ONE総里見八猫伝彷徨の章 第七幕 投稿者: ニュー偽善者R
第七幕「猫又との遭遇」


冬の風は冷たく厳しい。浩平もまたその凍てつく痛みに身をさらしていた。
一本だたらの村での東予との戦い以来、浩平の中に疑念が生じ始めていた。
同時にその疑念に心苦しさを感じるのである。
そして、その痛みは過去に何度も襲ったことであるのに気付き始めていた。


北陸の物と思われる櫛を頼りに浩平と茜は越後にやって来た。
だが、あまりにもその手がかりは乏しい。
さらに、先に起こった事件により浩平は暗く沈んでいた。
「浩平・・・待ってください・・・!」
「あ・・・すまん」
茜の呼びかけに浩平は足を止めた。
考えにふけるあまり、茜の歩調を考えていなかったのだ。
女ということもあるが、茜の歩みは遅い。
茜は必死に浩平を追いかけていたが、やはり振り切られた。
「・・・今は忘れることです」
「ああ、わかってる」
茜は自分で言っておきながらそれが無理なことがわかっていた。
心の痛みは体の傷よりも治りにくい。それは茜は知り過ぎていた。
いつもなら浩平が何かしら話しかけるのだが、浩平が沈んでいるため会話は全くない。
しばらく無言の会話を続けていると、道の傍らに生える木々の一本のたもとに一人の娘がうずくまっているのが見えた。
浩平と茜は病気でも煩っているのか、と疑問に思い顔を見合わせて娘に近づいた。
「もし、何かあったのか?」
「は、はい・・・持病の癪が・・・」
苦しげな娘の声。浩平は慌てたように声を上げた。
「それはいけない!早く医者に見せないと!よし、俺が近くの村まで連れてってあげましょう!さ、こちらを向いて下さい」
「これは申し訳ありませ・・・げっ!?」
娘がさも申し訳なさそうに振り向くと、その眼前に闇雲の刃先が突きつけられていた。
「ばれてんだよ・・・」
娘に近づいた時にすでに闇雲は反応していた。
つまり、娘は妖魔が化けたのだ。わざわざ芝居をしたのは浩平の趣味である。
「ひ、ひきょうだぞ!」
「どっちでもいいさ・・・無闇に殺したくはない。だが・・・人を襲うなら話は別だ・・・」
浩平がすごみをかけて娘を睨む。娘は焦り汗を流すと、後ずさりをする。
戦う気はないらしい。
「ちくしょ〜〜〜!覚えてろ!」
娘が身をひるがえすと一瞬で娘の姿は消えていた。
「あ・・・」
妖魔の正体を見て茜は声を上げた。
化けていたのは少し大きめの三毛猫で、尻尾が二つに分かれた猫又であった。
猫又は一目散に走りだし、茂みへと姿を消した。
「すばしこい奴だな」
闇雲を鞘に収め浩平がそう評した。最初から脅すだけで、斬るつもりはなかったのだ。
「・・・意地が悪いです」
「ははは、あいつのおびえた顔はおもしろかったけどな」
「・・・そうですね」
わずかに茜もほほ笑む。久しぶりに二人に笑顔が戻った。


懐かしい日々。ぼくはまたここに立とうとしている。

『お兄ちゃん、お母さんどこにいったの?』

『あれ?まだ帰ってきてないのか?』

『うん』

『うーん、そういえば書き置きがどうとかいってたな』

『それどこにあるの?』

『たたみの裏』

『どうしてそんなところにあるの!?はあ、お兄ちゃんがかくしたんだね・・・』

『いや、こっちの方が見つけやすいかなって』

『よけい見つけにくいよ。ほら、早くだしてよ』

『しょうがないな〜』

母さんの残した手紙。あの日以来母さんを見ることはなかった。

でも、それよりもつらいことがまっていたんだ・・・・・。


「・・・・・敵?」
浩平は闇雲が鳴り出したのを聞き、目を覚ました。
浩平と茜は近隣の集落で、一晩の宿を借りていた。
すでに茜も家人の老夫婦も眠りについていた。
だが、確かな妖気が浩平達に近づいていた。
「・・・・・・」
浩平は起き上がり襖の方を見た。間違いない。
敵は襖の方にいる。茜は別の部屋で寝ているので、危険はないようだ。
柄を握ると慎重に襖に近づく浩平。息を殺して襖に手をかける。
そして、勢いよく襖を開け放った。
「何者だ!?」
「わわっ!?」
浩平の目の前にいたのは昼間の猫又であった。
猫の姿のまま、腰を抜かして畳にへばりついている。
「・・・何の用だ?」
「く、くそ・・・こうも簡単にばれるなんて・・・」
猫又はきれいに人語を介していた。知能は高いようだ。
「斬られたいのか・・・?」
「そんなことあるわけないだろうが!昼間の仕返しに来たんだよ!」
追いつめられながらも、猫又は威勢よく浩平に食ってかかる。
「こうなったらおしまいだ!煮るなり焼くなり好きにしろい!」
「さて、どうしたものかな・・・」
猫又の振る舞いに浩平は笑いをこらえた。
敵意はあるようだが、殺気めいたものはない。
「・・・殺すのはかわいそうです」
「茜、起きたのか?」
後ろから茜が起きてきた。猫又は茜の登場に目を奪われた。
「か、かわいい・・・」
妖怪らしからぬ人間味あふれた猫又の言葉。
似合わぬ台詞に浩平と茜はきょとんとした。
「くくく・・・あーはっはっはっ!」
闇雲を収めて浩平が大きく笑い出した。
「な、何がおかしい!」
「だっ、だってよ〜」
浩平は目じりに涙を浮かべて笑いをこらえている。
「・・・笑い過ぎです」
「わりぃ、わりぃ・・・くくく」
「このやろ〜」
なおも笑いをこらえる浩平に猫又は怒り心頭である。
「決めた!お前にとりついて復讐してやる!」
「は・・・?」
浩平は猫又が言い出したのを聞いて動きを止めた。
「おい・・・」
「俺の名はみけ、猫又のみけだ」
「・・・かわいいです」
浩平が呆然とする横で、茜はしゃがみ込みみけの毛並みを撫でる。
みけも抵抗することなくそれに甘んじた。
「このくそ猫・・・」
こうして浩平と茜は新たな仲間、猫又のみけを迎えることになった。
浩平とみけの間に嵐の予感が訪れていた。



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なぜなにONE猫!
さあ、久しぶりのSS作家さんの出演です!猫又のみけことまねき猫さんの出演です!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
希望送られた時には、おいおい、準レギュラーかい(^^;と焦った俺ですが、何とか組み込みました。ま、これもいつもお世話(つっこまれる)になってるお礼ということで
ちびみずか「おわせになってます〜〜〜!」
さて、次回からはまねき猫さんを迎えて戦いへといきます。そしてSS作家さんの出演は!
ちびみずか「いけだものさんです!」
うむ。ギャグっぽくなりますがご了承を!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第八幕「花園」ご期待下さい!


解説

猫又・・・今回はまねき猫さんのご希望です。設定としては、三毛猫の雄。(珍しいらしい)怠け者。人間不信(但し、飼い主に似ている茜にはなついている)。お調子者。急に真面目になることもある。何にでも変身できる、その気になれば人間にも。と、こんな感じです。表現できたかどうかは不明。

http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/