第二二幕「「追われ身の天女 前編」 乙音寺を出て転々と各地を旅をしてきた浩平一行。そして、ついに念願の都に達した。そこで浩平に新たな出会いが待っていた・・・・・・。 「すげー、これが都かぁ!」 「立派だねー」 『すごいのなの!』 都から遠く離れた山奥で暮らしていた浩平が驚くのも無理はない。通りにはさまざまな店が並び、人や商人の流れも多い。三人の感嘆は市に入ると、さらに感を極めた。 「まるで祭りだな」 彼らは足の向くまま店や寺院を眺め歩いた。元々、寄り道程度で寄ったのだが、こうめずらしい物にあてられると興味をひかないのは難しい。特に変なことに首を突っ込みたがる浩平と、長年外界に触れていなかった澪はすぐに足を止めた。そんなわけで一日で都を巡れるわけがなく、とっくに日は暮れてしまった。夜になればもののけや夜盗を恐れ、通りを歩く人々の数は激減した。 「どうするんだよ浩平。泊まる所ないよ」 「どうするたって、ないもんはしょうがないだろ。野宿だ、野宿。金もないし」 「やだよせっかく都に来たんだもん」 「そう言われてもなー」 浩平が困り果て辺りを見回した。い浩平は寝床を見つけるために、左の角を曲がろうとした。 タタタタ! ・・・お待ち下さい・・・! (・・・?) 迫り来る足音。それを追いかけるように聞こえる声。浩平は不思議に思いつつも角を曲がった。 ゴチン! 「ぐあっ!?」 「きゃっ!」 鈍い音と共に、浩平の頭に衝撃が走った。 「いて〜・・・」 目がちかちかして浩平は頭を抑えた。 「痛いよ〜」 浩平が顔を上げるとそこには目に涙を浮かべて、額を抑える娘が立っていた。顔を隠していたと思われる烏帽子がぶつかった拍子に地に転がっている。 (あっ・・・かわいいな) 不謹慎にもそんなことを考えてしまう浩平。 「あっ、あの・・・大丈夫でしたか?」 「えっ、ああ、うん。大丈夫だけど・・・」 娘が浩平を気づかい声をかけてきた。だが、娘に見つめられているはずなのだが、浩平は何か違和感を感じた。 「みさき様ー!お屋敷にお戻り下さーい!」 向こうから男のそんな声が聞こえてきた。 「ごめん!ちょっとかくまって!」 そうとだけ言って、娘は角を曲がり物陰に隠れてしまった。 (危なっかしいなぁ・・・) 娘のその様子を見て浩平はそう思った。娘の動きがどこか手探り具合なのだ。そうこうしている内に、声の主がやってきた。 「お前達!ここらで若い娘を見なかったか!?」 男は武装した格好をしている。浩平はちょっと緊張した。 「いや、見てないぞ」 「本当か?ううむ・・・どこに行ってしまわれたのだ、みさき様は・・・」 そんなことをぼやきながら男は元来た道を戻ってしまった。 「ふー、危なかったぁ・・・」 男が行ってしまったのを気配で確認して、娘が現れた。 「おいおい、役人に追われるなんて何しでかしたんだ?」 そう聞きつつも、娘の服装が上等なものなので犯罪ではないと見当をつけた。 「何もしてないよ。ただ、向こうが勝手にわたしに付きまとうんだよ」 「ふーん、まあ何だか知らないがちゃんと前を見て走れよ」 「?・・・あははは、それは無理だよ」 「何でだよ?」 「だってわたし目が見えないから」 「・・・?」 娘の予想外の言葉に一同は唖然とする。 「あの・・・あなたは一体?」 瑞佳が状況が掴めず娘に質問する。 「わたしはみさき、左近の川名の娘なんだ」 「じゃあ・・・貴族の家柄・・・?」 「うーん、娘と言ってもわたしは拾われたからね」 どうもみさきの会話は捕らえにくい。浩平はそのあたりを聞き出そうとしたが、みさきは思い出したかのように、声を上げた。 「あっ、こんなことしてる場合じゃないんだ。はやく逃げなきゃ」 「逃げる・・・?」 「あのね、あなたを見込んで頼みがあるんだ」 「頼み・・・?」 浩平の返事を聞かずにみさきは話を進める。 「わたしをこの都から逃がして欲しいんだよ」 「はあ?」 「お願い」 みさきは何も映さないが、きれいな瞳で浩平に懇願する。 (う・・・こう頼まれると弱い) 「ちょっと浩平・・・何にやけてるんだよ・・・!」 後ろから瑞佳が小声で浩平を小突く。浩平も小声で返す。 「別ににやけてないぞ・・・ただ俺は困ってる人は助けねばならないと・・・」 「それはそれで大事だけど・・・相手はお役人だよ?」 「そんなもの関係あるか。そういうわけで、俺に任せてくれ!」 「どういうわけかわからないけど、お願いするよ。えーと・・・」 みさきが呼び名に困るので、浩平達は自己紹介をすることにした。 「俺は折原浩平、こっちはもしかたら長森瑞佳」 「もしかしなくてもそうだよ。よろしくお願いします」 「よろしくね」 瑞佳がおじぎをして、それを気配で察知したみさきもおじぎを返す。 くいくい 『忘れてるの』 「小さすぎて忘れていた。こいつが澪だ」 『むー!』 ポカポカ! 不機嫌そうに澪が浩平を叩く。みさきは澪の思念に不思議に思った。 「変わった声だね。かわいいけど」 「ま、わけありでな」 「よろしくね、澪ちゃん」 『よろしくなの』 ほほ笑みかけるみさきに澪も笑顔で返すが、澪は何か違和感を感じていた。目のことではない。 (雰囲気が違うの・・・) だが、具体的にそれが何かわからず澪は特に気にしなかった。 「ところでさ、どこに逃げればいいんだ?」 