ONE総里見八猫伝彷徨の章 第五幕 投稿者: ニュー偽善者R
第五幕「一眼一足の怪 前編」


日本海側の北陸道に入れば気候も変わる。
特に冬ともなれば大雪に見舞われることが多い。
浩平達がそれに出会ったのも雪の積もる越後のことであった・・・・・・。


吹雪に見舞われ雪に埋もれた道を浩平と茜は必死に進んでいた。
足首まで雪につかり完全に冷えきっている。
「もう少しで村だ。頑張れよ、茜」
「・・・何回も聞きました」
「そ、そうだったか?」
浩平の同じはげましも何回目になるだろう。
何とかここまでやって来たが、浩平はともかく茜の体力は限界だった。
「もう駄目です・・・」
「茜、しっかりしろ!」
歩みを止めて茜はがっくりと膝をつけた。
その細い体に凍てつく地吹雪が襲ってくる。
「このままじゃ凍えちまう・・・よし、俺が暖めて・・・」
「・・・嫌です」
言葉をさえぎられ浩平は行き場をなくす。
そんな浩平にはお構いなしに、茜は気力を振り絞り立ち上がった。
「最初から歩けよ・・・」
「・・・休憩しただけです」
「それにしても前が見えないな。ほんとに大丈夫か?」
「・・・わかりません」
視界はないに等しくほとんど真っ白である。
これではまっすぐ進んでいるのかもどうかも怪しい。
そして、無言でしばらく歩いていると二人の前方に一軒の民家が見えてきた。
「やった!」
「・・・助かりました」
喜びの表情で戸口に駆けつける浩平と茜、浩平は辺りを気にすることなく戸を大きく叩いた。
「すいません!少し休ませて欲しいんですけど!」
少しの間の後、家人が寄ってくる気配、と同時に闇雲もカタカタと震え始めた。
「え?」
浩平が警戒する間もなく戸口が開いた。そして、目の前にいたのは
「うわあっ!よ、妖怪!?」
「に、人間がどうしてここに!?」
浩平も驚きに後ずさりをするが、戸を開けた妖怪は子供のような背丈に大きな一眼にこれもまた一つしかない足の一本だたらであった。
その大きな瞳を驚きでさらに大きくしている。
「何故こんな所に妖怪が!?」
「それはこっちの方だよ!どうしておいら達の村に入れたんだ!?」
「何?」
どこか話が噛み合わない。それに闇雲の反応からして大した力は持ってないようだ。
「・・・浩平、この子は悪い子じゃない気がします。それにこのままでは凍えてしまいます」
「それも、そうだな。なあ、危害は加えないから中に入れてくれないか?寒くて死にそうなんだ」
浩平の懇願に一本だたらはびくびくしながらも答えた。
「わ、わかったよ。でも本当に何もするなよ」
「ああ、約束する」
浩平が大きくうなずいたので、一本だたらは中へと案内してくれた。
家の作りは人間のものと全く同じである。ここではこの一本だたらが一人のようだ。
浩平は囲炉裏を囲んで村のことについて聞いてみた。
「ここはおいら達一本だたらの村さ。普通の人間には存在すら気付かないで入れないはずなんだけど、たまに迷い込むこともあるんだ」
「この雪じゃ迷いもするって」
火を囲むうちにお互いの警戒も溶けてゆく。両者は自己紹介をした。
この一本だたらの名前は小渡名(おどな)と言って、村の中でも若いらしい。
「この村には掟があって、迷い込んだ人間は長の所につれてかなきゃいけないんだ。吹雪が止んだらつれてってあげるよ」
その言葉を聞いて茜は不安そうな表情を浮かべるが、小渡名が明るく言葉をつけ加えた。
「安心していいよ。おいら達は人間と仲良くやっていきたいんだ」
「・・・すいません、疑ったりして」
茜は心からそう思って謝罪した。妖怪だからと言って邪悪とは限らない。
それは浩平と茜の間で確かなものとなっていた。


数刻がして吹雪が止むと、浩平と茜は小渡名に連れられて村の奥の長の元に案内された。
長も人間の小渡名と見かけは変わらず子供のようである。
どうやら一本だたらは老いを知らないらしい。
それでもしゃべり方は老人くさかった。
「ほうほう、この村に迷い込みなさったか。それは難儀なことですな。ここは結界が敷かれているのですが、吹雪になると破れることがあるのです」
「俺達は戻れるんですか」
「ええ、すぐにでも。ですが、今日はもう遅いですからここでお休み下さい。小渡名、お前の所だったら大丈夫だな?」
「はい」
こうして、浩平と茜は一本だたらの村で一泊することになった。


