
何かを引きはがす音がして、結界は崩れた。
次の瞬間、吉三は地を力強く蹴っていた。
正面の僧の胸ぐらを掴み高々と持ち上げる。
「うあーーーーーっ!」
「へへ、お前等の相手は妖怪だけだろうが!」
僧を左に位置した僧に放り投げ見事命中する。
そして、吉三は素早く次の行動へと移っていた。
残った僧は必死に術の詠唱をするが、焦りの表情がありありと浮かべる。
「うおりゃああああーーーーーーーっっっ!!!」
吉三の巨体が僧の体に体当たりし、僧は吹っ飛び後ろの樹木に激突して気絶した。
「ふう・・・はっ、七瀬様!」
一方、七瀬と広瀬の戦いは両者が間合いをはかりあい、嵐の前のように静まっていた。
雪を踏み締めながら移動する二人だが、その視線がぶつかり合った瞬間、二人は駆け出していた。
「死んでもらう!」
「そうはいかないのよ!」
広瀬の右手から長針が飛ぶ。
七瀬は雁貫でそれを打ち払うが、同時に失策に顔をしかめた。
(まずい・・・!これは囮!)
事実、広瀬は次の行動に移っていた。左手にきらめく長針。それが七瀬の頭上できらめいた。
「死になさい!」
「く・・・!」
「何ですって!?」
「甘いわよ、広瀬」
驚愕する広瀬に対し、七瀬は笑みを浮かべた。
広瀬の振りおろした長針は、七瀬が左手で突き出した鞘に突き刺さっている。
「あなたの負けよ・・・!」
「!?」
七瀬の手からするどい突きが繰り出される。
「あ・・・」
崩れ落ちる広瀬。しかし、血は流れない。
七瀬が剣を返し柄で急所をえぐったからだ。
「情けをかけるつもり・・・か?」
「別に。ただあんた達とは違うってことよ」
「ふん・・・やはり甘いわね」
広瀬はそれだけ言うと、がくっと首を下げて気絶した。七
瀬は溜め息をついて雁貫を鞘に収めた。
「やりにくいわね・・・やっぱ」
「お見事です」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。早く本山に戻らないと・・・」
七瀬と吉三は疲れた体を休める間もなく再び走り出した。
駄世門宗と赤月宗、この二つの宗派目的を同じとしながら決定的に対立することになる。





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なぜなにONE猫!
今回は久々の七瀬の話!吉三とは俺と誕生日が同じのYOSHIさん希望の半妖です!
ちびみずか「お待たせしました〜〜〜!」
ふー、今回も急ピッチ。浩平以外をかくの久しぶりだったな〜。
ちびみずか「しんせんだよね」
うむ。さて、次回も浩平はお休み。久々の瑞佳様達の話です!
ちびみずか「ひさしぶりだよ」
登場する作家さんは・・・再びのパルさんともももさんです!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第十幕「吸血鬼、再来 前編」ご期待下さい!


解説

吉三・・・YOSHIさん希望の半妖。牛鬼(牛頭)と人間との半妖で、外見は身の丈2Mを越す大男。半妖であるにもかかわらず本人に妖の血の自覚はないに等しい。しかし、大妖の妖気の影響で一度だけ暴走し、旅芸人の一座を追い出された。その時、自分を救ってくれた僧の言葉に従い旅に出る。そこを七瀬に拾われたという設定にさせてもらった。能力はその怪力と、人並み外れた再生力。これかれも登場することであろう・・・と思われる。