「高峰山の頂」 高峰山は都から南東に位置する山である。今からでは明日の晩に着くだろう。 「遠いな・・・これは野宿になるぞ」 「野宿?それいいな、わたし外で寝たことないんだ」 「みさきさんはお姫様ですから」 瑞佳がややかしこまる。 「固くならなくていいよ。別に大した身分じゃないから」 「でも・・・」 「いいの、いいの」 みさきの様子を見て浩平はこんなことを思った。 (見かけはまさに貴族の娘そのものなのにな・・・) 浩平達は一路、高峰山に向かうため門に向かった。浩平は貴族の娘のわがまま程度にしか思ってなかったのだが、事態はもっと深刻であること思い知ることになる。 「いたぞ!みさき様だー!」 ちょうど門をくぐった時のことである。後ろを振り返ると、武装した役人達が数人と貴族と思われる男がそれを従え引き連れていた。 「なあ・・・これはかなりやばいと思うんだが」 「目の錯覚だよ」 「それどころじゃないよ!」 『こっちに向かってくるの!』 瑞佳と澪の言う通り、彼らに危険が迫っていた。男達はそれぞれの武器を抜き走り寄ってくる。 「貴様等ー!みさき様を連れさるつもりかー!?」 「天には返さんぞ!」 男達の会話からそんな言葉が聞こえてくる。だが、それどころではない浩平はみさきの手を取り走り出した。 「逃げるぞ!」 「待て!」 もちろん男達がそれを見逃すわけがない。 ヒュンッ! 「きゃっ!?」 瑞佳の脇を矢がかすめる。 「やめろ!みさき様に当たる!」 貴族風の男が矢を討つ手を止めた。 (くそっ!一体何だってんだ!) 浩平は悪態をつきながらも。自分がとんでもないことに巻き込まれていることを痛感した。 ただひたすらに走り、彼らは春日のふもとに達した。もう真夜中に達し、人っ子独りの気配もない。どうやら追っ手は振り切ったようだ。 「はあ、はあ、はあ・・・何とか逃げ切ったようだな」 「疲れたよ」 「でもよくついて来れたよな。俺全力で走ったのに」 「走るのは好きなんだ」 「ふーん、お前等も見習えよ」 だが、瑞佳と澪の返事はない。 「あれ・・・?どこにいった?」 「はぐれちゃったのかな?」 二人は辺りを見回すが、どこにも見当たらない。 「まずいな・・・ほんとにはぐれたみたいだ」 「どうするの?」 「おいてく」 「ひどいよ〜」 「大丈夫だろ。目的地はわかってるんだし、今下手に動いたら捕まるぞ」 「それは困るね」 「だろ?」 あまりにも楽観すぎる二人だが、哀れな瑞佳と澪は・・・ 「鷹麿様、夜盗を二人ほど捕らえました。いかがなさいますか?」 「前に通せ」 「はっ」 瑞佳と澪は追っ手に捕らえれてしまっていた。何やら立派な屋敷の庭に連れていかれた。周りには武装した兵士が何人もひしめきあっている。 「私達どうなるのかな・・・」 『怖いのなの』 二人は不安げな表情を出すが、その二人の前に屋敷の縁に一人の男が現れた。身なりからして役人達を統率する将軍らしい。 「何だ、ただの小娘ではないか」 男が二人を見て言った第一声はこれである。もちろん二人は何のことを言っているかわからんない。 「お前達、本当に天人か?」 「・・・?」 男の言葉はさらにわからなくさせる。疑問の顔を浮かべる二人を見て、男は首をかしげて言った。 「お前達・・・違うのか?」 「何がですか?」 何かが噛み合っていない。 「みさき様を連れ帰りに来たのだろう?」 「いいえ、ただ私達はみさきさんを高峰山の頂に連れていくように頼まれただけですけど」 「高峰山・・・!」 瑞佳の言葉を聞いて、男は弾かれたように目を見開き周囲の兵に命令を下した。 「みさき様は高峰山にいらっしゃる!即刻連れ参れ!」 「あ・・・あの?」 「そなたたちは何も知らぬようだな。よかろう、ついて参れ。道中ゆっくり説明しよう」 「?」 『?』 二人は顔を見合わせたが、想像を越える事実がみさきには隠されていた・・・・・・・・・。 @@@@@@@@@@@@@@@@@ なぜなにONE! 最初に・・・今回は竹取物語を原題にしています。まあ、それを言ってしまえばネタばれなわけで(^^; ちびみずか「かぐや姫のはなしだね」 一応、妖怪も登場しますが今回は浩平とみさき先輩の絡みが中心です。みさき先輩のファンには怒られるかもしれない(^^;さて、今回の話ですが・・・実は最初の設定から大きく変更。 ちびみずか「何で?」 おもしろくなかったから(^^;一度書き上げてみたものの、どうもしっくりこないので削除(TーT)かなり時間の無駄・・・ ちびみずか「それぐらいの方がいいんだよ」 いいこというな〜、ネタ切れの時こそ設定を見直すのもいいかもしれない・・・あれ?何かまじめなこと言ってるぞ? ちびみずか「めずらしいね」 余計だ(^^)それでは!やっとのことでみさき先輩も登場したところで! ちびみずか「まだ、ななせおねえちゃんとあかねおねえちゃんでてないよ」 その二人の名前が出るのはだーーーーーいぶ後!(七瀬は早まる可能性あり)って、終わらせんかい!気をとりなおして、それでは! ちびみずか「さよなら〜〜〜!」 次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第二三幕「追われ身の天女 後編」ご期待下さい! 解説・・・ついになし(TーT)