その夜。茜は寒空の元、星を眺めに外へと出ていた。
「・・・きれいです」
見上げると星々達が輝いている。息を吐くたびの視界を真っ白に霞める。
(・・・司、あなたはこの星の向こうにいってしまったの?)
それは最も考えたくないことであった。
それでも真実を掴みたい、茜は心からそう思った。
(・・・できることなら忘れてしまいたい)
それができればどれほど楽であろうか?しかし、茜にはそれは無理なことである。
(いつから泣くことを忘れたのだろう?・・・あの時は涙が止まらなかったのに)
茜の思考はそこで中断された。後ろから雪を踏み締め浩平がやってきたからである。
「よお、何やってんだ?」
「・・・星を眺めてます」
「へえ、それはいいな。俺も一緒にいていいか?」
茜は拒否するでもなく歓迎するのでもなく黙ったままである。
浩平は後者と捉えたのか、茜の隣に立った。
「また、考え事か?」
「そうです・・・」
「あの場所のことか・・・」
「・・・はい」
茜の声が低くなる。浩平は茜が答えてくれないことを予想したが、それでも聞いた。
「あそこで何をしていたんだ?」
「・・・・・・」
予想通り茜は答えない。浩平は溜め息を吐くと背中を向けた。
「外は冷えるからな・・・あまり遅くなるなよ」
「・・・・・」
元来た道を戻り浩平が離れていく。
その背中を見て茜は無意識に言葉を発していた。
「・・・待って」
「?」
浩平は首だけを回して振り返る。浩平は何も言わず立ち止まったままだ。
茜には何故浩平を止めたのかわからなかった。それで、何も言うことが出来ない。
「どうした?」
「・・・待っているんです」
「・・・?」
これも茜の言おうとした事ではない。それでも口が勝手に動いていた。
「・・・消えた幼なじみを待っているんです」
「・・・・・・・・そうか」
長い沈黙の後、浩平がそれだけ答えた。
「それだけか?」
「・・・はい」
「そうか・・・風邪ひくなよ」
「大丈夫です・・・わたしは馬鹿だから」
茜の伏し目がちな表情を見て再び浩平は歩き出した。今度は茜は止めなかった。
「はあ・・・」
大きく白い息を吐いて茜はもう一度夜空を見上げた。
(・・・何だろう?この気持ちは)
茜は何か自分のしていることに違和感を感じた。
何かが曖昧なのだ。考えにふける茜の体に、冷たい風がたたきつけた。
(もう帰ろう・・・)
そう思い茜が振り返った時、誰かに見つめられる視線を感じた。
(・・・何っ!?)
茜は嫌な予感がした。離れた所にある雑木林、そこから鋭い視線が発せられていた。
恐る恐る木々の合間を見ると、大きな赤い点が見えた。
それが視線の持ち主であった。茜の背中を戦慄が走る。
茜は恐怖にかられて走り出した。しかし、雪に足を取られて思うように進めない。
懸命に走る茜だが、それは軽々と茜を飛び越えその目の前に降り立った。
(浩平!助けてください・・・!)
恐怖のあまり声の出ない茜は、心の中で必死に助けを求めた。


その頃浩平は戸口を小渡名の家の戸を開こうとしていた。
「・・・?」
誰かに呼ばれたような気がして振り返るが、そこには誰もいない。
しかし、そのわずかな後闇雲が強く反応した。

キィィィーーーン!!!

「まさか・・・茜!?」
茜の危機を悟った浩平は走り出した。茜を助けるために。
「うん?どうしたんだ?」
中から小渡名が何かを察したのか出てくるが、浩平は何の説明もなしに茜の所に向かう。
(間に合ってくれ!)
強くそう願い浩平は闇雲を抜き走る。
そして、茜のいた場所には
「茜っ!?てめえ!待ちやがれ!」
黒い影が茜の体を小脇にして跳躍するのが、浩平の眼前で行われた。
影は一飛びで林にまぎれてしまった。
「やろう・・・!」
浩平は闇雲を構え追撃をかけようとするが、林に向かう前に影の気配すらなくなってしまった。そこに小渡名が老追いついた。
「何があったんだよ?」
「茜がさらわれた・・・」
浩平は苦渋に満ちた表情で口を開いた。
「何だって?まさかあいつが?」
「何か知ってるのか?」
「多分だけど・・・長の所に行こう。詳しい話はおいらの一存じゃできないんだ。大丈夫、あいつだったら人を殺めることはしない」
こうしている間にも茜に危険が起きているかもしれない、焦る浩平だが小渡名が必死にいさめた。
(茜・・・待ってろよ。すぐに助けにいくからな)
浩平は茜の無事をひたすらに祈っていた・・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
どうも風邪ぎみの偽善者です(執筆当時)
ちびみずか「いつもげんきなちびみずかだよ」
今回は短めです。2部構成にするには短かったかな?
ちびみずか「よみやすよ、こっちのほうが」
まあ、風邪ぎみなのでお許しを。さて、次回は戦闘に入ります。黒い影の正体は一体?それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第六幕「一眼一足の怪 後編」ご期待下さい!


解説

一本だたら・・・幅一寸ばかりの大足跡を雪の上に残したという。山男だという説もある。だたらとは「だいだら」=「大人」の意味らしい。参考資料柳國邦男「妖怪談義」